カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第一章 黒の主、世界に降り立つ

16:落ちこぼれの斥候

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■ネネ 闇朧族ダルクネス 女
■15歳


 ―――私は褒められたことがない。


「お前は何をやらしてもダメだな。未熟にもほどがある。一族の恥だ」


 闇朧族ダルクネスの一族は暗殺や諜報といった裏方で活躍している。
 国や組織に雇われる優秀な種族と言われているらしい。
 私も物心ついた頃にはすでに暗殺者となるべく訓練を受けていた。

 でもどうやら私は落ちこぼれらしい。
 訓練しても家事を手伝っても遊んでも怒られる。
 何をやらせても何もできない娘、それが両親の評価だった。


 父は私に一応の訓練はしていたものの、いい加減愛想が尽きたらしい。


「お前はここでの訓練を続けても無駄だ。外へ出て組合員にでもなって過ごせ。それも修行だ」


 修行という名の厄介払い。
 私はそれに従った。
 そもそも従う以外の生き方を知らない。
 言われたとおりにやって、自分なりに頑張って、それで怒られるのが日常だった。

 意思のない人形、親からそう言われたこともある。
 ないわけじゃない。出したら怒られるから出し方を忘れただけ。

 最低限の察知能力はある。
 それと最低限の武力、そして逃げ足。
 逃げるような旅の果てに街へと辿り着いた。


 訪れたイーリスの街には迷宮があった。
 迷宮には罠や魔物が多い。斥候役の需要も多い。
 私は闇朧族ダルクネスというだけで有り難がれた。


「入ってくれて助かったよ、うちのパーティー斥候いないからさ」

「さすがは闇朧族ダルクネスだな。やっぱ本職は違う」


 最初は皆同じような事を言う。
 でもこれは褒めているんじゃない。認めているんじゃない。
 すぐに手のひらを返したように怒り出すのだから。

 察知能力が未熟な私は罠や魔物の発見が遅れる。
 斥候役が入ったからと意気揚々と探索し始めるパーティーを私は止められない。
 結果、私が察知するより先行した誰かが被害にあう。
 そして私は怒られる。

 魔物と戦うにしても、それほど速いわけでも、一撃で大ダメージを与えるわけでもない。
 ちまちま削るしかできないから迷宮では邪魔になる。
 そして私は怒られる。


 結局、パーティーを組んでは解消してを繰り返す。
 言いがかりをつけられ、報酬をもらえない時もあった。
 それでも私は言い返せなかった。
 従うことしか出来ないから。


 その日、新しく組んだパーティーと迷宮に入った。

 やはり私という斥候役を入れたことで調子に乗り、どんどん進む。
 察知を私に任せきりで、自分たちは警戒することさえしない。
 今度のパーティーもこんな人たちか、そんな風に思っていた。


「蟻だーーーっ!」

「ケイブアントの群れ!? なんで知らせないんだ!」


 この階層ではあまり見ないケイブアント、しかも二~三〇体もの群れ。
 明らかにこのパーティーでは太刀打ちできない。
 当然のように私を責めるが、私だって気付いた時にはもう遅かった。


「くそっ! こうなれば!」


 ―――ザシュッ!

 リーダーの男が私の足を斬りつけた。
 何が起こったのか分からなかった。


「お、お前が気付かないのが悪いんだからな! 責任とって足止めしろよ!」

「何やってんだリーダー! さっさと逃げるぞ!」


 言うなりそいつらは逃げていった。
 痛みに耐える私を置いて……。
 私は囮にされたのだ、そう気付いた時にはもうケイブアントがすぐそこまで迫っていた。


「う……うあああああ!!!」


 そんな大声を出したのは産まれて初めてだったかもしれない。
 怒り、憎しみ、混乱、色々なものが混ざっていた。

 死ぬのが恐ろしくなった。
 生きたい、その一心で短剣を振り回した。
 だがそんなものは牽制にさえならない。
 私の剣では倒すこともできない。
 ケイブアントは甚振るように私を取り囲み、ジリジリと近づいてくる。


 もう終わりだ。
 汗と涙でまみれた顔は、いつもの無表情に変わった。

 走馬燈というやつだろうか、思いが次々に頭を巡る。
 でもその全てが怒られ、叩かれ、辛く、苦しいものばかり。
 なんて人生だったのか、自分でもそう思う。
 私の存在に意味などなく、その人生に意味はなかった。

 せめて最後に一度だけでも……



 そう思った矢先だった。


「サリュ、ミーティア、撃て! エメリー、イブキ、突っ込むぞ!」

「「「「はいっ!」」」」


 矢と魔法が私の周りにいたケイブアントを次々に撃ち抜いていく。
 疾風のようにかけつけた人たちは、私を背にして戦い始めた。


「メ……メイドさん……?」


 何人ものメイドさんが突如迷宮に現れ、私を守って魔物と戦い始めた。
 訳が分からない。
 ただ一瞬の気の緩みが生まれ、足の切り傷がズキンと痛んだ。

 それを支えてくれたのはメイドさんの主人のような真っ黒な基人族ヒュームの男性だった。
 私の背中に手を回し、壁際に座らせてくれる。


「大丈夫か? よく頑張ったな」


 彼はそう言って私の頭をグシグシと撫でると、ケイブアントと戦いに戻った。
 私はその背中を見続けた。
 撫でられた頭に手を乗せる。温かみを感じて。

 自然と涙がこぼれた。
 それは助けられた安堵感。
 絶望から生還したことへの喜び。
 それもあるだろう。

 でも違う。

 初めてだったのだ―――褒めてもらったのが。

 そして嬉し涙・・・というものも。


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