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*シャルロット姫と食卓外交
グレース皇子と優しい魔法
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グレース皇子はまた呪文を唱えて魔法で淡々と後処理をしている。
目はどこか虚ろで、悲しげだ。
「……すっ、すごい!助けてくれてありがとう、グレース様」
シャルロットは頬を赤らめ、目の前で起こった初めて見る魔法のバトルに驚き、興奮して子供のように無邪気にはしゃいだ。
第一騎士団のアダムの氷の魔法など、生活魔法は何度か目にしたが魔法で魔物と戦っている姿を見るのは初めてだ。
それに、普段些細な生活魔法さえ使わないグレース皇子が魔法を使っているところを見るのも初めてだ。
魔人なのだから魔法が使えてごく当たり前なのだが。
「いや……、すまない、もう少し早くに魔法を使っていれば、姫も怪我をせずに済んだのに。つまらないプライドで判断を誤った、申し訳ない」
「そんなっ……」
深刻そうな顔で突然一国の皇子に頭を下げられ、シャルロットは戸惑った。
皇子の肩に手を当て顔を上げるように促すと、ようやく顔を上げてくれた。
そして間近で目が合って、シャルロットは思わずドキリとした。
青みがかったグレイの瞳がとても綺麗で吸い込まれそうだ。
「グレース様は魔法を使うのが好きじゃないんですか?」
以前コハン団長からそんな話を聞いたっけ。
シャルロットが問うとグレース皇子はうつむいた。
「だって、魔法は人を傷つけるし、危険だから…。俺の母親が死んだのも、間接的にでも、元は幼い俺が不用意に使った魔法が原因だった」
シャルロットの肩に顔を埋めて、グレース皇子は震える声で話してくれた。
皇子が七歳の時、魔術書に書かれてあった魔法を無闇に使ってしまい城で一室が吹っ飛ぶくらいの大きな爆発が起こってしまった事。グレース皇子の母親である王妃は息子を庇って負傷した。
元々 身体が弱かった王妃は感染症を発症し、そのまま亡くなってしまった。
魔法が存在する世界でも一度死んだ人間を生き返らせる事はできない。
中軽度の傷や病気を回復させる事は出来るが、致命傷に至るものは治せない。
「…でも、今グレース様は魔法でわたしを助けてくれたわ。それに、アダムさんの魔法を使えば何処でもアイスクリームが作れるし、キャロルさんは光の魔法で夜道を明るく照らすことができます。魔法が使えるなんて便利なのに、使わないなんて宝の持ち腐れだわ」
シャルロットは少しムキになったようにグレース皇子に叫んだ。
「それに、子を庇うのは母親として当然です。貴方が死んでしまった方が、お母様にとっては死ぬより百倍苦しくて痛い事なんです」
前世では母で、グレース皇子と同い年の息子がいたから王妃様の気持ちが痛いほどわかる。
わたしだってユーシンが目の前で危険な目にあってたら何も考えずに飛び出すもの。
だからつい説教的なことを言ってしまった、とシャルロットは言った後になってハッとし苦笑した。
そんなシャルロットをグレース皇子は黙って強く抱きしめた。
「あの……グレース様?」
「ありがとう」
耳元で囁かれてドキドキしてしまう。
「わたしこそありがとう、あ……」
いつの間にか空に黒く厚い雲が掛かっていた。
ゴロゴロと遠くで雷鳴が聞こえて、ポツポツと大粒の雨が降り出す。
*
二人は雨から逃れて近くの洞穴にいた。
濡れてしまった髪や衣服をグレース皇子は魔法で一気に乾かしてくれた。
「乾燥機みたいね、梅雨の時期の洗濯にも便利だわ」
「かんそうき?」
洞穴の奥でまだ止まない雨を見つめて2人で並んで座っていた。
長い沈黙の後で、突然グレース皇子に肩を抱かれ そのまま胸に顔を引き寄せられた。
「グレース様?」
