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第一章 毒娘、冒険者になる
07:か弱い少女ですが冒険者登録に来ました
しおりを挟む都市の中心部にある宿屋より一回り大きい建物。
入口は大きく開かれ、扉なんてものはない。出入り自由です、どうぞどうぞって感じ。
とは言え、そこに出入りする人は鎧を着た人や屈強な人だったりするので十歳のか弱い少女としては若干入りづらい。尚職業(以下略)
「ぃよし!」
こういうのってオドオドしてると逆に絡まれるパターンでしょ? 私知ってる。進〇ゼミで習った。
だから勝手知ったる我が庭です、って感じでスタスタと入る。
……だが物珍しいのには違いない。
ついつい視線を方々に向けてしまうのだ。
入ってすぐには依頼ボードってやつだろう、いくつかの大きな板に何枚も紙が貼ってある。
おそらくランクで板が変わるんだろうなー。
依頼票とか詳しく見たいところだけど後回し。
そこから右に目を向ければカウンターに受付嬢さんたちが数人並んでいる。
その前には冒険者の人たちも列を作っていた。
依頼ボードの裏側は酒場スペース。やっぱこんな感じなんだなーと想像通り。
さらに奥には裏庭に出る扉や、受付の横には二階に上がる階段なんかも見える。
そうしてチラチラ見てたわけだけど、どうも絡まれる様子はない。
さすがに少女一人をいじめるって事はないのか、それとも品行方正な冒険者が集まっているのか……。
後々聞いた話によれば、この時期は『職決め』の直後だから十歳の少年少女が相次いで登録するものなのだそうだ。
別に私が珍しい存在ではなく、「また来たな」とか「俺らもあれくらいの年齢で来たなぁ」とかそういう目で見られるらしい。
神経使って損したわ。
何はともあれ、カウンターの右端に『登録窓口』と書いてあったのでそこへ行く。
さすがに『受注窓口』や『報告窓口』『買い取り窓口』のように人は並んでいない。
受付嬢のお姉さんは眼鏡をかけた三つ編みお姉さんだ。図書館に居そう。
「すいません、これ仮登録証なんですけど、本登録に来ました」
「はい、確認しますね」
柔らかい対応。お姉さんは私から仮登録証を受け取ると中身に目を通していく。
そして眉間に皺がよった。
「職について私どもは公表も詮索もしない決まりとなっています。しかし貴女の場合ですとこの場でご説明するのに不都合が出ると思います。どうぞ奥の部屋へ」
「あ、はい」
そう促されるまま、お姉さんの後に続き、受付奥の扉から個室に入った。
やはり普通の登録の対応とは違っちゃうんだね。
ローテーブルを挟んでソファーに座りお姉さんが説明を始める。
「まず、冒険者登録はこちらで問題なく出来ます。冒険者カードも発行されますが、そこに書かれているのは『名前』『冒険者ランク』そして『職』などです。誰かに見せる時には気を付けて下さい」
「オーフェンに入る時に衛兵さんに見せたんですけど、そういうのはしょうがないですよね?」
「ええ、職は神殿を通し国で管理するものです。衛兵は国の管轄ですし、冒険者ギルドは組織上、世界に跨りますが、守秘義務は国によって管理されています。そういった場合を除いた一般人への提示や吹聴……例えばギルド内で「私【毒殺屋】ですけどパーティー募集してまーす」とか声高々には言わない方が良いという事です」
「言いませんよ、さすがに……」
このお姉さん、真面目なのかお茶目なのか分からなくなってきた。
誰が言うかい! 出来る限り公表したくないわ!
