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第一章 黒の主、世界に降り立つ
15:メイドではない、侍女だ
しおりを挟む■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
今まで集落から出たことのない私はイーリスの街の大きさ、人の多さに終始驚いていました。
しかし聞けばこの街もそれほど大きくはないとの事です。
この先に向かう【混沌の街 カオテッド】はこの街の数倍の規模だそうで、今から少し不安が募ります。
今も現在進行形で不安はありますが、左手の甲を見るたびに心が落ち着き、思わず笑みがこぼれます。
創世の女神ウェヌサリーゼ様の奴隷紋。
女神様が守って下さる。使徒であるご主人様が傍にいて下さる。
そう思うだけで安心感があります。
泊まる事になった宿は高級店だそうで、ご主人様が仰っていたお風呂があるらしく、それで決められたらしいです。
集落から集めた資金や、山賊の住処にあった資金もあり、泊まるのは問題ないそうです。
本来組合員に必要な装備品なども、ご主人様とエメリーさんたちが出会った施設にあったものを使わせて頂いてます。
私は何かの木の杖、ミーティアさんは弓と短剣です。
服は侍女服ですし、装備品に使うお金がいらないのでこうして泊まる宿や食事などに多く使うそうです。
なんというか、村に居たころでは考えられない生活で毎日が幸せに感じます。
やはりご主人様はすごいお方、素晴らしいお方だった。
奴隷紋を見るたびにそう思います。
宿はご主人様が一人部屋、私たちは四人部屋になりました。
皆さん年上で私には同僚というよりお姉さんのように感じられ、それもまた嬉しいことです。
種族は違えどご主人様にお仕えする者同士、気が合うというか、同じ方向を向いているというか、そんな感じがします。
四人で話すことは自然とご主人様のことが多くなります。
その中でミーティアさんがエメリーさんに質問しました。
「ご主人様の夜伽はよろしいのでしょうか」
ミーティアさんはてっきり部屋に呼ばれるものかと思っていたそうです。
私はその事に気づきませんでした。言われて初めて「そ、そうだ! 夜伽しなきゃ!」と慌てました。
私ももう一五歳、成人です。立派な大人です。
であれば忌み子の身ではありますがご主人様に貰って頂きたいと思いました。
しかし、ご主人様は生活が落ち着くまで夜伽をしないと仰ったそうです。
それは私たちの健康を慮ってのこと。
ご自分が異世界人であるが故、私たちに気遣って下さっていると言うのです。
「細菌、ウィルスですか……ご主人様の世界にはそんなものが……」
「えっと、落ち着くまでというのはいつくらいまでなんでしょうか」
「ご主人様はカオテッドで家を持ち、そこで元いらした世界の衛生知識をできるだけ再現したいと仰っていた」
「それまでの期間、私たちの体調に異常が見られず、衛生管理をした上で、病気を治せるポーションなども用意し、それから夜伽を頼みたいとの事です」
「なんと、そこまで準備を……」
それだけ私たちの健康を気遣って下さっているという事ですね。
やはり素晴らしいご主人様だと改めて感じます。
……少し、ご主人様の手で大人の女性になりたい気持ちもありますが。
「それと私たちはメイドとs……」
「ミーティア、私たちはメイドではありません。侍女です」
「……はい。えっと、それもお聞きしたかったのです。なぜ私たちの事をメイドではなく侍女と……」
あ、私もそれ気になっていました。
確かに侍女とも言いますけど一般的にはメイドじゃないかと。
「私たちが最初にご主人様から注意されたのも同じだったな」
「イブキさん、そうなのですか?」
「イブキの言うとおり、私もミーティアと同じような間違いをしたのです。その時ご主人様が仰った事は忘れられません」
♦
「いいか? メイドと侍女、同じようでそれは全然違う。どちらも同じような服を着て、主人の世話をする。ここまではいいか?」
「「はい」」
「世話をするとはすなわち奉仕だ。メイドも侍女も主人に対して奉仕するのが仕事だ。じゃあ何が違うのか。それは―――愛だ」
「「愛……」」
「恋愛・友愛・親愛、なんでも良い。愛情をもって奉仕するのが侍女。愛情なくただ仕事として奉仕するのがメイドだ」
「「……」」
「メイドは主人の受けが良くなるよう、表だけは良い顔をしたり、短いスカートをはいたり、オムライスにハートマーク書いたりする! これのどこが奉仕なのかと俺は言いたい! はっきり言って奉仕って言葉を利用して金を稼ぐだけの偽物だ! そこに愛なんて存在しない!」
「「……」」
