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第一章 毒娘、冒険者になる
閑話6:とあるモブAの目撃
しおりを挟む■モブエイ 【スカウト】 26歳
俺はオーフェンの冒険者ギルドに所属しているCランク【スカウト】のモブエイだ。
最近のギルドは例の毒草鉈娘……ピーゾンだったか、あいつのせいでなにかと騒がしい。
ワイバーンを倒したことでオーフェンの冒険者の中では一躍有名人になった。
期待の新人現るってな。
同時に固有職じゃないかって話になって、だからこそうかつに近づけねえ、聞きたいけど聞けねえって微妙な立ち位置になっちまった。
俺としてもそれは賛成だ。
固有職が国に保護される存在ってのはよく聞く話だ。
下手に近づいてこっちが目ぇ付けられたら堪らねえからな。
だから遠目で見守るだけにしとこうって暗黙の了解がギルド内にある。
ところが、だ。
ワイバーンだけで大騒ぎだったんだが、その二日後にはさらに驚かされる事態になった。
道具屋の看板娘、ポロリンを連れてギルドに来やがった。
いやもちろんポロリンが男だってのは誰もが知ってる。
なぜってポロリンはオーフェンの冒険者に知らない者は居ない有名人だからだ。
あの道具屋はオーフェンの冒険者ならよく使うし、そこで手伝いする子供も話題に上がってた。
とにかく可愛すぎる、と。
王国全土……世間的には国の第何王女様だとかが絶世の美少女と騒がれているらしいが、オーフェンのやつらはそんな事は言わない。
みんな本当の美少女を知っているからだ。
「王女様? ポロリンより可愛いわけないだろ」そう口々にする。
そう皆が認めるほどに可愛い。
……だが男だ。知っている。
しかしそんな事は関係ないとばかりに皆口を揃える。可愛すぎる、と。
ここ数日は店に行っても手伝いに出てこないようで、心配する声もあった。
時期的には『職決め』のすぐ後で、ポロリンも十歳のはずだから、何か変な職にあたったのでは、と冒険者内では囁かれたものだ。
そんなポロリンが毒草鉈娘……ピーゾンと一緒に入って来ただけでも驚きだが、なんと冒険者になると言う。
あのピーゾンとパーティーを組むと言う。
「ポ、ポロリンちゃんが冒険者!?」
「戦闘職だったのか!」
「なぜあの鉈娘と!?」
そんな声が上がる。
俺も同意見だが、ピーゾンとパーティー組むってことはポロリンも固有職なのかもしれねぇ。
固有職は固有職同士で組むのが多いって聞いたことあるしな。
王都には固有職で集まったクランもあると聞く。
だからこそよく知らない職に就いちまったポロリンが店の手伝いにも出られなかったのかもしれない。
しかし、固有職ってなると王都に行かなきゃいけないはずだ。義務的なやつで。
オーフェンを出て行っちまうのか……少し悲しくもある。
が、そんなセンチな気分をぶち壊すかのように、ピーゾンとポロリンのコンビは新人ばなれした活躍をみせた。
ピーゾンと共にいきなり討伐依頼を受け始めたと思えば、新人らしからぬ成果を上げて来る。
いやまぁワイバーン殺しのピーゾンが居るだけですでに新人ばなれの状態ではあるんだが。
あのポロリンがそれに付いていってると思うと気が気ではない。
さらにギルドで行われた戦闘講習。
今さら感が強いが、ヤツらもそこは新人らしく参加していた。
講習の担当官は引退してギルド職員になったばかりの元Bランク、モーブビィさんだ。
モーブビィさんと言えばオーフェンでもトップクラスの冒険者。
【上級騎士】としても有名だった。
オーフェンのギルドを引っ張っていたベテランが担当するとあって、それも注目された。
新人の戦闘講習に注目が集まるなんて普通じゃねえが、俺らを含め、ホールからも観戦するやつらが多かった。
始まった講習は例年通りといった感じだったが、最初に驚かされたのはポロリンだ。
登録してからわずか三日。
木剣を持つ構えもビクついててとても戦える風には見えねえ。
周りからは「かわいすぎる」だの「ポロリンをいじめるな」だの「モーブビィさんとて許せねえ」だの声が聞こえる。
しかしそんな心配をよそに、ポロリンはモーブビィさんの剣をことごとく捌いた。
見るからに素人のくせして、よく見てるし、的確に防いでる。ものすげえ技術だ。
もしかすると防御系のスキルを持ってる固有職なのかもしれねえ。
結局ボーブビィさんの攻撃を凌ぎきったポロリンに称賛の拍手が送られる。
