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第6章 偽りのアイドル
番外編、十文字理沙好感度アップシナリオ
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いつの間に本編100ページ超したので特別ストーリーを作成しました。
今回のテーマは
原作ゲーム『悲しみの連鎖を断ち切り』体験版詐欺にて収録されている日常パートになっています。
豊臣光秀君、来栖由美さんが生前にプレイしたギャルゲーと思って読み進めてください。
そんなわけで、
主人公が十文字タケル、親友役が明智秀頼と普段の逆でお送りします。
タケル目線の話とかはじめてかもしれません。
クズゲス本編とは、またちょっと違う歪な日常の物語をお楽しみください。
†
「に、兄さん……!」
「なんだこれは!?」
県外の遠い地で働く両親から荷物が届く。
その中身を見て俺と理沙は驚愕の声を漏らす。
次の日の正午。
俺は教室を去ろうとしていた親友の秀頼を捕まえるために声を出す。
「おーい、秀頼!」
すると不機嫌そうな目で俺に振り返る。
いつも不機嫌な顔なので、いつ機嫌が良いのか、実は俺もよく知らない。
「うるせぇぞてめえ。タケルごときが俺に馴れ馴れしく話掛けてくんじゃねーよボケ。お前の彼女寝取るぞ、コラ」
「あぁ、良い!今はそのテンションに付き合う暇はない!キャラ作んなくて良いから」
「お前、基本俺を舐めてるだろ」
「ペロペロキャンディ」
「……帰る」
「待って待って!?」
つい、秀頼弄りが楽しくて怒らせてしまう。
本当に面倒で面白い奴だ。
「んだよ、コラ」
逃げれば良いのに立ち止まるからこういう反応が好きだ。
世界中どこ探しても、こいつより面白い奴は居ないと思う。
「お前腹減ってない?」
「腹減った」
今日は午前授業だ。
ちょうどお昼が恋しい時間帯である。
「お前これからどうすんの?」
「女誘ってファミレス行く」
「たかり?」
「当然だろ。それともなんだ?お前も女をわけて欲しいか?」
当然のように肯定してくる。
俺にはない選択肢である。
というか、どこでそんなに女って捕まるの?
「お前、その内刺されるぞ」
「バカか、お前?刺されねぇ様に女をわからせるんだよ。簡単に言うと調教するっても言うか」
「最低だな……」
「飼い犬に噛まれないように、逃げられないようにするのが俺の仕事だ。裏切ったら殺すの意識持てよ?情なんか向けるな」
「本当にクズだな。お前のそういうとこ、本当にキ●ガイだぞ」
こいつの価値観はなんか異次元過ぎてついて行けない。
なんなの?
本当に同じ小学校を卒業したのか不安になる。
「秀頼、残念だがその予定はキャンセルだ」
「てめえが勝手に決めんなよ!お前の彼女寝取るぞっ!」
「俺の奢りだ」
「ほら行くぞ」
切り替えが早すぎる。
秀頼の相手はいつも飽きない。
なんでクラスメートとかあんなに秀頼を苦手に思う奴多いんだろ?
