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第四章 毒娘、潜り始める
99:どうやらあちこちで良からぬ動きがあるようです
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魔剣の希少価値は非常に高い。
ダンジョンを成長させる鍵でありながら、それを手にしたものには強大な力を与える。
欲しいと思っても偶発的に生まれるダンジョンの最深部に一本しかない宝だ。困難極まる。
だからこそ魔剣に魅了される者も居る。
強者だからと手に入れられるものではない。金を積んで手に入るものでもない。
そんな魔剣の魅力に取り付かれた者は、確かに存在する。
「ふふっ、素晴らしいな、我がコレクションは」
夜も更けた王都。貴族街にある一つの邸宅。
巧妙に隠された一室で、屋敷の主はワイングラスを傾けながら、そう呟いた。
壁際に並ぶのはガラスケースに飾られた『真っ黒い剣』。
直剣、短剣、細剣、斧や杖なんてものもある。その数は十五にも上っていた。
ディーボ・フォン・ザルドルド侯爵――知る人ぞ知る『魔剣収集家』である。
彼は魔剣の魅力に取り憑かれた一人。
自身の派閥の貴族、そのごく僅かな者にだけ自分のコレクションを自慢するのが趣味の男だ。
もちろんディーボが魔剣を集めている事は秘密であり、部屋の存在も含めて公には出来ない。
なぜ秘密にする必要があるのか。それは魔剣を『収集』する方法にある。
魔剣はダンジョン最深部に『ロングソード』の状態で刺さっている。
これを誰かが素手で触れた場合、その形状は変化し、形状に沿った能力を得る。
どういった魔剣になるかは個人の資質による所が大きいというのが一般的な見解である。
所持者によって固定された形状と能力は、所持者が死なない限り、他人が『装備』する事が出来ない。
死ねば形状を保ったまま『所持者不在』の状態となる。
別の誰かが触れればまた変化し、新たな所持者として登録される。
逆に言えば、誰かが死んでも『素手で触れない限り』形状は保たれたまま、という事だ。
さらに言えば『所持者は一本しか魔剣を持てない』というルールもあり、魔剣所持者が別の所持者を殺し、魔剣を奪ったとして、相手の魔剣を素手で触ったとしても形状が変わる事はない。
誰かの資質によって変化を遂げた、世界唯一の魔剣。
それを保存したまま収集する術はあるという事だ。
ディーボは戦闘職ではない。しかし魔剣は戦闘職でなくても装備できる『武器』となる。
すでに魔剣所持者である彼が、自分のコレクションを素手で触っても問題はない。
もっとも、コレクターの彼が貴重なコレクションを素手で触る事などないのだが。
そんな彼の下に最近、とある情報が舞い込んだ。
今年『職決めの儀』を受けたばかりの新人冒険者の少女が、魔剣所持者だという噂があると。
しかもそれは、身の丈に迫るほど巨大な大剣……のサイズの大鉈だと言うのだ。
「闇ギルドに依頼だ! さっさと奪って来いっ!」
一にも二にもなく、そう家令に指示を出した。
いつものように闇ギルドを使って暗殺し、魔剣を奪って来いと。
ディーボのコレクションに大剣などない。ましてや大鉈などあるわけがない。
鉈という形状になるなど、話にすら聞いた事はない。
是が非でも欲しい。彼の収集欲は最高潮にまで達していた。
しかし数日後、凶報が入る。依頼失敗だと。
「何をやっているか! 小娘一人殺せんとは何が王都随一の暗殺者集団だ! 高い金を払ってやったというのに! ふざけるな!」
「旦那様、その件ですが闇ギルドの調べによりますと――」
そこで初めて、ディーボは魔剣所持者の情報、その詳細を聞いた。
新進気鋭の冒険者パーティー【輝く礁域】、固有職と噂の五人組の少女たち。
五人はどれも珍妙な装備を身にまとい、見た目にそぐわぬ戦果を挙げ続けているらしい。
そのパーティーリーダーが件の少女、ピーゾン。通称「白ウサギ」。
パーティーにはあの【美姫】ダンデリーナ第七王女殿下と、ストライド公爵家長子サフィー嬢が在籍しているという異色さでありながら、それをまとめ上げる者こそが、そのピーゾンだと言うのだ。
「ダンデリーナ殿下とサフィー嬢が冒険者となった事は王都中の貴族で騒ぎとなっていたが……まさか同じパーティーに魔剣所持者が居たとは……!」
