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第一章 毒娘、冒険者になる
06:田舎者ですが都市にやって来ました
しおりを挟む「……ん? じゃあお二人とも戦闘職で行商人やってるんですか?」
「そうそう。街とかで店を構えてる人は【商人】系の職が多いんだけど、行商となると商売をやりたい戦闘職って人が多いね。護衛の要らない行商人ってのは【商人】系の人にはない強みだからね」
ファストン村から地方都市オーフェンまでは結構近い。
馬車だと三日という所だ。
まぁそれを近いと言えるあたり、私もこの世界の交通事情に慣れたという事だろう。
行商人さんはポットさんというおじさんで、細身な体形ながら元冒険者らしい。引退してから行商を始めたとか。
戦えば結構強いらしく、護衛の冒険者も雇っていない。
ここら辺に出る魔物であればポットさん一人で十分らしい。
まぁ今は弟子のソウザさんと一緒に行商を回っているから、いざ魔物と相対する時は二人で戦うらしいんだけど。
ちなみに今はソウザさんが御者をしている。
「はぁ~。戦闘職=戦うだけってわけじゃないんですね」
「そりゃそうだよ。ただまぁ行商人は実際に魔物と戦う事も多いわけだから、それもまた事実だけどね。今度王都にも行くんだろ? オーフェンや王都には戦闘職で接客業とか生産職とか商売やってる人も実は結構いるよ」
言われてみれば私も【剣士】になっても食堂の手伝いしようとしてたし、職ってのは道標の一つでしかないのかもなぁ。
……ただまぁ【毒殺屋】は道が限られるんだろうけど。
暗殺者は嫌だ、暗殺者は嫌だ、暗殺者は嫌だ……。
「あ、冒険者の事、教えてもらえませんか? 私オーフェンで登録してから本格的に始めるので」
「それくらいお安い御用さ。なんせ馬車に揺られるだけの旅路だからね。こっちも暇つぶしになる」
そうしてオーフェンに着くまでの間、ポットさんの冒険者講座をしてもらった。
いやぁまさか自分が冒険者になるとは思ってなかったから何も知識がないんだよねぇ。
ポットさん親切だし、話し上手の教え上手だから助かります。
武器の事や職の事は適当に濁しつつ、あれこれ聞いた。
せっかく三日間もあるので出来るだけ情報を仕入れておきたい。
命に関わるからね、安全第一。
冒険者に必須の野営も二回あるからね。
前に『職決め』でオーフェンに行った時の野営は、冒険者になるつもりなんてなかったから、護衛の冒険者に全部任せてただ眠るだけだった。
でも今回は自分が冒険者になるわけだから、野営の事もきちんと聞いておきたい。
オーフェンという街の事もそうだ。
私は『職決め』の為だけに行ったから、神殿の場所以外、何も知らない。
オーフェンで冒険者登録をしてから王都に行く前に、冒険者に慣れる必要があるので、しばらくはオーフェン滞在になるだろうと思っている。
生活する上で必須なお店や、冒険者として知っておいたほうが良い場所など、今のうちに聞く。
ポットさんは行商人ではあるが、オーフェンに拠点を構えているらしい。
店を開いているわけじゃないが、倉庫なり拠点なりを構えないと商業ギルドに登録出来ないらしいのだ。はぇ~めんどい。
ともかくそんなわけでポットさんはオーフェンの地理にも詳しいのだ。
もちろん元冒険者なのだから、冒険者ギルドの場所から登録の仕方、依頼の受け方、ルールなどもあらかじめ聞いておく。
登録の際には説明がされるらしいが、念の為ポットさんから予習を受ける。
「最初は誰であれ、どんな職であれFランクからスタートだよ。街の中でのお手伝い系の依頼が多いかな」
「あー、やっぱり。魔物の討伐とかは出来ないんですか?」
