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照の兄
柊side
俺が部屋に戻って数日。
熱も下がってすっかり元気になった照に誘われて、治験棟の3階に続く階段を登っていた。
「…3階って上がっていいの?」
「治験棟内は何処でも自由に行き来していいんだよ!2階フロアで生活してる子はみんな行かないだけで。」
「ふ~ん。だって…妊婦が暮らしてるフロアだろ?何しに行く気?」
「柊に会わせたい人が居るんだ。」
ルンルンとスキップする照に着いて3階に来た。
「ここで消毒してマスクしてね。」
階段の上には、重厚な扉があり受け付けカウンターの前には、消毒液と個包装された不織布マスクが置いてあった。
照に言われたように消毒とマスクを着けて、フロアを隔てる重厚な扉を開き中に入った。
フロア内は、2階とは違いオレンジ色の温かい色味の証明とロビーには身体がすっぽり収まりそうな大きなクッション。
壁には可愛らしい花や鳥が描かれていて、まるで保育園のようだった。
そう思わせる1番の要因は、赤ちゃんの泣き声だろう…。
そこかしこの部屋から、ふに…ふにぃ…と赤ちゃんの泣き声がしている。
「柊!こっちだよ!」
ロビーを抜け陽当たりの良い廊下を進み1つの扉の前で照が呼んだ。
「…ここの部屋の人が俺に会わせたい人?」
「そっ!」
コンコン…
「しつれーしまーす!柊も入って!」
「…失礼します。」
「いらっしゃ~い。照のお友達?」
部屋に入ると、男性が1人ベッドに腰かけ大きく張り出したお腹を撫でていた。
「うん!柊だよ!同じ部屋の子。柊、この人は僕の兄ちゃん!」
「この人って…明です。よろしくね。」
くすりと笑った明さんは、照と目元や癖っ毛の栗色の髪が良く似ていた。
「照のお兄さん…。初めまして。兄弟で治験棟に居るんすね。」
「僕たちの親も治験棟の出身なんだ。」
「…そうなんだ。」
「兄ちゃんは、いつ産むの?」
「後2ヶ月くらいかなぁ…。」
照の兄もふたなり…。
親も…。
照は、自分の出生をどう思ってんだろう…。
必然だと受け入れているんだろうか…。
「……ィてて…ふぅ……今日良く動くなぁ…。照が友達連れて来たのが嬉しいのかな。」
「撫でてもいい?」
「いいよ。柊くんもこっちにおいでよ。」
入口に突っ立ったままの俺を明さんが手招きで呼んだ。
ベッドの向かいにあるデスクには、コルクボードに沢山の写真がピンで止められていて、明さんと照の写真や両親と写っているもの。
男性にお姫様抱っこされている写真が飾ってあった。
「柊くんも撫でてみる?」
「…ぇ……。」
「ぁ…嫌だった?……まだ気持ちの整理がついてないかな?」
「……へ?」
明さんの言葉に動揺し素っ頓狂な声が出た。
「ありゃ?違った??…前に照が話してた子じゃなかった?」
「そうだよ!柊のこと!…兄ちゃんにふたなりを受け入れられてない子がいるんだって相談してたの。」
「……ぁ、そういうこと。…そッスね。この身体のこと受け入れる以前に拒絶してます。」
「……国の方針だからって、なんで治療しないといけないんだって思ってる?」
「……思ってますね。」
「僕も思ってるよ…。いゃ…思ってたって言うのが正解かな…。治験棟出身の僕が言うのはおかしいって思うかもしれないけど、男の身体に膣があって男の容姿なのに妊娠している人を気持ち悪いって思ってた。」
「………………。」
「周りはそんな人ばかりの中で幼少期を過ごして、いざ外の世界を知るとね…。ますます自分の身体の異常さに嫌悪感が募ったの。」
「…兄ちゃんは、一時期ふたなりの妊婦を見るとね。その場で嘔吐しちゃうくらい嫌ってたんだよ。…年の離れた僕が生まれて一緒に生活し始めた時も避けられて、会話なんてした事すらなかった。親との仲も最悪だったよ…。」
「……そんなに。じゃあ…受け入れられたきっかけって?」
「16で治験棟に入所するでしょ?それからは毎日治療に終われて、この身体から逃れたくて、何度も何度も自殺行為を繰り返してた。過度なストレスから、パートナーとの性交渉も上手くいかなくて、担当医の意向で……体外受精をした事かな。培養されてる自分の受精卵を見て嫌悪感を感じなかった。それどころかコレが人間の始まりって考えると無性に愛おしさが込み上げたんだよね。周りからは相当変わってるなって言われちゃうんだけど。」
「………。そのお腹の子が?」
「……いや…。その時の子は、流れちゃって。3回目でようやくね。治療は、苦痛だし、僕みたいに長い間受け入れられないまま年月が経っちゃうケースもあるって知って欲しくてね。無理に身体の事を受け入れる必要はないと思うよ?……だけどふたなりの僕たちは、政権が覆らない限りこの役目から逃れられないのは事実だ。」
明さんの話を聞いて、治療は嫌だしやっぱりこの身体を受け入れる事は俺には難しいと思ったが、同じような気持ちでも前に進んでる人がいる事は心強くて、少し前向きな気持ちになっていた。
「……また来てもいいですか?」
「もちろん。いつでもおいでよ。」
3階フロアの扉の前まで見送ってくれた明さんと別れ2階に戻って来た。
それをたまたま階段の踊り場に居た北都先生と香西先生に見られていたのには気づかなかった。
「…さっきの柊?」
「ですね。3階から降りて来ましたね。」
「照も一緒って事は、明に会いに行ってたのかな…。」
「…良い方向に進んでくれるといいですけどね。」
