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第一章 黒の主、世界に降り立つ
20:イーリス迷宮を制覇しよう
しおりを挟む■エメリー 多肢族(四腕二足) 女
■18歳 セイヤの奴隷
イーリス迷宮へのラストアタック。
カオテッドへと向かう前、最後の挑戦で悔いの残らないようにと、長期間の迷宮探索を行っています。
挑戦の前日に色々と買い物をし、迷宮内での野営準備は万全。
MPポーションや大量の食材も確保した上での挑戦となりました。
しかしご主人様の<インベントリ>は本当に反則級のスキルだと改めて思わされます。
<カスタム>もそうですが、この<インベントリ>だけでも十分に便利すぎるスキルだと。
普通のマジックバッグでは買い溜めした食料もものによっては腐りますし、容量も限られます。
ところが<インベントリ>であれば劣化せず無制限に入るので、前日に作って置いた熱々のスープがそのまま飲めるのです。
これを他の組合員に見せれば、その規格外の探索風景に絶句する事でしょう。
ともかく、そうして挑んだ迷宮ですが、これまでの最高は四階でした。
話によればこの迷宮は全十階層。数年に一回くらい、名のあるパーティーによって制覇されているそうです。
そしてここを足掛かりにした英雄のようなパーティーは皆、カオテッドへと行ってしまう、というのがここ十年の傾向らしいです。
確かに近くに前人未踏の大迷宮があるとなれば、そちらに挑戦したくなるのも分かる気がします。
そうしたわけで組合にも深部のちゃんとした地図は置いていません。
大体のルートが高額な値段で売られているだけです。
お金持ちのご主人様はそれも買い求められました。
どうせ隅々まで探索するのだからなくても問題ないのでは? とも思いましたが、念には念をの安全重視だそうです。
その地図を目安に地下五階以降を探索していきます。
階層は徐々に広く、出る魔物も強く、罠も凶悪になっていきます。
ネネを仲間にし<カスタム>強化して良かったと本当に思いました。
探索に危な気なところがないのです。
私や皆も警戒はしていますし、イブキやサリュもネネ一人に任せず察知系スキルを使用していますが、ことごとく危険を未然に防いでいます。
私たちが作った詳細地図は組合で売るつもりでいます。
まぁ売れるかどうかも知りませんし、交渉次第でしょうが。
宝魔法陣からは様々なものが手に入りました。
地図の順路から大幅に外れたところを探索し、手に入れたものもあります。
武器は使えるものなら良いのですが、防具が出ても私たちでは活用できません。
私たちは侍女ですから戦闘服は侍女服です。当たり前です。
装飾品系の装備や消費アイテム類はありがたいです。
特に付与効果がついたものや、魔道具などもご主人様はお喜びになります。
さすがに<カスタム>で付与はできないでしょうし、確かに有用です。
そして九階で手に入れた希少アイテムの中に『スキルオーブ』がありました。
新たにスキルを覚えられる宝玉でオークションなどでは高値がつくような希少品です。
鑑定しなければ何のスキルを覚えられるかは分からないのですが―――
「あ、<飛刃>だって。俺もらっていいか?」
<インベントリ>に入れたら表示されたそうです。<飛刃>のスキルオーブと。
やはり<インベントリ>は規格外のスキルです。
<飛刃>はもちろんご主人様が付けました。否はありません。
ご主人様は<剣術>に加え<抜刀術>も持っていらしたので、抜刀からの<飛刃>を試されていました。
遠距離攻撃が使えることにお喜びのようです。
そうこうしているうちに十階まで辿り着きました。
ここまで八日間かかりました。
持ち込むアイテムや道中で手に入るアイテムも含め、本当に<インベントリ>が助かります。
なければ大荷物で挑みつつ、魔石などを捨てながら進むことになったでしょう。
彫刻の施された大仰な扉を開きます。
事前に情報を得ていたとはいえ、それはさすがに恐怖を覚えるものでした。
広い空間に鎮座する巨大な【迷宮主】。
鋼鉄の巨蜘蛛―――タイラントクイーン。
その周りには子蜘蛛でしょうか、ワサワサと数十匹の蜘蛛が居て、それらが私たち目がけて進んできます。
「作戦通りいくぞ!」
『はいっ!』
私たちも駆けだします。
クイーンの存在感は強烈ですが、子蜘蛛が多すぎるので私はその排除を優先します。
前衛にイブキ。クイーンを抑えつつ、後衛陣を守る役目です。
遊撃は私とネネが子蜘蛛を倒し、ご主人様はクイーンを相手取ります。
後衛のサリュは回復と、魔法攻撃では子蜘蛛を。
ミーティアは弓で子蜘蛛を倒しつつ、クイーンが糸を放った際、火魔法を使って燃やします。
ミーティアの役割が重要です。
クイーンの蜘蛛糸が固まっているイブキ・サリュ・ミーティアに放たれれば為す術ありません。
そうなれば全滅必至です。
なのでミーティアは弓よりも、いつ糸がきてもいいように備える方が多いです。
子蜘蛛は大したことありません。
動きも遅いし硬くもない。
イブキほどの力でなくとも、私やネネで倒せる程度です。
ただ数が多すぎるので、斬っても斬ってもキリがない。
一方でノシノシと近づく脅威のクイーン。
二階建ての家が迫ってくるようなものです。
おまけに黒光りする身体、手足はまさに金属。
「はあああっ!!!」
手始めに放ったイブキの大剣は「ガキン!」とそれこそ金属同士のぶつかり合いに聞こえました。
剣で斬れない、ダメージを与えられないことに「チッ!」とイブキの舌打ちが聞こえます。
もっと侍女として慎みを……と、そんな場合ではないですね。
どうしたものかと思った矢先。
―――スバッ!!!