「彼女らの拠点はダンデリーナ殿下のお住まいでもあります。当然それは固く、四六時中警備の衛兵が立っているそうです。闇ギルドもそこまでの情報を掴み、機を狙って手練れを送り出したらしいですが……」
「それで尚、失敗したと……ただの衛兵ではないな。殿下の近衛かもしれん」
ディーボの思考はすでに怒りから冷静なものへとなっている。
第一に考えなくてはいけない事は、「ダンデリーナ殿下のお住まいに襲撃した」という事実。
これがディーボの仕業だとバレれば、間違いなく国王の手により死罪。
ダンデリーナを脅かしたという事は、国王の逆鱗に触れるどころか殴りつけるようなものだ。
貴族として、いや、王国民として生きていく事は出来なくなる。
その一方で、やはり魔剣への収集欲に揺るぎはない。
どうにか自分の仕業だとバレず、ダンデリーナに接触せず、ピーゾンだけを殺し、魔剣を奪う事は出来ないか。
わざわざ闇ギルドの幹部を自邸に呼び、ディーボは面と向かって協議を行った。
闇ギルドとしてはダンデリーナが絡んでいると分かった時点で、依頼を下りようという話も出ていた。
ダンデリーナという存在がアンタッチャブルだという事は、もはや常識として捉えている。
ましてや相手方にはストライド家の秘蔵っ子が居る。
闇ギルドも暗殺や諜報に関して王国随一という自負はあるが、王国で一番の同業者となれば【幻影の闇に潜む者】に軍配が上がる。
それを彼ら自身も分かっていたからこそ躊躇いがあった。
しかしディーボとの付き合い、今まで何度も行ってきた魔剣奪取の仕事、金払いの良さ、諸々を考慮してのホーム襲撃だったのだ。
結果は散々なものであったが。
ディーボと闇ギルドの交渉は難航した。
何としても魔剣を奪いたいディーボと、手を出したくない闇ギルド。
最終的には通常の三倍の報酬と、期限の長期化を認めるという事を踏まえ、依頼は受理された。
前回のようにホームに襲撃するといった手はもう打たない。
ピーゾン一人で動く時を見計らって、人数を掛けて襲撃。確実に手に入れる。
しかし襲撃があった傍から早々一人で出歩く事などないだろうし、そのチャンスがいつ訪れるのかも分からない。
だからこそ長期化。じっくりと事を運ぼうとそういう訳だ。
「くれぐれも足を付けるんじゃないぞ」
「ええ、その辺はこっちもプロですので。しかし……」
闇ギルド幹部の顔は契約が成ったというのに曇ったままだ。
「固有職だという噂ですが、それにしちゃあ活躍が過ぎる。普通の固有職は自分の能力を掴むまで一年から三年は掛かるでしょう?」
「単純で使いやすい能力を持った職なのではないか?」
「だったら良いんですけどね……」
不安な表情のまま、闇ギルドの幹部は侯爵家を後にした。
■ピーゾン 【毒殺屋】 10歳
今日も今日とて『禁域』の間引き。
それと並行して訓練もするわけだけど、今日はみんなが覚えた新アーツを習熟し、それを戦術に落とそうかと画策している。
ただし<ショートジャンプ>以外。あれは戦術に組んじゃダメだ。
「んー、便利なのに」
「消費重すぎだし、万が一誰かに見られたらヤバすぎる。使い所はちゃんと考えるから戦闘ではよほどの緊急時以外は使っちゃダメだよ」
「ん」
王都の西門から『禁域』まではたまーに魔物が出る程度。居ても弱すぎて片手間で処理出来る。
小砦に着けば、いつものごとく職員のおっさんに声を掛けられ、「今日も頼むな!」と砦の中に入る。
最近は駐在している衛兵の数も少し増えたような気がする。
騎士団は潜る部隊とは別に、砦の中に居たりする。
予備戦力なのか伝令なのかは分かんないけど。
何となく物々しいなーと思いながら休憩スペースに陣取った一団に目を向ける。
「あらあら、皆さん、今日も探索ですか。ご苦労様です」
「聖女様たちもお疲れ様ですー」
毎回、行き帰りで挨拶するから、結構仲良しになった。
聖女以外のローブ軍団はリーナの手前、ビシッとしたままだけど、聖女は普通に話す。
向こうも私がリーダーだって分かってるから、もっぱら話しかけるのは私なんだけど。
最近は怪我人も多いとか、未帰還者が居て案じているとか、そんな話が出てきた。
私たちこれから潜るんですけど、そんな二の足踏むようなの言わないでくれます?
