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第5章 鳥籠の少女
19、谷川咲夜の楽園
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ーー見られたっ!?
鳥籠の少女と別れたタイミングで引き止められるのは迂闊だった。
怖い、自分が何をされるのか、頭が真っ白だった。
そんなウチの顔を覗き込むようにしてにっこりとして明るい声を出す。
「もうやだなぁ、咲夜ちゃん!ここ学校だよ?わたしが何かするわけないじゃん。ビビりすぎー、このこのー」
頬をつつきながら、佐々木絵美は笑う。
軽々しくウチのお父さんが名付けてくれた名前を呼ぶな。
軽々しくウチのお母さんが産んでくれた身体に触れるな。
言いたいことは、全部口にできないで、泡となって弾ける。
「な……、なんの用ですか……?」
「べっつにー。ただ、わたしは咲夜ちゃんと友達になれたらなーって」
キスでもされるんじゃないかという距離まで顔を接近される。
女の人の匂い、髪の匂いに惑わされそうになる。
ぐっと唇に力を入れて噛み締める。
ウチの顔を見て、にっと妖艶に微笑んでいる。
「ふ……ふざけないでください」
「あらあら」
佐々木絵美から1歩遠ざかり、言いたいことを爆発させる。
「な、なんですか!?言いたいことがあればなんでも言ってください!あの人に忠告したのがいけませんかっ!?」
「いけないなんて一言も言ってないよ。咲夜ちゃんがマスターさんを殺害しないということは誓約には抵触してないわけですし。そっちはわたしではなく秀頼君の領分です」
そのままジリジリと近付く彼女。
わからない、何をしたいのかわからない。
「こんなに怯えて可愛いね咲夜ちゃん。うふふっ、怯えているのに忠告してあげて、わたしに文句も言えて素敵。あなたみたいな子は好きよ。友達になりましょ?」
佐々木絵美に顎を持ち上げられる。
友達……?
誰がこんな人っ!?
ばっと顎を持ち上げる手を払いのける。
「…………っ!?」
そのまま走って佐々木絵美から遠ざかる。
早く、早く、早くーーっ!?
店に帰らないと。
別に彼女は追ってきていない。
でも、ウチを佐々木絵美が認識しているということが恐怖でしかなかった。
ーーーーー
それから数日後。
学校の廊下で噂が耳に入る。
「宮村さんのお母さんがお父さんを滅多刺しで殺害して、自殺したんだって」
「えー?心中ってやつ?み、宮村さんは?」
「大丈夫。生きていて葬式に出てるって」
宮村さんというのが誰かはわからない。
でも、十中八九あの鳥籠の少女なのは察していた。
結局、ウチの忠告なんて彼女にとってそれくらいの価値しかなかった。
そのまた数日後。
久し振りに廊下で鳥籠の少女とすれ違う。
鳥籠は壊されたはず。
でも、彼女が描いていた思惑とはズレにズレた破壊物語だったはずだ。
目からは輝きが見られない。
『生きている死者』そんな矛盾したイメージがぴったりと当てはまる。
おしゃれな感じもなく、ぼさっとした髪をあまり手入れしていないみたいに思う。
あんなにたくさんいた友達や、佐々木絵美らは彼女の周りから泡みたいに消滅した。
泡のように、本当は存在なんかしなかったんじゃないかと揶揄するくらいに。
彼女はウチと同じでボッチになった。
「咲夜、お願いだ。赤の他人にまで同情しないで、もっと自分を大事にして欲しい……」
「ごめんなさい、お父さん……」
ウチは彼女が壊れて、多大なストレスで自分が壊れそうになる。
体調を崩すことが増えていき、学校も休むことが多くなる。
2年に上がり、クラスメートに『明智秀頼』と『佐々木絵美』の名前があり、完全に学校へ行けなくなる。
体調は大丈夫なのに、メンタルが家から外へ出られなくなった。
完全に不登校の問題児扱いにされた。
それでもお父さんは文句を言わずに、ウチをずっと家に置いてくれた。
