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第四章 毒娘、潜り始める
91:毒殺屋ですがやっとダンジョン勝負を終えました
しおりを挟む■カスーニ 【盾騎士】 27歳
「へぇ、そんな話になってたのか。でもこれは降格なのか栄転なのか分からんな」
「俺にとっては栄転さ。間違いなくね」
そう新しい同僚に笑い返す俺はカスーニという。
元ザザルディ家の衛兵団長だった男だ。
あの日、【輝く礁域】という冒険者パーティーとゴミス様……いや、ゴミスとのダンジョン勝負から俺の人生は変わった。
それまで俺は伯爵家の衛兵という、一兵卒では最上とも言える舞台で働いてきた。
腕っぷしがあるだけでは衛兵になれても伯爵家で働く事なんて出来ない。
さらに衛兵団長なんて夢のまた夢だ。
当然、苦労はするがそれ以上に運がなければ辿り着けない位置。
それが伯爵家の衛兵団長というものだと思っている。
しかし問題はその苦労という部分だ。
毎日が心身ともに削られるような地獄の日々。
何人の衛兵仲間が辞めていったか分からない。
ある者は心を壊し、ある者は身体を壊す。
俺の前任の衛兵団長もその口だった。
その苦労は俺も団長となってから嫌と言う程味わったがな。
そんな中行われたダンジョン勝負。
俺たちは『亜人の根城』をゴミスを守りながら七階まで行くのが限界だった。
衛兵だけで行ければ倍は行けたと思う。しかしゴミスが足枷すぎた。
二戦目も大体同じだ。
今度は初級ダンジョン『はじまりの試練』だというのに、ゴミスは弱い魔物に対しても異常に臆病だった。
あそこの低層に出て来る魔物なんて、それこそ冒険者になったばかりの十歳でも狩れるような魔物だ。
だと言うのに何をそんなに恐れる事があるのか、まぁ戦う事が本分の俺たちとお貴族様とじゃ考えることが違うんだろう。
ともかく結果は九階。ボス部屋の手前で引き返した。
あそこのボスはウルフの群れだ。四人でゴミスを守り切るのはつらい。
本当はボスを倒して転移魔法陣で帰りたかったのだが、止むを得ないと思っている。
むしろ丸一日かけて九階まで来られた事を褒めて欲しいくらいだ。
そして結果はこちらの負け。
諦めていたところはある、おそらく負けるだろうなと。
しかし結果の詳細を聞けば想像以上の事に驚いた。
【輝く礁域】という十歳・十一歳の少女たちからなるパーティーは、『はじまりの試練』を三分の一日ほどで完全制覇。
実際に潜ったからこそ分かる。これは異常な速さだ。
もしゴミス抜きで衛兵団だけで挑戦したとしても負ける。
さらに『亜人の根城』は二〇階層まで到達したらしい。
丸一日で二〇階という速さも驚きなのだが、魔物の強さだって『はじまりの試練』とは段違いなのだ。
俺は七階までしか行けなかったが、それでもDランクが中心で時にCランクまで混じっていた。
二〇階層というのはもうほとんどCランクだろうし、もしかするとBランクだって出て来るかもしれない。
それをDランクパーティーの少女たちが、しかも一日で下りたと言うのか。
俺はそれを聞いた時に「なんてやつらと勝負しちゃってんだよ、このゴミ野郎」と思ったね。
まさに戦うだけ無駄というやつだ。
結果を受け入れたクズォーリオ伯爵は呆れたようにゴミスを叱った。
そして当然のようにゴミスは俺たちの責任だと言いつけた。
そう言われる事は分かっていたが、それでも頭にくるもんだ。
いや、思ったほど頭にこなかったと言ったほうが良いかもしれない。
分かっていたというのもあるが、それ以上に衛兵団だけで勝負をしても負けるだろうと感じたからだ。
ゴミスがいようがいまいが負けるもんは負ける。
衛兵団長としては恥ずかしい限りだが、その真実を受け入れなければならない。
その後、勝負の立会人となったロートレク公爵、そしてジョバンニ国王陛下からもザザルディ家、それとゴミスに対して何かしらの処罰があったらしい。
あったらしいと言うのは、俺はその結果を聞く前に伯爵家の衛兵団長を辞していたからだ。
俺だけじゃない、勝負に関わった衛兵団の精鋭、三人も一緒だ。
「お前らの奮闘ぶりはなかなかだったと報告を受けている。ザザルディへの処罰、第一弾としてお前らをザザルディから騎士団へと転属させるつもりだ。どうだ?」
ロートレク公爵から俺たち四人へと直々に通達された言葉に、「謹んでお受け致しますっ!」と膝を付く。
その速度は我ながら速かったと自負している。
ストレスばかりのザザルディ家から力量を見込まれての、騎士団転属。
伯爵家から国軍だ。騎士団なんか一般人の俺からすれば夢のまた夢。
しかも元伯爵家の衛兵団長という事を考慮して頂き、最初から十人隊長扱いだと言うのだ。
こんな美味い話があるか? と俺は喜び勇んで騎士団へとやって来た。
給与面からすれば伯爵家の衛兵団長というのは好待遇だろう。
だからこれを栄転と呼ばない人も居る。
勝負に負けた罰則も含まれるんじゃないかってな。
しかし俺からすれば栄転以外の何物でもない。
【輝く礁域】には感謝するばかりだ。
ダンデリーナ殿下やストライド公爵家のサフィー様がいらっしゃる冒険者パーティーとは聞いたが、まさかこれほどのものだとは思わなかった。
騎士団員となった俺はダンデリーナ様への恩をお返しする為に、そして国の為に働く覚悟だ。
「ははっ、意気込みは立派だが、ダンデリーナ様の御名前をあまり出さないほうがいいぞ。騎士団にもファンが多いし、何より陛下の耳に入ったら騎士団を辞めさせられ兼ねないからな」
……先達の忠告は素直に聞くべきだ。
俺は王国の為に働こう。うん。
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
ダンジョン勝負を終えた翌日、私たちは冒険者ギルドを訪れた。
昨日は『亜人の根城』を二〇階まで攻略してめちゃくちゃ疲れたからね。
これで帰り道が徒歩だったらと思うとゾッとするね。
初級ダンジョンはダンジョンボスを倒すと転移魔法陣が出たけど、中級からはダンジョンボス以外にも『フロアボス』というのが存在する。
『亜人の根城』の場合は十階・二〇階にフロアボスが居て、三〇階層でダンジョンボスだ。
フロアボスを倒しても転移魔法陣は出現するので、二〇階まで無理矢理頑張ったってわけだ。
十九階とかで引き返すよりボス倒して転移で帰りたいってね。
そんなわけでその足でギルドに行く元気もなかったんだよ。
んで、手に入れた魔石やドロップ品の買い取りとかを済ませようと来たわけだ。
「あれ? 皆さん『亜人の根城』の二〇階まで進まれたんですか!?」
フロアボス――リザードキングのドロップ品と魔石を見せたら驚かれた。
確かに私たちDランクだし、あのダンジョンで言えば低層で戦えるくらいのランクでしかない。
二〇階のボスはリザードキングとリザードナイトとか、リザードマンの上位種が勢揃いだった。
リザードキング自体がBランクらしいから驚かれたんだろう。まぁ同じBランクのオークキングよりだいぶ弱いからBランクの中でも相当下位だろうけどね。
そんなドロップ品に驚かれたから、「行くのはまだ早い」って怒られるかと思って身構えてしまった。
特にそういう事もなく淡々と処理してたけど。
私たちがオークキングとかロックリザードとか倒してるのを知ってるから、それでかもしれない。
「これでダンデリーナ様とサフィー様もDランクの昇格条件を満たしましたね」
「お?」
どうやら自分のランク以上の魔物討伐以外にもダンジョンの階層突破による貢献ポイントが入るらしい。
Dランクへの昇格条件は『Eランク依頼の一〇〇件達成』。
登録から二〇日くらいかな。順調じゃないでしょうか。
「いえ、感覚がおかしいです。皆さん異常に早いですからね」
「で、また模擬戦で試験ですか?」
「そうですね。ご都合はいかがでしょうか」
リーナとサフィーに聞いてみる。
昨日あれだけ働いたばかりだし、どうかなーと思ったけど大丈夫らしい。
んじゃ頑張ってもらいましょうか。
「これでワタクシもDランクですわね!」
「サフィー様、気が早いですよ。まだ試験次第でしょう。しかしもうじき皆さんに並べるかと思うと嬉しいものです」
「五人ともDランクだもんね」
確か冒険者間ではDランクで一人前扱いだったはず。
これで全員一人前かと思うとお祝いでもしたくなるもんだ。
「いえ、ピーゾンさんはCランクの昇格条件を満たしましたので、昇格試験を受けられます」
『えっ』
なんで私だけ!?
……あ、いや、そうか。最初からワイバーンのアドバンテージとか、パーティー組む前の分が含まれてるのか。
ポロリンと二人の時も結構な依頼数稼いだし、ネルトが入ってからもオークの集落潰したりロックリザード倒したりしてるからなぁ。
「じゃあ私もまた模擬戦ですか?」
「いえ、Cランクの昇格は人によってギルドから出される試験内容が異なります。模擬戦の場合もありますが、筆記試験の時もありますし、特別な依頼を指名する時もあります」
「で、私は?」
「上に確認してからご連絡します。お二人の試験を終えてからもう一度お越し頂けますか?」
筆記試験だったらヤバイな……数学とかは大丈夫だけど歴史とか地理とかだったらマズイ。
少し憂鬱な気持ちになりながら、私たちは五人で地下訓練場へと向かった。
「なんか変な事になっちゃったなー」
「喜ばしい事ではないですか。わたくしも後れをとるわけには参りません。今回は頑張ります」
「ワタクシもですわぁ! 間違ってもワタクシだけEランクなど許されませんわ!」
「あ、その事だけどさ、多分注目されながらの模擬戦になると思うんだよ。だからスキル使うの禁止ね。あとサフィーは<忍術>も禁止。剣技と投擲だけでよろしく」
「分かりました。わたくしは構いません」
「<スタイリッシュ忍術>は【スタイリッシュ忍者】の華ですのに、残念ですわぁ」
その華が目立ち過ぎるから問題なんだよ。
普通に戦ったって忍装束の段階で【忍者】ってバレバレなのに。
リーナは包丁を刀っぽくしたから誰が見てもどんな固有職か分からないだろうけどね。
そうして待つことしばし、試験官がやってきた。
……またネロさんかい。
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