38 / 421
第二章 黒の主、混沌の街に立つ
37:カオテッドに潜む悪意
しおりを挟む■ジンウ 鬼人族 男
■42歳 迷宮組合本部 衛兵団長
俺はジンウ。迷宮組合で組織された衛兵団の団長をやってる。
中央区は他区画と違って迷宮組合が統治管理している特殊な土地だ。
領主もいなけりゃ、国の庇護もねえ。
衛兵団を作って運用するのも組合の仕事ってわけだ。
で、元組合員で傭兵めいた事をしていた俺らにお呼びがかかった。
俺らだって組合には世話になったからな。
組合が統治する中央区を守るのも、後輩たる組合員を守るのも否はなかった。
しかしいかんせん元組合員・元傭兵の面々だ。
力はそこらの衛兵以上にあるが、どうも『衛兵たる規律』ってのが足りねえ。
まぁ俺もそこまで堅苦しいのは好きじゃねえんだが、人手が足りないのと頭が悪いのが玉に瑕だ。
そんな中で俺は、頭が良い部類の副長から報告を聞いている。
「―――というわけで迷宮未帰還者が増えています。急に増えた感があるので一時的なものという可能性も捨てきれません。組合でも注意喚起を行っているそうですが」
「確かに拠点をカオテッドに移す組合員は増える一方だがなぁ……しかし嫌な感じもするな。かと言って俺達が迷宮内を警邏するわけにもいかん」
「ただでさえ他区画の動きが厄介ですからね。人手が足りません」
渋面をする副長につられるように、俺も眉間に皺がよる。
一見、平和で賑わうように見えるカオテッドも、一歩間違えれば破滅の危険を秘めている。
それを防ぐ立場としては頭が痛い。
カオテッドは四つの国と五つの統治がされている【混沌の街】だ。
表立っては迷宮組合本部長と、各区画の四人の区長で統治されている。
しかし当然のように裏で動く闇組織も多数存在している。
それだけ栄えているって事だが、各国の組織が集結してるからタチが悪い。
その中でも際立ってるのが四つ。各区画に一つずつ、強大な組織がある。
南西区、獣帝国領の【鴉爪団】。
こいつらは大きなヤクザ組織だ。
チンピラめいた事から金貸し、賭博運営、商店へのみかじめ料徴収、奴隷売買、噂じゃ区長とも繋がってるって話しだが真偽は不明。
最近、どこからか凄腕の用心棒を捕まえたらしく、もはや南西区に敵なしの状態だ。
南東区、樹界国領の【宵闇の森】。
【鴉爪団】が表も出歩くヤクザなら、こいつらは表に出ない完全な闇組織。
樹界国に昔から蠢く、裏の支配者。しかし存在はすれども姿はなし。
裏側で暗躍しあらゆる悪事に加担していると言われている。
北東区、魔導王国領の【天庸】。
少数精鋭の犯罪者集団。魔導王国内の街で暴れまわったり、建物を破壊したり、強者を殺したりという話を聞く。
それがどれも、ほぼ単独での犯行で、捕まえられずにいるそうだ。
そいつらのうち、一人でも中央区に来るようなら非常にまずい。
北西区、鉱王国領の【ゾリュトゥア教団】。
こいつらは闇組織でも何でもねえが、邪神ゾリュトゥアを崇めるカルト集団だ。
街中で説法もやってるが、何か害されればやりすぎってくらい報復するらしい。
噂じゃ禁忌の魔法やら呪術やら、やってるとも聞くが、本当だとしてもおかしくはない。
問題は信者が増えてるって点だ。すでに他区画にも進出している。
とまぁ、特にこの四つが危険なんだが、どこも狙いは中央区だろう。
中央区を押さえれば自然と他区画も支配できる。
ただでさえ迷宮資源で金も集まり、組合員で人も集まるのが中央区だ。
他国だろうが、闇組織だろうが狙って当然とも言える。
だからこそ警戒し、区内の警邏に人を回してるから人手も足りないんだ。
この上、迷宮内の警邏なんて出来るはずもない。
組合にはもっと「弱いから潜るな」とか「若すぎるから潜るな」とか「ちゃんと装備してないなら潜るな」とか言って欲しいんだが……。
そうは言えない存在のせいで、言うに言えないんだろう。
ヤツは良い意味でも悪い意味でも注目を集めすぎている。
「……あの基人族は?」
「順調ですね。今日もフロロさんと少女たちを連れて、大量の魔石をとってきたそうですよ」
「はぁ……」
その基人族が異常ってのはもういい、散々言われてるからな。
種族詐欺だとか、防具付けろとか、メイドがかわいい爆発しろとか……。
しかしだ。フロロってただの占い師で迷宮潜ったことないはずだぞ?
おまけにろくな防具も着させずに年端もいかない少女を連れて潜ってるのも問題だ。
狼人族と闇朧族は十五歳らしいからまだ分かる。
ただあの兎人族は八歳だろ?
いやまぁ組合員自体には七歳からなれるから問題ないんだが、大迷宮に入れるんじゃねえよ。メイド服で。
しかもそいつらも大活躍らしい。
迷宮内で見かけたヤツの話じゃ、走りながらバッタバッタとなぎ倒していくらしい。
もう【黒屋敷】とかいうあいつら全員、よく分からん。
それで毎日のように大量の魔石とか手に入れてくるもんだから組合的には感謝しかしないそうだ。
一回の探索で数回分は稼ぐらしいしな。
あ、【黒の主】に対抗して奮起したヤツが無理して未帰還になってるのか?
時期的にもだいたい合ってるかもしれん。
……だからと言って【黒の主】に自重しろとは言えんがな。金を稼ぐ組合員は組合にとって宝だし。
「とりあえず【黒の主】は放っておくか。あいつらがいると組合内が静かになるのは事実だからな」
「敵愾心も持って行ってくれるので、粗暴な組合員同士の喧嘩も減っています」
「ああ、俺達は当面の間、中央区に妙な輩が混じっていないか警邏を重点的に行う。分かりやすいのは【鴉爪団】と【ゾリュトゥア教団】だが、他の連中も中央区狙いなのは間違いないんだ。そのつもりでいてくれ」
「了解です」
副長が部屋を出ていく。
窓から見える景色を眺め、増え続ける人を見下ろす。
俺は改めてこの街のデカさ、そしてデカさ故の危険性を再認識していた。
7
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる