のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま

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「お婆ちゃん、ミー、行ってくるよ」
「拓ちゃん、今日の晩ごはんはいるの?」
「今日は同期の忘年会があるから要らない。金曜日だから解散が遅くなるかも知れない。先に戸締まりに気をつけて寝ていてね」
「わかったわ。気をつけて帰ってね」
「うん。行ってきます」
「行ってらっしゃい」

 祖母宅は、比較的会社に近いやや古い一軒家だ。就職が決まった時には自分でマンションを借りようと思ってはいたのだ。しかし、東京の家賃の高さと自身の男性オメガというバースを考えると賃貸物件を決めあぐねていた。

 ある程度セキュリティがしっかりしつつ、新入社員の給料でも払えて会社に通いやすい物件。そんな条件の良いところは見つからず、何軒もの不動産業者を廻っていたところ、祖母から同居を提案された。
 祖母の息子である父からも、祖父も亡くなり一人暮らしになった祖母が心配でもあるし、父も兄弟も遠方に暮らしているから、祖母と僕にとって互いに良いこと尽くめだと勧められ同居するに至った。

 実際に暮らし始めたら、重い買い物や電球交換、スマホやネット通販の使い方等で祖母の役にたてるし、生活費を入れるだけで自分は貯金も出来る。
 祖母も日中は僕が居ないので一人の時間も持ちつつ、寂しくもないと楽しそうである。

 毎日仕事を頑張って、帰ると祖母と猫とのほほん暮らし。会社はオメガの雇用条件も良いし、毎日困ったことはなかった。

 オメガとしては、弱い抑制剤を飲むだけで普段は気付かれない位にフェロモンがコントロール出来る。
 3ヶ月に一度の発情期は流石に一人でこもって過ごさねばならないが、祖母が時に水分やゼリー飲料、おにぎりなどを部屋の前に置いてくれるので一人暮らしよりも快適と言えた。

「品川、おはよう」
「高輪、おはよう」
「朝から悪い。A社とB社のこの分野の過去の取引データを調べてくれない?数量と単価ね」
「うん。わかった。期限はいつまで?何年分?」
「今日の外回りから3時過ぎに帰社する予定だけど、その位までに三年分、大丈夫?」
「大丈夫。わかった。用意しておく」
「頼む。じゃあ出てくる」
「行ってらっしゃい」
「行ってきます」

 本社営業部に、営業事務としてサポート業務に配属された。オメガはほぼ皆、本社の内勤だ。
 それは、発情期休暇などで休む時にお互いに補完し合えること、医務室と急な発情に備えた隔離室が用意されているからだ。

 僕がサポートをするのは、主に営業部の花形、海外や大企業相手の第一営業部で、特に同期の高輪の仕事である。
 高輪響矢は、同期で最も仕事の出来る出世頭だ。180cm以上の高い身長に学生時代水泳で鍛えた筋肉質の逆三角体型。スッキリした黒髪に整った顔つきでスーツが良く似合う。本人が宣言するまでもなく、アルファだとわかる。

 対して、僕は男性の平均身長には少し足りず華奢な印象。やや茶色の猫っ毛な髪と瞳に、日焼けしにくい肌。年齢よりも若く見られがちで、営業には不向きだ。
 だからサポート業務は、丁寧かつ早く仕事を仕上げてここで必要とされ続けたいと頑張っている。

「さ、早く取りかかろう」

 まずは昨日の帰り際に、今日の昼までと指示された係長からの仕事を仕上げて提出。それから急いで過去のデータを収拾し、見易いように表やグラフを用いてレポートにする。

 高輪の要求レベルに見合うには、こちらもしっかり頑張らないと。取引が大きい分、会社の業績に直結するのだ。

「はあ、OK」

 やっとまとまり、渡せる程度になったので、遅い昼食を取ることにした。たまに残りのおかずや祖母の常備菜を貰ったり、作り足してみたりしてお弁当を自作するのだが、今日も持ってきて良かった。
 時間が遅くなると社食の提供は終了してしまい、ビル内のコンビニで残っている商品から何か買って来なければならなくなる。時間も勿体ないし、バランスが悪くなりがちだ。

 遅い社食には、数人が買ってきた物や弁当で食事をしている姿があるだけで、席は空いていた。お茶と水のサーバーから、暖かいお茶を貰って弁当を一人もぐもぐと食する。

「品川、今昼飯?」
「あ、高輪お帰り」
「悪いね、食事が遅くなったみたいで」
「ううん。キリが良いところまで終わらせたかったから。資料出来たよ」
「ありがとう。休憩した後で貰って良い?」
「うん。高輪も今昼ご飯?」
「そう。食べ損ねた。コンビニもあんまり残って無かった」

 にっこりと周囲を明るくするような笑顔で高輪が出したのは、菓子パンと野菜スムージー、肉まんだった。

「本当だ。残っている商品のなかで、どうにか栄養バランスを取ろうとしたんだね?」
「そう。野菜はスムージーでね。品川は美味しそうでバランス良いお弁当だね。自作?お婆ちゃん?」
「はは。バレてる。これとこれはお婆ちゃんで、この肉野菜炒めだけ自分だよ」
「ふっ、正直だね。全部旨そう。羨ましいな。俺も食べたい」
「そう?これ少し食べる?」
「ありがとう。良かったら肉野菜炒めちょっと分けてよ。コーヒーあげる」
「コーヒー、高輪はいつもブラックだろう?」
「これ、品川に買ったいつものやつ」
「あ、ありがとう」

 綺麗な笑顔で僕が良く買うカフェオレを渡してきた。いつも、周りを良く見ていて、気遣いがすごく出来る。だから営業成績も良いんだろうな。こんなに優しくされたら、僕だって好きになってしまいそうだ。

「うん。うまいよ。品川の料理を食べられて嬉しかった。ご馳走さま」
「いや、こちらこそコーヒーご馳走さま。今度お婆ちゃんの料理、食べに来る?料理、何でも上手だよ」
「ありがとう」

 二人で同じテーブルに座って残りの食事を平らげた。コーヒーもありがたく頂いて、営業部に一緒に戻る。

「これ、頼まれていた資料」
「うん、ありがとう」

 高輪は当然と上から言わない、いつもありがとうって付け足してくれる良いやつだ。だからとても働きやすいし、遣り甲斐を感じて頑張れる。上司になってもうまくやれるんだろうなと思う。

 お互いにデスクに戻った。僕は他の仕事を続けて、たまにコピーとりやバインダー整理、課長にお茶をいれるといった若手の作業も分担する。

 ちら、と高輪のデスクを見やった。先ほどの資料が彼の要求を満たせているか気になる。
 すると、パチンと高輪が僕をみて芸能人みたいな華麗なウインクを寄越した。良かった、大丈夫みたい。でもウインクなんて。なんだかちょっと恥ずかしくなってしまうではないか。
 顔が赤くならないように左手でぱたぱたと扇ぎながら右手はマウスを動かし、キーボードを打つ。今日の同期会に間に合うように頑張ろう。
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