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第一章 毒娘、冒険者になる
閑話2:とある武具屋の心配事
しおりを挟む■ベルダ 【鍛冶師】 30歳
俺の名はベルダ。
ファストン村で武具屋をやってる【鍛冶師】だ。
この村に産まれて三〇年、いろんな奴が村を出て街へ行ったり、都に行ったりするのを俺は見送って来た立場だ。
別に郷土愛があるわけじゃねえが、それでも村に愛着があるし、村には俺の鍛治を必要としてくれている人が大勢いる。
だから俺は誰が出て行っても住み続けるんだ。
今日も一つの別れがあった。
食堂の娘、ピーゾンだ。あの娘がまさか冒険者になるなんて思いもよらなかった。
父親のソルダードとはガキの頃からの友人で、俺もちょくちょく食堂に飯を食いに行く。
ピーゾンは五歳くらいの時からずっと食堂を手伝っていて、俺もよく可愛がったもんだ。
あの娘は食堂の事も両親の事も好きで、大きくなっても食堂で働きたいと言っていた。
俺もピーゾンはどんな職に就いても食堂で働くんだろうな、なんて思っていたし、ソルダードも嫁さんのピエットも、ピーゾン本人でさえそう思っていたに違いない。
それがどういうわけだか、どんな職だか知らないが固有職なんて就いちまって、急に冒険者になるとか言い出したと思ったら、その日のうちに村を出て行きやがった。
あまりの事に俺もショックだったが、俺以上にソルダードやピエットはショックだったに違いない。
あいつら夫婦そろって溺愛してたからな。
おまけに俺の作った武器が何も装備できないときた。
冒険者になろうって事は戦闘職だろ?
なのに武器が装備できないとか……本気で冒険者にするの止めようと思ったさ。
だけどピーゾンが頑固なのは今に始まったことじゃねえ。
誰に似たんだか、こうと決めたら譲らねえ時がある。
ホントに十歳なのかと疑う事もあるほどだ。
とりあえず今日は夜まで仕事する気にもなれず、夕方の早い時間から食堂に行って、グダグダと酒でも飲みながら、ソルダードの愚痴でも聞こうかと思った。
あいつの事だからピーゾンが出て行って落ち込みまくって料理なんか作れないんじゃないかと心配だったのもある。
それに愚痴でも聞いていれば真っ当な武器を渡せなかった罪悪感も多少は紛れんじゃねえかとな。
今にして思えば鉈って何だよ、鉈って。
食堂に着くと、案の定、ソルダードとピエットは料理も接客もせずに店を閉めていた。
こいつが食堂を臨時休業するなんて五年前に大病を患った時くらいだ。まぁそれでも一日で再開してたが……。
それくらいにショックだったって事だろう。
俺は勝手知ったる我が家とばかりに店に入り、ソルダードとピエットと酒を酌み交わした。
泣きながら酒を呷る二人をなんとか宥めつつ、俺は詳しい話を聞く。
秘密にしてくれと頼まれたその話によれば、ピーゾンは【毒殺屋】とか言う職に就いたらしい。
そりゃ食堂は無理だわな。やっと理解できた。
固有職は王都で暮らさなきゃいけないってのは聞いてたが、何も食堂の夢を捨てて冒険者になる事ねえんじゃねえかと思ってたんだ。そういう事だったか。
しかし聞いた事もねえ職だ。
武器を装備できねえ戦闘職ってホントかよ。ありえるのか?
これでピーゾンに鉈しか渡せなかったとか言ったらソルダードが暴れるだろうから、落ち着くまでは言わないでおこう。
「なんであの娘が【毒殺屋】なんて……信じられないわ」
「職は【無職】の時の経験とか、両親の資質とか、先祖の資質とかで決まるんじゃないのか……? まさか俺たちのせいでピーゾンが【毒殺屋】になんか……」
ピエットとソルダードが頭を抱えながら呟く。
確かにそう聞くが、それで全てが決まるわけじゃないってのも確かだ。
魂の資質とか言われることだってある。
だから俺は二人を慰めるだけだ。お前らのせいじゃねえってよ。
「じゃあなんでピーゾンが【毒殺屋】だなんて……」
「ピーゾンが『毒』に関わる事なんて…………あっ!」
ピエットが急に声を荒げ、顔を上げた。
何かピーゾンと『毒』の関連性があるんだろうか?
何か気付いたのか、とソルダードがピエットに詰め寄る。
「ほら、あの娘五歳になって食堂を手伝うって言い出したじゃない? あなたの料理を手伝いたいって。それで私たちも嬉しくなって作らせてあげて……」
「あっ!」
「ん? どういう事だ?」
俺だけ分からなかったのでピエットに聞いてみた。
なんでも、ピーゾンの初めて作った料理を嬉しそうに食べたソルダードは、その最初の一口を食べた途端に倒れたらしい。
生死の境を彷徨ったが、ピエットが適当に飲ませた薬でなんとか持ち直したとか……。適当に飲ませるなよ。
ピーゾンにはたまたま体調が悪かったと言い訳したそうで、その後もなんだかんだ料理の手伝いはさせなかったというのだ。
料理は【料理人】であるソルダードの本分という事でピーゾンも納得したらしい。
そうか、五年前の大病ってのはそれが原因だったのか……。
「……ん? じゃあ当時からピーゾンは毒――」
「違う違う違う! ピーゾンが初めて作った料理だぞ!? 毒なわけないだろ! ありゃ俺がたまたま体調崩しただけだ! タイミングの問題だ!」
「そ、そうか……」
ソルダードは愛娘が料理下手だとは思いたくないらしい。
しかしピエットの話を聞く限り、それが原因と考えればしっくりくる。
あいつ、王都で暮らすんだよなぁ……。
願わくば自分で料理なんてする環境じゃない事を祈るぜ……。
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