うちの美少女(男子)がビビっちゃいますんで。
そうしていると、扉の開いた洞穴方面から、ぞろぞろと人が向かって来る。
まだ朝だってのに探索帰りの帰還者か? と思って見てみると――。
「ミルローゼさんにストレイオさん!?」
二〇人弱の団体を率いて歩くのは、金髪をお団子にまとめた鋭い目つきの美人。
青と白を基調とした法衣のような鎧のような装備は豪華だが、さすがに探索帰りで汚れが目立つ。
固有職だけを集めたクラン、【唯一絶対】のクラマス、ミルローゼさん。
そしてこちらも十五人ほどの大所帯。【誇りの剣】を率いるストレイオさん。
金髪イケメン貴公子だが、その表情は以前に見た爽やかさなどなく、険しいものとなっている。
二人とも魔剣持ちという事で『魔剣屋』で会ったし、色々と縁のある人たちだ。
二人はAランクで、クランとしても大手と聞いている。
おそらく指名依頼を受け、それぞれ深層での調査をしていたのだろう。
それが揃って帰って来るとは……どういう事?
「【輝く礁域】か。まさか君たちまで『禁域』に駆り出されるとはな」
「僕らのクランでもCランク以下は潜らせないようにしてるんだけどね。まぁ君たちなら納得だ。……ああ、ダンデリーナ殿下、ご挨拶が遅れました。御前失礼します」
ストレイオさんが貴族もかくやと言わんばかりの華麗な礼を決めつつ、ミルローゼさんたちも続く。
そしてまた何やかんや言って普通に接してもらうまでがテンプレ。
で、なんで大手クランの二組が一緒なの? と聞いてみた。
「七階層辺りからDランクの魔物は存在せず、Bランクの魔物が出始める」
「十階層を越えるとCランクに混じってBランクが二~三体とかいう群れもあるからね」
うわぁ……そりゃキツイわ。
コボルトキングの群れの中にオークキングが三体くらい居るって事でしょう。
私たちだったら無理だな。いや、麻痺らせればワンチャン……?
「それで共同戦線を張る事にしたのだ。我々はどうしても個の力に頼る戦い方になるからな。あのレベルの魔物相手だと難がある」
「僕らもそれは同じでね。バランスには自信があっても破壊力・殲滅力がないとあの階層は厳しい。固有職というものの強さを改めて感じたよ」
固有職は自分の能力を隠すものだ。
一般職のクランと共闘なんて、普通だったら考えないだろう。
そうしなきゃいけないくらいの難易度だったって事だね。
「で、そうしてやっと進めた階層でやっと手掛かりを見つけたんだ」
「えっ!? 手掛かりって……今回の『氾濫の兆候』の手掛かりですか!?」
「ああ、これさ」
ストレイオさんが魔法の鞄から出したのは、布に包まれた物体。
私たちや聖女たちもそれを覗き見る。
布をハラリと取ると、そこから出てきたのは――割れた、黒い水晶玉のようなもの。
「これが『瘴気』の発生源だ」
ストレイオさんの言葉に全員が息を飲んだ。
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