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第三章 黒の主、樹界国に立つ
70:後始末は大々的に、密やかに
しおりを挟む■ディセリュート・ユグドラシア 樹人族 男
■502歳 ユグドル樹界国前王 ミーティアの父
儂は今、息子フューグリスの血で染まった玉座にいる。
妻のロージアはポル殿と共に解放された奴隷のケアに努めている。
儂のそばにはネネ殿が控え、目を光らせている。
というのも、騒ぎを聞きつけた王城の者たちがどんどんと玉座の間に集まってきているのだ。
フューグリスが王となって、かつて儂を慕い、共に国を盛り立ててきた者たちは、ある者は降格し、ある者は失脚し、ある者は排除された。
フューグリスに嫌々従っていた者たちも大勢いる。逆らえばどうなる事かと。
それが今、こぞって儂の元へと馳せ参じたのだ。
「陛下! よくぞご無事で!」
「この時を心待ちにしておりました!」
「我らに力があればこのような事には……」
「お助けできず申し訳ありませんでした」
喜ぶ者、泣き出す者、平伏したまま顔を上げない者、様々だ。
中には儂でも一目で分かるような親フューグリス派の者もいる。
「おお、陛下こそが誠、樹界国の王であらせられ―――」
「私はフューグリスめに脅されていたのです―――」
などと宣う輩もいる。
かつての儂ならば放置していたであろう。
こんな者でも国を動かすには必要であると。
そしてその結果が今だ。
もはやこの玉座は息子の血で汚れている。
今は「うむ」とだけ言って下がらせる。
後で見ておけ、完全に粛清してやる。そう心の中に誓う。
しかしそんな輩はまだマシな方だ。
喜ぶフリをして近づき、儂を殺そうとする者もいる。
親フューグリス派の中でも狂信的な連中だ。
「これはこれはディセリュート陛下、よくぞご無事で―――死ねぇい!―――ぐあああっ!」
ネネ殿が手練れだという事はミーティアからも聞いていたし、王城に入ってからもこの目で見た。
闇朧族が暗殺者として有名な一族だと言うことも知っている。
しかしこれだけ小さな少女が、メイド服を着てこの強さだと誰が思うだろうか。
一番身近にいる儂が、いつネネ殿が近づいて、いつ投げ飛ばしたか分からないのだ。
周りの連中は「襲い掛かったと思ったら自分から飛んで行って気絶した」としか分かるまい。
儂が反撃したようにも見えず、ネネ殿が動いた様子も見えないのだから。
「ネネ殿、恩に着る」
「ん……任せて」
小声でそう話す。なんとも頼もしい。
出来ればこれからも傍仕えとして雇いたいところだ。
まぁ使徒様のお抱えである以上、横取りのような真似もできんが。
ともかくそうして集まる中、降格させられた元近衛兵長や元騎士団長に続々と指示を飛ばす。
説明はあとだ。
この初動がどれだけ早く動けるかで国の未来が決まる。
使徒様が動いて下さっている今、それを無に帰すような事は絶対にしない。
「フューグリスが囲っていた施設の奴隷が解放されているはずだ! 急ぎ保護しろ! 警備兵がごねたら儂の名で捕らえてかまわん! フューグリスが死んだ事も伝えろ! それで歯向かうようならば殺せ!」
「ハッ!」
「神殿に連絡しろ! 大司教ズールはもういない! 現時点をもってサントールを大司教に復帰させる! 直ちに徴税の派遣を停止、帰還させろ! 神殿騎士団もサントールの意をもって一新させるよう伝えろ!」
「ハッ!」
「宰相ゲルルドと『偽りの巫女』ユーフィスの行方を調べろ! 王都は封鎖だ! 絶対に取り逃がすな!」
「ハッ!」
「森林の伐採は『偽りの神託』によるものであった! 現時点をもって即刻中止! 直ちに伐採業者及び担当衛士に伝えよ! 神樹についても同じだ! 聖域の森に入るなど言語道断!」
「ハッ!」
「王都の暴動及び混乱が予想される! 見回り衛兵への通達を! それと各組合長を呼んで来い! 周知徹底させる!」
「ハッ!」
儂が王位に付いてから数百年、いまだかつてここまで声を張り上げ、矢継ぎ早に指示を出したことがあっただろうか。
