ぽぽぽぽいぞなぁ!~物騒すぎるジョブになっちゃったので、私、スローライフは諦めます~

藤原キリオ

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第四章 毒娘、潜り始める

88:どうやら調子が良いのは私たちだけのようです

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 地下二階・三階と下りるとさすがに人混みはなくなった。
 もちろん目に入る範囲で冒険者が居るのは同じだが、混雑で思うように進めないという事はない。

 そして冒険者が多い利点の一つとして、罠の発見や魔物の対処を、前を進むパーティーが済ましてくれるという事が挙げられる。

 魔石狙いなんだから、当然魔物が居たら倒そうとするだろう。
 しかし、私たちは別に戦う必要もない。
 対処を他のパーティーに任せ、悠々と通り過ぎる。

「その魔物はあげるよ!」ってな事を言えば「サンキュー!」と返ってくる。いやいやサンキューはこっちのセリフです。


 私たちが初めて魔物と戦ったのが地下三階。

 つまりはここまで全て素通り。こんなの普通のダンジョン探索じゃ考えられないね。
 考えようによっちゃ、むしろ早く進められているかもしれない。
 まぁここからの巻き返し次第だけど。

『はじまりの試練』と銘打っているだけあって、出て来る魔物は弱い。
 Fランクでも倒せそうな魔物ばかりだ。
 ゴブリンやスライムや牙ネズミなど。
 先頭を行くネルトとサフィーの一撃で仕留めていく。


 ちなみに隊列は、前列にネルトとサフィーの斥候コンビ。
 二列目に地図とメモを持って案内するリーナと、盾役タンクのポロリン。
 最後尾に<気配察知>担当でウサミミをピコらせる私だ。

 魔物が出て来た場合、本来ならリーナとポロリンが前に出てネルトとサフィーが下がるのだが、さすがに魔物が弱すぎるので、隊列を維持したまま対処している。


 ネルトの<グリッド>は、ダンジョンの壁を透過して見る事はできないらしい。
 ただし、モンスターハウスのような扉付きの部屋の場合、扉を透過して室内を見ることが出来る。

 なぜかと考えれば、おそらくダンジョンの壁は『空間を断絶する仕切り』のようなものではないかと思うのだ。
 ダンジョンという構造自体が、地表の空間とは異質だから、あくまで想像なのだけれど。


 ついでに言えば、罠も分からないらしい。
 どこかのスイッチを踏んで落とし穴が出来るようなトラップがあっても、そのスイッチも穴も『床の内部構造』という感じなので、壁と同様に床も<グリッド>では覗けないということだ。

 それでも『曲がり角の先』などは<グリッド>で見られる為、ネルトは最前列で斥候役をしている。
 もちろんMPの関係上、常時使えるわけではないので、そこはサフィーの<忍びの直感>と併用だ。

 サフィーの場合、範囲は比較的狭いながらも罠も分かるし、魔物も分かる。
 私たちが持っていない属性攻撃もあるので、私の天敵であるスライムやゴーストなどが出てきても安心だ。

 非常に有能。これでスタイリッシュでなければ言う事はない。


 そうして私たちはどんどんと進む。
 ダンジョン探索に似つかわしくない速度で深部へと。



■■■


「『はじまりの試練』はどうなっている?」

「予定通り、大混雑です。クズォーリオ様の策が見事にはまっております」


 王都にある屋敷の一室で、クズォーリオ伯爵は家令からの報告を聞いていた。
 勝負の当日である。この数日間で手を回したその決算が今日出るのだ。
 まだ後日の二戦目があるとは言え、この初日に賭ける思いは息子のゴミスよりも強い。

 なにせ勝負以前の段階で痛手を負っているようなものなのだ。
 その上で負ければさらに深い傷を負うことになるだろう。
 万全を期して策謀を練る。神経質にもなろうというものだ。


「【輝く礁域グロウラグーン】の連中はどうした。入るのは確認できたのだろうな」

「いかに混雑していてもあの風貌ですからね、見つけるのは容易いでしょう。見張りの話では朝一の時点で混雑に埋もれるようにダンジョンへと入ったようです。しかし進みたくとも進めない状況でしょう」

「ふむ……新人ばかりのDランクパーティー。しかし集まる噂は不気味なほどに新人ばなれしている……」

「はい。いかに固有職ユニークジョブのパーティーと言えども異常です。美少女ばかりで装備も目立つという事もあり過剰な噂が独り歩きしている印象はありますが」


「確かにな」とクズォーリオは肯定するが、その顔は晴れない。
 周りが噂し囃し立てる、それは確かに五人の見た目もあっての事だろう。

 ただでさえ三人の時点で話題には上っていたのに、ダンデリーナとサフィーが加わったのだ。
 よりアイドル的存在となり噂に尾ひれがつくのは当然と言える。


 だがしかし、とクズォーリオは懸念を抱く。
 何もない所に噂が立つ訳がない。
 少なくとも新人ばなれした何かがあり、相応の実績があり、だからこそ盛り立てられているのだろう。

