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知らない
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マスクの下は、息がしやすい気がしている。
放課後、昇降口に呼び出された。ため息をつきながら、俺は教室を出る。
これがモテ期ってやつか、なんて、望んでない。
夕日が差し込み、廊下に柔らかいオレンジの光が揺れていた。
マスクを上げて、重たい足を前に運ぶ。何か手伝ってほしいとか、頼みごとならいいんだけどなぁ。
呼び出しの理由を考えるのさえ億劫だ。
中学の頃、クラスの仲が良い男子から『桑原って、前髪上げると柊奏多に似てね?』と、言われたことがあった。
デビューしたてのきらきらアイドルに似ていると言われて悪い気はしなかったし、好きな人から言われたこともあって浮かれてしまった。
階段を降りてすぐ、向こうで俺を待っている後ろ姿が目に入った。運動部の掛け声が耳に響く。
頭の片隅で、好きな人が陰で言っていた言葉が蘇って胸がざわついた。
――『女子からちやほやされて、調子に乗ってんのキモいよな』
胸の奥まで突き刺さって、今も抜けない。
恋愛をする気になれない。まして、女子相手なんて、とても考えられなかった。
昇降口へ到着して、呼び出した本人へ声をかける。振り向いた彼女が、頬を赤く染めて気持ちを伝えてくれた。
高校2年になってから、この状況はもう何度目だろう。素直に喜べなくて、本当に申し訳ない。女子から呼び出されるたびに困ってしまう。
「ごめん。けど、気持ちはありがとう」
なるべく優しく、ゆっくりと告げた。
目の前にいるのは、何度か話したような気がする女子。名前もわからない。ぼんやりと、同じクラスだったかなぁと思った。
「……理玖くんは、いま彼女とかいるの?」
「いないけど、そういうのは……しばらくいいかなって思ってるとこだよ」
眉を下げた彼女に本心を口にする。
彼女が誰かにこのことを話してくれるといい。噂にでもなってくれれば万々歳だ。
「そっか……前髪って、上げたりしないの?」
急に切り替わった話題にうまく息が吸えなくなって、俺は息苦しさを感じた。似てると言われていた過去を思い出して、背中に汗が滲む。
中学の終わり頃から前髪を伸ばし始め、マスクで顔を覆うのが当たり前になっていた。卒業式もそのままの姿で出席した。うっとうしい前髪はときどき切るけど、マスクは今も外せない。
外で素顔でいるのが、怖い。じっと見られるのは、なおさら。
「……じゃあ、俺は先に戻るね」
問いには答えずに、その場から逃げることを選んだ。傷ついた顔へと変わってしまった子からそっと背を向けて、足早に歩いていく。
階段を上がりきった後でマスクの位置を直す。額の汗を手の甲で拭い、ゆっくりと呼吸を整えた。
「呼び出し、やっぱ告白だった?」
「うん、そうだった」
教室へ戻るなり、圭吾が俺を見てふっと笑った。圭吾に何も言わずに行ったけど、どうやら俺のことを待っててくれたらしい。
その顔を見て、ほっと肩の力が抜けた。
「そのわりに、また理玖が振られたみたいな顔してんのな」
「振られてねぇわ。けど、何が良くて好きになってくれたのかもわかんねぇなって毎回思う。好かれる要素もねぇのに」
伸びて目にかかりそうな自分の前髪に触れた。関わりも薄く、顔もよく見えない相手のどこを見てるんだろうか。
「見た目が良くて中身も良かったら、好きにもなるだろ」
「それ、両方かっこいい圭吾に言われると俺が調子に乗るけど」
「いいよ、乗っとけ。自信持てよ」
やだよ、と苦笑しつつ俺は自分の机のリュックを開く。
目についた個包装のチョコを取り出して、圭吾に渡した。さっき女子からもらったもの。
「女子って友達として仲良くする分には楽でいいんだけどなぁ。色々くれるし、面白いし」
「お前、それ聞く人によっては嫌味だろ」
「嫌味でも言えば女子から引かれんのかなぁ」
理玖が言えるわけないだろ、とケラケラ笑う圭吾。
こういうことを、さらっと言ってくれる圭吾といるのも気楽だ。
「今は理玖のブームが来てんだろ」
「俺のブームって何だよ。そんなの去ってほしい、マジで」
ため息と共に俺は机に倒れ込む。
「理玖は優しいし、たまに見える素顔がレアなんだよ」
圭吾は軽くメガネの位置を直した。
「素顔って言われるとどうにもなんねぇけど、そもそも優しくしてるつもりが全くない」
興味のない相手にどう接したか覚えてもいない。たぶん、当たり障りのないことしか言ってないだけだ。
「無意識の優しさが、特別扱いされたって勘違いを生むんだろ。この前もノート運び手伝ってたし」
「その場にいたら、圭吾だって手伝うだろ」
「俺は最初から手伝いメインでいくけど、理玖って話しかけたついでに手伝ってくれる感じなんだよ」
わかるようなわかんないような。首を傾けると「それを意識してやってないとこがモテるんだろ」と言われた。無意識のことは、顔と同じく俺にどうにかできる問題じゃない。
