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第二章 黒の主、混沌の街に立つ
39:魔導王国の第三王子
しおりを挟む■メルクリオ・エクスマギア 導珠族 男
■72歳 クラン【魔導の宝珠】 クランマスター
僕の名はメルクリオ。エクスマギナ魔導王国の第三王子だ。
しかしここカオテッドでは僕は第三王子ではない。
ただのAランククランのクランマスター、ただの迷宮組合員、ただのメルクリオだ。
魔導王国の王家は魔力の多さや、行使能力、制御能力、新魔法の開発など、とにかく魔法使いとしての優秀さが評価を分ける。
魔法というものに傾倒しすぎているから余計な争いを招く。
僕もそんな醜い争いから逃げ出した一人だ。
王都でそれに巻き込まれるよりも、一人の組合員として生きることを選んだ。
―――と、そんな風に公言はしている。
実際、跡目がどうとか能力がどうとか言っているのは貴族連中で、王家の中だけで見れば至って平和だ。
僕が王都を離れる理由を、誰もが受け入れやすい形にしただけに過ぎない。
まぁ、わざわざそんな理由を用意する必要があるって事だ。
僕はその為に組合員としてカオテッドにいる。
組合員である以上、大迷宮に潜らない手はない。
ただでさえクランがAランクなので注目は浴びるし、僕が魔導王国の王族だという事も周知されている。
そう仕向けたのは僕なのだけれど、僕自身、強くなる必要があるのだから迷宮での魔物狩りは望むところだ。
しかし最近は僕への注目も減ってきた。
ようやく皆に周知が行き届いて、王子としてではなく組合員として認められたか。
……そう思ったら、どうも違う。
僕以上に注目すべき人……いや、人たちが話題の中心になっているのだ。
そして僕も実際に見て驚いた。
Aランククラン【黒屋敷】のクランマスター【黒の主】とそのメイド達。
種族も風貌も、迷宮の探索に関しても『異常』の一言。
見て驚き、知って驚き、調べて驚く。なんて連中だ。
組合員の皆からはすでにアンタッチャブルの扱いをされている。
絡んだら投げられる。異常過ぎて声もかけられない。
そんな空気だ。
しかしもしかすると僕の協力者になれるかもしれない。
誰にも属さない彼らの存在は僕にとって有利に働くかもしれない。
後日、迷宮帰りの彼らを見つけた僕は意を決して声をかけた。
「やあ、相変わらずすごい魔石の量だね」
「ん? あんたは……?」
「ああ、初めまして。僕はメルクリオ。クラン【魔導の宝珠】のクランマスターだ」
「おぉ、俺は―――」
「メルクリオ殿下!?」
「ん? どうしたミーティア」
ミーティア? 【黒の主】にそう呼ばれたメイドを見る。
日陰の樹人……ミーティア……ああっ!
