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茜と蒼士が並んで座っている。
「どうにも、レアケース過ぎて分からないんですよね…」
「そうですか…」
「結局、蒼士さんにとっても茜さんにとっても、茜さんのフェロモンが蒼士さんにしか分かりにくく、蒼士さんのフェロモンしか受け入れないというのは都合が良いことですよね?」
「もちろん私にとってはそうですし、茜にとってもそうだと嬉しいです」
「僕にも良いことです。他の人に発情期で迷惑をかけにくいということですから」
「未精通の時期でしたが、ちょうど蒼士さんが歯の生えかわりで犬歯が抜けて微量の出血をしていた事とか、茜さんが怪我をして出血していた事とか…?唇を介したのか傷の手当てをした時なのか。何らかの原因で血液が体内に入って、運命の番ということも加味して出現したのかも知れませんが。まあ、分からないんです。ただ、発情、妊娠、出産に問題はないと思いますし、他のお相手でなければ良いわけで。…こんなところで宜しいですか?」
「「ありがとうございました」」
病院のバース専門外来の医師は首を傾げながらそう言って茜の診察を終えた。
「茜良かったね。問題なくて」
「うん。蒼士、付いてきてくれてありがとう」
「勿論同席させてもらうよ。俺も安心した」
「ふふっ」
恋人同士になった二人。兼ねて懸念していた茜の不全症状について、病院で検査を受け、今日はその結果を聞く診察の日だった。
「美味しい物食べて帰ろう?プレゼントもあるんだ」
「え?何だろう?」
「レストランでね。今日はフレンチ予約してあるよ」
運転免許を取得し、自らの資産で自動車を購入した蒼士は、あちこち茜を連れてデートに連れ出した。
勿論学業と仕事は怠らない。お互いの両親にも紹介して、卒業後には番契約と結婚をする。家族にも了解を得て、もうすぐ二人とも二十歳を迎えたら正式に婚約する手筈を整えていた。
「美味しかった。窓からの眺めも良いね」
「喜んで貰えて良かった。これ、良かったら使ってほしいんだ」
蒼士が用意していたのは、特注品のチョーカーだ。薄く軽いが高性能。フェロモンが関知されにくくても、卒業後番うまで心配で仕方ない。また自分が贈ったものを身につけて欲しいと思っていた。
「綺麗なチョーカー。肌色に近いオレンジなんだね」
「強いし高性能だから、良かったら着けて?」
「うん。今の外すから蒼士が着けてよ」
「ありがとう」
椅子に座った茜の後ろに回り、細い首にチョーカーを付け替えた。茜色の優しい色味のチョーカーは、細部まで拘って作ったのだ。
「とっても良い。似合う。可愛い。愛してる」
後ろから茜を抱き締めた。とても良い香りが少し強くなった。
「ありがとう。僕も好きだよ」
「お父さん。行ってくるね」
「藍も出掛けるの?」
「うん。私も黒田さんとデート」
「なんだよぉ。二人ともすっかり家に居着かないなぁ。お父さん寂しい」
「お母さんとデートしてきたら?」
「そうだね。…お母さん出掛ける?」
「なあに?それ。なんだか嫌そうに言わないでよ。どこにも行かなくて結構です。それならお父さん片付け手伝ってください。どれを捨てて良いのか、言ってくれないと書斎の物も捨てちゃうわよ」
「はい…すみません」
母の尻に敷かれている父を見ていると微笑ましくなってきた藍。こういうやり取りをしていても、いつも仲良しの夫婦である。
黒田に請われて藍も含めて四人で出掛ける事が何度かあった。藍もまた黒田を気に入って、付き合いはじめていた。
藍は黒田に触発されて大学院に進学することにした。二人とも学究肌で、話も合うので楽しそうにしている。
アメリカ生活で自己主張が強くなったためかポンポンとはっきり物を言っても、他の日本人の男の子と違って嫌がるどころか嬉しそうに聞く黒田。彼と一緒だと、藍も自然体で過ごせた。藍の尻に敷かれて喜ぶ黒田はいつも幸せそうだった。
二十歳を迎え、蒼士、茜の婚約が執り行われた。料亭で和服を着て、厳かな空気の中、二人は穏やかな笑顔を浮かべて式をすすめていた。
「これからも宜しくね」
「うん。ありがとう。ずっと仲良くしてね」
「茜さん。ありがとう。蒼士のことを宜しくお願いします」
「こちらこそ、ふつつかですが努力しますので末長く宜しくお願い致します」
「うッ…茜。幸せになるんだよ」
若い二人を見守るそれぞれの両親も、暖かく祝福したのだった。しかし父は感動して涙が止まらず、母にたしなめられていたのだが。
「お姉ちゃん、ただいま」
「お帰りなさい。お疲れ様!」
「本当に、緊張したよね。お母さん」
「お父さんが一番おどおどしてたわね。それに泣き止まないから困ったわ。茜は結構しっかりしてたわよ」
「へえ。そうだったんだ」
「お姉ちゃんは婚約はどうするの?」
「面倒だから、簡単な食事会での紹介だけにしようって話してる」
「藍もか…早いなあ」
「本当ね。二人とも、赤ちゃんの時のこと思い出すわ」
「うん。幸せで何よりだな。寂しくなるけど、良かったよ」
「そうね」
「茜、来週蒼士くんとお泊まりでしょう?」
「うん。婚約記念に、一泊旅行するんだ」