 だとすればその何か・・は今回の勝負で何をもたらすのか。
 ロートレク卿の思惑もそれに絡んだ事ではないのか、そう思うのだ。


「探索者の溢れるダンジョンで追跡するわけにもいくまい。見張りはダンジョンの外で待機させておけ」

「はい」

「ゴミスの方は?」

「カスーニ団長以下、衛兵団でも指折りが固めております。中級ダンジョン『亜人の根城』であっても探索に問題はないかと」

「ゴミスが足を引っ張らなければ、な」


 そう呟くと窓の外を見た。
 空は青天だというのに、何故か胸中は曇っているように感じた。



■■■


「で、出て来たぞ! 私を守れっ! 早く殲滅しろっ!」


 衛兵団長カスーニと衛兵団の精鋭三名。その中心で、ゴミスは声を荒げていた。
 安全性を重視したプレートメイルを着込み、盾とショートソードを持ちながらも、全く着慣れない装備でガチャガチャとうるさい。

 歩くだけでもうるさいのに、魔物が出るたびに大声で指示を出す。
 学校でも演習で魔物と戦っているはずなのに、どうも恐怖が先行しているらしい。


「ゴミス様、魔物の対処はこちらで行いますので、ゴミス様は腰を据えて頂ければ問題ありません」

「わ、分かっている! 貴様らが早く倒さないのがいけないのだろう!」


 カスーニたちもプロである。
 悪態をつく貴族の下での衛兵という立場。ゴミスの対処にも慣れている。

 しかし顔を隠しながらも、どうしても溜息をついてしまう。
 ダンジョンに挑むというのに新品の鎧を着て、使い慣れない武器を持ち、怯えながら進む様はまさに牛歩のごとく。

 これでダンジョン勝負に負けようものならば、敗責はカスーニたち衛兵団が負うのであろう。
 そんなことはこれまでの経験上、容易に想像つく。


 だと言うのに、置いておくわけにもいかず、さっさと進もうとすれば「そんなに早く歩くな!」と叱咤される。

 どうすればいいと言うのか。
 衛兵たちは何度目か分からない溜息をまたついた。



■サッチモ 【隠密剣士】 34歳


 私の名前はサッチモ。【幻影の闇に潜む者ファントムシャドウ】に所属している。
 主に諜報や密偵をする事が多く、そこそこのベテランだと自負している。

 この度は頭領から直々の命で、ダンジョン勝負とやらの立会人となった。
 話を聞けば、サフィーお嬢の所属する冒険者パーティーとザザルディ家の勝負らしい。
 そして私はサフィーお嬢のパーティーの立会人を命じられたのだ。

 もちろん否はない。
 こうした仕事は新鮮だし、何よりお嬢やダンデリーナ殿下たちの力量を測るというのは、幼い頃からお嬢と接してきた私にとって、失礼ながらも娘の成長を見るような楽しみがある。

 さらにお嬢と共に幼い頃から交流があったダンデリーナ殿下もご一緒だ。
 この【輝く礁域グロウラグーン】というパーティー、お二人が所属しているというだけでその異常性が垣間見える。


 しかしどうやら調べてみるとそもそも他の三人も異常らしい。

 特にリーダーのピーゾンという少女が極めて優秀らしく、頭領が今回のダンジョン勝負を執り成したのも、原因はお嬢でもダンデリーナ殿下でもなく、そのピーゾンとやらの力量を探りたいという考えからだったようなのだ。


 サフィーお嬢も幼少の頃から才覚を現し、『職決めの儀』でも優秀な固有職ユニークジョブに就いた事から、将来的には【幻影の闇に潜む者ファントムシャドウ】のエース格になるのは間違いない。

 ダンデリーナ殿下に至ってはそのお嬢以上に稀有な才能をお持ちだ。
 だと言うのに、頭領はサフィーお嬢やダンデリーナ殿下以上にピーゾンとやらに熱心なのだ。


「ピーゾンという娘もそうだが、他の四人全てがピーゾンの弟子のようなものだ。十~十一歳の新人冒険者とは見るな。何を起こすか予測出来ん。サッチモ、お前はそれを決して見逃さず、全てを報告しろ」