「キィィィィィッッッ!!!」
クイーンの八本の足のうち、一本が切断されました。
ご主人様が子蜘蛛を倒しつつ側面から回り込み、クイーンに攻撃をしかけたのです。
「よしっ!」
手ごたえあり、とご主人様が吠えます。
ご主人様のステータスと神器である黒い剣―――刀というそうですが、それをもってすれば斬れると。
……しかしいかにご主人様と神器とは言え、イブキが全く斬れない相手を布でも斬るようにスパッと斬る。
それを見ると、やはり神の使徒という偉大さを改めて感じます。
もはやご主人様に斬れぬものなし。敵うものなし。
それが誇らしく感じます。
それからは圧倒的でした。
ご主人様に集中するようになったクイーンは斬られるばかり。
ミーティアはそれが分かると子蜘蛛の処理を優先するようになり、イブキも同様に子蜘蛛の処理に回ります。
結果としてさして時間はかからず、迷宮主の討伐は成りました。
バラバラになったクイーンの死骸は迷宮に消え、残されたのは【大きな魔石】【鉄蜘蛛の甲殻】【鉄蜘蛛の糸袋】【鉄蜘蛛の顎】【猛毒袋】と大量です。
さすがは迷宮主。
もちろん子蜘蛛のほうからも大量の魔石などが手に入りました。
そして部屋の中央には魔法陣が浮かび上がります。
これは迷宮を制覇した者だけが使える転移魔法陣。
ネネに確認してもらった上で、皆でそれに乗ると、景色は地上。迷宮入口の外でした。
「うわっ! なんだ急に!」
「く、【黒の主】とメイド軍団じゃねえか!」
「転移!? ってことはまさか制覇したのか!」
行き来する組合員の人たちに騒がれながら、私たちは迷宮組合へと足を運びます。
八日ぶりの組合ですので、受付の猫人族の女性は心配していたそうです。
毎日来ていたのに急に来なくなったと。
しかし事情を話すと―――
「えええっ! せ、制覇したんですか!? 八日で!? 六人だけで!?」
どうやら普通は複数のパーティーで、日数ももっとかけて挑むようです。
これでも迷宮の隅々まで探索して時間を使ったほうだと思いますが、魔物を倒す速度が違うのでしょうか。
十日以上探索し続ける人たちは毎日まずい携帯食しか食べないで過ごすのでしょうか。
それを思うと私たちはご主人様のおかげとしか言えません。
証拠としてクイーンの素材を見せました。
が、ご主人様はカオテッドで加工してもらい装備を作れるかも、と大魔石と猛毒袋だけを売ることにしました。
それでも喜ばれましたが、少し残念そうな顔もしていました。
同時に私たちが調べ上げた深部の地図も売ろうかという話になり、支部長まで出て来る大騒ぎになりました。
むしろクイーンの素材よりそっちの方が大事だったようです。
「おい、ほんとに売ってくれるのか、こんな詳細な地図を」
「ええ、もう使いませんしね」
「……ってことはお前らも行っちまうのか。カオテッドか?」
「そうですね。今回でイーリス迷宮は最後のつもりだったんで」
熊人族の支部長が残念がっています。
馬鹿にされてばかりだった基人族のご主人様がやっと認められたかという思いです。
それだけ組合にとって貢献したという事なのでしょう。
迷宮を攻略したという事で、組合員証の裏には「イーリス迷宮制覇」という文字が刻まれ、ランクはAになりました。
小規模な迷宮であるイーリスでAになるのかと思ったのですが、制覇する人はそうそう出ないし、六人・八日間という速度と殲滅力が評価されたそうです。
これで心置きなくカオテッドを目指せる。
私たちは笑顔で組合を後にしました。
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