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第三章 黒の主、樹界国に立つ
76:おかえりなさいませ、ご主人様
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
樹界国から続く街道を進み続け、やっと見えて来た果てしなく長い第二防壁。
壁が見え始めてからいくら進んでも一向に辿り着けないのは、獣帝国側から初めて訪れた時を思い出す。
遠近感が狂うほど大きな街。
カオテッドよ、わたしは帰ってきた。
ごめんなさい、言いたかっただけです。
しかし長旅だった事を考えると感慨深い。
エメリーやイブキたちとこれだけの期間離れたのも初めてなので、心配もある。
みんな無事に過ごせているだろうか。
怪我とか……は、まぁサリュがいれば大丈夫か。
病気とか……も、サリュで大丈夫か。
サリュを置いて来て正解だな、俺。
「やっと着いたのですー!」
「頑張りましたね、ポル」
「ん……よくやった」
はしゃぐポルを二人がボフボフしてる。
あの頭って言うか笠って言うか、撫でると気持ちいいんだよな。クセになる。
それはともかく帰り道はポルも頑張った。
迷宮よりは効率落ちるものの、なんだかんだレベルも上がり、良い<カスタム>が出来たんじゃないかと思う。
そんな三人を伴って、カオテッドに入る。
南東区は相変わらず街路樹が多く、樹人族も多い。
ここだけ切り取ると、まさに樹界国領そのままだ。
時刻は昼。大通りの屋台では買っては食べる人も多い。
せっかくだから俺たちもとトルティーヤロールのようなものを食べつつ進む。
野菜たっぷりでオーク肉とソースが非常に合う。これは正解だ。
歩きながら食べるミーティアを見ると「染まってきたなぁ王女様」と思わずにはいられない。
王都ユグドラシアでは絶対に見られない光景だ。
大通りを歩く途中、いつも侍女服を仕立ててくれる高級服飾店を通り過ぎる。
いつもお世話になってます。
あ、今日は用事ないんで寄らないですよ。
そして中央区へと続く第一防壁へとやって来た。
「ん?」
「……どうした、ネネ」
「んー、なんでもない」
なんだろう。ま、いっか。
ともかく第一防壁を越えて中央区へ。
ここも相変わらず人が多い。とくに組合員だ。
南東区と違うのは、多くの人に身バレしている事。
遠目でヒソヒソ話しているのは分かるが「なんだあいつ」って感じじゃなく「げえっ【黒の主】!?」みたいな。
これは俺どうこうじゃなく、侍女軍団が買い物とかで徘徊してるから目立つんだと思う。
集団で侍女だからね。すぐに【黒屋敷】だって分かる。
ま、絡んでこなけりゃなんでもいい。
むしろ慣れれば面倒が少なくて済む。
そして大通りをひた進み、どこにも寄らず我が屋敷へ。
どうしても若干早歩きになってしまうね。
やっと帰ってきた感がある。
門から見える庭には誰もいない。
迷宮でも行ってるのかな? と思いつつ屋敷に。
なぜかネネが先回りして扉を開けてくれる。
おお、お前いつの間にそんな侍女っぽくなったんだ。とちょっと感動。
―――ガチャリ
『おかえりなさいませ、ご主人様』
そこには横一列で並び、同じように頭を下げる侍女軍団の姿が!
「おおっ! すごいな! ただいま!」
感動的だ。なんという侍女っぷり。
九人もの侍女が綺麗に揃うと壮観な事この上…………ん? 九人?
エメリー、イブキ、サリュ、フロロ、ヒイノ、ティナ、ツェン、ジイナ……あとの君は誰?
「「ご主人様ーっ!!」」
そう思っているとサリュとティナが飛び込んで来た。
おおっと、思わず抱きしめる。
エメリーが頬に手を当てて、微笑ましくそれを見ていた。
「あらあら、せっかく練習しましたのに、我慢できなかったようですね」
「練習したのか。素晴らしかったぞ。よく帰ってきたの分かったな」
「第一防壁の所でサリュに見張らせていましたので」
ああ、匂いで帰ってきたのが分かったのか。
で、急いで戻って準備してたと。
ん? ネネの様子がおかしかったのはサリュに気付いたからか。
俺はサリュとティナの頭をグシグシしながらエメリーに聞く。
「こっちは何か問題ないか? っていうか、その娘は?」
「ええ、その件でお話が。ドルチェ、こっちに来てご挨拶なさい」
「は、はいっ!」
ドルチェと呼ばれた、同じ侍女服を身に纏った女の子が近寄ってくる。
ミーティアと同じくらい背が高い。165cmくらいか? フロロよりは若干下だろう。
灰色の長い髪はシャギーのように所々外跳ねしている。
まつ毛もギンギラ、目がパッチリに見えるな。とりあえず美人だ。
ん? 髪がずいぶんとトゲトゲしてて……これは『針』か!?
「もしかして針毛族か?」
「は、はいっ! 針毛族のドルチェと言いますっ!」
「そうか、俺はセイヤだ。で、どうして侍女に?」
いや、侍女が増えるのは別にいいんだが俺の知らない所で勝手に増えてるのもなぁ。
せめて相談はしてくれないと。まぁ出張中だったから仕方ないけど。
「ドルチェはまだ正式に侍女というわけではなく″保護″している段階なのです。ご主人様が帰ってきたら説明し、よろしければ奴隷契約を、と思っておりました」
「保護?」
「組合でエメリーさんたちを見て『この人たちなら』って頼み込んだんです! まさか女性四人で迷宮連続殺人犯を捕らえて、しかもそれが【宵闇の森】だったなんて驚きでした!」
「えっ」
え、え、ちょっと待って、情報量多すぎなんだが。
連続殺人犯ってイブキが言ってたやつ? お前ら捕まえたの?
何【宵闇の森】って? 誰それ?
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