「Fランクだと街の近くに居るゴブリンとか角ウサギとかになるけど、いくら戦闘職になったからっていきなり実戦っていうのは危険だ。ギルドで戦闘講習を受けてから、というのが一般的だね」
「講習があるんですね」
「登録してすぐだと討伐依頼を受けさせてはもらえないはずだ。十歳で戦闘職に就いて冒険者になったって子が一番危険なんだよ。一番死亡率が高い」
聞けば、戦闘職に就いて「やったー、これで戦えるぞー!」って調子に乗る子が多いんだとか。なるほど想像はつく。
アルスみたいに【剣士】になって剣を装備出来て<剣術>スキルを得て、意気揚々と魔物に向かって行く。
しかし<剣術>スキルはあくまで『剣で戦えるようになるスキル』であって、経験が上がるわけでもないし、いきなり上手く扱えるわけもない。
結果、負傷や死亡、依頼の失敗が起こりやすいんだとか。
馬鹿だねー。なぜもっと自分の命を大事にしないのか。
冒険者なんて危険な仕事って分かりきってるんだから、リスクマネージメントを徹底してやるべきなのだよ。
十歳のガキなんてそんなものかもしれないけど。危機感が足りないね。
「まぁ村を出る時に模擬戦してた君の動きを見るに、そこいらの初心者とは比べ物にならないくらい戦えるんだろうけどね」
「そうですか?」
「自分じゃ分からないものなのかい? 正直、Dランクの戦闘職でもあんな動き出来ないと思うよ」
ほほう。比べる相手がアルスしか居なかったから分からないけど、私もそこそこ動けるのか。
【毒殺屋】になってステータスが上がったのもあるけど、ほとんど『クリハン』のおかげだろうなー。ゲームは偉大だ。
「ただ……」
そこまで笑顔で褒めてくれていたポットさんが、急に渋い顔になった。
えっ、何か不安要素が?
「鉈って……」
あ、それは私も不安です。
♦
馬車に揺られる事三日目、大きな城壁が見えた。
あの運命の日から七日――オーフェンよ! 私は帰って来た! 帰って来たくなかったけど!
門に並ぶ人や馬車の列はさほどでもない。時間が良かったのか。
すぐに私たちの受付が回って来た。
手続き自体は冒険者の仮登録証で問題なし。
やっぱ村のギルド出張所で身分証明もらってきて正解だった。
私の仮登録証を見た衛兵さんが「ど……ゲフンゲフン」と言ってたのが気掛かりだけど。
ある意味職務に忠実な衛兵さんだと思う。
危険物を街に入れて良いものか迷ったのだろう。私なら即しょっ引く。
そして都市内部へと入ったところでポットさんとソウザさんとはお別れだ。
「どうもありがとうございました」
「気を付けろよ」
「何かあったら商業ギルド経由で伝言下さい。頑張ってくださいね」
「はいっ!」
大通りを進む馬車を見送りながら、周りの景色を見る。
『職決め』の時はただの観光のつもりだったけど、いざ冒険者となって自分の拠点になるのだと思うと見方が変わる。
相変わらず人が多いし、建物も高いのがズラッと並んでいる。
下を見れば全てが石畳。村と全然違う活気ある街並み。さすが都市だね。
これで私が単なる村娘なら驚いているところなんだけど、あいにくと転生者なもんで。
(中世ヨーロッパ……いやそれより古い感じかな? 二階建てばっかだし)
そのくらいにしか思わない。
でも電気とかない代わりに魔道具っぽい街灯とか見ると感動する。
そんな感じでテクテク歩き、宿をとるか冒険者ギルドで登録を済ますかと悩む。
どっちもポットさんに場所は聞いたんだけど、宿はオススメを数軒聞いたからね。どこにしようかって感じで。
で、結局ギルドの方が近そうだったんで、先に本登録しちゃう事にしました。
「ぃよし!」
気合いを入れて冒険者ギルドに乗り込む。
ここから私の冒険者としての人生が始まるのだ。
――暗殺者とかには絶対ならないからね!
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