「楽しみね」
「どうにも、レアケース過ぎて分からないんですよね…」
「そうですか…」
「結局、蒼士さんにとっても茜さんにとっても、茜さんのフェロモンが蒼士さんにしか分かりにくく、蒼士さんのフェロモンしか受け入れないというのは都合が良いことですよね?」
「もちろん私にとってはそうですし、茜にとってもそうだと嬉しいです」
「僕にも良いことです。他の人に発情期で迷惑をかけにくいということですから」
「未精通の時期でしたが、ちょうど蒼士さんが歯の生えかわりで犬歯が抜けて微量の出血をしていた事とか、茜さんが怪我をして出血していた事とか…?唇を介したのか傷の手当てをした時なのか。何らかの原因で血液が体内に入って、運命の番ということも加味して出現したのかも知れませんが。まあ、分からないんです。ただ、発情、妊娠、出産に問題はないと思いますし、他のお相手でなければ良いわけで。…こんなところで宜しいですか?」
「「ありがとうございました」」
病院のバース専門外来の医師は首を傾げながらそう言って茜の診察を終えた。
「茜良かったね。問題なくて」
「うん。蒼士、付いてきてくれてありがとう」
「勿論同席させてもらうよ。俺も安心した」
「ふふっ」
恋人同士になった二人。兼ねて懸念していた茜の不全症状について、病院で検査を受け、今日はその結果を聞く診察の日だった。
「美味しい物食べて帰ろう?プレゼントもあるんだ」
「え?何だろう?」
「レストランでね。今日はフレンチ予約してあるよ」
運転免許を取得し、自らの資産で自動車を購入した蒼士は、あちこち茜を連れてデートに連れ出した。
勿論学業と仕事は怠らない。お互いの両親にも紹介して、卒業後には番契約と結婚をする。家族にも了解を得て、もうすぐ二人とも二十歳を迎えたら正式に婚約する手筈を整えていた。
「美味しかった。窓からの眺めも良いね」
「喜んで貰えて良かった。これ、良かったら使ってほしいんだ」
蒼士が用意していたのは、特注品のチョーカーだ。薄く軽いが高性能。フェロモンが関知されにくくても、卒業後番うまで心配で仕方ない。また自分が贈ったものを身につけて欲しいと思っていた。
「綺麗なチョーカー。肌色に近いオレンジなんだね」
「強いし高性能だから、良かったら着けて?」
「うん。今の外すから蒼士が着けてよ」
「ありがとう」
椅子に座った茜の後ろに回り、細い首にチョーカーを付け替えた。茜色の優しい色味のチョーカーは、細部まで拘って作ったのだ。
「とっても良い。似合う。可愛い。愛してる」
後ろから茜を抱き締めた。とても良い香りが少し強くなった。
「ありがとう。僕も好きだよ」
「お父さん。行ってくるね」
「藍も出掛けるの?」
「うん。私も黒田さんとデート」
「なんだよぉ。二人ともすっかり家に居着かないなぁ。お父さん寂しい」
「お母さんとデートしてきたら?」
「そうだね。…お母さん出掛ける?」
「なあに?それ。なんだか嫌そうに言わないでよ。どこにも行かなくて結構です。それならお父さん片付け手伝ってください。どれを捨てて良いのか、言ってくれないと書斎の物も捨てちゃうわよ」
「はい…すみません」
母の尻に敷かれている父を見ていると微笑ましくなってきた藍。こういうやり取りをしていても、いつも仲良しの夫婦である。
黒田に請われて藍も含めて四人で出掛ける事が何度かあった。藍もまた黒田を気に入って、付き合いはじめていた。
藍は黒田に触発されて大学院に進学することにした。二人とも学究肌で、話も合うので楽しそうにしている。
アメリカ生活で自己主張が強くなったためかポンポンとはっきり物を言っても、他の日本人の男の子と違って嫌がるどころか嬉しそうに聞く黒田。彼と一緒だと、藍も自然体で過ごせた。藍の尻に敷かれて喜ぶ黒田はいつも幸せそうだった。
二十歳を迎え、蒼士、茜の婚約が執り行われた。料亭で和服を着て、厳かな空気の中、二人は穏やかな笑顔を浮かべて式をすすめていた。
「これからも宜しくね」
「うん。ありがとう。ずっと仲良くしてね」
「茜さん。ありがとう。蒼士のことを宜しくお願いします」
「こちらこそ、ふつつかですが努力しますので末長く宜しくお願い致します」
「うッ…茜。幸せになるんだよ」
若い二人を見守るそれぞれの両親も、暖かく祝福したのだった。しかし父は感動して涙が止まらず、母にたしなめられていたのだが。
「お姉ちゃん、ただいま」
「お帰りなさい。お疲れ様!」
「本当に、緊張したよね。お母さん」
「お父さんが一番おどおどしてたわね。それに泣き止まないから困ったわ。茜は結構しっかりしてたわよ」
「へえ。そうだったんだ」
「お姉ちゃんは婚約はどうするの?」
「面倒だから、簡単な食事会での紹介だけにしようって話してる」
「藍もか…早いなあ」
「本当ね。二人とも、赤ちゃんの時のこと思い出すわ」
「うん。幸せで何よりだな。寂しくなるけど、良かったよ」
「そうね」
「茜、来週蒼士くんとお泊まりでしょう?」
「うん。婚約記念に、一泊旅行するんだ」
「楽しみね」
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