17 / 421
第一章 黒の主、世界に降り立つ
17:異端な迷宮探索
しおりを挟む■ミーティア・ユグドラシア 樹人族 女
■142歳 セイヤの奴隷 『日陰の樹人』
迷宮という場所は恐ろしいところです。
道は入り組み、魔物も多く、罠もある。
少しの油断は即座に死につながる世界です。
私はそう習いましたし、実際その通りだとも思います。
しかし迷宮への初挑戦から数日、私たちは毎日楽し気に探索をしています。
「やっぱ迷宮は魔物の数が段違いだな。集中して多く狩れる」
「ご主人様のおかげで私たちも強くなっているのが実感できています。ありがとうございます」
「いや、お前たちに狩ってもらえれば俺のCPも溜まるんだからお相子だ。正直、山賊狩りが一番効率いいと思ってたが、迷宮のほうがいいかもしれん」
「山賊は数に限りがありますしね」
「発見も困難ですし、人を殺すのは後味が悪いです」
「宝を持っている分、実入りは良いのかもしれないけどな」
そんな他人や迷宮組合員が聞けば不謹慎だと思われそうな会話をしながら探索をしています。
弱い魔物でもなるべく多く倒したいので、普通の組合員とは探索方法自体が違います。
すぐに次の階層に下りるような事はせず、なるべく階層を回り切ってから進む。
地図でマークされ危険とされている『魔物部屋』も、「CP大量確保のチャンスだ」と嬉々入っていきます。
私もサリュも最初は面食らいましたが、さすがに数をこなせば慣れてきます。
それにご主人様の<カスタム>により急激に成長しているのが分かるのです。
「ミーティアは<弓術>はとりあえず据え置きかな。<火魔法>はどうしようか」
「使えるようになれば便利だとは思いますが……」
私は『日陰の樹人』となった事で、得意だったはずの風魔法を失いました。
代わりに樹人族としては禁忌とも言える火魔法の適正を持ったのです。
ご主人様にステータスで確認してもらうまでその存在には気付きませんでしたが、火魔法は使ったことがありません。
まさか樹人族である自分が火魔法を使えるとは思わず驚いたものです。
それと同時に呪いによって身体を作り変えられたと改めて思わされました。
「うーん、とりあえず今回はステータスに振るか。【敏捷】でいいか?」
「はい、お任せします。……しかしご主人様は最初の時や悩んだ時には【敏捷】を上げる傾向がおありかと思いますが、何かこだわりが?」
「ああ、こういうステータス振る系ってさ、やっぱ【敏捷】とか【素早さ】とかを上げるのが一番良い、って俺の経験則……いや好みだな」
「そうなのですか? ステータスのお話をお聞きした時、てっきり【攻撃】や【防御】、【魔力】を上げるものだと思ったのですが……」
「【魔力】はともかく【攻撃】【防御】は二の次だな。だって【攻撃】上げなくても【敏捷】上げて攻撃速度を上げれば威力が高くなるだろうし、【防御】上げたところで当たれば痛いんだから【敏捷】あげて回避したほうがいいだろ?」
「なるほど」
「だから攻防共に有利な【敏捷】は最優先。それに【器用】も馬鹿にできない。エメリーやミーティアは特にな。これも攻撃・防御に直結してるから優先的に上げるつもりだ」
ステータスのお話は複雑で理解するのが非常に難しいです。
サリュは未だによく分かっていないそうですし、最初にお聞きしたエメリーさんやイブキさんも完全には理解できていないそうです。
それを理解し<カスタム>を使いこなしているご主人様。
その叡智は恐ろしくもあり心強くもあります。
結局はCPの割り振りをご主人様にお任せするのが現状です。
相談はしますが決定権はご主人様という感じでしょうか。
私を含め、奴隷の皆もそれで否はありません。
そうして徐々に階層を下りて行くと、逃げて来る探索パーティーとすれ違いました。
必死の形相で私たちの脇を抜けて行きます。
「イブキ、気配は?」
「はい。……先に魔物の群れ……それと一人襲われているかもしれません」
「急ぐぞ!」
『はい!』
急行すると、そこにはケイブアントに群がられ、今にも襲い掛かられそうな少女の姿がありました。