高校へは行かなかったし、行けなかった。
出席日数もないし、勉強もしてない。
完全に世界からウチが見捨てられた気がした。
ある日、父親からとあるニュースを聞いて、驚愕した。
『明智秀頼、佐々木絵美が死亡した』。
そんな内容だった。
因果応報だと思ったし、ロクな最期ではなかっただろう。
でも、それだけだった。
嬉しい。
悲しい。
辛い。
この感情のどれでもなく、『あー、そうなんだー』くらいの軽い気持ちしか浮かばなかった。
別に彼らが死んだところで、ウチの過去は変わらんし、性格・生き方・生活、これらも何も変わらない。
どうせ家から出ないし。
ウチの人生は、お父さんと一緒に暮らす今が1番の幸せだ。
多分何をしてもこれ以上の幸せは見付けられない。
宮村さん(だっけ?)は、鳥籠の生活を止めたいと語っていたけど、ウチは鳥籠の生活で充分だ。
時間が止まった空間。
変わらない人間関係。
なにもしなくても良い生活。
だって、ウチにとってここは、鳥籠なんだから。
楽園の外には、もう何も興味なんかない。
†
谷川咲夜は原作ルートを辿ると、メンタルを壊してしまい、共通して20歳前後で死亡します。
マスターより先に死にます。
咲夜は、主人公である十文字タケルとは接点がないので、彼から助けられる展開はありません。
そういう意味では、原作で共通して死亡する絵美との扱いに差はありません。
死ぬのが早いか遅いかの違いしかありません。
もし、このページの序盤に描写されている絵美と友達になるルートを歩んでいたら何か変わったかもしれませんが、結局ハッピーエンドにはなりません。
クズゲス本編みたいに咲夜が幸せなルートを辿るには100個以上の咲夜生存フラグを秀頼が小学生をしている間に連続して踏み続けていかないといけないという無理ゲーを強いられる。
幸せにしていることそのものが奇跡みたいなキャラである(1個でもミスすれば、咲夜は不幸になり20歳前後で死亡します)。
こんなに出番のあるキャラになるとは微塵も思ってませんでした。
鳥籠の少女と別れたタイミングで引き止められるのは迂闊だった。
怖い、自分が何をされるのか、頭が真っ白だった。
そんなウチの顔を覗き込むようにしてにっこりとして明るい声を出す。
「もうやだなぁ、咲夜ちゃん!ここ学校だよ?わたしが何かするわけないじゃん。ビビりすぎー、このこのー」
頬をつつきながら、佐々木絵美は笑う。
軽々しくウチのお父さんが名付けてくれた名前を呼ぶな。
軽々しくウチのお母さんが産んでくれた身体に触れるな。
言いたいことは、全部口にできないで、泡となって弾ける。
「な……、なんの用ですか……?」
「べっつにー。ただ、わたしは咲夜ちゃんと友達になれたらなーって」
キスでもされるんじゃないかという距離まで顔を接近される。
女の人の匂い、髪の匂いに惑わされそうになる。
ぐっと唇に力を入れて噛み締める。
ウチの顔を見て、にっと妖艶に微笑んでいる。
「ふ……ふざけないでください」
「あらあら」
佐々木絵美から1歩遠ざかり、言いたいことを爆発させる。
「な、なんですか!?言いたいことがあればなんでも言ってください!あの人に忠告したのがいけませんかっ!?」
「いけないなんて一言も言ってないよ。咲夜ちゃんがマスターさんを殺害しないということは誓約には抵触してないわけですし。そっちはわたしではなく秀頼君の領分です」
そのままジリジリと近付く彼女。
わからない、何をしたいのかわからない。
「こんなに怯えて可愛いね咲夜ちゃん。うふふっ、怯えているのに忠告してあげて、わたしに文句も言えて素敵。あなたみたいな子は好きよ。友達になりましょ?」
佐々木絵美に顎を持ち上げられる。
友達……?
誰がこんな人っ!?
ばっと顎を持ち上げる手を払いのける。
「…………っ!?」
そのまま走って佐々木絵美から遠ざかる。
早く、早く、早くーーっ!?
