12 / 171
第一章 毒娘、冒険者になる
閑話2:とある武具屋の心配事
しおりを挟む■ベルダ 【鍛冶師】 30歳
俺の名はベルダ。
ファストン村で武具屋をやってる【鍛冶師】だ。
この村に産まれて三〇年、いろんな奴が村を出て街へ行ったり、都に行ったりするのを俺は見送って来た立場だ。
別に郷土愛があるわけじゃねえが、それでも村に愛着があるし、村には俺の鍛治を必要としてくれている人が大勢いる。
だから俺は誰が出て行っても住み続けるんだ。
今日も一つの別れがあった。
食堂の娘、ピーゾンだ。あの娘がまさか冒険者になるなんて思いもよらなかった。
父親のソルダードとはガキの頃からの友人で、俺もちょくちょく食堂に飯を食いに行く。
ピーゾンは五歳くらいの時からずっと食堂を手伝っていて、俺もよく可愛がったもんだ。
あの娘は食堂の事も両親の事も好きで、大きくなっても食堂で働きたいと言っていた。
俺もピーゾンはどんな職に就いても食堂で働くんだろうな、なんて思っていたし、ソルダードも嫁さんのピエットも、ピーゾン本人でさえそう思っていたに違いない。
それがどういうわけだか、どんな職だか知らないが固有職なんて就いちまって、急に冒険者になるとか言い出したと思ったら、その日のうちに村を出て行きやがった。
あまりの事に俺もショックだったが、俺以上にソルダードやピエットはショックだったに違いない。
あいつら夫婦そろって溺愛してたからな。
おまけに俺の作った武器が何も装備できないときた。
冒険者になろうって事は戦闘職だろ?
なのに武器が装備できないとか……本気で冒険者にするの止めようと思ったさ。
だけどピーゾンが頑固なのは今に始まったことじゃねえ。
誰に似たんだか、こうと決めたら譲らねえ時がある。
ホントに十歳なのかと疑う事もあるほどだ。
とりあえず今日は夜まで仕事する気にもなれず、夕方の早い時間から食堂に行って、グダグダと酒でも飲みながら、ソルダードの愚痴でも聞こうかと思った。
あいつの事だからピーゾンが出て行って落ち込みまくって料理なんか作れないんじゃないかと心配だったのもある。
それに愚痴でも聞いていれば真っ当な武器を渡せなかった罪悪感も多少は紛れんじゃねえかとな。
今にして思えば鉈って何だよ、鉈って。
食堂に着くと、案の定、ソルダードとピエットは料理も接客もせずに店を閉めていた。
こいつが食堂を臨時休業するなんて五年前に大病を患った時くらいだ。まぁそれでも一日で再開してたが……。
それくらいにショックだったって事だろう。
俺は勝手知ったる我が家とばかりに店に入り、ソルダードとピエットと酒を酌み交わした。
泣きながら酒を呷る二人をなんとか宥めつつ、俺は詳しい話を聞く。
秘密にしてくれと頼まれたその話によれば、ピーゾンは【毒殺屋】とか言う職に就いたらしい。
そりゃ食堂は無理だわな。やっと理解できた。
固有職は王都で暮らさなきゃいけないってのは聞いてたが、何も食堂の夢を捨てて冒険者になる事ねえんじゃねえかと思ってたんだ。そういう事だったか。
しかし聞いた事もねえ職だ。
武器を装備できねえ戦闘職ってホントかよ。ありえるのか?
これでピーゾンに鉈しか渡せなかったとか言ったらソルダードが暴れるだろうから、落ち着くまでは言わないでおこう。
「なんであの娘が【毒殺屋】なんて……信じられないわ」
「職は【無職】の時の経験とか、両親の資質とか、先祖の資質とかで決まるんじゃないのか……? まさか俺たちのせいでピーゾンが【毒殺屋】になんか……」
ピエットとソルダードが頭を抱えながら呟く。
確かにそう聞くが、それで全てが決まるわけじゃないってのも確かだ。
魂の資質とか言われることだってある。
だから俺は二人を慰めるだけだ。お前らのせいじゃねえってよ。
「じゃあなんでピーゾンが【毒殺屋】だなんて……」
「ピーゾンが『毒』に関わる事なんて…………あっ!」
ピエットが急に声を荒げ、顔を上げた。
何かピーゾンと『毒』の関連性があるんだろうか?
何か気付いたのか、とソルダードがピエットに詰め寄る。
「ほら、あの娘五歳になって食堂を手伝うって言い出したじゃない? あなたの料理を手伝いたいって。それで私たちも嬉しくなって作らせてあげて……」
「あっ!」
「ん? どういう事だ?」
俺だけ分からなかったのでピエットに聞いてみた。
なんでも、ピーゾンの初めて作った料理を嬉しそうに食べたソルダードは、その最初の一口を食べた途端に倒れたらしい。
生死の境を彷徨ったが、ピエットが適当に飲ませた薬でなんとか持ち直したとか……。適当に飲ませるなよ。
ピーゾンにはたまたま体調が悪かったと言い訳したそうで、その後もなんだかんだ料理の手伝いはさせなかったというのだ。
料理は【料理人】であるソルダードの本分という事でピーゾンも納得したらしい。
そうか、五年前の大病ってのはそれが原因だったのか……。
「……ん? じゃあ当時からピーゾンは毒――」
「違う違う違う! ピーゾンが初めて作った料理だぞ!? 毒なわけないだろ! ありゃ俺がたまたま体調崩しただけだ! タイミングの問題だ!」
「そ、そうか……」
ソルダードは愛娘が料理下手だとは思いたくないらしい。
しかしピエットの話を聞く限り、それが原因と考えればしっくりくる。
あいつ、王都で暮らすんだよなぁ……。
願わくば自分で料理なんてする環境じゃない事を祈るぜ……。
7
あなたにおすすめの小説
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
寿明結未
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる