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第二章 黒の主、混沌の街に立つ
26:嘘つきの″半面″
しおりを挟む■フロロ・クゥ 星面族 女
■25歳 半面
この世界は歪んでいる。
乱れ、間違い、正せずにいる。
星を詠むたびに、いつも同じ結果が出る。
【運命神リンデアルト】様にお尋ねしても【大地の神ディール】様にお尋ねしても、よいお答えが頂けることがない。
それが我の『星詠み』の時だけだと気付いたのは物心ついてしばらく経ってからだった。
星面族は『星詠みの民』。
大地の声を聞き、夜空の星々で運命を知る一族。
顔は産まれた時から白い仮面で覆われ、そこには星座のような模様が刻まれる。
ある者は『狩人座』、ある者は『オーガ座』、ある者は『大剣座』と。
口部のみが開いた『全面』の者は、大地の力や天候を詠み、農耕や治水、採掘の場で重宝される上、星詠みでの占いは人の運命を見定める。
ドボルダート鉱王国の王都に招かれて役職を得る者もいれば、占い師として旅をする者もいる。
一族の有力者たちは総じて『全面』だ。
これが『八面』や『七面』になると若干力は落ちる。
そして我は『半面』。右側にしか仮面はついていない。
それでも『二面』や『三面』に比べればマシだが、とても力を有しているとは言えない。
中途半端な仮面ではあるが、こと星詠みに関しては他人にないものを持っていたようだ。
まるで神の声が聞こえるような感覚で占いができた。
人を見るべく運命神様にお尋ねしても、大地の声を聞くべく大地の神様にお尋ねしても、占いの答えはちゃんと帰ってきた。
しかし、そのどれもが不吉、不安、不詳なものばかりだった。
両親を始め、周りの皆はそれを「間違っている」「神の声をちゃんと聞けていない」「出鱈目だ」と言う。
それはそうだろう、占いの答えが他人と違うのだから。
いくら我が「はっきりとした答えを聞いた」と言っても、他人は聞けないのだから。
まさしく村八分というやつだ。
成人を迎える前には完全に厄介者の扱いだった。
そんな時、族長宅の前に一族全てが集められた。
なんでも星詠みによる占いで、運命神様からかつてないほど明確な答えが頂けたらしい。
それは『全面』である族長にとっても初めての経験であったほどだと。
それだけ聞けば族長は歓喜するべきだろう。
神のお言葉を貰えるというのは星詠みの民にとって最も有り難いことなのだから。
しかし族長は苦々しい雰囲気を出して皆を見つめていた。
「我の星詠みにて【運命神リンデアルト】様と【大地の神ディール】様のお声を頂いた。神々のお声は我の中で確かに響き、それは面をして尚眩しく、大地と一体になるような感覚であった」
族長は感慨深げにそう語る。
それを聞く皆は、どこか羨まし気に、どこか不安気に見つめる。
「神は仰られた。『星の運命は破滅へと向かっている。星の流れは淀み、歪み、確実に滅びへと進んでいる。やがて大地は割れ、渇き、夜空から星々は消えるだろう』と」
それは族長の努めである『一族を占った星詠み』ではなく、『星の運命を一方的に聞かされた』ような内容だった。
皆の動揺が分かる。叫ぶ者もいる。泣く者もいる。
しかし我は何も感じなかった。
それは普段から我が星詠みで聞いている内容だからだ。
我が誰に言っても信じようとしなかった内容だからだ。
―――が、それから先は我も知らない内容だった。
族長の声に皆が耳を傾ける。
「しかし神はこうも仰られた。『異物たる【黒き者】は星の運命を変える力を持つ。大河の交わる地にてその者の僕となるべし』と」
族長の言葉は破滅の運命から逃れる術。
異物たる【黒き者】とは誰なのか。
大河の交わる地とはどこを指すのか。
僕とは一族の長として迎えろという事なのか。
皆が騒めく中、族長は続けた。
「神は僕となるべき者も選出された―――フロロ・クゥ、汝だ」
『!?』
「わ、我が……?」
