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第一章 毒娘、冒険者になる
01:村娘ですが、良い感じのジョブを下さい
しおりを挟む「グルルウウウオオオオ!!!」
メキメキと森の木々をなぎ倒しながら、そいつは現れた。
まるで灰色の岩で出来た鎧を纏う、巨大なサンショウウオ。
「みんな下がって! こいつは私がやるよ!」
「ピーゾンさん!?」
「無茶ですわ!」
「危険です! わたくしも――」
「いいから! 早くみんな連れて避難!」
後ろで喚くみんなを背に、私は背中の柄を手に取る。
鞘から抜いたのは私の身長ほどもある大きな得物。
それを右肩に乗せ、迫りくるそいつ――ロックリザードを見据えた。
足音でみんなが離れるのを確認。
視線はトカゲから離さない。
左手をピストルのように突き出し、トカゲの顔面に照準を合わせる。
地竜だか亜竜だか知らないが、図体ばかりデカくても――私が勝つに決まってるでしょ!
「食らいなさい――【毒弾】ッ!」
………………
…………
……
■その二ヶ月ほど前
■ピーゾン 【無職】 10歳
私の名前は空町タカコ。二五歳。
元廃人ゲーマーで現社会人。
乙女心を忘れないフリフリファンシー好きのか弱い女だ。
……まぁ前世の話だけどね。今はピーゾンという名前の女の子だ。
若くして死んだと思いきや、気付けば異世界転生していたってわけ。
突然、産まれたばかりの乳幼児となった時の混乱と言ったら、筆舌に尽くしがたい。
目の前に現れたお父さんもお母さんも、見た目は完全に外国人なわけだし。言葉も分かんないし。
おまけとばかりに、ここが剣と魔法の世界で、ステータスやらスキルやらあるのが普通ときたもんだ。
夢かゲームの世界かとしばらくの間疑っていたのも当然でしょう。
まぁ結局は現実だったわけだけどね……。
グラフィックと五感反応が異常に発達したVRMMOだと言われたほうがまだマシだった。
魔物が蔓延る世界で剣と魔法で戦うとかね、そんなのゲームの中だけにして頂きたい。
現実世界でセーブなし、コンティニューなしの初見ノーデスプレイとか無理に決まってるでしょ。アホか。
いくらVRMMOで疑似体験してても、いくら元廃人ゲーマーでも無理です。
ちなみに私がハマってたのは『クリーチャーハンター』ってアクション系ね。
敵が触手持ちばかりのグロさでSAN値がガリガリ削れるから『CERO-Z』指定受けてたんだけど。
そのくせ妙な所でリアルを追及するような作りだったから、ユーザーからは『変態ゲー』と呼ばれていたし、好き好んでこれにハマるプレイヤーはもれなく『変態』扱いされた。
……いや、私は至って普通の女の子だし。変態ちゃうし。ハマってたけど。
この世界が『クリハン』と違うのは確認済み。普通に居るのゴブリンとかだからね。
『クリハン』の世界だったらゴブリンだろうが何だろうが、もれなく触手がついているはずだ。
ふっつーのゴブリンとかせいぜい『CERO-C』とかそんなもんでしょ? 『CERO-Z』なめんな。
しかしここは現実世界。ゴブリンとは言え、人を襲い人を食べたりする。
オークとかもそうらしいが人間の女を自分たちの巣に持ち帰ったりもするのだとか。なんとおぞましい世界だろう。
私が住んでいる村でも被害が出ていたりする。魔物災害や魔物事故は多い。
そんな世界で戦うなんて以ての外でしょ。私は普通に安全に生きたいのだ。
村にある実家の食堂を両親と共に経営し、料理させてもらえるようになったあかつきにはマヨネーズ無双をするのだ。
レッツ、スローライフ。
それくらいの知識チートはしてもいいでしょう。せっかく前世の記憶を持って転生したんだし。
そんな目標を立てて生きてきた十年間。
私は早くも″人生最大の転機″を迎えている。
馬車に乗って辿り着いたのは、私が住んでいるファストン村から三日ほどの距離にある都市『オーフェン』。
人混みを抜けて進んだ先、目の前にあるのは白く立派な神殿だ。
村にある教会とは全然違う建物に思わず見入る。
「何突っ立ってんだよピーゾン。早く行こうぜ!」
「はいはーい」
急ぎ足で前を歩くガk……こぞ……少年は、共にファストン村から来たアルスだ。
ん? アレル? アラン? ……多分アルスだ。
ファストンは小さい村なので同年代の子供というのが少ない。十歳は私とこやつの二人だけだ。
一応幼馴染ではあるが、私に構って欲しいのか何かと絡んでくる。
遊びたいのは分かるんだけど精神年齢が大人の私からすると、元気な少年だなーとしか思わない。むしろうざい。
そのアルスが急かす先にある神殿が目的地。
わざわざ村から離れた都市に、親も連れずに十歳の二人で来た理由は、今日ここで『職決め』が行われる為だ。