店に帰らないと。
別に彼女は追ってきていない。
でも、ウチを佐々木絵美が認識しているということが恐怖でしかなかった。
ーーーーー
それから数日後。
学校の廊下で噂が耳に入る。
「宮村さんのお母さんがお父さんを滅多刺しで殺害して、自殺したんだって」
「えー?心中ってやつ?み、宮村さんは?」
「大丈夫。生きていて葬式に出てるって」
宮村さんというのが誰かはわからない。
でも、十中八九あの鳥籠の少女なのは察していた。
結局、ウチの忠告なんて彼女にとってそれくらいの価値しかなかった。
そのまた数日後。
久し振りに廊下で鳥籠の少女とすれ違う。
鳥籠は壊されたはず。
でも、彼女が描いていた思惑とはズレにズレた破壊物語だったはずだ。
目からは輝きが見られない。
『生きている死者』そんな矛盾したイメージがぴったりと当てはまる。
おしゃれな感じもなく、ぼさっとした髪をあまり手入れしていないみたいに思う。
あんなにたくさんいた友達や、佐々木絵美らは彼女の周りから泡みたいに消滅した。
泡のように、本当は存在なんかしなかったんじゃないかと揶揄するくらいに。
彼女はウチと同じでボッチになった。
「咲夜、お願いだ。赤の他人にまで同情しないで、もっと自分を大事にして欲しい……」
「ごめんなさい、お父さん……」
ウチは彼女が壊れて、多大なストレスで自分が壊れそうになる。
体調を崩すことが増えていき、学校も休むことが多くなる。
2年に上がり、クラスメートに『明智秀頼』と『佐々木絵美』の名前があり、完全に学校へ行けなくなる。
体調は大丈夫なのに、メンタルが家から外へ出られなくなった。
完全に不登校の問題児扱いにされた。
それでもお父さんは文句を言わずに、ウチをずっと家に置いてくれた。
高校へは行かなかったし、行けなかった。
出席日数もないし、勉強もしてない。
完全に世界からウチが見捨てられた気がした。
ある日、父親からとあるニュースを聞いて、驚愕した。
『明智秀頼、佐々木絵美が死亡した』。
そんな内容だった。
因果応報だと思ったし、ロクな最期ではなかっただろう。
でも、それだけだった。
嬉しい。
悲しい。
辛い。
この感情のどれでもなく、『あー、そうなんだー』くらいの軽い気持ちしか浮かばなかった。
別に彼らが死んだところで、ウチの過去は変わらんし、性格・生き方・生活、これらも何も変わらない。
どうせ家から出ないし。
ウチの人生は、お父さんと一緒に暮らす今が1番の幸せだ。
多分何をしてもこれ以上の幸せは見付けられない。
宮村さん(だっけ?)は、鳥籠の生活を止めたいと語っていたけど、ウチは鳥籠の生活で充分だ。
時間が止まった空間。
変わらない人間関係。
なにもしなくても良い生活。
だって、ウチにとってここは、鳥籠なんだから。
楽園の外には、もう何も興味なんかない。
†
谷川咲夜は原作ルートを辿ると、メンタルを壊してしまい、共通して20歳前後で死亡します。
マスターより先に死にます。
咲夜は、主人公である十文字タケルとは接点がないので、彼から助けられる展開はありません。
そういう意味では、原作で共通して死亡する絵美との扱いに差はありません。
死ぬのが早いか遅いかの違いしかありません。
もし、このページの序盤に描写されている絵美と友達になるルートを歩んでいたら何か変わったかもしれませんが、結局ハッピーエンドにはなりません。
クズゲス本編みたいに咲夜が幸せなルートを辿るには100個以上の咲夜生存フラグを秀頼が小学生をしている間に連続して踏み続けていかないといけないという無理ゲーを強いられる。
幸せにしていることそのものが奇跡みたいなキャラである(1個でもミスすれば、咲夜は不幸になり20歳前後で死亡します)。
こんなに出番のあるキャラになるとは微塵も思ってませんでした。
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