シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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ワガママ王子様の更生プログラム〜ミレンハン国の俺様王子、騎士団で職業体験する

ゲーテとグリムのイーストドーナツの絆③

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 ーー冷たく乾いた風が吹く山の中。

「ゲーテ王子、大変申し訳ございません。少し馬を休ませたいので、今晩はこちらの小屋で待機していて貰えますでしょうか?明け方、出発いたしましょう」

 山の奥には畳六畳ほどの小さな杣小屋があった。
 定期的に人の出入れであるのだろう、換気もされており中も小綺麗だ。
 ゲーテ王子は部屋の中にあった椅子に腰を掛けた。

「フン、王子である俺にこんな汚い物置部屋で寝ろと?」

「申し訳ございません、城下町の宿だとすぐに足が着いてしまうものですから。私どもは外で見張りをしていますので安心してお休みください」

 執事は穏やかに笑った。


「……今度こそ上手くいきそうか?」

 夜も更に更けた頃、杣小屋の外で執事らは声を潜めて話し合っていた。
 御者は目深く被っていた帽子を脱いだ。

「しかし、まさか同盟国でもないクライシア大国が王子を保護するなど」

「でも、まあ、ここで王子が死ねば、クライシア大国の失態となりますぞ。グリムも殺し損ねたが責任を追及できるやもしれん。利用価値はありそうだ」

 ふふふっと気味の悪い笑い声をあげる。

「これも全てはウェイ様のため」

 ウェイとはゲーテ王子の従兄弟である。

 前王の妾腹の子でありゲーテ王子より5つ年上。頭は良いが、無鉄砲だったり浅慮な一面のあるウェイと宰相グリムは度々意見の食い違いから衝突していた。

 宮殿内にはウェイを次期国王にと考える派閥もある。

 ウェイ派の執事ヨリャや一味にとってはゲーテ王子もグリムも目障りな存在であった。

 御者はフフっとカエルのような醜い顔を歪めて笑うと、王子が中で眠っている杣小屋の扉に向かってかがり火台の脚を思い切り蹴飛ばした。
 事前に酒を被せてあった杣小屋の外壁には火が登り、数十分もすれば炎に取り囲まれた。

 窓もない小屋、唯一の出入り口は炎で覆われている。

「さよなら、ゲーテ王子」

 執事や御者たちの高笑いが静寂の林の中に響いた。

「楽しそうだなぁ。俺も混ぜてくれよ」

 高笑いをする男たちの背後にはニッコリと勝気な笑顔を見せるゲーテ王子の姿があった。
 その手にはミレンハン国 王家の紋章入りの剣が握られている。

 ゲーテ王子の後ろにはユーシンが控えていた。

「ヒッ、王子!?な、何故!?」

 ーー杣小屋に居たはずでは?
 そう問おうとしたのに驚愕のあまり言葉が詰まる。

「この小屋の壁にはどんでん返しがついてるんだよ、下調べ不足だったね」

 ユーシンは火が放たれてすぐに隠し戸から王子を救出したのだった。

「こういう事だろうと思ったんだ。グリムが俺様を暗殺しようとしている?それで俺様がすんなりと信じると思ったか。愚か者め」

 その手にはミレンハン国 王家の紋章入りの剣が握られている。
 王子の右手親指のプロミスリングに付いてる小振りの宝石が月光に当たって きらっと光る。

 グリムの瞳の色と同じエメラルド。
 成人式にグリムから忠誠の証にもらったものだ。

 ミレンハン国では主従の証に自分の瞳や髪の色と同じ宝石を贈り合う文化がある。
 宝石は持ち主の魂のカケラだという考えのあって、自分の魂の一部を相手に渡すのだーー生半可な覚悟では贈り合わない。

「ウワアアア!」

 御者は王子に剣を向けられ、絶叫しながら持っていた護身用のナイフを振り回した。
 王子は笑うと応戦する。
 恐怖に震える手で握っていたせいか、御者の持つナイフはどこかへ飛んで行った。