「一方で侍女は職業として侍女である前に、主人に対する愛情が存在する! 愛情があるからこそ主人の気持ちを慮り、気遣いし、その場その時に合った奉仕を可能としている! これが理想的な侍女だ! メイドなんかとは全く違う! ボロネーゼとミートソースくらい違う! デニムとジーパンくらい違うんだ!」
♦
「後半はよく分かりませんでしたが、私はそれをお聞きした時、今まで村長宅で仕事としていたメイドというものを考えさせられました。ご主人様が仰る通り、そこに愛情はなく、ただ仕事として従事していたように思うのです」
「なるほど……」
「そんなことが……」
私は今までメイドさんという人と接したことはありません。
ですがご主人様が侍女に求められているものが愛情であると分かりました。
エメリーさんとイブキさんが先に聞いて下さっていて良かった。
私もミーティアさんもご主人様の前で同じ過ちを犯していたと思うとゾッとします。
「エメリーの話の続きだがな、ご主人様はこうも仰っていた。『これは俺が勝手に思っている事だが、それを押し付ける以上、俺はそれに相応しい主人にならなくてはいけない。新米主人だし新米【アイロス】人だが、これからよろしく頼む』とな。私も新人侍女である以上、それに応える必要があると感じたよ。今も試行錯誤しているところだ。なぁエメリー先輩」
「私も日々勉強です。ただでさえご主人様のお考えは異世界のものが基準ですし、合わせる必要のあるところが毎日多々あります。まずは皆さんでご主人様を理解し、少しずつ合わせていくことが重要だと思います」
エメリーさんでさえ『ご主人様の侍女』という在り方に苦労している。
私も少しでもご主人様の支えとなれるよう努力しなければ。
そんな風に思ったのです。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
どうもメイドと聞くとミニスカ・フリフリのジャパニーズ・コスプレ・メイドを想像してしまう。
やっぱロングスカートの英国式侍女がジャスティスだよな。
そんな益体もないことを考えながら五人で迷宮組合へ足を運ぶ。
別に魔物討伐組合のように依頼票が貼り出されているわけでもないから直接迷宮に行ってもいいんだが、地図とか情報があれば欲しいと思ったのだ。
組合に足を踏み入れると、昨日のように絡まれたりはしない。
ギョッとした目で見られはするが。
昨日あれだけ投げ飛ばしたのが効いているのか。
それもあるだろうが、少し様子が違った。
組合内で騒がしいパーティーが居たのだ。
「ふざけんなよ! お前のせいで撤退するはめになったんだぞ!」
「斥候のくせに魔物に気付けないとか、それでも闇朧族かよ!」
「ポーション使うはめになったんだからあんたの取り分から引くからね!」
「ほんとつかえねーやつだな!」
パーティー内の内輪もめ。
いや、一人の少女を寄ってたかって責めているようだ。
殴られはしていないが、肩を押されたりはしている。
少女は闇朧族と呼ばれていた。
黒い服から露出した腕や肩あたりから、黒い湯気のようなものが揺らめいている。
肌も褐色だが、少し半透明のようでまるで実体化した幽霊のようだ。
少女は俯いたまま何も喋らない。言われるがまま。
なんとも気分の悪い光景。
「ご主人様」
「ああ、大丈夫だエメリー」
介入するんじゃないかと心配されたらしい。
確かに俺は理不尽に対して<カスタム>で得た力により抵抗すると決めた。
彼女を助ける為にやつらを叩き潰すことも出来る。
だが、目の前の光景は理不尽なのか?
状況が分からない。
本当に彼女が悪くて説教を受けているだけかもしれない。
「あれ、ほっといていいのか?」
と、とりあえず受付嬢に聞いてみた。
「ああ、あの娘はどこのパーティーに入ってもあんな感じになるのよね。闇朧族って珍しいし表立って組合員になるような種族でもないから最初はどこのパーティーでも欲しがるのよ」
俺が得ている知識だと闇朧族は暗殺者とかそっち系に向いている希少種族だったと思う。
本来、表舞台に立つことはないんだろうが、迷宮に入るようなパーティーにいれば確かに斥候役として活躍しそうな気がする。
「でもあの娘はそれほど能力は高くないみたい。期待値が大きい分、実際に組んでみると幻滅されるんでしょうね。おまけにあの娘も自分から意見を言ったり、言い返したりしないタイプだし。感情もほとんど見せないから次第に煙たがれるのよ。何を考えてるのか分からないってね」
なんとも言えない話だな、と思った。
どっちも悪い気がする。
でも承知しててパーティーに入れたんならパーティーリーダーの責任じゃないか、とも思う。
とりあえず俺たちは売ってた地図を買い、迷宮に向かうことにした。
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