一番後ろで聞いていた我は思わず声を出した。
皆が一斉に我を見る。
それはそうだろう、半面で嘘つきの我が、神に選ばれるなど誰も思わない。
だからこそ族長は苦々しい雰囲気だったのだろう。
我ごとき半端者に星の運命を背負わせるのかと。
ともかく我は旅に出る事となった。
一族の皆に奨励され鼓舞されての門出ではない。
絶対に何とかしろという忠告めいた厳しい言葉ばかりが投げかけられた。
構わん。
今まで我の言葉を信じなかった者の忠言など聞く価値はない。
我は我の意思で星の運命を変えるのみ。
そして族長への神託めいた星詠みがあった日、どうやら大地に変動があったらしいと後に知る。
まさしく『大河の交わる地』が出来たというのだ。
だからこそあの星詠みがあったのか、そう理解した我は急ぎ、その地へ向かった。
それは我がまだ成人したて、十五の頃の話。
まだその地がカオテッドと名の付く前の話だ。
我はそこで十年間、占い師として【黒き者】を探すことになる。
大きくなる街、人の多さは鉱王国の王都より多いかもしれない。
その中で一人を見つけるのは困難だ。
いや、【黒き者】がヒトとも限らない。
我は一番人通りの多い中央区で主に活動した。
ある時は通りで占いの店を出し、ある時は彷徨い歩き、ある時は組合の中で占いを行った。
この街が迷宮を中心としているのだから、強き者は迷宮組合に来るはず。
そう思った我は組合の中で定期的に占いの場を設けさせてもらったのだ。
組合員を占う日々。
我の占いは当たると評判だが、それが不安・不幸なものばかりなので一部には毛嫌いもされた。
誰だって予言めいた悪い事を言われると気分を害するものだ。
だからこそ回避できるよう我の占いに頼る人もまた多いのだが。
辛くもあるが少なくとも村に居るより良い日々だったと言えるだろう。
しかしそれが十年も続けば精神もすり減ってくる。
見えている終焉に抗う事も出来ず、ただ【黒き者】を探す日々。
疑いたくとも、自分自身の星詠みで間違っていないと判断できてしまう。
続ける以外の選択肢を持てず、見えない光明を、黒い光を探し続けて―――そしてやっと、その御方は現れた。
組合の中に入ってくるなり騒めく者たち。
誰もが彼らを見て驚き、疑問を持ち、ある者は笑い出す。
それはそうだ。
だって彼は―――武装したメイドを引き連れた、髪も瞳も服も、どれも真っ黒な基人族だったのだから。
「ガハハハ! おい見ろよ! 基人族が来たぜ!」
「メイド連れて一端の貴族様気取りかぁ!? 基人族のくせに!」
「武器なんか持ってまさか組合員のつもりかぁ? 殺されるだけだぞ、基人族なんだから」
「ハハハ! さすがにないだろ! 依頼人か?」
「基人族の依頼なんか受けねえぞ、俺は! どうせ金も持ってねぇだろうしなぁ!」
「違いねえ! アーッハッハッハ!」
彼はその声を無視するように受付へと向かう。
粗暴な組合員は当然のようにそれを邪魔した。
彼に手を出そうとする者、美しいメイドたちに手を出そうとする者。
―――その全てが次々に投げられた。
勢いよく外へと放り出されたそいつらは伏したまま起きる気配がない。
投げ飛ばされただけで気絶したと言うのか。曲がりなりにも戦闘を旨とする組合員が。
いや、そもそも力ある種族を投げ飛ばす基人族という事が異常。
力のないはずの、虐げられるはずの基人族が圧倒的な力を見せた。
信じられないその光景に組合の中は静まり返ったのだ。
『異物たる【黒き者】は星の運命を変える力を持つ』
間違いない。
確信を覚える。
いや、十年の歳月が「そうであって欲しい」と訴える。
組合の中の誰もが動こうとせず、言葉を発せない空気の中、我は彼に近づいた。
意を決して話しかける。
「もし、汝の運命を我に占わせてもらえないか?」
「ん? 占い?」
それが我と【黒の主】と呼ばれるご主人様との出会いだった。
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