ヨルとかめっちゃ秀頼のこと嫌いみたいだし。
「その変わりなんだけど……」
「どうした?」
「男でも女でも良いから1人連れて来てくれない?」
これが俺が秀頼に奢る条件である。
そう聞くと「はぁ……」と秀頼がため息を吐く。
「んだよコンパの人数合わせかよ……。珍しいなタケルがコンパとか」
「俺にコンパする人脈あるわけないでしょ!」
「え?かわいそ……」
「やめろ!同情するな!」
秀頼の素の声がして、敗北した気分になる。
「お前の想像力は女ばっかりか!もっとあるだろ?あれをするんだよ」
「あ?まぁいいや。絵美でいっか」
秀頼が佐々木を連れて来るらしい。
よし、人数が揃った。
ーーーーー
「なんで奢りって言っておいてお前の家なんだよ」
「良いじゃん。お前はただ飯できるんだし」
「けっ。で?理沙ちゃん入れた4人で何するんだよ?絵美まで連れて来て何食べるの?」
「わんこラーメン」
「は?なんで?」
「これを見てくれ」
秀頼に両親から届いた段ボールを見せる。
そこには生麺が大量に入っている。
「…………お前ん家、ラーメン屋?」
「いや、多分違うけど……」
「なんで否定が曖昧なんだよ。親の職業くらい把握しとけや。お前と似て両親はバカなんだなぁ……」
「なんで優しい目を向ける?」
いつになく優しい目の秀頼である。
学校で声をかけた際の不機嫌さが一気に無くなったように見える。
「『あれをするんだよ』とか言われてわんこラーメンとか想像できるわけねーだろが!聞いたことねーよ」
「ごめんなさい、明智君。これ生麺で賞味期限も近いやつが送られてきたの。それで私がわんこラーメンをしてあげるってなったの」
「理沙ちゃんの案かよ、色々わけわかんねーよ」
俺だってわけわかんねーよ。
「キノコだったらいくらでも引き取るのに」
秀頼が生麺の袋を手に取って呟く。
それに理沙が反応する。
「なんでキノコ……?」
「あぁ、秀頼はキノコガチ勢なんだよ。自分でキノコ作ってたりするんだよ」
「キノコは旨いからな」
「……明智君がキノコとかいうと変な意味に聞こえる」
「めっちゃ失礼」
俺も最初、秀頼のキノコガチ勢っぷりを知った時は同じことを思った。
「キノコの栽培って危険なんじゃないの……?」
「そこはもう本の知識頼りってやつよ。こないだ女にたくさんあげちゃってさ、キノコないんだわ」
「誰がキノコ欲しがるの……?」
「欲しい奴は欲しがるんだよ」
意味深に秀頼は笑う。
深く突っ込んではいけないやつと悟る。
絶対女がどうこう始まるやつだ。
キノコの話題を終えて台所へ4人で立つ。
「まずは麺を茹でよう」
3人でバカみたいな量の麺を茹でてもらっている。
残った俺はスープを作った。
付属されている味噌ラーメンの元をお湯で溶かすだけで完成する。
「じゃあ、秀頼!俺とわんこラーメン対決だ!」
「え?対決すんの?」
超展開の嵐に、芝居がかった声は完全に素になっている秀頼。
もっとこういう面をみんなにさらけ出せば、チンピラと間違われることもないんだけど。
「あっ、ちょっと待って。女とこれからやる約束あったけど17時くらいまで伸ばしてもらうわ」
「まだ4時間くらいあるけど!?」
「どうせ酒飲んで時間潰してるよ」
いや、純粋なチンピラだ。
チンピラと間違われるも何もチンピラそのものだわ。
「じゃあわんこラーメン開始にあたりイカサマ防止で明智君の器に私が、兄さんの器に絵美が麺を入れるの」
「はぁ……」
佐々木が『なんでそんなことしなきゃならんの?』って顔で生返事をしていた。
「てか、腹減ったよ。ルールとかどうでも良いよ」
「ダメですよ明智君!わんこラーメンを舐めるな!」
「そもそもわんこラーメンってなんだよ?」
「わんこそばの麺がラーメンになったやつ」
「わんこそばの麺がラーメンになったやつ……」
秀頼がわけがわからなくなって、理沙の言った言葉を反復していた。
「というかわたしと理沙ちゃんは食べられないの?」
「終わるまで我慢です」
「既に帰りたい……」
「俺も帰りたい」
「お前ん家だろ、ここ」