その少女は闇朧族。
おそらく数日前に組合で、仲間から責められていた少女だと思います。
私はご主人様の命により走りながらも弓を番え、少女の近くのケイブアント目がけて撃ちこんでいきます。
もともと弓は得意でしたが威力も精度も段違いです。
こうして素早く走れるのは【敏捷】を上げたおかげ。
走りながら射れるのは【器用】を上げたおかげです。
やはりご主人様の采配は素晴らしい。こうした事まで予期されていたのでしょう。
ケイブアントの群れを殲滅したところで、少女を保護しました。
「大丈夫か? 足の傷が深いな。サリュ、頼む」
「かしこまりました」
「ケイブアントにやられたのか?」
「……いえ……パーティーの人に……」
「何?」
サリュの治療を受けながらその少女――ネネはポツリポツリと話し始めます。
新しく組んだパーティーとのやりとり、メンバーが先行したこと、自分の察知能力が未熟で気付くのが遅れたこと、そして―――囮にされたこと。
涙を溜め、時に流しながらも泣き顔ではなく無表情。
まるで生きる事をやめたアンデッドのような瞳は、その辛さを物語ります。
私は思わず抱きしめたくなってしまいました。
「ゴミが……」
ご主人様が珍しく怒気を見せています。
非道な山賊や、横柄で粗暴な輩にも見せない怒りをそのパーティーメンバーに対して抱いている。
それは普段から近くにいる私たちでさえ寒気がするものでした。
サリュは尻尾がピンと立って毛を逆立てています。ゾワッとしたのでしょう。
「ネネ、歩けるか?」
「ん……大丈夫」
「とりあえず迷宮を出るぞ。それで組合に報告する。あいつらを罰する必要があるからな。それでいいか?」
「……」
ネネは俯いたまま返事をしませんでした。
報告したくない、罰を与えたくない理由があるのでしょうか。
「わ……私が報告したら、あの人たちは怒られる……それはいい。でも……もう誰も私とパーティーを組んでくれなくなる……」
報告はするべき、しかし問題提起した事でネネが厄介者の扱いをされるかもしれないと。
組合でそう思われたらもう誰もパーティーを組もうとは言ってくれないんじゃないか。
そうすると自分の生活はどうなってしまうのか。ソロでは迷宮に潜れない。
だったら報告しないでパーティーを解散するだけにしたほうが良いんじゃないか。
ネネはそうした不安を少しずつ語ってくれました。
時間はかかりましたが、臆病ながら思慮深く考えていると思います。
ご主人様も私たちもそれを聞いていました。
「じゃあ、俺たちとパーティー組むか」
「え……」
「パーティーって六人までだろ? 今五人だからちょうどいいじゃないか」
「……いい……の?」
ご主人様は私たちを見回し、いいよな? と聞いてきます。
もちろん私たちは頷きました。
「ご主人様のご随意のままに」
「奴隷仲間が増えるのですね、歓迎です」
「侍女としても教育しなければ」
「侍女服は私のサイズでよろしいでしょうか」
「えっ、ちょっと待てお前ら」
なぜかご主人様が慌てていらっしゃいます。
我々の仲間に入れるという事は女神様の使徒たるご主人様にお仕えするという事。
女神様の奴隷紋を刻み込めるという名誉をお与えになると、ネネをその一員に選ばれたという事です。
「いや待て。仲間=奴隷ってのはおかしい。ネネだって奴隷は嫌だろ?」
「ん……奴隷で……よろしく……お願いします」
「!?」
ほら、ネネも乗り気じゃないですか。
ご主人様はご自身の魅力、「使徒の奴隷」という引力のようものを失礼ながら分かっていらっしゃいません。
誰だってこの奴隷紋を見れば魅了されるでしょうに。
「なんか思ってた展開と違うんだが……」
頭を抱えていらっしゃいますが、我々は皆、思っていたとおりの展開だったと思います。
きっとあの時組合でネネが責められているのを見たのも運命だったのでしょう。
全ては創世の女神ウェヌサリーゼのお導き。
私は左手を見て、そう思ったのです。
7
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる