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第一章 毒娘、冒険者になる
24:新人らしく戦闘講習を受けます
しおりを挟む「よっ! ほっ!」
「うんうん、やっぱトンファーは回転力からの打撃が正義だね」
「はっ! ていっ!」
「そうそう、捻って打ち付け。連続で出来るように打ち付けから身体を流して繋げられるようにね。もっと速く、もっとスムーズに」
基本的な動き自体はスキルで補填されてるから、あとは慣れだ。
というわけで経験がてら魔物を相手にする事にした。
「なんて言うか、その、罪悪感が……」
「魔物相手にそんな事言っちゃダメだよ。駆逐せよ」
ただいま無抵抗の麻痺ったゴブリンを撲殺中です。
可哀想? いえ、討伐がお仕事ですから。
グロい? 廃人『クリーチャーハンター』なめんなよ。
あれに出て来る敵なんてマジクリーチャーだから。ゴブリンなんてかわいいもんだ。
とは言えやってる事は『戦い』ではなく『殺し慣れ』なので私的にはポロリンに慣れる切っ掛けになってもらえばそれでいいんだよね。
かと言ってこれをやらずに「ふぇ~ボク殺せないよぉ」とか「怖いよぉ」とか言われると、これはもうパーティー解散不可避なのでね。そんなヤツいたら全滅必至です。
ただの道具屋の息子だった十歳の少年には無茶な仕打ちだと思うけど、必要な事だと理解して欲しい。
まぁ慣れるまでは食事が辛かったり眠れなかったりするかもしれない。
が、大丈夫。この世界にはポーションあるから。薬に頼れ。
そんなことをしつつ、防御の練習も行います。
どちらかと言えば攻撃よりも防御を上手くなってもらいたいです。私としては。
「例えばゴブリンがこう振り下ろして来る。よくあるパターンだよね」
「うん」
「この時ポロリンが防御しようとすれば、避ける・受ける・逸らす・弾くと大きく四つに分かれるんだよ。イメージできる?」
「うんうん」
「で、その動作をした後に攻撃に繋げるか、また防御するかで二択になる」
「……八パターンを考えて防御しろ、ってことですか?」
「いや『どう攻撃するか』『どう防御するか』でも分かれるから三〇~四〇パターンになるね」
「む、無理ですよぉ」
だろうね。まあ相手がどんな攻撃してくるか、どんな攻撃が効くかにもよるから、その場その時で違うんだけど。
まぁこれは身体で覚えてもらうしかない。
つーことで今は振り下ろしに対する避け・受け・逸らし・弾きだけを練習しましょ。
私は木剣でポロリンに向かって振り下ろす。
速度はゴブリンの1.5倍くらいで様子見。
「痛っ!」
「衝撃はあってもダメージないでしょ? これ木剣だし。もう一度ねー」
「よっ!」
「最初から振り下ろし想定してちゃダメだよ。私が振り下ろすって分かってから動いて」
攻撃と防御の訓練をそれぞれ行う。
蹴りを組み込んで体術の動きを意識した訓練を行う。
その上で私と実戦的な模擬戦を行う。
そんな訓練を一日の大半使ってやって、合間を見てギルドのFランク依頼を行う。
もはや依頼が息抜きのようなものだ。ゴブリンと角ウサギが不憫です。
ポロリンに戦い方を教えていると、何となく『クリハン』時代を思い出してしまう。
私は女ばかりのギルド【輝く礁域】でサブマスだったんだけど、そもそも女の子で『クリハン』にハマる子が少ない上に前衛やりたがる子なんて本当に少なかったんだよね。
で、私が新人教育係みたいになって色々と教えてたんだけど。
「ソラさん、なんか思うようにダメージ出ないんですけど」
「それが『クリハン』の嫌らしい所なんだよ。他のゲームよりダメージ計算が超複雑になってるからね。リアルを追求しすぎって言うか」
「普通に振って当てるだけじゃダメって事ですか?」
「身体の動かし方、力の入れ方、攻撃を入れる場所と角度、速度によっても変わってくる。『クリハン』でクリティカル入れるのってかなーりむずいんだよ。まぁ慣れだけどね」
「うわぁ、聞いてた以上に変態ゲームですね……」
私はそう言われて何も言えなかったよ。
私もそう思ってたし、そんな変態ゲームにハマってるって認めたくないし。
ともかくリアルを追求しすぎた『クリハン』の戦闘は今となっては財産という他ない。
思っていた以上に、この世界で戦う上で役に立っている。
そしてそれをポロリンに教える事が出来るのも、サブマスだった経験があるからだと思いたい。
そんな感慨を覚えつつ、戦闘初心者ポロリンに教えているわけだが、少しやってすぐ分かった。
それはポロリンが非常にタフだと言う事。精神的にね。
めげないし、食らいついてくる。真剣に強くなろうとしている。
「これ続けたら絶対に筋肉ムキムキになりますよね!」
動機はアレだけど前向きでありがたい。
ちなみに今現在、華奢で可憐な美少女のままです。
でも「ちょっと筋肉ついてきたんじゃない?」とか言うと非常に喜びます。
多分だけどポロリンはムキムキにならないんじゃないかなぁ、体質的に。言えないけど。
♦
ポロリンとパーティーを組んでから三日後、私たちは冒険者ギルドへとやってきた。
戦闘講習を受けるためだ。
朝から始めるという事で来てみれば、そこには私たちと同じく今年の『職決め』で戦闘職になったであろうガk……子供ばかりが溢れている。
小学校に来たような気分だ。
多分、全員が全員、新人冒険者ってことはないだろう。それにしちゃあ数が多すぎる。
冒険者以外の戦闘職……例えば衛兵や騎士を目指す子供だったり、オーフェン以外の近隣の村とかに住んでいる子供とかも来ていそうだ。
もしくは全員冒険者で街中のお手伝い系依頼に普段出ているから、私がこれだけ居るって知らなかっただけかもしれないが。
ともかく五〇人は居る。ギルドのホールで子供同士ワイワイやってる。
ポロリンは混ざらないのかなーと思ったけど、一歩引いてる風だ。
この子、やっぱ他の子に比べて大人びているね。
顔立ちからして整った美少女だし。
あー、だから同じように大人びたシェラちゃんと仲良かったのか?
子供っぽくない同士だからこそ友達だったのかもしれない。
そんな事を思いつつ隅の方で時間を潰しているとギルドの職員が誘導し始めた。裏庭へと向かう。
職員さんは何人か居て、それぞれ剣や魔法なんかを教えるらしい。
私たちは共に前衛だから剣の方に行く。むさいおっさんの職員だね。
「よーし、みんなそこの木剣を持ってくれ!」
「あの、僕【拳士】なんですけど」
「職によって武器は違うだろうが、剣はあらゆる攻撃の基本でもある! ここでは木剣で教えるぞ!」
さすがに職に沿った武器を教える事はしないのか。
そうなると職員さんの数も膨大になりそうだしね。
しかし私はともかく……。
「ピ、ピーゾンさん、ボク、トンファー以外持った事ないんだけど……」
「だろうね。まぁ一応講習だし、受けるだけ受けてみようよ」
木剣を両手で持ってオドオドした美少女が隣にいる。
なんかもうすでに注目の的だ。
裏庭だってのにホールからわざわざ覗きに来る先輩冒険者もいる。
見世物じゃねーぞ、うちの美少女は。
「君たちはこれから魔物と相対する事になる! その時にどう動くべきか、ここではそれを教えていくぞ!」
講習が始まったみたいだ。
「第一に考えなきゃいけないのは自分と仲間の安全だ! 武器は攻めるよりも守る為に使うべき! これを念頭に置いてくれ! 君たちは戦闘職になって魔物と戦う力を授かった! それは倒す為の力じゃない、守る為の力だ!」
ほう、それっぽい事言うじゃない。
