ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

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第5章 鳥籠の少女

32、メンバーのリーダー

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「おい、秀頼?泣いているのか……?」
「泣きそうなだけです……」

カウンターに女子が並び、俺とタケルがテーブル席に座らされた。
散々とみんなにボロクソに言われて、テーブルに頭を付けてうずくまっていた。

「女子って怖いな……」
「お前一人っ子だもんな。女は強いぞ」

理沙に慣れているのか実感のこもった声のタケルであった。
俺にも顔も見たことがない妹がいるみたいだが……。

「お前は良いよな……。モテモテでみんなと仲良くて……」
「え?」
「咲夜とか津軽とか特にだけど俺に当たりが強くてさ。……本当に嫌われててさ。もう人にヘイトを買うのは運命レベルだよな……」
「…………お前は相手に深く入り過ぎなんだよ。俺の人間関係はお前と理沙以外は一歩退いた関係しか築かないからな。八方美人になるのが人間関係を上手くまわすコツだ」

ギャルゲー主人公の恋愛説教が始まった。
…………人間関係を一歩退いてるから毎回最悪なとこまで行くんでない?
無能な理由がかいま見えた気がする。

「……深く入り過ぎるから異性に安心感を与えてモテるんだろうな。年上の安心感ってもんか?俺はお前を同い年には思えないよ」
「なんか言ったか?」
「聞こえないように言ったんだよ」

タケルがコーヒーを一口含んだ。
なんかギャルゲー主人公で恋愛経験豊富な男に見えてタケルが逞しい頼りがいになる男に見えてきた。
頼るという漢字がありながら、特に頼りがいがない秀頼の俺とは大きな違いである。

「君たちは枯れてるねぇ……」
「マスター」
「こんちはっす、十文字タケルっす」
「あぁ、君が主人公の」
「主人公?」

マスターがこちらにやって来た。
そのまま俺の席の隣に座る。

「あんたカウンターの向こうから出るんだな。厨房の地縛霊みたいな存在だと思ってたよ」
「君、娘にも喫茶店の地縛霊って言ったみたいね……。親子揃って地縛霊かい」

自分のぶんのコーヒーを飲みながらマスターは突っ込みを入れる。

「なるほど。十文字君ね。中性的な顔で確かに万人に好かれそうな顔してるね」
「主人公って言うのは?」
「あぁ、秀頼君が君を主人公みたいな奴って言ってただけよ」

ゲームの主人公とはぼかしつつ、顔の評価をはじめていた。

「並べて比べると、本当に君悪人顔だね」
「…………」

そういうのを突き付けられると俺もちょっと傷付く。
目付きの悪さが主人公とはあり得ない見た目してるのを鏡で見る度によく思う。

「女に囲まれて気まずくて逃げたなマスター」
「キャピキャピしててね。枯れてる男共に混ざる方が僕は気が楽だね」
「俺もナチュラルに枯れてる男にされとる……」

タケルが苦笑いをしていた。
マスターもタケルも相性が合うからか、お互いに遠慮なく言い合える仲が心地良い。

「秀頼君には感謝してるよ」
「は?」
「咲夜がこんなに人と接する姿が想像できなかったからさ」

絵美と理沙の間に座る咲夜を指して、親の顔で嬉しそうに笑っていた。
周りから変な奴扱いされてるけど、馴染んでいて楽しそうにしている咲夜は確かに俺の知り合いで1番成長した奴かもしれない。
…………が、俺に対する扱いが泣きついたり、甘えたりするのが多くて退化している気がする。

「口で友達が増えたって言われるより、実際にその姿を見れて感無量だね。そういう意味で、秀頼君には感謝してるよ」
「別に俺はきっかけを与えたに過ぎない。それにあいつらも俺の知り合いだから人と付き合うような奴じゃないさ。咲夜が自分で動かないと友達なんて作れないよ。あいつが自力で友達を作った。俺に手柄なんてないよ」
「……秀頼に八方美人は無理だわ」
「え?」

タケルが苦笑しながら俺にそんな指摘をしてきた。
マスターがタケルの指摘に対して、うんうんと頷く。

「秀頼君って面倒な性格してるよね」
「それでいて鈍感なんすよ」
「イラっとするよね」
「そういうところ引っくるめて俺も好きなんですけどね」
「…………は?」
「ちょっと、本人前にして悪口やめーや」

俺の悪口で盛り上がる2人を制止させた。
凄く居心地が悪くなってきた。

「ちょっとマスター、どいて」
「どこ行くの?」
「この席ではないどこかへ」

通路側に座るマスターの脚をどかして、カウンター席へ行く。
ちょうど永遠ちゃんの隣が空いていたので、そこに座り込む。

「あっ、秀頼さん」
「秀頼君、十文字君たちとのお話終わったの?」
「あぁ、あいつらは相手にする必要ないからな」

永遠ちゃんの隣に座る絵美の質問に、不機嫌なのを隠さないで答えた。
「あはは……」と永遠ちゃんは苦笑いの反応を見せた。

「あの人がおばさんの弟さんだよね?」
「あぁ、マスターだ」
「あんまり似てないね」

絵美の側にはオレンジジュースが置かれている。
まだコーヒーが苦手なのが伝わってきた。

「絵美も秀頼さんも友達多くて羨ましいです」

永遠ちゃんが寂しそうな声で呟く。

「じゃあ、みんなでプール行こうか!」
「え?」
「プール行って永遠もみんなと仲良くなって親交を深めよう!良いよね、秀頼君?」
「……なんでプール?」
「夏といったらプールでしょ!」

絵美が当然じゃんといった自信満々な態度を崩さない。
なんだこれ?
ゲームの強制力かなんかか……?
止めた方が良いのかどうか迷ってしまう。
それに、永遠ちゃんが反応を見せた。

「行きたいです」
「ん?」
「このメンバーでプール行きたいです!」

永遠が絵美の手を握る。
あまりの食い付きに絵美もポカーンとしていた。

「ウチも行きたい」
「咲夜?」
「ウチも絵美と永遠とみんなとプール行きたい」
「谷川さん……」

絵美の隣にいた咲夜が少し身を乗り出してきた。
そして絵美の手を握っていた永遠ちゃんの手に咲夜も重ねて握る。

理沙も津軽もなんだなんだとこちらに視線を向けていた。

「よし、今年の夏はプールに行こう。幹事は私と秀頼君で準備するよ」
「巻き込まれ!?」
「え?このメンバーのリーダーが秀頼君でしょ?」
「そうなの!?」

知らなかった事実が発覚した……。
誰も異を唱える人がいない。

「はい、絶対に……、絶対に行きたいです!」

目をキラキラさせた永遠ちゃんの期待に溢れた声が喫茶店内に響く。
マスターとタケルもその声に反応して、視線を永遠ちゃんに移していた。

永遠ちゃんの後悔。
もしかしたら、心のどこかでそれを解消したいのかなと思う。

それだったら。
ファンの1人としてそれを満たして尽くしたい、それだけが心の中に溢れだした。
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