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第一章 黒の主、世界に降り立つ
13:日陰の樹人
しおりを挟む■ミーティア・ユグドラシア 樹人族 女
■142歳 元『神樹の巫女』 現『日陰の樹人』
ユグドル樹界国は樹人族主導の国家です。
森を愛し、自然と共にあるのが私たち樹人族。
国の中心には神樹があり、『樹神ユグド』様を祀っています。
それをもって樹神教を主教とするのがユグドル樹界国なのです。
私はユグドラシア王家の一人、第二王女として産まれました。
そして生まれ持った素質により『神樹の巫女』として教育を受けました。
それは歴史や神殿垂教といった巫女としての勉強はもちろんの事、魔法や武術もです。
神樹がある聖域は一般人が入れません。
深い森の中を巫女一人で進めるような最低限の武力も必要なのです。
物心つく前から始まっていたその教育は非常に苦しいものでした。
しかし同時に、大切に育てられたとも言えるでしょう。
そしてそれは他者から見れば恵まれた、羨ましいものであったのだと思います。
特に『神樹の巫女』を特別な存在、絶対的権力の象徴のように思う者もいたのです。
巫女自身がそう驕らないよう教育は厳しく、倫理も叩き込まれるのですが、傍から見れば優遇されているとしか見えないのでしょう。
私の場合、姉である第一王女がそうでした。
私が生まれなければ自分が『神樹の巫女』になったであろう、そう思ったのだそうです。
実際は大司教様による『神樹の神託』により巫女の資質をもって選ばれたのですが、それを大司教様が独断で選んだものだと思い込んだそうです。
神託というのは樹人族でもごく一部の者にしか聞けないものなので、聞けない人にとっては、そして熱心な信者でない人にとっては嘘だと断ずる材料だったのでしょう。
同じ樹人族として恥ずかしい。
樹神様に申し訳ない気持ちで一杯です。
悪いタイミングで二つの事が起こりました。
一つは私に樹神ユグド様より神託が下りた事。
内容は「創世の女神ウェヌサリーゼ様を崇めよ、そしてその使徒に協力せよ」というものでした。
これに反発した人は多く、ほとんどの人が難色を示しました。
なぜ主教である樹神様を差し置いて、創世の女神を崇めなければならないのか。
なぜとうに廃れた創世教を上位に持ち出すのか。
使徒などという眉唾物の存在がそもそも居るのか。
問い詰められた私は何も答えることが出来ませんでした。
私とて戸惑っていたのです。
しかし巫女として神託を伝えないわけにはいかない、ただそれだけだったのです。
そしてそれを切っ掛けに二つ目の事が起こりました。
政変―――第一王子のお兄様により王位の簒奪、そして大司教様が更迭されたのです。
これにより私の後ろ盾もなくなりました。
第一王子と第一王女、兄と姉の共謀により、私は罪人として捕らえられました。
国を乱した張本人として。
国に伝わる呪術により、私には罪人の呪い――日陰の呪いが掛けられました。
肌は黒くなり、髪は銀となる。神聖魔法も使えなくなり、樹人族の本質である風魔法でさえ使えなくなりました。
存在そのものが作り変えられる呪い。
『日陰の樹人』となった私は、嘆くばかりの毎日を送りました。
やがて国外追放という名の奴隷売却が行われました。
殺さなかったのは巫女という存在を恐れてなのか、国民に対するアピールなのか。
結局は聞こえの良い『国外追放』となりましたが、実際は売られたという事です。
奴隷商の馬車に揺られる旅路の中、私は神託の事ばかりが頭を巡りました。
それしか考えられなかったとも言えます。
なぜ樹神様はあんな神託を、どういう意味があるのか、創世の女神様の使徒など本当に居るのか。
そんな事ばかりを考えていました。
追放されても、日陰の樹人となっても私は『神樹の巫女』であり続けるしか出来なかったのです。
馬車ははるか西、ボロウリッツ獣帝国へと向かいます。
ただでさえ王都から離れたことのない身。
心労に体力の低下も重なって、私は倒れては目覚めるを繰り返す状態でした。