全くやる気の見えない佐々木に同調したら、秀頼から突っ込みをもらった。
やる気満々なのは理沙だけだ。
しかも食べるのは俺と秀頼だ。
理沙は器に入れる方をやりたいらしい。
「よっしゃ、いくぞ秀頼!」
「OK、いくぜっタケルっ!」
こうして俺と秀頼のわんこラーメン対決が始まる。
「おらっ!」
「すっ」
最初の麺のお代わりをしたのは俺だ。
やる気がなくて死んだ目の佐々木から麺を器に入れられる。
「最初は俺がリードだぜっ、秀頼!」
「よく噛めよ、身体に悪いだろ」
「真面目かっ!」
秀頼も急いで麺を食べていた。
「おらっ!」
「すっ」
「おらっ!」
「すっ」
「おらっ!」
「すっ」
秀頼をリードして突き放していく。
中々良いペースで減らしていく。
「くそっ!こんなしょーもない対戦でもタケルに負けるのはプライドが許さねぇ!本気モードだぜ!」
「ま、まさか!?」
「制服の上着を脱ぐぜ」
「ワイシャツだと!?」
ワイシャツ姿になった秀頼は、理沙から麺を受けとる。
「いけっ!」
「シュッ」
「いけっ!」
「シュッ」
「いけっ!」
「シュッ」
「はえーっ!?」
秀頼の本気モードがガチでやべえ。
すぐにリードぶんのアドバンテージが失われた。
「どうだタケル?俺様の本気モードだぜ」
「なら俺も本気モードを使うぜ」
「なにっ!?貴様も本気を温存してやがったのか!?」
「ネクタイを外すぜっ!」
「首をフリーにしやがっただと……?」
秀頼が驚きの声を出す。
「熱いぜ、これが親友でありライバルである秀頼との戦いだ!全身から汗が出るぜ」
「熱いのはラーメン食べてるからじゃない?」
佐々木から冷静な突っ込みが入る。
「へっ、中々やるじゃねーかタケルごときが!そんな本気モードがあるなんてな」
「そもそも上着脱いだり、ネクタイ外したりでなんか変わるの?」
理沙も冷めた突っ込みで返していた。
「よっしゃ、来い佐々木!」
「兄貴に勝つぞ、理沙ちゃん!」
わんこラーメン対決は白熱した。
かつてここまで俺と秀頼が本気でぶつかった日はあっただろうか……。
戦いの熱は冷めない。
「……」
「……」
2時間後、俺も秀頼も死んでいた。
限界を越えた戦いに2人共動けなくなる。
「……おい、生きてるかタケル……?」
「チーン、死んでます……」
「生きてるじゃねーか!」
「いでっ」
秀頼から脇腹をど突かれた。
「理沙、佐々木……、俺と秀頼でどっちが多く食べたのか……発表してくれ」
「そもそも数字測ってないよ」
「え?」
「は?」
理沙の一言に俺と秀頼の目が丸くなる。
「そもそもこの家に数字を数えるカウンターなんか置いてないでしょ」
「……」
「……」
秀頼が立ち上がった。
「死ねっ!二度とてめえは俺に話しかけてくるなタコっ!お前の彼女寝取るぞ、コラ」
不機嫌な声で、のそのそと玄関まで向かっていく秀頼。
「帰るぞ、絵美」
「…………そもそもわたし、何も食べてないんだけど……」
「帰るぞ」
「……」
佐々木が更に死んだような目になりながら渋々秀頼について行く。
「ちっ……」
部屋を出る直前、佐々木が俺の顔を見て、舌打ちしながら睨んで去って行った。
普段は真面目で人懐っこい彼女からも相当恨みを買ったのが伝わってくる。
秀頼と同じ年数の付き合いになる佐々木から舌打ちなんてはじめてされた。
それにしても秀頼って完全に亭主関白だよな……。
2人に本当に申し訳ないことした。
「カウンター、買ってこようか?」
「無駄なお金使わないで」
「はい……」
みんなが不幸になったわんこラーメン対決になった。
「でも、兄さんの食いっぷり良かったよ!きちんと計測してたら明智君に勝ってたって!」
理沙がめちゃくちゃ褒めてくれた。
本当に可愛い妹である。
†
このイベントを見たルートを通った最終盤に
第2章『主人公との邂逅』に収録されている
第11部分 4、十文字タケル
第12部分 5、十文字理沙 (ハッピーエンド)
第13部分 6、佐々木絵美の末路A
へと繋がっていきます。
凄いゲームだね!
