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第四章 毒娘、潜り始める
93:Cランク昇格に向けて指名依頼を受ける事になりました
しおりを挟むその日、サフィーと共に王城へと向かったリーナは陛下を説得したらしい。
「んなっ! 『禁域』に行くだと!? ならんならんならん! なぜダンデリーナがあのような危険な場所に行く必要があるのだ!」
「ギルドからの指名依頼です。一冒険者としてお受けするのが当然です」
「冒険者ギルドか! ギルドマスターはリムリラだったな! おのれよくもこのような真似を!」
「リムリラ様はわたくし達の身を案じた上でご提示して下さったのです! 相談したのち返答するようにと! ギルドを悪く言うのはお止めください!」
「ぐぬぬ……!」
「それに『禁域』の氾濫となれば王都の危機。お父様もこの事はご存じだったのでは?」
「……うむ」
どうやら『禁域』に氾濫の兆候があるというのは国でもさすがに情報を掴んでいたらしい。
そもそも管理ダンジョンに衛兵を置くのはその地域の領主――王都の場合だと国王の役目なのだとか。
王都内にある四つのダンジョンにも衛兵の警備を置き、王都周辺のダンジョンにも置いていると。
『禁域』は管理ダンジョンではないが、だからこそ危険性があるとして、元々衛兵を置いているそうだ。
そして今回の情報を基に、衛兵ではなく騎士団を向かわせ、すでに調査を開始しているらしい。
ギルドはギルドで高ランクパーティーやクランを向かわせ、同時に国の騎士団も動いていると。
その上で私たちにまで指名依頼が来たという事は、それでも人手が足りないのか、それとも多くが深部の調査を行っている為に浅部が極端に手薄になっているのか、そんなとこだろう。
ともかくリーナが攻め、陛下が折れる形となり、指名依頼を受ける事は渋々了承されたらしい。
一緒に付いて行ったサフィー曰く「いつもの事ですわ」と。
二人にはその足でサフィーの実家にも行ってもらった。
ストライド公爵家邸宅、兼、中二暗部組織【幻影の闇に潜む者】のアジト。
用件はダンジョン勝負の情報と報酬の受け取り。
私たち全員で行くべきだと思ったが、サフィーが「ついでに貰ってきますわ」と軽く言うのでお任せした。
こちとら庶民なもんで公爵家当主様に顔も出さず報酬を貰うってのも……まぁいいか。孫娘の言だ。
「ザザルディの戦績は『亜人の根城』が七階、『はじまりの試練』は九階だそうですわ。ボスの手前で引き返したそうで」
「なんだ、ボロ勝ちじゃん」
「ゴミスさんが相当足を引っ張ったそうですわね。衛兵団の方々は優秀だったようですが」
私たちは『はじまりの試練』を七時間程度で十階まで制覇。
『亜人の根城』が二〇階だからね。余裕ですわ。
ゴミ野郎がリーナやサフィーと同年って事は、主席と次席の二人より戦闘力がないのは確実だろう。
そんなの普通だったら『はじまりの試練』の浅層くらいしか行けないだろうしね。
お荷物を連れたままそこまで探索出来た衛兵さんたちが偉いかな。
「報酬は勝ち負けに関わらず貰う約束でしたので、ちゃんと貰ってきましたわよ! これですわ!」
そういってバーンとテーブルに出したのは五枚の紙きれ。
何やら魔法陣的な模様と文字がびっしり書いてある。何これ。
「これは暗部でしか使用が許されていない魔道具ですの。【言葉運びの護符】と言いますわ」
「ことばはこび?」
「短時間ではありますが、どんなに離れていても指定の相手に言葉を運ぶ事が出来ますわ。お爺様もかなり奮発したようですわね」
おおっ!? ケータイか!? そんなのあんのか!?