そろそろ帰るか、と席を立った圭吾に肩を叩かれる。俺はリュックを背負って、一緒に廊下へ出た。
放課後、昇降口に呼び出された。ため息をつきながら、俺は教室を出る。
これがモテ期ってやつか、なんて、望んでない。
夕日が差し込み、廊下に柔らかいオレンジの光が揺れていた。
マスクを上げて、重たい足を前に運ぶ。何か手伝ってほしいとか、頼みごとならいいんだけどなぁ。
呼び出しの理由を考えるのさえ億劫だ。
中学の頃、クラスの仲が良い男子から『桑原って、前髪上げると柊奏多に似てね?』と、言われたことがあった。
デビューしたてのきらきらアイドルに似ていると言われて悪い気はしなかったし、好きな人から言われたこともあって浮かれてしまった。
階段を降りてすぐ、向こうで俺を待っている後ろ姿が目に入った。運動部の掛け声が耳に響く。
頭の片隅で、好きな人が陰で言っていた言葉が蘇って胸がざわついた。
――『女子からちやほやされて、調子に乗ってんのキモいよな』
胸の奥まで突き刺さって、今も抜けない。
恋愛をする気になれない。まして、女子相手なんて、とても考えられなかった。
昇降口へ到着して、呼び出した本人へ声をかける。振り向いた彼女が、頬を赤く染めて気持ちを伝えてくれた。
高校2年になってから、この状況はもう何度目だろう。素直に喜べなくて、本当に申し訳ない。女子から呼び出されるたびに困ってしまう。
「ごめん。けど、気持ちはありがとう」
なるべく優しく、ゆっくりと告げた。
目の前にいるのは、何度か話したような気がする女子。名前もわからない。ぼんやりと、同じクラスだったかなぁと思った。
「……理玖くんは、いま彼女とかいるの?」
「いないけど、そういうのは……しばらくいいかなって思ってるとこだよ」
眉を下げた彼女に本心を口にする。
彼女が誰かにこのことを話してくれるといい。噂にでもなってくれれば万々歳だ。
「そっか……前髪って、上げたりしないの?」
急に切り替わった話題にうまく息が吸えなくなって、俺は息苦しさを感じた。似てると言われていた過去を思い出して、背中に汗が滲む。
中学の終わり頃から前髪を伸ばし始め、マスクで顔を覆うのが当たり前になっていた。卒業式もそのままの姿で出席した。うっとうしい前髪はときどき切るけど、マスクは今も外せない。
外で素顔でいるのが、怖い。じっと見られるのは、なおさら。
「……じゃあ、俺は先に戻るね」
問いには答えずに、その場から逃げることを選んだ。傷ついた顔へと変わってしまった子からそっと背を向けて、足早に歩いていく。
階段を上がりきった後でマスクの位置を直す。額の汗を手の甲で拭い、ゆっくりと呼吸を整えた。
「呼び出し、やっぱ告白だった?」
「うん、そうだった」
教室へ戻るなり、圭吾が俺を見てふっと笑った。圭吾に何も言わずに行ったけど、どうやら俺のことを待っててくれたらしい。
その顔を見て、ほっと肩の力が抜けた。
「そのわりに、また理玖が振られたみたいな顔してんのな」
「振られてねぇわ。けど、何が良くて好きになってくれたのかもわかんねぇなって毎回思う。好かれる要素もねぇのに」
伸びて目にかかりそうな自分の前髪に触れた。関わりも薄く、顔もよく見えない相手のどこを見てるんだろうか。
「見た目が良くて中身も良かったら、好きにもなるだろ」
「それ、両方かっこいい圭吾に言われると俺が調子に乗るけど」
「いいよ、乗っとけ。自信持てよ」
やだよ、と苦笑しつつ俺は自分の机のリュックを開く。
目についた個包装のチョコを取り出して、圭吾に渡した。さっき女子からもらったもの。
「女子って友達として仲良くする分には楽でいいんだけどなぁ。色々くれるし、面白いし」
「お前、それ聞く人によっては嫌味だろ」
「嫌味でも言えば女子から引かれんのかなぁ」
理玖が言えるわけないだろ、とケラケラ笑う圭吾。
こういうことを、さらっと言ってくれる圭吾といるのも気楽だ。
「今は理玖のブームが来てんだろ」
「俺のブームって何だよ。そんなの去ってほしい、マジで」
ため息と共に俺は机に倒れ込む。
「理玖は優しいし、たまに見える素顔がレアなんだよ」
圭吾は軽くメガネの位置を直した。
「素顔って言われるとどうにもなんねぇけど、そもそも優しくしてるつもりが全くない」
興味のない相手にどう接したか覚えてもいない。たぶん、当たり障りのないことしか言ってないだけだ。
「無意識の優しさが、特別扱いされたって勘違いを生むんだろ。この前もノート運び手伝ってたし」
「その場にいたら、圭吾だって手伝うだろ」
「俺は最初から手伝いメインでいくけど、理玖って話しかけたついでに手伝ってくれる感じなんだよ」
わかるようなわかんないような。首を傾けると「それを意識してやってないとこがモテるんだろ」と言われた。無意識のことは、顔と同じく俺にどうにかできる問題じゃない。
そろそろ帰るか、と席を立った圭吾に肩を叩かれる。俺はリュックを背負って、一緒に廊下へ出た。
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