グレース皇子は何も言わずにシャルロットを熱い眼差しで見つめ、そのまま唇の端にキスをした。
「え……?」
シャルロットの顔が真っ赤に茹で上がる。
「グレース様?…」
「何でだろうな、姫の顔を見てたらしたくなった」
説明になっていない。
そして小悪魔に笑う。
「もう、おばさんをからかうのはよして!」
不意打ちで、しかも美形からのキッスは不覚にも年甲斐もなくドキドキしてしまった。
「おば……?」
プイッと拗ねてそっぽうを向くとグレース皇子は目を点にし首をコクリと傾け、また笑った。
しばらく経ってすっかり雨が上がった空には虹が架かっていた。
帰り道は少しだけ気まずかった。
*
ーーその夜。
夜も明けていないというのにグレース皇子が寝衣姿でバルコニーに立ち宙に手のひらをかざしていた。
狼姿のクロウは寝ていたベッドから起き上がり、グレース皇子の傍らに寄り添うように立つ。
グレース皇子が伸ばした手のひらからはキラキラと光が溢れていた。
その先にある萎れていた木の枝がたちまち葉をつけて花を咲かせた。
「魔法を使ったの?」
「ああ、確かに魔法は便利だな」
グレース皇子はフッと何かを思い出したかのように優しく笑った。
クロウはグレース皇子の隣にちょこんと座った。
「……魔法を使わないのはもったいないと、シャルロット姫が言ったんだ」
あれだけ魔法を使うことを頑なに拒んでいたグレース皇子が珍しい。
クロウはグレース皇子の横顔をじっと見上げた。
彼はグレース皇子が赤ん坊の頃からずっと側に居て面倒を見てきた。
時々喧嘩はすれど、魂を共有するパートナーとして兄弟のように思うものとして大事に見守ってきたクロウにとっては嬉しい変化だった。
その“シャルロット姫”という婚約者を認めてあげてもいいかもしれない。
幻狼と契約者は一心同体。
契約者と結婚するともなれば幻狼ともうまくやっていかなければいけない。
クライシア大国では婚約者の家柄などは大した選出条件にはならない、幻狼との相性を何よりも大切にしているのだ。
目はどこか虚ろで、悲しげだ。
「……すっ、すごい!助けてくれてありがとう、グレース様」
シャルロットは頬を赤らめ、目の前で起こった初めて見る魔法のバトルに驚き、興奮して子供のように無邪気にはしゃいだ。
第一騎士団のアダムの氷の魔法など、生活魔法は何度か目にしたが魔法で魔物と戦っている姿を見るのは初めてだ。
それに、普段些細な生活魔法さえ使わないグレース皇子が魔法を使っているところを見るのも初めてだ。
魔人なのだから魔法が使えてごく当たり前なのだが。
「いや……、すまない、もう少し早くに魔法を使っていれば、姫も怪我をせずに済んだのに。つまらないプライドで判断を誤った、申し訳ない」
「そんなっ……」
深刻そうな顔で突然一国の皇子に頭を下げられ、シャルロットは戸惑った。
皇子の肩に手を当て顔を上げるように促すと、ようやく顔を上げてくれた。
そして間近で目が合って、シャルロットは思わずドキリとした。
青みがかったグレイの瞳がとても綺麗で吸い込まれそうだ。
「グレース様は魔法を使うのが好きじゃないんですか?」
以前コハン団長からそんな話を聞いたっけ。
シャルロットが問うとグレース皇子はうつむいた。
「だって、魔法は人を傷つけるし、危険だから…。俺の母親が死んだのも、間接的にでも、元は幼い俺が不用意に使った魔法が原因だった」
シャルロットの肩に顔を埋めて、グレース皇子は震える声で話してくれた。
皇子が七歳の時、魔術書に書かれてあった魔法を無闇に使ってしまい城で一室が吹っ飛ぶくらいの大きな爆発が起こってしまった事。グレース皇子の母親である王妃は息子を庇って負傷した。
元々 身体が弱かった王妃は感染症を発症し、そのまま亡くなってしまった。
魔法が存在する世界でも一度死んだ人間を生き返らせる事はできない。
中軽度の傷や病気を回復させる事は出来るが、致命傷に至るものは治せない。