また、
第6章『偽りのアイドル』に収録されている
第102部分 5、明智秀頼は覚えてない
にて、原作で絵美がタケルを見て舌打ちをしたシーンの話がこれに該当します。
メタフィクションの世界にて、絵美アンチが溢れたと秀頼が語っています。
因みに前世の明智秀頼 (豊臣光秀)が絵美アンチでない理由は、Mだから絵美の反応をご褒美と思ってました。
流石、秀頼君ですね。
知らない設定が山ほど出てきます。
この話における絵美の出番がそもそも少ないのは、原作の彼女の立ち位置は攻略できないサブキャラクターなので当然メインキャラ3人より出番は控えめです。
個性も何もない悪役キャラであり、凄く態度が悪い絵美さんは新鮮です。
しれっと理沙が絵美を呼び捨てにしてたり、秀頼が理沙ちゃんと呼んでたり地味に呼び方が違います。
こんなしょうもない話で、十文字タケル目線という切り札を使ってバカだと思いました。
意外と原作のタケルと秀頼のやり取りが好きという意見があって驚いています。
原作のタケルも秀頼も基本的にお互いを舐めてます (原作の秀頼は舐められることと裏切りを酷く嫌悪します)。
お互いが舐めてるからこそ上下関係のない対等な親友関係を構築してました。
喧嘩別れしてますが、次の日にはケロっと2人でコンビニへアイス買いに行ってます。
そういう奴らです。
そんなわけで、本日20時公開する次のページの登場人物も
秀頼、絵美、理沙、タケルの4人が出演します。
理沙の扱いはとても難しいのですが、鉄板の4人と思っています。
普通にバランスが良い。
クズゲスをRPGにしたらバランスの良い王道レギュラーパーティー4人になるイメージ(ペルソナやドラクエみたいなやつ)。
比較しながら彼らの日常を見比べるのも楽しいと思います。
クズゲスのタイトルを考えた時、主人公 (タケル)をざまあする物語にするために
『そして主人公が無能すぎて役にたたない……。』の副題を付けました。
最近この作品のタイトルを見返して、
なんか違う形に物語が進んでいるのに気付いてしまいました。
完全にクズゲスな悪役である明智秀頼に作者がしてやられました。
ギフトを使ってチート無双するシナリオを考えていたのに、なんでギフト使わなくなってんだ……?
今回のテーマは
原作ゲーム『悲しみの連鎖を断ち切り』体験版詐欺にて収録されている日常パートになっています。
豊臣光秀君、来栖由美さんが生前にプレイしたギャルゲーと思って読み進めてください。
そんなわけで、
主人公が十文字タケル、親友役が明智秀頼と普段の逆でお送りします。
タケル目線の話とかはじめてかもしれません。
クズゲス本編とは、またちょっと違う歪な日常の物語をお楽しみください。
†
「に、兄さん……!」
「なんだこれは!?」
県外の遠い地で働く両親から荷物が届く。
その中身を見て俺と理沙は驚愕の声を漏らす。
次の日の正午。
俺は教室を去ろうとしていた親友の秀頼を捕まえるために声を出す。
「おーい、秀頼!」
すると不機嫌そうな目で俺に振り返る。
いつも不機嫌な顔なので、いつ機嫌が良いのか、実は俺もよく知らない。
「うるせぇぞてめえ。タケルごときが俺に馴れ馴れしく話掛けてくんじゃねーよボケ。お前の彼女寝取るぞ、コラ」
「あぁ、良い!今はそのテンションに付き合う暇はない!キャラ作んなくて良いから」
「お前、基本俺を舐めてるだろ」
「ペロペロキャンディ」
「……帰る」
「待って待って!?」
つい、秀頼弄りが楽しくて怒らせてしまう。
本当に面倒で面白い奴だ。
「んだよ、コラ」
逃げれば良いのに立ち止まるからこういう反応が好きだ。
世界中どこ探しても、こいつより面白い奴は居ないと思う。
「お前腹減ってない?」
「腹減った」
今日は午前授業だ。
ちょうどお昼が恋しい時間帯である。
「お前これからどうすんの?」
「女誘ってファミレス行く」
「たかり?」
「当然だろ。それともなんだ?お前も女をわけて欲しいか?」
当然のように肯定してくる。
俺にはない選択肢である。
というか、どこでそんなに女って捕まるの?
