守り守られ

ほたる

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服薬

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深夜二時。
病棟は完全に眠っていた。

だが真幌の夜は終わらなかった。
また来る。
予兆のない収縮、ぎゅっ…と膀胱が締め上げられる。

「……っ!」

息が詰まる。
留置カテーテルは入っている。
尿は流れている。
理解している。
それでも脳は叫ぶ。
出さないと間に合わない。
三度目の膀胱痙攣。
真幌はシーツを握りしめた。
ナースコールへ手を伸ばしかけて止まる。
……これくらいで呼ぶ?
看護師としての思考が邪魔をする。

「……大丈夫」

自分に言い聞かせた直後に強い収縮に襲われた。

「っあ……!」

涙が滲み呼吸が乱れる。
限界だった。
震える指でナースコールを押す。
数分後、ドアが開く。
入ってきたのは、夜勤看護師ではなく暁彦先生だった。
白衣の上にカーディガン。
完全な夜間回診姿。

「来たか」

一言で状況を読む。
真幌は必死に言う。

「ずっと……来るんです」

腹部を押さえる。

「トイレ行きたくなる感じが止まらない」

声が弱い。
疲労と恐怖が混ざっていた。
暁彦先生はバッグを確認した。
排尿量良好。
チューブ屈曲なし。
固定問題なし。
機械的トラブルはゼロ。
つまり……

「膀胱痙攣持続」

診断は即座だった。
ベッド横へ座る。

「痛みは?」

「痛いというか……我慢できない感じ」

典型的症状。
暁彦先生は小さく息を吐く。

「予想より強いな」

カルテを開く。

「真幌」

視線を合わせる。

「薬追加する」

真幌が瞬く。

「……薬?」

「抗コリン薬」

膀胱の異常収縮を抑える薬。
説明が始まる。

「今、お前の膀胱は常に“排尿スイッチON”状態」

指で軽く図を描くように示す。

「本来は溜まった時だけ収縮する。でも今は神経が誤作動してる」

真幌は静かに聞く。

「だから筋肉を一時的に静かにする」

「副作用は?」

看護師の質問だった。
暁彦先生が頷く。

「口渇、便秘、眠気、でも今は痙攣止める方が優先」

迷いなし。
真幌が小さく言う。

「……薬ないとダメですか」

暁彦先生は、はっきり答えた。

「ダメ」

優しさを混ぜない。

「睡眠取れないとリハビリ成立しない」

そして少し声を落とす。

「今のは根性で耐える段階じゃない」

内服が準備される。
水は最小量。
真幌は薬を見つめた。
患者として薬を追加される現実。
少し迷い…飲み込む。
数十分後、暁彦先生は再び様子を見に戻った。
真幌はまだ起きている。

「どうだ」

「……さっきより波弱いです」

腹部を触る。
さっきの切迫感が薄れている。
完全には消えない。
でも追い詰められる感じがない。
暁彦先生が頷く。

「効き始めてる」

点滴速度を確認しながら言う。

「今夜は眠れ」

立ち去りかけて、少しだけ止まる。

「真幌」

「はい」

「これは後退じゃない」

静かな声。

「回復過程だ」

ドアが閉まる。
病室に静けさが戻る。
次の収縮は来た。
でもさっきほど怖くない。
真幌はゆっくり目を閉じた。
留置カテーテル…薬…管理…。
全部悔しい。
それでも久しぶりに身体が眠りへ落ちていった。

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