「弱っちいいな」

 ため息をついて隙をついた王子の背後を今度は執事のヨリャが木の棒でひと殴りする。
 ユーシンはすぐに剣を抜いて男たちに向かう。

「ちっ、痛ぇ」

「大丈夫っすか!?」

 ユーシンが斬りつけた木の棒はあっけなく真っ二つに割れた。
 さっきヨリャに殴られた利き肩がジンジンと痛む。
 王子は持ち前の運動神経で素早く動きながら剣を巧みに振っていたが、思わず苦笑を漏らした。

「ゲーテ王子!」

 遠くからよく聞き慣れた声とともにクライシア大国の騎士たちを引き連れたグリムやグレース皇子が駆け付けて、グリムは執事の頭に飛び蹴りを食らわしゲーテ王子の目の前に現れた。

「グリム!」

 ゲーテ王子に襲いかかっていた男たちが驚愕を顔に浮かべていた。

「この馬鹿!!勝手な行動は控えろと何万回言えば聞くんですか!なぁに、暗殺者にホイホイ付いてくの!?こっちが穏便に手を回してたのに!」

「フン、こんな雑魚くらい俺一人で片付けてやるぜ」

「今まさにピンチってところだったでしょうが!帰ったらお説教ですからね!」

「うっぜえええ」

 そんなヌルいやり取りをしながらも身体を動かし、襲いかかる男たちを肉弾戦で倒していくグリムと、剣を振り回し敵をなぎ倒していくゲーテ王子。
 口では喧嘩しながらも息がピッタリと合った二人の姿を呆然と見守るグレース皇子や騎士団の騎士たち。

 無双状態に出る幕もなかった。
 ものの数分で反逆者たちの屍の山が出来上がっていた。

「力を貸して欲しいのではなかったのか?」

 グレース皇子はグリムに問う。

「ええ、ですから、この者共を貴国の地下牢にでも一時的に収監して欲しいのです!すぐにミレンハン国へ送還して処刑しますから」

 グリムはニッコリ笑って明るく言った。
 ゲーテ王子やグレース皇子一行が城に戻る頃にはすっかり夜も明けていた。

 *
 事後処理を終えゲーテ王子とグリムがひと息つけたのは午後になってからだった。

 今は賓客をもてなすための堅苦しい応接間ではなく騎士団の詰め所に集まって茶を飲んでいた。
 そこで待っていたシャルロットがみんなにホットレモネードや揚げたてのジェリードーナツを振舞っていた。

「お疲れ様でした。ゲーテ王子が無事で何よりです」

 シャルロットは笑顔で彼らを迎えた。

「ほんと疲れたよ~。僕こそありがとうございます、ふわふわしてて美味しいですね、このドーナツ。中にフルーツのジャムが入ってる」

「お口にあってよかったわ、グリムさんは本当にドーナツがお好きなのね」

「うん、大好きです」

 もぐもぐとグリムは幸せを噛みしめるかのように咀嚼する。

「あ、そうだ。ゲーテ王子、これ預かっていたものです」

 グリムは首にかけていたゲーテ王子の翡翠のネックレスを王子の目の前に差し出した。
 ゲーテ王子はフンっとそっぽうを向いてツンケンとした態度で言った。

「それはお前が持っていろ、失くすんじゃないぞ?」

「僕が?いいの?」

「俺もお前からエメラルドの指輪をもらったからな」

 常に飄々とした表情のグリムの意外な照れ顔。

「どうしよっかなぁ~、お子ちゃま王子のお守り役って、給料と割に合わないしな~、正味ブラックな仕事だし転職も何度考えたことか~……、僕ってほら有能だから引く手数多なんですよ?」

 照れ隠しにおどけるグリムにゲーテ王子はキレた。

「うっぜえ、文句あんなら返せ!」

「え~嫌です、もう僕のものです。王子が嫌になったらいつでも退職してこれ売って生活費に充てます、雇用保険としてもらっておきますね」

「王子である俺様からもらった非常に有難い品だぞ!素直にありがとうの一言も言えんのか!」

「え?ありがとうございます、めっちゃ嬉しいです」

 グリムは冷めた目で棒読みで早口で即答する。

「コイツっ……」

 ゲーテ王子は不服そうな顔で彼を睨む。
 口喧嘩の絶えない二人だが仲は良さそうだ。
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