「ミーティア姫ですか!」
「ええ、お久しぶりです、殿下」
「お久しぶりです、気付かずにご挨拶遅れまして申し訳ありません」
「えっ何? どういう事?」
罪人の見た目とメイド服で、全く分からなかった。
ピンと伸ばした背筋、臍を隠すように組まれた両手、その立ち振る舞いは完全に一流所のメイドだった。
まさか『神樹の巫女』のミーティア姫様が【黒の主】のメイドになっているだなんて……。
以前、樹王国に伺った時にご挨拶した。
それが十年以上も前になる。
僕も導珠族だからあまり見た目は変わっていないだろうが、このような組合員としての恰好をしていれば気付くはずもないか。
ミーティア姫は【黒の主】――セイヤというらしい――に僕の事を説明し、逆にミーティア姫と彼の事を聞いた。
樹界国の政変については知っている。
僕が王都を出たあとの事だから詳しいわけではないが、まさかミーティア姫が追放され奴隷となっていたとは……。
そしてセイヤの人となりも聞いた。
「創世の女神ウェヌサリーゼ……! 女神の使徒……!」
「ええ、素晴らしい紋でしょう?」
「ちょっと声を抑えろお前ら、左手を見せるんじゃない、ここ組合だぞ」
なんという事か。
ミーティア姫をも従えた女神の使徒。
これは幸運、僥倖と見るべきなのだろう。
「改めて僕の事はメルクリオと呼んで欲しい。王子ではなく一人の組合員としてね」
「……ああ、分かった。こちらもセイヤと呼んでくれ」
「君に声をかけて正解だったよ。色々と予想外だったが」
「こっちは声かけられるだけで予想外さ。親しい組合員なんて誰一人いないからな」
彼はそう言って苦笑いする。
しかし実際に話してみると全然悪い男ではない。
ミーティア姫が従うほどの男なのだから当然なのかもしれないが。
「なにかあったら遠慮なく言ってくれ、来たばかりだったら多少の知恵も貸せるだろう」
「ああ、よろしく頼む。Aランクの先輩を頼らせてもらうよ」
……一応、言っておくか。
「この街は裏で動く連中が多い。セイヤ達は目立つから狙われないとも限らん。十分気を付けることだ」
「闇組織か。ああ、忠告感謝する。気を付けるとするよ」
笑いながらそう返す彼に軽く手を上げ、その場を後にした。
あれは甘く考えている様子ではない。
狙われようとも絶対的な自信がある―――そう感じた。
■デゾット 樹人族 男
■388歳 【宵闇の森】幹部
「あの【黒の主】とかいう基人族は何なんだ」
「ああ、いくらこっちが掃除してもヤツら、毎日とんでもねえ量を狩りやがる」
「完全に邪魔だな。なんでこの時期にあんな異物が来るんだか」
窓も締め切られた薄暗い部屋で、俺達は話している。
進捗の報告をしたい所だが、皆から出て来るのはいつも例の連中の事ばかりだ。
クラン【黒屋敷】。【黒の主】とメイド軍団。
存在自体が珍妙で滑稽で異色。
しかしその実力はすでにはっきりしている。
毎日毎日、とんでもない量の魔石を納品してやがる。
どれほどの速度、どれほどの殲滅力があればそれが可能なのか。
少なくともAランクに偽りはないし、他のAランククランに同じ真似が出来るとも思えん。
俺達の計画には邪魔すぎる存在。
ならば何かしらの対処をしたいところだが……
―――と、そこへメンバーの一人が帰ってきた。
組合内で張らせていたヤツだ。
何やら慌てた様子でその表情は険しい。
「た、大変だ。大ニュースだ」
「どうした落ち着け、何があった」
「組合でメルクリオと【黒の主】が接触したんだ」
なに? 部屋にいる全員が真剣な顔つきになる。
魔導王国の第三王子が何だって【黒の主】に……。
まさか興味本位というわけじゃあるまい。
その内容を聞きたかったところだが、そいつの言いたかった事は別件だった。
その時の話で分かったんだが、と、そいつは続ける。
「【黒の主】が従えてる『日陰の樹人』のメイド、あのミーティアらしい!」
「なんだと!?」
思わず席を立った。周りの連中も驚きを隠せない。
樹界国の第二王女、『神樹の巫女』であったミーティア。
国外追放の上、奴隷とされて獣帝国に売られたはずだ。
それがなぜ【黒の主】のメイドになり、なぜこのカオテッドに居るのか……。
しかもAランクの組合員として大迷宮に潜っている。
そんな馬鹿な話があるか。
「チラッと聞こえたんだ……あの基人族は『女神の使徒』だって……」
『!?』
「なにか分からねえ力を持ってるのかもしれねえ! だからミーティアが一緒に居るのかも……」
そう言ってそいつは険しい顔のまま項垂れた。
女神の使徒、ミーティアの存在、分からねえことは積もる一方だ。
とことん調べる必要がある、まずは……
「拠点に報告する。おそらく―――」
早く動けと命令が出るだろう。
部屋の全員が神妙な顔つきで頷いた。
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