「ハッ!」


 自らの孫娘を差し置いて、さらに年下の少女を評価している。これは異常だ。
 私はそれを確かめるべく、今回のダンジョン勝負の立会人を積極的に迎えた。


 勝負当日の朝、早速ザザルディの策略に嵌められる。
 個人的にはお嬢を応援したいので、ザザルディに文句の一つでも言いたいところだが、公平な立会人という立場上それはできない。
 私の後にやってきたお嬢たちも憤慨していたが、それも当然だろう。


「いや、行く他ないでしょ」


 憤り、悩むパーティーメンバーを諭すように促したのはウサミミの少女だった。
 この娘がパーティーリーダー、ピーゾンか。

 これから勝負だというのに、出会い頭で罠に嵌められた。
 それを冷静に受け止め、メンバーに指示を出している。

 情報の通り、見た目は幼く、ウサギ装備のせいもあって可愛らしくも思える。背中の得物は物騒だが。

 しかしその達観したような表情と醸し出す雰囲気は、ベテランのそれ。
 私にはすでにその異常性の片鱗が見えた気がした。


 本当に十歳の少女なのか?

 いくらパーティーリーダーとは言え、この状況でジョブに就いたばかりの平民の少女が、公爵令嬢であるサフィーお嬢と第七王女であるダンデリーナ殿下にこうも指示出し出来るものか?

 ダンデリーナ殿下がリーダーで冷静な指示出しをしていると言うのならば分かる。
 殿下は冷静沈着に思考を加速させ、状況を打破する事の出来る天才だ。

 しかしその殿下でさえも戸惑う場面で、ピーゾンという少女はパーティーを動かした。
 たったそれだけでも異彩を放っている。


(やはり頭領の仰るように、この娘は特別なのか……)


 私はお嬢の成長を詳しく見たい気持ちを半分ほど抑え、ピーゾンを注視しようと密かに心に決めた。

 ダンジョンに入り、お嬢たちの後方から付いていく。
 お嬢たちがどのくらいの時間を掛けて何階層まで辿り着けるかを確認しなければならない。
 それが立会人としての今回の仕事だ。

 予想通りと言うか、当然と言うか、ダンジョン内は探索者でごった返していた。
 それでもお嬢たちを見失う事はない。

 元々、対象の追跡を含む密偵が私の本業だし、何よりお嬢たちのファッションが奇抜すぎる。
 多少距離が離れようともウサミミやらキツネミミやらがピョコピョコと見える。全く問題ない。


 ……しかしお嬢や殿下までそんな奇天烈な……ピーゾンとやらに毒されたんですか?

 お父上のロンダート様が見たら頭を抱えるだろうな……いや案外受け入れるかもしれん。


 そんな益体もない事を考えながらダンジョンを走る。


 そう、走っているのだ。
 ダンジョンを探索しているはずなのに。

 他のパーティーに罠の発見や魔物の対処を任せている部分はある。
 地図でルートを把握しているというのもあるだろう。
 しかしいかにダンジョン勝負とは言え、まさか走って探索するとは思わなかった。


 一翼を担っているのは間違いなくサフィーお嬢。
 鋭い斥候能力、そして弱い魔物とは言え、速攻で危なげなく倒している。

 固有職ユニークジョブはまともに戦えるようになるまで一般職以上に時間がかかると言われている。
 それは未知のジョブで未知のスキルを覚えるのだから当然だ。

 だと言うのに、お嬢は自らのジョブ、【スタイリッシュ忍者】を使いこなしているように見える。
 さすがだと思う反面、その成長に誇らしくなる。


「(バババッ!)――<火遁>ッ!」

「オッケー、サフィー。そのまま左のヤツやっちゃって。ネルトは右ね」

「ん」

「行きますわっ! ワタクシの二刀流の練習台とおなりなさいっ! はあっ!」


 成長しすぎじゃないですか……?

 いや、私もお嬢の鍛錬に付き合った事など、それこそ幼い頃から何度もある。
 固有職ユニークジョブに就いてからは一層身が入り、最近でも学校から帰ってからの訓練に精を出していた。

 それがたった数日で何があったのか……。
 <忍術>の使い方も違うし、忍刀も二刀流になっているし、<短剣術>の体捌きも別人のように上達している。

 それに加えて組んで間もないパーティー、全員が固有職ユニークジョブという能力の尖った者ばかりのパーティーだというのにきちんと連携がとれている。


 実際に後方から指示を出しているのは、ここまで全く戦っていないリーダー……ピーゾンだ。

 そしてお嬢にジョブやスキルについてアドバイスしたのもピーゾンだと……。

 私はただ付いて見ているだけで戦慄を覚えた。


(これは……頭領への報告が多くなるな……)


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