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第三章 毒娘、色々と出会う
75:新人らしからぬパーティーホームが決まりました
しおりを挟む中央区の大通り沿いにある不動産ギルドに到着。冒険者ギルドからすぐだ。
着いてからの展開はトントン拍子に進んだ。
まずギルドに入れば注目を浴び、こちらから話す前に職員にリーナの存在がバレる。
ギルド長がダッシュで出て来る。案内されるまま個室へ。
サフィーの存在にも気付き「ス、ストライド公爵家の!?」とテンパる。
パーティーホームを探している旨を伝え、しかし新人冒険者なのでそれ相応のものが良いと相談。
サフィーが「スタイリッシュな物件がよろしいですわね! オーーッホッホッホ!」とよく分からない事を言い出し、無視する事を決める。
どう見ても「殿下の手前、下手な物件など紹介できん!」と言わんばかりの物件を超格安で提示され、ギルド長の付き添いのもと、物件の下見に行く。←今ここ
リーナとサフィーの紹介とは何だったのか。
「宰相か内務卿の名前を出すつもりでしたが、その暇もなかったですね」
「ワタクシもお爺様の名前を使うつもりでしたが。たしかギルドとも懇意にしていたはずですし」
そんな話を先頭で歩きながら背中に聞くギルド長は、何やら汗が止まらないご様子。
それもう紹介じゃなくて恐喝の類だからね?
二人には″使っているつもりのない権力″というものを理解して欲しい。
そんなわけで王都中央の大十字路、その少し北側、大通りから二本ばかし脇道に入った所にやってきた。
つまりは中央区のほぼ中央で、北寄りの高級住宅街だ。
えっ、まずいですよこれ。
「こちらの物件でございます」
汗を拭きながら紹介してくれたのは、庭付き一戸建て。
馬車が乗り入れできる大きな門と、そこから家までは石畳が敷かれ、両サイドの庭園は芝生と庭木、小さいながらも池すらある。
白い外観の家は二階建て。庇付きの玄関もこれまた大きい。
これ完全に貴族邸宅でしょう?
私、新人冒険者パーティー用って言ったよね?
ポロリンを見てみなさい、ビクついてるじゃない。可愛らしく。
ネルトは「おお」と感動してるっぽい。無表情ながら。
リーナとサフィーは超普通。「これくらいか」ってなもんで。庶民感覚を養え。
「こちらは以前、他国のとある貴族様の別邸だった物件です。他国の方でしたので貴族区に邸宅を持つ事が出来ず、しかし王国に長い事暮らしていらっしゃったので、その時に住まわれていたものです。管理はギルドで定期的に行っておりますので、庭園は整っておりますし、屋内の掃除も行っております」
と、汗が止まらない様子のギルド長。
なるほど他国の貴族か。随分と一等地に暮らすもんだね。
貴族的にはもっと北の方がいいのかもしれないけど。
ギルド長に続いて門から石畳の道を歩き、玄関から屋内に入る。
エントランスは広いものの、建物自体は思っていたほど大きくないようだ。
貴族邸宅って言ったらもっとドデカいイメージだったけど、そうでもない。
その貴族ってのは小じんまり住んでたっぽいね。
とは言え、庶民感覚で考えれば「宿屋かな?」となるんだけど。
少なくとも私の実家の数倍は大きい。
一階はエントランスの他、食堂と調理場(地下倉庫付き)、浴場、談話室、応接室、客室。
二階に主寝室、執務室、書斎、私室が五つ。一階二階ともにトイレ・倉庫あり。庭に納屋あり。
「お値段は月に金貨二枚でいかがでしょうか」
「「安っ!」」
「このくらいの屋敷ですと月に金貨十枚は最低でもかかると思いましたが」
「リーナさん、立地を考えますと十二枚でも安いですわ」
「こちらとしては誰も利用しないまま維持費ばかりかかるので、住んで頂けるならばお安くと思った次第です。それにダンデリーナ殿下やサフィー様、そして今話題の新星冒険者の方々に住んで頂けるならばお安くする価値があります」
話題の新星はさておき、絶対前者が理由でしょう。
そりゃリーナが住むってなれば箔が付くよね。
南西区・南東区のアパート形式で金貨一枚くらいだからね。
中央区ど真ん中の庭付き一戸建てで二枚はおかしい。
今までの維持費・管理費・税金の元とれないでしょう。税金あるのか知らないけど。
とは言え、貰えるもんは貰う性格ですから。
「借ります」
「ありがとうございます。ではあちらの部屋で契約書類を」
「いつから入れます?」
「本日から大丈夫です」
この世界に敷金・礼金というのは存在しないらしい。ただ契約手数料に銀貨三十枚かかる。
という事で金貨二枚、銀貨三十枚(約二三万円)をこの場でお支払い。
ギルド長さんはホッとした表情でさっさと帰って行った。
「勝手に即決しちゃったけど大丈夫だった?」
「大丈夫ですけどいいんですかね、こんな大きなホーム……」