よくよく聞けば、電話のような相互通信ではなく、一方的に喋るだけ。それも三〇秒程度。
通話する相手も、今回はストライド公爵家に固定されているらしい。
私たちが遠方で緊急時に通信した場合、暗部から国王などに連絡が伝わるようになるとの事。
この使い切りの護符一枚で金貨数十枚(数百万円)が飛ぶらしい。それが五枚。とんでもないな。
用途的にも金額的にも材料的にも暗部限定での使用が国で定められているらしい。
それを今回報酬として渡してきたのは、間違いなくサフィーとリーナが居るからだろう。
リーナの安全性を高めるのが第一。そしてサフィーが暗部の一員(正式には未満だが)である事を利用した。
保管や使用についてはサフィーにお願いするつもりだが、いずれにせよ有用な魔道具を貰った事には違いない。
ありがたく頂戴しましょ。機会があれば躊躇せず使いましょ。
そんな報告を夕食後の団らん時に話しているわけだが、この場にそぐわない変質者もなぜか同席している。
「まじかー、頭領太っ腹すぎるだろ。って言うか、お前ら『禁域』行くのかよー。あ、ポロリン、お茶おかわり」
「あ、はい」
帰れよ、おっさん。くつろいでんじゃないよ。
おっさんは監視も行っているらしいが、定期的に面と向かっての報告もしている。
むしろ監視よりもこれが本来の管理局の仕事だ。
ちなみにホームに侵入して来たわけではなく、ちゃんと玄関からノッカーを叩いて入って来た。
そりゃ四六時中門番という名の近衛騎士が立ってるんだから、不法侵入なんてしないか。
バレたら国賊だもんね。
「ダンジョン入っちゃうと俺が監視に付いて行けないんだよなー。出来れば潜って欲しくないんだが」
「そうなの? そりゃ好都合じゃん」
「お前らにしたら監視されなくて精々って感じだろうが、こっちが困るんだよ。勝手に死なれそうで」
おっさんの監視は、ネルトの<ホークアイ>や<グリッド>でも見つからないほどだ。
さすが元暗部と言うべきか。おそらく例の糸の能力を応用してるんだと思うけど。
そうした監視をダンジョンの中では行えないらしい。
じゃあダンジョン勝負の時の立会人みたいに勝手に付いてくりゃいいじゃん、と思ったが、それだと「監視員は対象の固有職とは報告以外に極力接触してはならない」という管理局のルールに抵触するのだと。
そのルールの意味が私には分からないが、第七王女リーナを危険な『禁域』に潜らせるという現状でもそれを順守しようとするのであれば、きっと大きなものなのだろう。
国にしたって管理局にしたって、監視したいし警護したいだろうしね。
ま、私としては最初からおっさんとか頼ってないし、居ないものとして考えているんで、あとはそっちの都合でどうにかしてくれとしか言えない。
こっちはこっちで気合い入れて潜りますんで。
特に王都の危機を防ぐべく、リーナが気合い入りまくってますので。
「とりあえず俺からは気を付けてくれとしか言えん。くれぐれも無茶するなよ?」
「そのつもりだよ」
そのお茶飲んだらさっさと帰れよ。
♦
翌日、ギルドへと足を運び、リムリラさんに指名依頼を受ける事を伝えた。
「陛下は大丈夫だったのか?」「私、怒られないよな?」など、ビビッてる感満載だったがとりあえず納得はしてくれた。
そしてより詳しい依頼内容を聞く。
現在の『禁域』の状況、私たちに求めるもの、期間、報酬など。
すでに『禁域』への調査自体は入っているらしく、国からの騎士団の他、冒険者ギルドからは複数の高ランカーが潜っている状態。
Aランクのミルローゼさん率いる【唯一絶対】や、同じくAランクのストレイオさん率いる【誇りの剣】といった有名クランも参戦していると。
その他にもいくつかのクラン、AランクパーティーやBランクパーティーなんかも調査中。
そんな中、私たちはBランク下位、またはCランク上位の冒険者たちと共に浅層部の魔物を間引きする。
とりあえず一階層で様子を見て、行けそうだと思っても三階層までにしておけと忠告を受けた。
リムリラさん的には私たちの実力は評価しているものの、やはりリーナを危険な目には遭わせたくないという相反した思いがあるようだ。
しかし問題はその期間だ。
『禁域』が氾濫するかもしれないから調査する。ならば氾濫するまで調査は継続されるのか?
いつ氾濫するか分からないのに、延々と依頼を受け続ける形になるのか? と。
「一つの目安は深部の調査をしているヤツらが″原因″を発見するまでだ。国もギルドも今までにないほど大掛かりな探索を行っているから、進行自体は早いはずだ」
「″原因″自体がない場合もありますよね? 普通に氾濫の周期が早まってるだけとか」
「ああ、さらに言えば″原因″が想像以上の深部にあり、単純に辿り着けないという可能性もある」
『禁域』が何階層なのか誰も知らないが、仮に十階だとして、最高戦力で潜っても八階までしか行けないとか、そういう事だね。
そんで″原因″が九階にあったら発見できないまま調査期間が延びて、いずれ氾濫が起こると。
そりゃもう最悪だ。
「とりあえず一月の間、定期的に間引きに入ってもらう事を依頼としたい」
「一月ですか……随分と長期な依頼ですね」
「国をまたぐ護衛依頼などではザラだがな。定期的というのは連日潜るのではなく五日に一度程度と考えてくれ。連日潜る必要はない。しっかりと準備をした上で探索に臨んでくれ」
それこそ深部の調査に行く人たちは一度潜ると数日は戻って来れない。
一度潜って、またすぐ潜るなど不可能だ。体調、装備、消耗品、色々と備え直す必要がある。
私たちは浅部の間引きだから日帰り探索にはなるだろう。
それでも基本的な探索ルールを守って無茶な探索をしないように、って事だね。
かと言って七日に一度とかスパンを空けると、間引きが足りなくなる可能性もあるから、なるべく潜って欲しいという事らしい。
そして一月経っても調査が継続となった場合、再度指名依頼を出す事にすると。
Cランク昇格試験の依頼は最初の一回だけってわけだ。
その後、細かい所を質問したりして依頼を受ける事にした。
リーナは相変わらず気合いが入っている。サフィーは自信満々で胸を張っている。
ポロリンは美少女ビクビクポーズ。ネルトは何を考えているのか分からない。
私は結構乗り気だ。
確かに氾濫となれば王都のピンチなのだが、それ以上に『禁域』というダンジョンに浪漫を感じる。
はたしてどんなもんなのかと。
たかぶる気持ちを抑えつつ、まずは安全第一。資料室で下調べだ。
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