カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第二章 黒の主、混沌の街に立つ

37:カオテッドに潜む悪意

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■ジンウ 鬼人族サイアン 男
■42歳 迷宮組合本部 衛兵団長


 俺はジンウ。迷宮組合で組織された衛兵団の団長をやってる。

 中央区は他区画と違って迷宮組合が統治管理している特殊な土地だ。
 領主もいなけりゃ、国の庇護もねえ。
 衛兵団を作って運用するのも組合の仕事ってわけだ。

 で、元組合員で傭兵めいた事をしていた俺らにお呼びがかかった。
 俺らだって組合には世話になったからな。
 組合が統治する中央区を守るのも、後輩たる組合員を守るのも否はなかった。

 しかしいかんせん元組合員・元傭兵の面々だ。
 力はそこらの衛兵以上にあるが、どうも『衛兵たる規律』ってのが足りねえ。
 まぁ俺もそこまで堅苦しいのは好きじゃねえんだが、人手が足りないのと頭が悪いのが玉に瑕だ。


 そんな中で俺は、頭が良い部類の副長から報告を聞いている。


「―――というわけで迷宮未帰還者が増えています。急に増えた感があるので一時的なものという可能性も捨てきれません。組合でも注意喚起を行っているそうですが」

「確かに拠点をカオテッドに移す組合員は増える一方だがなぁ……しかし嫌な感じもするな。かと言って俺達が迷宮内を警邏するわけにもいかん」

「ただでさえ他区画の動きが厄介ですからね。人手が足りません」


 渋面をする副長につられるように、俺も眉間に皺がよる。
 一見、平和で賑わうように見えるカオテッドも、一歩間違えれば破滅の危険を秘めている。
 それを防ぐ立場としては頭が痛い。


 カオテッドは四つの国と五つの統治がされている【混沌の街】だ。
 表立っては迷宮組合本部長と、各区画の四人の区長で統治されている。
 しかし当然のように裏で動く闇組織も多数存在している。
 それだけ栄えているって事だが、各国の組織が集結してるからタチが悪い。


 その中でも際立ってるのが四つ。各区画に一つずつ、強大な組織がある。


 南西区、獣帝国領の【鴉爪団】。
 こいつらは大きなヤクザ組織だ。
 チンピラめいた事から金貸し、賭博運営、商店へのみかじめ料徴収、奴隷売買、噂じゃ区長とも繋がってるって話しだが真偽は不明。
 最近、どこからか凄腕の用心棒を捕まえたらしく、もはや南西区に敵なしの状態だ。


 南東区、樹界国領の【宵闇の森】。
 【鴉爪団】が表も出歩くヤクザなら、こいつらは表に出ない完全な闇組織。
 樹界国に昔から蠢く、裏の支配者。しかし存在はすれども姿はなし。
 裏側で暗躍しあらゆる悪事に加担していると言われている。


 北東区、魔導王国領の【天庸てんよう】。
 少数精鋭の犯罪者集団。魔導王国内の街で暴れまわったり、建物を破壊したり、強者を殺したりという話を聞く。
 それがどれも、ほぼ単独での犯行で、捕まえられずにいるそうだ。
 そいつらのうち、一人でも中央区に来るようなら非常にまずい。


 北西区、鉱王国領の【ゾリュトゥア教団】。
 こいつらは闇組織でも何でもねえが、邪神ゾリュトゥアを崇めるカルト集団だ。
 街中で説法もやってるが、何か害されればやりすぎってくらい報復するらしい。
 噂じゃ禁忌の魔法やら呪術やら、やってるとも聞くが、本当だとしてもおかしくはない。
 問題は信者が増えてるって点だ。すでに他区画にも進出している。


 とまぁ、特にこの四つが危険なんだが、どこも狙いは中央区だろう。
 中央区を押さえれば自然と他区画も支配できる。
 ただでさえ迷宮資源で金も集まり、組合員で人も集まるのが中央区だ。
 他国だろうが、闇組織だろうが狙って当然とも言える。

 だからこそ警戒し、区内の警邏に人を回してるから人手も足りないんだ。
 この上、迷宮内の警邏なんて出来るはずもない。
 組合にはもっと「弱いから潜るな」とか「若すぎるから潜るな」とか「ちゃんと装備してないなら潜るな」とか言って欲しいんだが……。

 そうは言えない存在のせいで、言うに言えないんだろう。
 ヤツは良い意味でも悪い意味でも注目を集めすぎている。


「……あの基人族ヒュームは?」

「順調ですね。今日もフロロさんと少女たちを連れて、大量の魔石をとってきたそうですよ」

「はぁ……」


 その基人族ヒューム異常・・ってのはもういい、散々言われてるからな。
 種族詐欺だとか、防具付けろとか、メイドがかわいい爆発しろとか……。

 しかしだ。フロロってただの占い師で迷宮潜ったことないはずだぞ?
 おまけにろくな防具も着させずに年端もいかない少女を連れて潜ってるのも問題だ。

 狼人族ウェルフィン闇朧族ダルクネスは十五歳らしいからまだ分かる。
 ただあの兎人族ラビは八歳だろ?
 いやまぁ組合員自体には七歳からなれるから問題ないんだが、大迷宮に入れるんじゃねえよ。メイド服で。

 しかもそいつらも大活躍らしい。
 迷宮内で見かけたヤツの話じゃ、走りながらバッタバッタとなぎ倒していくらしい。
 もう【黒屋敷】とかいうあいつら全員、よく分からん。

 それで毎日のように大量の魔石とか手に入れてくるもんだから組合的には感謝しかしないそうだ。
 一回の探索で数回分は稼ぐらしいしな。

 あ、【黒の主】に対抗して奮起したヤツが無理して未帰還になってるのか?
 時期的にもだいたい合ってるかもしれん。
 ……だからと言って【黒の主】に自重しろとは言えんがな。金を稼ぐ組合員は組合にとって宝だし。


「とりあえず【黒の主】は放っておくか。あいつらがいると組合内が静かになるのは事実だからな」

「敵愾心も持って行ってくれるので、粗暴な組合員同士の喧嘩も減っています」

「ああ、俺達は当面の間、中央区に妙な輩が混じっていないか警邏を重点的に行う。分かりやすいのは【鴉爪団】と【ゾリュトゥア教団】だが、他の連中も中央区狙いなのは間違いないんだ。そのつもりでいてくれ」

「了解です」


 副長が部屋を出ていく。
 窓から見える景色を眺め、増え続ける人を見下ろす。
 俺は改めてこの街のデカさ、そしてデカさ故の危険性を再認識していた。


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