「お前、その内刺されるぞ」
「バカか、お前?刺されねぇ様に女をわからせるんだよ。簡単に言うと調教するっても言うか」
「最低だな……」
「飼い犬に噛まれないように、逃げられないようにするのが俺の仕事だ。裏切ったら殺すの意識持てよ?情なんか向けるな」
「本当にクズだな。お前のそういうとこ、本当にキ●ガイだぞ」
こいつの価値観はなんか異次元過ぎてついて行けない。
なんなの?
本当に同じ小学校を卒業したのか不安になる。
「秀頼、残念だがその予定はキャンセルだ」
「てめえが勝手に決めんなよ!お前の彼女寝取るぞっ!」
「俺の奢りだ」
「ほら行くぞ」
切り替えが早すぎる。
秀頼の相手はいつも飽きない。
なんでクラスメートとかあんなに秀頼を苦手に思う奴多いんだろ?
ヨルとかめっちゃ秀頼のこと嫌いみたいだし。
「その変わりなんだけど……」
「どうした?」
「男でも女でも良いから1人連れて来てくれない?」
これが俺が秀頼に奢る条件である。
そう聞くと「はぁ……」と秀頼がため息を吐く。
「んだよコンパの人数合わせかよ……。珍しいなタケルがコンパとか」
「俺にコンパする人脈あるわけないでしょ!」
「え?かわいそ……」
「やめろ!同情するな!」
秀頼の素の声がして、敗北した気分になる。
「お前の想像力は女ばっかりか!もっとあるだろ?あれをするんだよ」
「あ?まぁいいや。絵美でいっか」
秀頼が佐々木を連れて来るらしい。
よし、人数が揃った。
ーーーーー
「なんで奢りって言っておいてお前の家なんだよ」
「良いじゃん。お前はただ飯できるんだし」
「けっ。で?理沙ちゃん入れた4人で何するんだよ?絵美まで連れて来て何食べるの?」
「わんこラーメン」
「は?なんで?」
「これを見てくれ」
秀頼に両親から届いた段ボールを見せる。
そこには生麺が大量に入っている。
「…………お前ん家、ラーメン屋?」
「いや、多分違うけど……」
「なんで否定が曖昧なんだよ。親の職業くらい把握しとけや。お前と似て両親はバカなんだなぁ……」
「なんで優しい目を向ける?」
いつになく優しい目の秀頼である。
学校で声をかけた際の不機嫌さが一気に無くなったように見える。
「『あれをするんだよ』とか言われてわんこラーメンとか想像できるわけねーだろが!聞いたことねーよ」
「ごめんなさい、明智君。これ生麺で賞味期限も近いやつが送られてきたの。それで私がわんこラーメンをしてあげるってなったの」
「理沙ちゃんの案かよ、色々わけわかんねーよ」
俺だってわけわかんねーよ。
「キノコだったらいくらでも引き取るのに」
秀頼が生麺の袋を手に取って呟く。
それに理沙が反応する。
「なんでキノコ……?」
「あぁ、秀頼はキノコガチ勢なんだよ。自分でキノコ作ってたりするんだよ」
「キノコは旨いからな」
「……明智君がキノコとかいうと変な意味に聞こえる」
「めっちゃ失礼」
俺も最初、秀頼のキノコガチ勢っぷりを知った時は同じことを思った。
「キノコの栽培って危険なんじゃないの……?」
「そこはもう本の知識頼りってやつよ。こないだ女にたくさんあげちゃってさ、キノコないんだわ」
「誰がキノコ欲しがるの……?」
「欲しい奴は欲しがるんだよ」
意味深に秀頼は笑う。
深く突っ込んではいけないやつと悟る。
絶対女がどうこう始まるやつだ。
キノコの話題を終えて台所へ4人で立つ。
「まずは麺を茹でよう」
3人でバカみたいな量の麺を茹でてもらっている。
残った俺はスープを作った。
付属されている味噌ラーメンの元をお湯で溶かすだけで完成する。
「じゃあ、秀頼!俺とわんこラーメン対決だ!」
「え?対決すんの?」
超展開の嵐に、芝居がかった声は完全に素になっている秀頼。
もっとこういう面をみんなにさらけ出せば、チンピラと間違われることもないんだけど。
「あっ、ちょっと待って。女とこれからやる約束あったけど17時くらいまで伸ばしてもらうわ」
「まだ4時間くらいあるけど!?」
「どうせ酒飲んで時間潰してるよ」
いや、純粋なチンピラだ。
チンピラと間違われるも何もチンピラそのものだわ。
「じゃあわんこラーメン開始にあたりイカサマ防止で明智君の器に私が、兄さんの器に絵美が麺を入れるの」
「はぁ……」
