カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

文字の大きさ
91 / 421
第四章 黒の主、オークション会場に立つ

88:メルクリオの訪問・前編

しおりを挟む


■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男
■23歳 転生者


 朝食の席で、ふと、ドルチェを見ていて思った。
 プリン作ろう、と。


「プリンとは何ですか?」

「卵とミルクを使った甘いデザートだな」

『デザート!』


 さすがは女性陣、食いつきが良い。
 砂糖が高価だから甘味なんてあまり口にしないからな。
 特に甘味の経験があるだろう、ミーティアやウェルシアの反応が良い。


「しかしなぜドルチェで?」

「元いた世界の他国の言葉で『ドルチェ』は『デザート』って意味なんだよ」

「そうなのですか」


 こっちじゃドルチェ=デザートって意味ないらしいけど。
 というか名付けの理由とかドルチェに聞くのは躊躇われる。
 両親の話になりそうだしな。

 ということで試しに作ってみて、大丈夫そうなら夕食の時にでも、となった。

 バニラエッセンスとかないから、本当に卵と砂糖、ミルクだけ。
 一応カラメルも挑戦し、蒸すのはシステムキッチンのオーブンを使う。

 しかし調理器具が不十分なのと、俺の知識があやふやなので手探り感は否めない。
 泡立てないように気を付けても「す」が入ったり、何個か試したけど硬かったり柔らかかったりと様々。

 でもまぁ及第点と言えそうなものもある。
 よし、これをみんなに食わせようか。


 そう思っていた午後、珍しく来客があった。


「ご主人様、メルクリオ様がお見えです」

「メルクリオ?」


 組合で少し話すけど家に来るのは初めてだな。どうしたんだろう。
 とりあえずプリン作りをヒイノに任せて、応接室に向かう。


「お待たせした。ようこそいらっしゃい」

「お邪魔しているよ、セイヤ。中を見るのは初めてだが、なんともすごい家だね」

「王子様の実家に比べれば貧相なものだろう? というか外からは見ていたのか」

「そりゃそうさ。三軒隣りが僕ら【魔導の宝珠】のクランホームだからね」

「ええっ! 三軒隣りって……あの青い屋根のとこか」

「そうそう」


 給仕として紅茶を運んで来たエメリーに顔を向ける。
 どうやらエメリーも知らなかったらしい。
 なんだ、ご近所さんかよ。


「知らなかったとは言え、挨拶もしないですまないな」

「構わないよ。この周辺はどこかの貴族の子飼い組合員か、大商人の邸宅ばかりなんだ。僕だって一応王族だから住めているようなものでね。純粋な組合員はセイヤたちくらいだよ。そのセイヤが下手に挨拶周りでもしたら余計に騒がれるだろう?」

「そう言って貰えると助かるよ」


 ここら辺って立派な家は多いけどあまり人通りはないんだよな。
 まだ空き家とかもあるっぽいし。
 近所に誰が住んでるのとかもよく分かってない。


「ああ、そうそう、ヒイノのパンを買ってたんだって? 悪いな、こっちに引き込んじゃって」

「いやメイド姿の彼女を見た時は驚いたよ。まさかパン職人の彼女が【黒屋敷】に入るとは思わなかった。それと娘さんも」

「今はうちでさらに美味しいパンを作ってるぞ。帰りにお土産に持って行ってくれ」

「いいのかい? いやぁそれは嬉しい。来て良かったよ」


 俺は給仕役として部屋の隅に立っているエメリーに指示を出す。
 パンは窯で大量に焼いてるからな。
 多めに持たせても大丈夫だろう。


「……あのパン屋の一件、【鴉爪団】が絡んでいたって本当かい?」

「……よく知ってるな。わざわざ好きなパン屋の為に調べたのか?」

「いや逆だよ。【鴉爪団】壊滅の情報を掴んで、そこにセイヤたちが絡んでるのを知ってから、彼女が【黒屋敷】に居るのを知った。つまりパン屋が潰れたのは【鴉爪団】のせいで、セイヤは何かしらの理由で【鴉爪団】を壊滅させ、彼女たちを保護した……と思ったんだが、どう?」