理解してないガキもいるみたいだけどね。アルスみたいな。
「必ずやって欲しいのは魔物の事を事前に調べる事! どこにどんな魔物が居るか、その魔物はどんな攻撃をしてくるか、何が弱点か……知らない魔物と戦ってはいけない! ギルドの二階にある資料室を使ってもいいし、先輩冒険者に聞いたっていいだろう! もし出会ったらすぐに逃げ出すくらいでなければいけない! でないとすぐに死ぬぞ!」
「……ピーゾンさん、資料室で調べた事は?」
「……ないね」
「……ワイバーンに詳しいとか?」
「……ないね」
耳が痛いよ。安全第一を謳ってたはずなんだけど……どうしてこうなった。
資料室ね、すぐに行きましょう。
「知っている魔物、例えばゴブリンだって危険だ! ゴブリンは有名だからどんな魔物なのか君たちもよく知っていると思う! しかしいざ戦うとなれば君たちにとっては強敵に違いない! くれぐれも一対一で戦うような真似はするな! 二人で一体と戦うくらいでちょうどいい! 角ウサギだって同じだぞ! 世間的に弱いと言われていても決して油断するな!」
「……ピーゾンさん、昨日五対一で勝ってましたよね?」
「……ま、まあ、それくらいは」
「……ボクにゴブリン二体同時にけしかけてましたよね?」
「……ポ、ポロリンの強さを測った上でだから」
あかん。職員さんの教えと私の教えが違いすぎる。
確かに普通の十歳児に対して戦闘講習となればあれくらい慎重になるべきなんだろうなー。
ただそれだとポロリンの成長が遅々となって、私が困るんだけど。
「よく調べ、勝てる見込みが出来た所で、初めて魔物と戦うわけだ! では実際に戦う時の動きを説明するぞ! ここに魔物を呼ぶわけにもいかないから、私が魔物役だ! デカいゴブリンだとでも思ってくれ! 順番に模擬戦をやっていくぞ!」
ようやく戦闘講習っぽくなって騒ぎ出すガキどもが多い。
我先にと職員さんに向かって行って、すぐに倒される。
その都度、職員さんが「突っ込むな」とか「慎重に」とか言うが、ちゃんと聞く子は半分くらいだね。
最後の方でポロリンにも行かせた。
持った事のない木剣を両手で握りしめ、へっぴり腰でオドオドした表情……。
なんか送り出す私に罪悪感があるんだが?
「お、お願いしますっ」
「お、おう……じゃ、じゃあ行くぞ? 構えとけよ? 悪く思うなよ? 怪我するなよ?」
職員さんがすごい躊躇ってる。
明らかに戦闘職向きじゃない美少女(男)に対して手加減する気満タンだ。
ポロリンはトンファーじゃないのが不安らしく、普段とは全然違うね。
これじゃ戦闘職どうこうじゃなくても戦えないと思われるだろう。
しかし……
――カン! カン! カン!
「ん……?」
「ほっ! はっ!」
職員さんがゴブリンっぽく振り下ろす木剣は、ことごとくポロリンに防がれた。
剣の使い方は分からなくても、防御で受ける事くらいは出来る。
たった三日間で私がどれだけポロリンを痛めつけたと思ってるんだ。
泣きそうになってたぞ、そこの美少女(男)。
職員さんの攻撃もゴブリンを真似たものから、徐々に速度を上げ、本来の剣筋になっていく。焦って来たか?
しかしそれもポロリンに防がれる。
慣れてきたのか『受け』だけじゃなく『逸らし』も入れてる。
当然だね。いつも模擬戦してる私の動きに慣れてるんだから。
職員さんの本当の実力は分からないけど、剣の扱いと速さなら私の方が上だ。
それに慣れたポロリンなら防御は容易い。
……でも攻撃出来ないんだけどね。剣使えないし。
……へっぴり腰の美少女(男)に延々と攻撃し続ける職員さん。うーん事案ですな。
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