「それと固有職の冒険者は五年間、王都を拠点にしなければならないという義務が発生します。これは未知または希少な職を手元で保護及び監視しておきたいという国の意図も含まれます。神殿でも説明あったかと思いますが」
「はい。それでいつまでに王都に行って拠点登録すればいいんですかね?」
「なるべく早く。と言っても王都までの旅費の事もありますし、レベル1のまま急いで来いという事はありません。まずはオーフェンで力をつけ、蓄えを多少でもした上で行かれるのが良いでしょう。中には冒険者になったは良いものの力を出せずお金を稼げず王都に行けなかったという例もあるそうですが」
「えっ、そういう場合はどうするんです?」
「国が動いて強制連行ですね」
「うわぁ……」
逮捕ってか捕獲って感じだね。野良ユニークゲットだぜ! ってなもんで。
私はなるべく早めに王都に行くことにしよう。
「最長でも半年と見ていて下さい。職によってはもっと早く動かれる恐れもあります。貴女の場合ですと……なるべく早めが良いかと」
「ですよね」
私の場合、なるべく監視しておきたいって言うか危険物指定みたいな職だからね。
諦めている部分はある。認めたくない部分でもある。
「固有職でパーティーを組むのって難しいんですかね?」
「固有職同士となるとオーフェンでは難しいでしょうね。王都でしたら国中から固有職が集まるので探しやすいとは思います。王都には固有職だけで構成されたクランもあると聞きますよ」
クランって言うのは七人以上の集まりだね。
パーティーが六人までっていうギルドの規定があるらしい。で、それ以上の規模のものがクラン。
しかしただでさえ希少な固有職が七人以上も集まってるのか。
さすがは王都と言うべきか。
「仮にオーフェンで固有職以外の人とパーティーを組んだ場合、その人も王都に連れて行く必要があります。それに同意してもらえば問題ないとは思いますよ。もしくはオーフェンに居る間限定でのパーティーですとか」
「あーなるほど」
私は王都に行く義務があり、さらにそこで五年は拠点を持つ必要があるけど、固有職じゃなければそんなの関係ないしね。
オーフェンが故郷であれば離れたくない人だって多いだろう。
となるとやっぱ固有職同士で組んだ方がいいのかもしれない。
ただそうなると……。
「そもそもオーフェンで固有職の冒険者って居るんですか?」
「……登録者の情報を言うわけにはいきませんので」
そっか。仮に居ても教えてもらう事も出来ないのか。
こりゃパーティーメンバー探すのも一苦労だぞ……。
そう悩んでいたら図書委員さんが「しかし……」と譲歩してくれた。
「内密にお願いしますが、今現在、オーフェン支部に登録に来た固有職の新人さんは居ませんね」
「えっ、私以外なし!?」
「今のところは。しかしオーフェンに新しい固有職が全く居ないというのは確率的にもないでしょう。おそらくこれから登録するか、もしくは冒険者以外の道――例えば職業訓練学校であるとか、そちらに進む人が多いのではないでしょうか。戦闘職だからと言って全てが冒険者になるわけではありませんし」
その可能性はあるね。
いくら希少な固有職でもオーフェン程の規模の都市に誰も居ないなんてありえないだろうし。
私みたいにオーフェン周辺の村に居る子だって居るだろう。
そういう子はオーフェンに本登録に来るのが遅れている可能性もある。
と言うか、私は村に帰ってすぐに戻って来たからかなり早い方じゃないかな。
そもそも固有職になったからって戦闘職だけってわけないし、非戦闘職はほとんど学校に行くだろう。
そう考えると固有職全体で見ても学校に行く子が多いんだろうなぁ。
「もしくは王都で五年の拠点義務をすでに果たした固有職の方ですとか、そういった方が地元に戻るという事はあります。同じように冒険者でない戦闘職で、すでに義務を果たしている方なども」
「十五歳以上で王都に居る必要がない固有職の戦闘職って事ですか」
「冒険者の情報は言えませんが、例えば【七色の聖女】様などは国内を旅して回る固有職として有名ですね」
「【七色の聖女】?」
その人は本格的な冒険者ではなく神殿組織に登録している『神官』さんなんだとか。
ここで言う『神官』ってのは職でなくて仕事の事ね。『冒険者』みたいな。
で、国内各地を回ってボランティアというか、色々と施しをしているらしい。まさに聖女。
そしてその人が固有職なのは結構有名なんだとか。
職の詳細は分からないらしいが、【七色の聖女】と呼ばれているらしい。
なるほど。つまりオーフェンに居る間にパーティーを組もうと思ったら、そういう固有職の人を探してパーティーを組むのがいいと。
それか普通の職の人を臨時、もしくは五年間王都に縛り付けるよう説得した上でパーティーを組む。
うーん、どっちもむずいなぁ……。
固有職厄介すぎる……。
その後、図書委員さんからは冒険者の基本的な知識やルールを教えて貰った。
ほぼポットさんに聞いたとおりだ。
結果、私は最低ランクの『Fランク』スタートでギルドカードを発行してもらった。
聞いてはいたが固有職であっても優遇はされないらしい。
ま、当然だよね。未知の職が戦闘や冒険者活動に有用かどうかなんて分からないんだから。
とりあえず、カード発行手数料で銀貨三枚を払い終了。
依頼ボードとか眺めたいけどまた今度にしよう。
よし! これで念願の冒険者になったぞ!
……うそです。念願じゃありませんでした。
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