そして問題はその後、毒草鉈娘――ピーゾンだ。
ヤツは鉈を使っているだけあって木剣を持つのも様になっている……いや、どう見ても様になりすぎている。
俺にだって構えを見ただけで分かる。
ありゃ熟練の冒険者……それ以上の雰囲気だ。
モーブビィさんも当然それを感じたらしく、明らかに今までとは違う動きをしていた。
【上級剣士】としての動きそのものと言っていいだろう。
――しかし、それも全て躱される。
傍目で見ているとほとんど当たっているくらいの回避。
ギリギリ避けるとかそういう次元じゃねえ。
いくら木剣だからってモーブビィさんの連撃を指一本分くらいの間隔で避けるとか……俺らは開いた口が塞がらなかった。
結果はカウンターを綺麗に決めたピーゾンの勝利。信じられねえ。
講習が終わってピーゾンとポロリンのコンビに群がるやつらも居る。
当然だよ。あんな有望な新人いるわけねえ。
固有職は王都に行くって知ってるヤツがほとんどだろうに、そんなの関係ねえとばかりに声を掛けていた。
まぁ玉砕したらしいが。そりゃそうだよ。
それからも毎日毎日、達成される討伐依頼。
採取はいつもの毒草の他に普通の薬草も持ち込まれるようになった。
道具屋のポロリンのおかげだろう。
南門のゴブリンに飽きたのか北門の牙ネズミやワイルドコッコも倒して来る。それも結構な数だ。
結果、登録から七日目にしてポロリンはEランクに昇格。
ピーゾンが五日だったからインパクトは薄いんだが、普通、十歳で『職決め』を受けて戦闘職に就いたやつだって、頑張っても一月はかかる。
街の手伝い系の依頼や、ギルドの戦闘講習を受けて、学んで訓練して、それから初めて街外の依頼を受けるもんだ。
そうでなきゃ死ぬし、ギルド側や俺らみたいな冒険者の先達が止める役割がある。
しかしあの戦闘講習を見ちまうとな……少なくともあの二人は止められねえ。
ポロリンはともかく、ピーゾンは俺より強いんじゃねーかな。多分。
職やスキルは分からないが、あの回避だけでも相当なもんだ。
とにかくまあ、戦闘初心者だったはずのポロリンが強くなったことを嬉しく思おう。
防御特化の職なのかもしれねえが、その分死ぬ確率は減るってもんだ。
冒険者って仕事は危険だからな。これで死なれたら寝覚めが悪い。
少しでも強くなってくれたらその分危険は減るんだ。頑張って欲しいと先達っぽく思う。
……そんな事を思ってたんだけどな。
いやさ、たまたま見かけたんだけど北門から少し離れたところで、二人して模擬戦してたんだよ。
ピーゾンがポロリンに稽古をつけてるっつーか、鍛えてるっつーか。
ポロリンが何か鉄の棒と、ピーゾンが木剣。
その動きが尋常じゃねぇ。
モーブビィさんとの戦闘講習は二人とも全然本気じゃなかったらしい。
<体術>か<武術>でもとったのか、ポロリンは戦闘初心者とは思えない動きで、流れるような継ぎ目のない攻撃を仕掛ける。
防御特化の職じゃなかったのか!?
あんなのスキルを得たばかりの十歳には無理だ。
というかうちのパーティーの【拳士】や【剣士】と比べても遜色ない。普通に戦えそうな気がする。
そのポロリンの連続攻撃をピーゾンはことごとく回避し、カウンター気味に木剣を打ちつけている。
これはもう異常。回避系のスキルだけじゃ無理。
敏捷値をアップさせるスキルも併用した上で、尚且つそれに慣れる為の経験が必要なはずだ。
なにが恐ろしいって、それを簡単そうに行いながら普通にポロリンにアドバイスしている事だ。
余裕ってのか? 俺同じように至近距離で戦ったら目で追える自信ないんだが。
そのアドバイスっつーか、訓練指導っつーか……とても新人冒険者とは思えない。
常に戦いの場に身を置いたベテラン傭兵とか、老兵の騎士団長とか、そんな教え方なんだよ。
「そこは半歩さがって腰を少し落とす。そうそう、そうすれば左腕回しやすいでしょ。で、回したら右は出しにくいから一回下がったほうがいいね」
よく分かんねーよ! なんだその細かい指導!
もうお前ギルドの戦闘講習で教官でもやれよ!
偉大なる教官か、お前は!
……ともかく俺が心配するまでもなかった。
あいつら勝手に強くなるわ。いや、もう俺たちより強いのかもしれんが。
王都に行っても活躍するんだろうな。
俺は流れて来るだろうこぼれ話を楽しみにしてるよ。
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