佐々木が『なんでそんなことしなきゃならんの?』って顔で生返事をしていた。
「てか、腹減ったよ。ルールとかどうでも良いよ」
「ダメですよ明智君!わんこラーメンを舐めるな!」
「そもそもわんこラーメンってなんだよ?」
「わんこそばの麺がラーメンになったやつ」
「わんこそばの麺がラーメンになったやつ……」
秀頼がわけがわからなくなって、理沙の言った言葉を反復していた。
「というかわたしと理沙ちゃんは食べられないの?」
「終わるまで我慢です」
「既に帰りたい……」
「俺も帰りたい」
「お前ん家だろ、ここ」
全くやる気の見えない佐々木に同調したら、秀頼から突っ込みをもらった。
やる気満々なのは理沙だけだ。
しかも食べるのは俺と秀頼だ。
理沙は器に入れる方をやりたいらしい。
「よっしゃ、いくぞ秀頼!」
「OK、いくぜっタケルっ!」
こうして俺と秀頼のわんこラーメン対決が始まる。
「おらっ!」
「すっ」
最初の麺のお代わりをしたのは俺だ。
やる気がなくて死んだ目の佐々木から麺を器に入れられる。
「最初は俺がリードだぜっ、秀頼!」
「よく噛めよ、身体に悪いだろ」
「真面目かっ!」
秀頼も急いで麺を食べていた。
「おらっ!」
「すっ」
「おらっ!」
「すっ」
「おらっ!」
「すっ」
秀頼をリードして突き放していく。
中々良いペースで減らしていく。
「くそっ!こんなしょーもない対戦でもタケルに負けるのはプライドが許さねぇ!本気モードだぜ!」
「ま、まさか!?」
「制服の上着を脱ぐぜ」
「ワイシャツだと!?」
ワイシャツ姿になった秀頼は、理沙から麺を受けとる。
「いけっ!」
「シュッ」
「いけっ!」
「シュッ」
「いけっ!」
「シュッ」
「はえーっ!?」
秀頼の本気モードがガチでやべえ。
すぐにリードぶんのアドバンテージが失われた。
「どうだタケル?俺様の本気モードだぜ」
「なら俺も本気モードを使うぜ」
「なにっ!?貴様も本気を温存してやがったのか!?」
「ネクタイを外すぜっ!」
「首をフリーにしやがっただと……?」
秀頼が驚きの声を出す。
「熱いぜ、これが親友でありライバルである秀頼との戦いだ!全身から汗が出るぜ」
「熱いのはラーメン食べてるからじゃない?」
佐々木から冷静な突っ込みが入る。
「へっ、中々やるじゃねーかタケルごときが!そんな本気モードがあるなんてな」
「そもそも上着脱いだり、ネクタイ外したりでなんか変わるの?」
理沙も冷めた突っ込みで返していた。
「よっしゃ、来い佐々木!」
「兄貴に勝つぞ、理沙ちゃん!」
わんこラーメン対決は白熱した。
かつてここまで俺と秀頼が本気でぶつかった日はあっただろうか……。
戦いの熱は冷めない。
「……」
「……」
2時間後、俺も秀頼も死んでいた。
限界を越えた戦いに2人共動けなくなる。
「……おい、生きてるかタケル……?」
「チーン、死んでます……」
「生きてるじゃねーか!」
「いでっ」
秀頼から脇腹をど突かれた。
「理沙、佐々木……、俺と秀頼でどっちが多く食べたのか……発表してくれ」
「そもそも数字測ってないよ」
「え?」
「は?」
理沙の一言に俺と秀頼の目が丸くなる。
「そもそもこの家に数字を数えるカウンターなんか置いてないでしょ」
「……」
「……」
秀頼が立ち上がった。
「死ねっ!二度とてめえは俺に話しかけてくるなタコっ!お前の彼女寝取るぞ、コラ」
不機嫌な声で、のそのそと玄関まで向かっていく秀頼。
「帰るぞ、絵美」
「…………そもそもわたし、何も食べてないんだけど……」
「帰るぞ」
「……」
佐々木が更に死んだような目になりながら渋々秀頼について行く。
「ちっ……」
部屋を出る直前、佐々木が俺の顔を見て、舌打ちしながら睨んで去って行った。
普段は真面目で人懐っこい彼女からも相当恨みを買ったのが伝わってくる。
秀頼と同じ年数の付き合いになる佐々木から舌打ちなんてはじめてされた。
それにしても秀頼って完全に亭主関白だよな……。
2人に本当に申し訳ないことした。
「カウンター、買ってこようか?」
「無駄なお金使わないで」
「はい……」
みんなが不幸になったわんこラーメン対決になった。
「でも、兄さんの食いっぷり良かったよ!きちんと計測してたら明智君に勝ってたって!」