「……こればっかりはなぁ。明の事だから、悪いようにはしないと思うけど。」
俺が部屋に戻って数日。
熱も下がってすっかり元気になった照に誘われて、治験棟の3階に続く階段を登っていた。
「…3階って上がっていいの?」
「治験棟内は何処でも自由に行き来していいんだよ!2階フロアで生活してる子はみんな行かないだけで。」
「ふ~ん。だって…妊婦が暮らしてるフロアだろ?何しに行く気?」
「柊に会わせたい人が居るんだ。」
ルンルンとスキップする照に着いて3階に来た。
「ここで消毒してマスクしてね。」
階段の上には、重厚な扉があり受け付けカウンターの前には、消毒液と個包装された不織布マスクが置いてあった。
照に言われたように消毒とマスクを着けて、フロアを隔てる重厚な扉を開き中に入った。
フロア内は、2階とは違いオレンジ色の温かい色味の証明とロビーには身体がすっぽり収まりそうな大きなクッション。
壁には可愛らしい花や鳥が描かれていて、まるで保育園のようだった。
そう思わせる1番の要因は、赤ちゃんの泣き声だろう…。
そこかしこの部屋から、ふに…ふにぃ…と赤ちゃんの泣き声がしている。
「柊!こっちだよ!」
ロビーを抜け陽当たりの良い廊下を進み1つの扉の前で照が呼んだ。
「…ここの部屋の人が俺に会わせたい人?」
「そっ!」
コンコン…
「しつれーしまーす!柊も入って!」
「…失礼します。」
「いらっしゃ~い。照のお友達?」
部屋に入ると、男性が1人ベッドに腰かけ大きく張り出したお腹を撫でていた。
「うん!柊だよ!同じ部屋の子。柊、この人は僕の兄ちゃん!」
「この人って…明です。よろしくね。」
くすりと笑った明さんは、照と目元や癖っ毛の栗色の髪が良く似ていた。
「照のお兄さん…。初めまして。兄弟で治験棟に居るんすね。」
「僕たちの親も治験棟の出身なんだ。」
「…そうなんだ。」
「兄ちゃんは、いつ産むの?」
「後2ヶ月くらいかなぁ…。」
照の兄もふたなり…。
親も…。
照は、自分の出生をどう思ってんだろう…。
必然だと受け入れているんだろうか…。
「……ィてて…ふぅ……今日良く動くなぁ…。照が友達連れて来たのが嬉しいのかな。」
「撫でてもいい?」
「いいよ。柊くんもこっちにおいでよ。」
入口に突っ立ったままの俺を明さんが手招きで呼んだ。
ベッドの向かいにあるデスクには、コルクボードに沢山の写真がピンで止められていて、明さんと照の写真や両親と写っているもの。
男性にお姫様抱っこされている写真が飾ってあった。
「柊くんも撫でてみる?」
「…ぇ……。」
「ぁ…嫌だった?……まだ気持ちの整理がついてないかな?」
「……へ?」
明さんの言葉に動揺し素っ頓狂な声が出た。
「ありゃ?違った??…前に照が話してた子じゃなかった?」
「そうだよ!柊のこと!…兄ちゃんにふたなりを受け入れられてない子がいるんだって相談してたの。」
「……ぁ、そういうこと。…そッスね。この身体のこと受け入れる以前に拒絶してます。」
「……国の方針だからって、なんで治療しないといけないんだって思ってる?」
「……思ってますね。」
「僕も思ってるよ…。いゃ…思ってたって言うのが正解かな…。治験棟出身の僕が言うのはおかしいって思うかもしれないけど、男の身体に膣があって男の容姿なのに妊娠している人を気持ち悪いって思ってた。」
「………………。」
「周りはそんな人ばかりの中で幼少期を過ごして、いざ外の世界を知るとね…。ますます自分の身体の異常さに嫌悪感が募ったの。」
「…兄ちゃんは、一時期ふたなりの妊婦を見るとね。その場で嘔吐しちゃうくらい嫌ってたんだよ。…年の離れた僕が生まれて一緒に生活し始めた時も避けられて、会話なんてした事すらなかった。親との仲も最悪だったよ…。」
「……そんなに。じゃあ…受け入れられたきっかけって?」
「16で治験棟に入所するでしょ?それからは毎日治療に終われて、この身体から逃れたくて、何度も何度も自殺行為を繰り返してた。過度なストレスから、パートナーとの性交渉も上手くいかなくて、担当医の意向で……体外受精をした事かな。培養されてる自分の受精卵を見て嫌悪感を感じなかった。それどころかコレが人間の始まりって考えると無性に愛おしさが込み上げたんだよね。周りからは相当変わってるなって言われちゃうんだけど。」
「………。そのお腹の子が?」
「……いや…。その時の子は、流れちゃって。3回目でようやくね。治療は、苦痛だし、僕みたいに長い間受け入れられないまま年月が経っちゃうケースもあるって知って欲しくてね。無理に身体の事を受け入れる必要はないと思うよ?……だけどふたなりの僕たちは、政権が覆らない限りこの役目から逃れられないのは事実だ。」
明さんの話を聞いて、治療は嫌だしやっぱりこの身体を受け入れる事は俺には難しいと思ったが、同じような気持ちでも前に進んでる人がいる事は心強くて、少し前向きな気持ちになっていた。
「……また来てもいいですか?」
「もちろん。いつでもおいでよ。」
3階フロアの扉の前まで見送ってくれた明さんと別れ2階に戻って来た。
それをたまたま階段の踊り場に居た北都先生と香西先生に見られていたのには気づかなかった。
「…さっきの柊?」
「ですね。3階から降りて来ましたね。」
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