この世界は『職』が全てと言っても過言ではない。
能力、スキル、装備など全てが『職』によって決められる。
しかも神官による神託魔法で勝手に決められてしまう。そこに自由意思はないのだ。
【魔法使い】になったけど剣が好きだから頑張って剣士になります! ……というのはまず無理。
【魔法使い】になれば<剣術>のスキルも覚えず、剣自体が装備出来ない。
装備出来ない剣を持って魔物に攻撃をしてもダメージはゼロだ。そういう世界なのだ、ここは。
そんな世界だと分かったから、私は普通に生きたいと思ったんだけどね。廃人ゲーマーは学生時代で卒業したのだよ。
『職決め』で職が勝手に決められるのは百歩譲っていいとして、どんな職に就こうが、頑張れば剣でも魔法でも熟せて、レベルを上げてヒャッハー出来るのならばそれが良かった。
せっかくの異世界転生だしファンタジー世界だし、レベルやステータスがある世界で冒険するのは憧れもした。
廃人ゲーマーとしての血が騒ぐ。超強くなって魔物とか倒したい。そんな思いを持ったりもした。
でも運で決まる職に左右される人生ってどうなのよ、と。
しかも魔物あふれる危険な世界で。ろくな未来が見えません。
だから私はそんな事とは無縁にスローライフをしたいのだ。
私が今日という日に賭ける思いは強い。待ちわびたぜ『職決め』よ。
大いに期待しようじゃないか。第二の人生、ファンタジー世界での普通な人生を!
私は決意を持って神殿へと歩く。前を行くアルスを追って。
ちなみに第一希望は【村人】である。
最も無難で、最も多く、最も基本的な職。派生先も多い。
レベル10になれば<生活魔法>を使えるし、派生職で【料理人】に行く可能性もある。
【農家】に派生して実家の食堂用の菜園を作るのもいいし、【経理士】に派生すれば食堂的には大助かりだろう。
一般的にはハズレ扱いされる【村人】だが、だからこそ私は希望する。
次いで第二希望は【料理人】。
派生職や上級職がいきなり選ばれる事は、少ないながらもあるらしい。
この日の為に職について調べまくった私に隙はない。
ただまぁそこまで期待するのもアレなので、私としては第二希望。
【料理人】からの派生も限られるしね。進路の選択肢という意味では【村人】の方が上なのだ。
第三希望以下は同列みたいなもんだが、【剣士】や【魔法使い】などの戦闘職でも良い。
冒険するつもりはないが、食堂を手伝いながら上手くいけば魔物食材もゲット出来そうな気がする。
食堂の用心棒的なポジションでもいいし。
ただ、同じ戦闘職ならば【神官】や【巫女】のほうが望ましい。
回復や治療が出来れば健康で普通の生活が送れそうだ。戦闘職ならこっちが本命。
とまぁ、何が選ばれても両親と食堂で働くのには変わらない。スローライフ目標も変わらない。
そういう意味では気も楽だ。
神殿に入るとすでに人だかり。『職決め』はすでに始まっている。
私とアルス以外にも子供は沢山居た。都市内の子供の他、付近の村からも集まって来たのだろう。
神官さんが一人一人順番に神託魔法をかけていく。
「やったー! 【魔法使い】だ!」
「俺は【鍛冶師】だって!」
「派生職じゃん! すげー!」
「あー、【村人】だー。なえるわー」
おい、そこの少年。【村人】を残念がるのはヤメロ。
私【村人】だったらガッツポーズする自信があるぞ。
「おいピーゾン! 早く並ぼうぜ!」
「はいよー」
行列の最後尾に付け、どんどんと『職決め』されていく少年少女たちを覗き見る。
ほとんど流れ作業だ。神官さんもずっと魔法を行使するのは辛いのか交代しながらやってるみたい。
そしていよいよ私の前、アルスの番となった。
結果は【剣士】。一般的な基本職ではあるがれっきとした戦闘職だ。アルスははしゃいでいる。
うんうん、ずっと衛兵のお父さんに憧れて【剣士】になるって木剣振ってたもんねぇ。それをきっと神様が見ていたんだよ。
思いは実を結ぶってね。私もちょっと感慨深い。ホロリとしてしまうよ、うんうん。
「では、次の子、前へ」
「あ、はい!」
はっ、いかんいかん、アルスの事なんかどうでもいいわ。
私の人生の大一番だったわ。
というわけで神官さんに促されるまま、羊皮紙に手を乗せ、神託魔法を受ける。
紙にはまず私の名前と職が表示された。
―――――
名前:ピーゾン
職業:無職Lv10
―――――
これが神託魔法により変化する……!
期待に小さな胸が膨らむ……! 気がする……!
さあいでよ! 私の職よ……!!
―――――
名前:ピーゾン
職業:毒殺屋Lv1
―――――
……………………どどど、毒……?
10
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