「…でも、今グレース様は魔法でわたしを助けてくれたわ。それに、アダムさんの魔法を使えば何処でもアイスクリームが作れるし、キャロルさんは光の魔法で夜道を明るく照らすことができます。魔法が使えるなんて便利なのに、使わないなんて宝の持ち腐れだわ」
シャルロットは少しムキになったようにグレース皇子に叫んだ。
「それに、子を庇うのは母親として当然です。貴方が死んでしまった方が、お母様にとっては死ぬより百倍苦しくて痛い事なんです」
前世では母で、グレース皇子と同い年の息子がいたから王妃様の気持ちが痛いほどわかる。
わたしだってユーシンが目の前で危険な目にあってたら何も考えずに飛び出すもの。
だからつい説教的なことを言ってしまった、とシャルロットは言った後になってハッとし苦笑した。
そんなシャルロットをグレース皇子は黙って強く抱きしめた。
「あの……グレース様?」
「ありがとう」
耳元で囁かれてドキドキしてしまう。
「わたしこそありがとう、あ……」
いつの間にか空に黒く厚い雲が掛かっていた。
ゴロゴロと遠くで雷鳴が聞こえて、ポツポツと大粒の雨が降り出す。
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二人は雨から逃れて近くの洞穴にいた。
濡れてしまった髪や衣服をグレース皇子は魔法で一気に乾かしてくれた。
「乾燥機みたいね、梅雨の時期の洗濯にも便利だわ」
「かんそうき?」
洞穴の奥でまだ止まない雨を見つめて2人で並んで座っていた。
長い沈黙の後で、突然グレース皇子に肩を抱かれ そのまま胸に顔を引き寄せられた。
「グレース様?」
グレース皇子は何も言わずにシャルロットを熱い眼差しで見つめ、そのまま唇の端にキスをした。
「え……?」
シャルロットの顔が真っ赤に茹で上がる。
「グレース様?…」
「何でだろうな、姫の顔を見てたらしたくなった」
説明になっていない。
そして小悪魔に笑う。
「もう、おばさんをからかうのはよして!」
不意打ちで、しかも美形からのキッスは不覚にも年甲斐もなくドキドキしてしまった。
「おば……?」
プイッと拗ねてそっぽうを向くとグレース皇子は目を点にし首をコクリと傾け、また笑った。
しばらく経ってすっかり雨が上がった空には虹が架かっていた。
帰り道は少しだけ気まずかった。
*
ーーその夜。
夜も明けていないというのにグレース皇子が寝衣姿でバルコニーに立ち宙に手のひらをかざしていた。
狼姿のクロウは寝ていたベッドから起き上がり、グレース皇子の傍らに寄り添うように立つ。
グレース皇子が伸ばした手のひらからはキラキラと光が溢れていた。
その先にある萎れていた木の枝がたちまち葉をつけて花を咲かせた。
「魔法を使ったの?」
「ああ、確かに魔法は便利だな」
グレース皇子はフッと何かを思い出したかのように優しく笑った。
クロウはグレース皇子の隣にちょこんと座った。
「……魔法を使わないのはもったいないと、シャルロット姫が言ったんだ」
あれだけ魔法を使うことを頑なに拒んでいたグレース皇子が珍しい。
クロウはグレース皇子の横顔をじっと見上げた。
彼はグレース皇子が赤ん坊の頃からずっと側に居て面倒を見てきた。
時々喧嘩はすれど、魂を共有するパートナーとして兄弟のように思うものとして大事に見守ってきたクロウにとっては嬉しい変化だった。
その“シャルロット姫”という婚約者を認めてあげてもいいかもしれない。
幻狼と契約者は一心同体。
契約者と結婚するともなれば幻狼ともうまくやっていかなければいけない。
クライシア大国では婚約者の家柄などは大した選出条件にはならない、幻狼との相性を何よりも大切にしているのだ。
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