「ん。大きい」
という庶民派意見。
「そうでしょうか。小じんまりとして新人冒険者に相応しいかと思ったのですが……」
「新人らしくこの辺りが妥当でしょうとも! ワタクシに否はありませんわ!」
という王侯貴族意見。
感覚の違いはアジャストさせていかないとなぁ。主に後者二人に分からせる感じで。
「でも管理は大丈夫ですかね。ボクこれだけの家、掃除するだけでも大変だと思うんですけど」
「わたくしの侍女を遣わせましょうか」
「悩ましいね。そりゃリーナに頼れば管理は楽なんだろうけどさ、私たちのホームだから私たちでって気持ちもある」
「そうですわ! せっかくのパーティーホームですしワタクシたちで管理しますわよ!」
「ん。<洗浄>する」
リーナとかサフィーは自分の側付きメイドがいるはずだからね。
管理を手伝ってもらうってのも手だ。
正直、これだけの屋敷を私たちだけで管理出来るのか不安がある。
とは言え、サフィーとネルトが意気込んでるように、せっかく私たちパーティーの拠点が出来たのだから極力自分たちでやりたいって気持ちもある。
だからとりあえずは掃除日とか分担とか決めてやってみて、それから考えるかな。
まぁネルトの<生活魔法>が大活躍なのは間違いない。
リーナとサフィーは実家から離れて暮らすのが初めてだから楽しそう。
全部を自分たちでやるとか、苦労が分からないだろうし楽しみなんだろうね。
小学校の時の林間学校を思い出すね。子供同士でワイワイお泊りする感じ。
「部屋割りはどうする? 全員二階?」
「ん? 一人一部屋?」
「そうだよ。主寝室が一つと私室が五つもあるからね。個室でいいでしょ」
「んー、一人でなんて使ったことない」
おう、そうか。ネルトは孤児院だもんね。
王都に来て冒険者になっても私たちは三人部屋だったし。
でもそこは慣れたほうがいいんじゃないかな。成長って意味で。
一人で寝るのが寂しかったらモフモフのぬいぐるみでも抱いて寝るといいよ、とアドバイスすると「おお」と乗り気になった。
あとは誰かの部屋にお邪魔するとかね。
ポロリン以外ならオーケーでしょう。
「リーナかサフィー、主寝室使っていいよ」
「いえ、そこはリーダーのピーゾン様が使うべきです」
「そうですわ! ワタクシは逆に狭い部屋が良いですわ! 家と違う環境のほうがワクワクしますでしょう!」
「いや、私は私室で十分だなぁ。ポロリンは? 主寝室は私室と離れてるし、男一人で離れた部屋のほうがいいんじゃない?」
「あっ、そう言えばポロリンさんは男子でしたわね……」
「ええ、つい忘れがちになってしまいます……」
「忘れないで下さいっ! えっと、ボクは普通の部屋でいいです。主寝室とか大きすぎますよ」
という事で主寝室は空き部屋と化した。
五人でそれぞれ私室を決めて部屋割りは終了。
ベッドやタンスなどの家具はある。
ただシーツや毛布、その他もろもろ足りないのがあるね。
食事は出来合いとか外食でいいけど、寝るのに必要なものは最低限揃えたい。
まぁ最悪、野営用の毛布とかあるし、今夜くらいホームじゃなくて普通に宿屋に泊まってもいいんだけどさ。
あとお風呂グッズとかタオルとかは欲しいなぁ。
出来れば今日からお風呂ありきの生活がしたい。
ちなみにお風呂やキッチン、トイレの水道や照明なんかも魔道具仕様になっている。
井戸で汲んだり、ランタンを灯したりなんかしないらしい。さすが元貴族別邸。
その動力に当たる魔石はすでに付いていて、毎日魔力を籠める必要があるとの事だ。
ただ魔石は消耗品でもあるので、買っておいた方が良いかもしれないね。
「じゃあ今日のところは色々と買い出しして、住めるように整えようか」
『おー』
とは言うものの、別行動かな。
リーナとサフィーは実家から色々と運び込みたいだろうし。
とりあえず私たち三人で必要そうなものを買いそろえ、夕方にホームで合流って感じだろうか。
「わたくしも皆様とお買い物したかったのですが……」
なるほど。そうか、今まで気軽に出歩いてショッピングは出来なかったか。
新生活、冒険者デビュー、親元を離れる暮らし。
今まで出来なかった事がたくさん出来るからね。出来るだけ酌んでやるべきだろう。
「そうしたら、五人で買い出しして、二人はこっちに泊まらず実家に帰宅。明日、荷物と一緒に合流ってのは?」
「ありがとうございます、ピーゾン様」
「ワタクシもそれでいいですわ! ……でも装備を整えて来る必要ございませんでしたわね」
冒険者は装備が普段着みたいなもんだからね。そこは慣れて下さいな。
これからも装備着てるのが基本になりますし。
んじゃ五人で買い出し行きますか。
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