難攻不落のオメガ宰相は知らないうちに王の子を孕み王妃にされる

こたま

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 おかしい…

 オリバーは一人執務室で考え込んでいた。前の発情期から三ヶ月。もう発情の予兆が起きて、執務を補佐官の皆や引退した父にも助力を借りて分配し、自分は休む算段をつけなければならない時期であるのに…

 いつもと違って発情の予兆が感じられない。一方で最近やけに気分が悪く、食欲が低下して吐き気を感じていた。

 生物を食べた記憶もなければ周囲で食中毒や胃腸炎が流行した記憶もない。明らかに細くなった腕を見下ろし、まさかと考える。そしておぼろげな前の発情期の記憶をを思い起こそうとしていた。


 
 オリバーは、侯爵家の長男として産まれた。父はアルファ、母はオメガの政略結婚であった。侯爵家は、代々宰相を務めている。両親の仲は良かったと聞き及んでいるが、からだの弱かった母は、産後の肥立ちが悪く、オリバーを産んでから直ぐに儚くなってしまった。

 オリバーのバース性は判定前で跡取りになるかはわからない状態。それでも妻の死を気に病んだ父は後妻を娶ることなく一人っ子のオリバーを大切に育ててくれた。
 オリバーは育つにつれて大変頭脳明晰で、自分も周囲もきっとアルファに違いないと考えていた。しかし診断結果は思いもよらぬオメガ性であった。

 父は心の中では落胆したに違いない。しかしオリバーを愛する態度に変化は無く、それに応えたオリバーも勉学を納めて立派な官吏になった。

 父である宰相付きとして仕事をしながら、父もオリバーも宰相の後継者を探していた。しかし能力不足だったり、能力があっても不正に溺れるなど、確かな宰相後継者にはなかなか恵まれなかった。

 仕方なく父は定年の際に、建国以来初のオメガ宰相として息子を推し、後継が見つかるまでの条件でオリバーもそれをのんだ。

 オリバーは、亡き母に似た銀髪、碧眼の美しい容姿である。宰相などを継いでいなければ縁談は引く手あまたであった。
 しかし、生来の生真面目さで、後継がしっかり現れるまでは宰相職を全うすると決めて、数ある縁談を全て断っていた。お陰で付いたあだ名は難攻不落のオメガである。


 
 王国は代々アルファの王が継承して統治しており、その頃にはオリバーと幼なじみである一つ年下のメイソンが若くして王位を継いでいた。
 父である前国王陛下が、病を得て妻と共に療養に専念するためであった。

 メイソンは若いがカリスマ性があり、大変優秀で謙虚な王であった。金髪、碧眼、均整の取れた筋肉質な体を持ち、見目麗しく、頭脳明晰。年上の貴族に対しても、礼節は重んじながらも意見を述べることは臆せず。
 オリバーとは、幼少期から王宮内での友人として、また学園でも共に過ごして来た。メイソンは真面目で勉学にも剣にも励み、お互いに唯一の親友と言える間柄である。友人関係を抜きにしても、ただ一点を除いて完璧な王であると自信を持って言えた。

 そのただ一点とは、王妃候補を選り好みしてなかなか縁談がまとまらないこと。従って次代の王も産まれないのだ。

「今回は、国内の平民オメガ性の方、隣国の貴族女性やオメガ性の方の姿絵がございます。もういい加減に誰か決めて下さい」

 苦労して集めた姿絵を国王陛下の執務机に並べる。メイソンはその絵を一枚ずつ確認すると

「私はこの絵のどなたとも結婚はしません。わかっているだろうに」

「一体何が不満なんだ。これで何回目だと思っている。こっちは苦労して話を広げて候補をまた集めてきたんだぞ」
「俺の希望は何度も伝えているだろう。本当に分からないのか」
「お前の言う美しいオメガを集めているんだろうが。皆美しいオメガではないか。他に美しい女性だって何人も」
「違う。子供の頃から言っていただろう、忘れてしまったのはお前の方だ」

 確かに美しいオメガが好きだと聞いた覚えがある。だから、王国内の貴族のオメガで未婚の方は今までに全て姿絵を目通りしたし、対象を平民にも広げ、隣国にも頼んで探しているのに。一向に決まらない。会ってみようともしない。

「全く。これではいつまでたっても決まらないではないか。もう28になろうという良い年をして。早くしないと候補が居なくなってしまうぞ」
「まだ大丈夫だ」
「何を根拠に。決まらぬまま補佐に丸投げして去るのは私の主義に反するんだがな」
「去る?」
「もうすぐ発情期休暇だ。そうでなくとも、補佐官が育って来た。いずれは宰相を辞して領地に引っ込み、婿を取らねば私も産めなくなってしまう」
「何だと?」
「我が侯爵家の跡継ぎだっておらんのだぞ。わが家を潰す気か。まずはお前が早く王家の跡継ぎを作ってくれなければ国がたち行かぬ。もう我がままはいい加減にしてくれ」
「お前のせいだろう。早く思い出せよ」
「何をだ。とにかくもう休みに入る。候補の誰かと会うことを考えろよ」


 言い置いて、宰相の執務室に戻る。お互いに幼少期から城で共に遊び、学んだ仲である。二人の時には砕けた話し方にもなっていた。ましてや今回は早く縁談をまとめてしまいたい。

 仕事をリストアップして、補佐官達に伝達した。定年退官した父にも、有事の相談役を頼み、フッと一息つく。あとはいつ発情期に入っても大丈夫だ。

 オメガの宰相など、発情期にどうするのだと心ない声で非難されてきた。それを収めるには、オリバーが休んでもしっかり仕事が回るようにすること。それは宰相が今後、急な病や怪我で離脱する事態が起きても役に立つ。後生まで有用な事であるはずだ。

 やれやれと息をつき、机を片付ける。他の皆は帰したから、後は部屋を閉めて自宅に戻ってこもるのみ。

 ドクン、心臓が音を立てて途端からだが熱くなる。目の前が霞みがかって、潤んでいることがわかる。吐く息が熱く、右手で胸元を握って、倒れないように左手は机についた。

 しまった。これでは家まで間に合わない。いつもと違う、頭の中まで侵されるような強い発情に飲み込まれそうになる。

 何とか城の中に急な発情や仕事が終わらない時の為に用意されている自室まで行かなければ。部屋に入って鍵を掛ければ何とかなる。
 霞む目を見開き、動かない足を鼓舞して何とか前に進む。幸い終業時刻をとうに過ぎ、誰にも会わずに部屋に到達した。

 
 扉を開き、入って閉めてベッドに潜り込んだ事までは覚えている。あの時自分は鍵を掛けただろうか?
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