ふとそんな風に思い情けなくなる。
ここまでの事態に陥らなければ動けない愚鈍な王であったと。
寿命八百年ほどと言われる樹人族の弊害。
儂も国も急激な変化を嫌い、考え行動に移すことが遅く、どことなく長い年月に身を任せてしまう。
一人の王位、一つの体制が長期間に及ぶのが当たり前。
それに異を唱えるフューグリスのような者が出て来るのも当たり前。
そしてそれを「当たり前」と放っておいたのが今、この現状だ。
しかしもはや予断は許されん。
例え民意が離れようとも、迅速に動き、急激に変化させる事が重要だ。
息子の尻ぬぐい? いや違う。
これは儂が犯した罪。
儂の罪によって国が荒れ、民が苦しんだ。
儂がこうして動くのは王だからではない。罰だからだ。
出来うることならば、全てが片付いた時、儂は『日陰の樹人』の呪いを自ら受けたいと思う。
それで許されるとも思えないし、それが許されるとも思えないが。
■ダダルゴ 妖魔族 男
■???歳
俺は妖魔族のダダルゴ。
魔族連中の伝達役みたいな事をやりながら、他人の悪事を見るのが趣味な男だ。
自分の手を汚さず、常に高みの見物。
傍観者は最高だ。勝手に暴れて勝手に死んでいくって演劇を見てるようなもんだ。
で、最近何かと話題の樹界国にいるんだが……。
「あー、あー、ペイリーズに続いてスラメアまでやられちまったよ。なんだあの基人族とメイドは。あいつ前にもピオソニーテのスタンピード潰したやつだろ多分」
以前にイーリスの街を潰そうとしたスタンピード計画。
地竜まで引っ張り出して襲わせようとしたのに、それを台無しにしたのも基人族とメイドだった。
<千里眼>で見ているから遠目ではあるが、まぁ間違いなく同じやつだろ。
んで今度はせっかく樹界国が面白いことになってんのに、やつらのせいで台無しだ。
政変、重税、集団奴隷化、森林伐採、そしていよいよ神樹伐採かって所でこれだよ。
クライマックスまであと少しだったんだが。
金の亡者みたいな大司教を魅了していた淫魔族のペイリーズも殺された。
選民思想の馬鹿王にとり憑いた幽魔族のスラメアも殺された。
どっちも殺ったのは黒い服着た基人族とそのメイド。
基人族どもが囲われている【ウェヌス神聖国】は魔族が近づきにくい。
だけど興味本位で行ってみたことがある。
天使族の目を掻い潜ってな。
そこで見た基人族はなるほど『世界最弱種族』と言われるだけあると思った。
大人の男が武器を持って、ようやくゴブリンを一体殺せるかどうかってレベルだ。
こりゃ何の価値もないな、と興味をなくしてすぐ離れたんだが……
ところがこいつは何だ、と。
種族どうこうを抜かしても、明らかに強い。
俺も<千里眼>使わなきゃ恐ろしくて近寄れないほどだ。
近寄れば瞬殺されてもおかしくないと。
クライマックスでそんな異物が来ちまうとは運がない。
演劇の乱入は時に面白いんだが、時に迷惑なんだよな。
で、その演劇の出演者が隣にいる。
「良かったのかい? あとちょっとって所だったのに抜け出して」
「ふふふ、もう十分に楽しみましたとも。出来れば神樹が伐られる所を見たかったですが、まぁ良いでしょう」
「……その変な喋り方は化けるの止めても続けるのかい? ゲルルド」
「ふふふ、宰相であった期間が長かったものでクセになってましてな。確かに妖魔族らしくはありませんがご容赦下さい」
「まーいいけどさー」
何百年も人のフリしてると性格まで変わっちまうってのはよく聞くからな。
ただちょっと気持ち悪いだけだ。
「んで、お前これからどうするんだ?」
「ふふふ、以前からお誘いがあったのでね。そちらへ行こうかと思ってますよ」
「お誘い? 魔導王国、鉱王国、それとも……」
「ええ、カオテッドへ」
あーそっちかー。
なんか最近すっかり話題の中心だなー。
たった十年しか経ってない街なのに。
俺も気になるところだが……魔導王国も気になるんだよなー。
さて、どっちの『演目』が面白いものか。
じっくり選ぶとするかね。
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