そんな旅路の折、馬車が魔物に襲われたのです。
奴隷商は死に、護衛の冒険者が殺されそうになっている横で、私はひしゃげた牢を抜け、横転した馬車を抜け、森へと駆けこんだのです。
生きているのか死んでいるのかも分からない状態。
なのに生きようと逃げたのは、やはりあの神託があったからだと思います。
創世の女神様の使徒に会わなければ、はるか北の基人族保護区へと行けば何か分かるかもしれない。
そんな藁をもすがる思いで逃げたのです。
しかし心身衰弱状態の私がいつまでも走れるわけがありません。
近場にいた山賊に見つかり、囲まれたところで私の意識は消えました。
やはり都合良く逃げ切れるわけがない。
このままでは奴隷どころか闇奴隷になる。
それとも山賊の性処理道具か。
最後はそんな事を考えていたと思います。
ところが、です。
樹神ユグド様はお見捨てにならなかった。
神託は正しかった。
山賊から助け出して下さったのは、創世の女神様の使徒たるセイヤ・シンマ様だったのです。
ご本人は否定なさっていますが、聞けば女神様ご本人にお会いになり、スキルと武器を与えられ、この地に導かれたと仰るのです。
間違いない。
このお方が神託にあった使徒様に間違いないと確信しました。
お連れになっている方々のお話によれば、彼女たちはセイヤ様の奴隷となり、侍女となり、セイヤ様からお力を授けてもらいながら戦闘面でもお助けしていると。
その左手の甲にある奴隷紋は、それはそれは神々しいものです。
神樹の巫女である私が、創世の女神様に全身全霊で祈りを捧げたいほどの美しさでした。
神託で樹神様は「創世の女神ウェヌサリーゼ様」と仰っていました。
なるほど、やはり創世の女神様は樹神様の上位存在なのかもしれません。
神々の頂点が創世の女神様だとすれば、廃れたはずの創世教が一番正しい教義を持っているとも……。
だとすればなぜこんなにも創世教が廃れ、各地の教義が間違ったものに……。
いえ、考えるのは後です。
私は改めて、セイヤ様の奴隷となりお仕えさせて頂けないかとお願いいたしました。
他教の巫女であり、日陰の樹人であり、助けて頂いた立場でありながら、恥を忍んで頭を下げました。
神託で言われたから、それもあるでしょう。
しかしそれ以上にお会いしたセイヤ様に、そしてその奴隷紋に惹かれたのです。
こうして私はセイヤ様―――ご主人様にお仕えすることになりました。
ご主人様の詳しい経緯をお聞きすることもできましたが、それは想像を超えるものでした。
異世界からの転生、女神様から直々の修行、得られたスキルと武器と力。
どれも神話で語られるほどのものです。
これが樹界国の者ならば「基人族の世迷言」と鼻で笑ったことでしょう。
しかし私はそのどれもが信じられます。
実際目の前に武器や、力をもったご主人様がいらっしゃるので当たり前なのですが。
出来ればご主人様に、女神様を経由して樹神様とお話して頂きたいものですが、どうやらご主人様はウェヌサリーゼ様をあまりよろしく思っていないご様子。
巫女より神に近しいはずの使徒という立場で、なんともったいない話だと思いますが、それほど厳しい修行を課せられたのかと思うと少し同情もしてしまいます。
やはり女神様ご本人の修行というのは想像を絶するものなのでしょう。
私たち五人は魔物を倒しながら徐々に進み、イーリスの街というところに向かっています。
そこへ着けばサリュさんと私は正式にご主人様の奴隷となれます。
あの美しい奴隷紋が私の手に描かれるかと思うと、非常に楽しみになります。
しかしご主人様。
……なぜそんなに頻繁に<洗浄>を使われるのですか?
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※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
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