ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

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第6章 偽りのアイドル

14、十文字理沙は選ばせる

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それから時は流れ、寒い季節がやってきました。
精神年齢約30歳、若い頃に比べ時間の早さがあっという間だ。

タケルからアイスを奢ってもらったのでさえ4ヶ月以上前なのに、ほんの一瞬に思える。
時の流れは残酷だ。

…………俺、30年生きてまだ童貞なん?

「いや、俺はまだ本気出してないだけ……」

現実を見るのをやめる。
原作の秀頼ってなんかもっと女にチヤホヤされているキャラじゃなかったかな?
あいつ小学生くらいで童貞を卒業してなかった?
じゃあなんで俺はモテないの?
耳にピアスしてないから?

「…………」

目を瞑り瞑想に入る。
これ、達裄さんかマスターに相談案件じゃない?
多分どっちもモテていたはずだ。

「秀頼向けに手紙来てたわよ」
「ありがとう、おばさん」

おばさんから茶封筒を受け取る。
そのまま封筒の口をハサミで開けると、スターチャイルドから手紙がきていた。
おそらく、前に出したファンレターの返信だ。

「うわぁ!?来てる来てる!すげー!スターチャイルドすげー!」

『明智秀頼様』って書かれてる!
なんて日だっ!

月1くらいでファンレターの返信くれるスターチャイルドって神様かなんか?
童貞で悩んでいたのがバカらしくなった。

同じクラスの山本とか西山とかも童貞なんだ。
全然おかしくないよね。

「えーっと……なになに……」

いつもお返事ありがとうございます。明智さんのお便り読んで勇気もらってます。

「すげー、アイドルがちゃんとファンレター読んでくれてる……。もう惚れそう。惚れてるけど惚れそう」

俺はスタチャが自分の出したファンレターを触ってるという事実だけで勇気もらってます!
勇気スパイラルですね。
急に『勇気スパイラル』とかいう単語が出て驚いたけど、別に俺は横文字NGじゃありません。

しかも5枚に渡り返事をしてくれる。
アイドルってファンの1人1人こんなに返事をくれるものなのか?
なんか俺だけ特別にしてもらってるみたいで申し訳ない。
先月、家から近い会場でコンサートする時は頼んでないのにチケット入っていた時は驚いたなぁ。
マジもんでタケルと理沙に申し訳なかった……。

「好き!大好きっ!マジで愛してるっ!」
「……何が?」
「…………え?」

絵美、理沙、タケルが俺の部屋に入ってきた。
全員俺にゴミを見る目を向ける……。
…………なんで?
どうしておばさんは毎回、俺の許可なく人を部屋にあげるの……?

「秀頼、ちょっと座れ」
「秀頼君、誰が好きなの?誰を愛してるの?」
「明智君、もしかして本命ですか?」
「……ちょ、なんすか?なんで、そんなみんなご機嫌ナナメさんなの……?」

俺とスターチャイルドの特別な時間は、冒頭しか読まずに終わった。

「というか、なんで来たの……?」

部屋で奇声を上げてた俺がバカみたいじゃないですか……。

「昨日、秀頼がゲーセン行くって言ったろ」
「言った」
「秀頼君は『暇な時行くかー』って言いました」 
「言った」
「じゃあ今ですよ明智君」
「……なんで?」

俺、今日ゲーセン行くなんて一言も聞いてないんですけど……。
なんで、みんなアポなしで来るの?
前世のアポ取る文化って、『悲しみの連鎖を断ち切り』世界には存在しないの……?

「てか、お前のこの封筒なにこれ……?」

タケルが、俺がその辺に置いたままの茶封筒を手に取る。
絵美と理沙の目が点になる。

「すっげー特徴のある女の字だなこれ……。これいつもらった?」
「さっき」
「どこで?」
「郵送で」

タケルがじーっと封筒を見ている。

「まさか下駄箱や机対策を講じて、郵送してくる奴が居るとは思わなかった……!チクショー、負けた……」
「兄さん!?」
「秀頼君、十文字君を泣かせましたね?」
「ちょっと何言ってるかわかんない」

下駄箱や机対策って何?
テストのカンニングの話?
それはね、消しゴムに答えを書くと良いんだよ。
あと、消しゴムのケースとかに仕込むと良い。

「秀頼っ!」
「は、はい」

タケルから大声で叫ばれて思わずあぐら状態から正座になってしまう。
なんかよくわからんが叱られるみたいだ。

「ご、ごめん……。ゲーセン行くなら昨日の内に言ってくれたらちゃんと俺も準備したんだよ。なんなら今から……」
「秀頼は、この封筒の持ち主が好きなのか?」
「は?」
「愛してるという気持ちに嘘はないのか?」
「嘘はないよ。大好きだ。愛してるさ」
「……」
「……」
「……」

3人が真っ青な顔になった。
さっきからゲーセンの話なのか、カンニングの話なのか、スターチャイルドの話がしたいのか支離滅裂過ぎて全然理解できない。

「ひ、ひでよりくん……、わたし……、わたし……秀頼君が大好きです……」
「そ、そうか……。俺も絵美が好きだぞ」
「くぅ……。気持ちを伝えたことはありませんが、私も明智君好きです」
「そ、そうなのか……。俺も理沙が好きだぞ」
「秀頼、お前という奴は……!1人に絞れよ……」
「な、なんだ今日の君らは……?俺もタケルが好きだぞ」

突然泣き出した3人が俺の前に丸くなって顔を下に向けているので背中をさすってあげる。
なんかよくわからないけど、……なんかよくわからない。
いや、なにもわかんねーよ。

「いや、明智君!優柔不断はいけません!1人を選ぶべきです……」
「そんな……、ポ●モンじゃないんだから……」
「でも選ぶべきです」
「じゃあヒ●カゲで迷うけどゼ●ガメ」
「なんの話?」
「ポ●モンの話」

4人みんな話が理解できていなかった。
致命的になんか歯車が噛み合わない。
絵美たちが部屋に入った瞬間から空気がおかしかった。







「スターチャイルドからの手紙!?」
「すごーい!」
「エヘヘ、秀頼君の本命の話じゃなくて安心しました」

スターチャイルドのファンレターの返信が来ていたことを話すと、ファンの十文字兄妹が目を光らせて見ていた。

「まったく……、スタチャの手紙くらい1人ではしゃぎながら見てても良いだろ」
「ご、ごめんね明智君……」
「まったく……、俺が恥ずかしいよ……」

年甲斐もなく好き!とか叫んでたのが見られたのが気まずい。
前世で親に水着の姉ちゃんの雑誌を部屋から見つけられた時くらいに恥ずかしい。

「めちゃくちゃ長文で返信してるな」
「返せよ!君らもファンレター出せばくるでしょ!」

普通に学校の出来事とかを書き綴ってたりするから純粋に見られたくなかった。

「ゲーセン行く?」

『行く!』と3つのハモった声がする。
まったく、毎回毎回そそっかしい奴らだ。

よくよく考えてみたら、絵美と関わらないようにとかタケルと関わらないようにとか考えていた最初の気持ちはどこへ消えたのだろうと笑ってしまう。

束の間の平和。
嵐の前の静けさ。

それがわかっていながら、俺は今日もこいつらと関わってしまっていた。
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