理沙がめちゃくちゃ褒めてくれた。
本当に可愛い妹である。
†
このイベントを見たルートを通った最終盤に
第2章『主人公との邂逅』に収録されている
第11部分 4、十文字タケル
第12部分 5、十文字理沙 (ハッピーエンド)
第13部分 6、佐々木絵美の末路A
へと繋がっていきます。
凄いゲームだね!
また、
第6章『偽りのアイドル』に収録されている
第102部分 5、明智秀頼は覚えてない
にて、原作で絵美がタケルを見て舌打ちをしたシーンの話がこれに該当します。
メタフィクションの世界にて、絵美アンチが溢れたと秀頼が語っています。
因みに前世の明智秀頼 (豊臣光秀)が絵美アンチでない理由は、Mだから絵美の反応をご褒美と思ってました。
流石、秀頼君ですね。
知らない設定が山ほど出てきます。
この話における絵美の出番がそもそも少ないのは、原作の彼女の立ち位置は攻略できないサブキャラクターなので当然メインキャラ3人より出番は控えめです。
個性も何もない悪役キャラであり、凄く態度が悪い絵美さんは新鮮です。
しれっと理沙が絵美を呼び捨てにしてたり、秀頼が理沙ちゃんと呼んでたり地味に呼び方が違います。
こんなしょうもない話で、十文字タケル目線という切り札を使ってバカだと思いました。
意外と原作のタケルと秀頼のやり取りが好きという意見があって驚いています。
原作のタケルも秀頼も基本的にお互いを舐めてます (原作の秀頼は舐められることと裏切りを酷く嫌悪します)。
お互いが舐めてるからこそ上下関係のない対等な親友関係を構築してました。
喧嘩別れしてますが、次の日にはケロっと2人でコンビニへアイス買いに行ってます。
そういう奴らです。
そんなわけで、本日20時公開する次のページの登場人物も
秀頼、絵美、理沙、タケルの4人が出演します。
理沙の扱いはとても難しいのですが、鉄板の4人と思っています。
普通にバランスが良い。
クズゲスをRPGにしたらバランスの良い王道レギュラーパーティー4人になるイメージ(ペルソナやドラクエみたいなやつ)。
比較しながら彼らの日常を見比べるのも楽しいと思います。
クズゲスのタイトルを考えた時、主人公 (タケル)をざまあする物語にするために
『そして主人公が無能すぎて役にたたない……。』の副題を付けました。
最近この作品のタイトルを見返して、
なんか違う形に物語が進んでいるのに気付いてしまいました。
完全にクズゲスな悪役である明智秀頼に作者がしてやられました。
ギフトを使ってチート無双するシナリオを考えていたのに、なんでギフト使わなくなってんだ……?
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・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
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トモモト ヨシユキ
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10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
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ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
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エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
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ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
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