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第二章 黒の主、混沌の街に立つ
40:陰謀の鴉爪団、消沈の幼女
しおりを挟む■ディザイ 獅人族 男
■40歳 鴉爪団 頭領
金貸しのボウルを消したと思われる基人族。
こいつの事はすんなり情報が集まってきた。
この街にいる基人族なんか一人しかいねえし、目立つんだから当然だ。
しかし調べれば調べるほどに「これ本当か?」と疑いたくなる。
だってそうだろう?
本人含めて連れまわしてる連中も種族・容姿・服装どれもおかしい。
おまけにAランク組合員で迷宮じゃとんでもない活躍をしているそうだ。
【黒の主】率いる【黒屋敷】って知らない組合員がいないレベルだとよ。
さらにはボウルが目を付けてたヒイノって兎人族とその娘、さらには組合専属占い師だったフロロまで奴隷だかメイドだかにして一緒に迷宮に潜ってると。
そんで基人族のくせに中央区北住宅地の一等地に豪邸持ってて、そこでヒイノとかも一緒に住んでいるらしい。
な? 「これ本当か?」だろ?
報告に来たヤツを殴りそうになっちまったよ。
しかし仮に噂が本当だとして、解せない点がいくつもある。
そもそも基人族にAランクどころか組合員になれるような戦闘力はないはずだ。
これはもう種族としての常識。
唯一の例外は御伽話にある【一万年前に現れた勇者】だが、そんなもんウェヌス神聖国の天使族や基人族だって信じちゃいねえだろ。
御伽話は現実じゃねえから御伽話だ。
じゃあなんで組合員になれてるのかって話だが、考えられるのは二つ。
一つは金で良い装備か魔道具を揃えている。
まぁ基人族が金持ってる時点でおかしいが、まだ現実味がある。
もう一つが戦えるメイドに任せている。
鬼人族か狼人族か闇朧族か樹人族あたりか。
ただ角折れだったり、白い忌み子だったり、罪人だったりと本来の種族に比べ戦力が低下しているか劣っているはずだ。
闇朧族にしても若すぎる。
そんなわけでやはり前者が有力。
あの家を持ってる時点で金はあるみたいだしな。
だったら逆にチャンスじゃねえか?
金を持ってて、良い装備か魔道具を持ってて、本人たちに戦闘力はない。
ちょうど山賊どもが消えた補填を考えてたところだ。
ヤツらを消して、全て奪い、あの家も確保できりゃ中央区への足掛かりになるじゃねえか。
おまけにボウルとこっちの繋がりも消せる。
メイドどもはどれも美人らしいから高値で売れる。
一石何鳥になるかも分からねえほどだ。
―――と、そう考えていたところに右腕のロウイが報告にやって来た。
「例の【黒の主】たちが南西区に来たそうで、そこでうちの連中ともめたらしいです」
「はぁ? そりゃあれか、俺らが「【黒の主】を調べ上げろ」って言ったからか?」
「でしょうね。功を得ようと先走ったんでしょう」
「馬鹿ばっかりだな。で、どうなった?」
話によれば【黒の主】と数人で南西区へと入ってきた。
そこで見つけたウチの下っ端どもが「てめえが【黒の主】か、ああん?」と絡んだらしい。
聞くまでもねえだろ、そんな特徴的な連中、二つとねえよ。
んで、無視しようとした【黒の主】に殴りかかったところを投げられて気絶させられた。
投げたのはヒイノとその娘、そしてフロロらしい。
決定だな。
やつらやっぱり何かしらの魔道具を持ってやがる。
おそらく身体能力を急激に上げるようなやつだ。
でなきゃ戦えないはずのあの母娘とフロロが、下っ端とは言えウチの連中を投げるだなんて出来ねえ。
投げたのが鬼人族とかだったら分かるが、少なくともヒイノの娘が投げるってのはおかしい。
「ちなみにヒイノとフロロに投げられたヤツは気絶だけでしたが、ヒイノの娘に投げられたヤツだけが重症です」
…………魔道具の質に差があるのか。
ともかくこうなったら早めに攻めたほうが良さそうだな。
馬鹿が絡んだことで俺らが【黒の主】を探ってるってのはバレただろう。
金の力で戦力を整えられる前に仕掛けたほうが良い。
「ロウイ、強襲部隊を準備させろ」
「! ……決行は?」
「今夜だ」
承知しました、と部屋を出るロウイを見送ったと思ったら別のヤツが入ってきた。
空気も読まず楽しそうなツラしてやがる。
「ディザイ~、酒がなくなったんだが」
「どんだけ飲むんだよ、お前は! まだ足りねえのか!」
「なんだ? 酒飲ませる代わりに用心棒やれっつったのはそっちだろうが」
「チッ! わぁったよ! そこにあるの樽ごと持ってけ!」
「おお~んじゃありがたく貰うわ」
こいつは……強襲部隊に入れるのはダメだな。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「残念だったなぁ」
「申し訳ありませんご主人様」
「別にヒイノは悪くないだろ。俺が目当てっぽかったし」
ヒイノが作ったパンを知り合いの店に売りに行こうと思ったんだが、南西区に入って早々絡まれた。
どうも金貸しの一味って言うより、バックにいるであろう【鴉爪団】とかいうマフィアっぽかった。
ヒイノは借金取りの一連から俺が目を付けられたと思って恐縮している。
まぁ俺としては絡まれ慣れてるからなぁ。悲しいことに。
別に気にしちゃいないんだが。
ともかくこの状況で売りに行っても、持って行った先の店が目を付けられる。
やたら動かないほうがいいだろうという事で、売りに行くのはキャンセルした。
焼いたパンは<インベントリ>に入れておいて俺たちで美味しく頂きましょう。
と、慰めているんだが、ヒイノはともかくティナも元気がない。
「ティナも売れなくて残念なのか?」
「……いえ、手加減がうまく出来なくて」
「ハハハッ」
確かにティナが投げたヤツだけドグシャアアア!!! ってすごい音したからな。
死んでなきゃいいんだが。
まぁ殺したところでチンピラだし、マフィアだし、別にいいんだけど、ティナに人殺しはさせたくないしなぁ。
やっぱステータスの上昇を感覚にアジャストさせるのは慣れがいるな。
これからも上げ続ける予定だし。
ティナにも経験的な意味で積極的に迷宮に潜らせたほうがいいかもしれない。
俺はティナの頭を撫でつつ喋る。
「ティナはよくやったぞ。でも力加減を覚えるならもっと練習しなきゃな。今度また一緒に迷宮行くか」
「! はいっ!」
「よしよし」
うん、元気になったようだ。
ティナは真面目に剣士目指してるからな。
敏捷高い剣士ならレイピアとか持たせてもいいかもしれん。
「八歳の女子に言うセリフか。聞く人が聞けば死刑宣告か拷問だぞ」
「いいじゃないかフロロ、現にティナは喜んでる。な?」
「はいっ! 行きたいです!」
「ご主人様、私も一緒にお願いします」
「ヒイノはティナを守らないといけないからな、当然一緒に連れて行くよ」
「ありがとうございます」
ヒイノも笑顔になった。
迷宮で発散させればいいと思うよ。
「おかしい……我の感覚が一番アジャストしてない気がする……」
「ん? フロロも練習するってことか?」
「……魔物部屋マラソンじゃなければいいぞ」
辛い思い出だったようだ。
安心してくれ、マラソンじゃなくて普通に魔物部屋に行くだけだ。
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