「お見事」


 自分の予想が当たったからか、胸をなで下ろしたようにメルクリオは笑う。
 と言うか、【鴉爪団】を壊滅させたのが俺たちだって知ってんだな。
 まぁ目撃者も多いからしょうがないか。
 ツェンが居るから知ってる人ならそれだけでも予想されそうだし。


「すごいじゃないか。【宵闇の森】を捕まえ、【鴉爪団】を壊滅させるなんて。どちらも巨大な闇組織だぞ」

「【宵闇の森】は迷宮連続殺人を捕らえたのがたまたま【宵闇の森】って連中だっただけだ。不可抗力だよ。それに別に壊滅させたわけじゃないから、今度はこっちが狙われるかもしれないし」

「……ふむ、ということは拠点を潰したのはやはりセイヤじゃないのか」

「……どういう事だ?」


 【宵闇の森】の拠点が潰れた?
 エメリーたちが捕まえた後、だよな。


「公にはなっていない。例の捕らえた連中から聞き出したカオテッドの拠点、南東区にあったアジトに衛兵が乗り込んだんだが、そこには構成員と思われる多くの惨殺遺体があるだけだったらしい」

「すでに拠点が潰されていたと?」

「ああ、金だけが奪われていたらしいが、どう見てもただの物盗りじゃない。相手が相手だしな。もしセイヤたちだったら死体も書類も奪っていくだろう?」


 まぁそう言われると否定できない。
 現に【鴉爪団】のアジトでは死体も食料も備品まで頂いたからな。
 メルクリオはそれも知っているんだろう。


 でも、そうしたら誰が【宵闇の森】に襲撃を?
 アジトの構成員を皆殺しにしたってんならそれ相応の実力がないとダメだよな。
 ……ってそれが分からないから俺に確認してるのか。


「じゃあもう【宵闇の森】の襲撃に備える必要はないのかな」

「どうだろうね。アジトに居たので全てとは思えない。樹界国に本拠地があるだろうしね。そこがまた派遣してくるかも」

「うーん、陛下は何か情報持ってないかな……いや、今はそれどころじゃないか」

「君の言う″陛下″って言うのはディセリュート国王陛下の事かな? それともフューグリス陛下?」

「ディセリュート陛下……ってこれ言っていいのか? エメリー、ミーティア連れて来てくれ」

「かしこまりました」

「大丈夫だよ、僕が今日来た理由の一つはそこなんだ。大体の事情は知った上で来ているから」

「そうなのか。ただミーティアには一応居て貰おう。俺が勝手に話すのも何だしな」

「ふふっ、君はやっぱりおかしな主人だね」


 主人だからって奴隷の家の事情を吹聴するのはどうもな。

 と言っているうちに、応接室にミーティアがやって来た。
 挨拶を交わしたのちに、俺の隣に座らせる。
 エメリーが立っているのでミーティアも立つつもりだったらしいが、説明役だし相手がミーティアを知る第三王子様だからな。


 そして樹界国のだいたいのあらましを伝える。
 国の恥ではあるものの、他国にまで話しは漏れているだろうし、相手は魔導王国の王族だ。
 【天庸】の一件もあるから話しておいたほうが良いだろうという事らしい。

 とは言え、言えないところも多々ある。
 例えば樹神から神器をもらって、神樹が休眠状態に入ったこととか、重税による各集落の様子、伐採された森の状況などなど。

 逆に、宰相が逃げた事や【天庸】が逃げた事については、魔導王国にも情報共有しておかないと逃げ込まれた場合に困るので伝えておく。そこは国の恥どうこう言ってる場合ではない。


「なるほど。ミーティア様の心中お察しします」

「ありがとうございます、殿下」

「魔族の暗躍に神樹伐採計画……まさかそこまでの事態になっているとは……」

「お恥ずかしい話です」

「いえ、それでユーフィス様を殺害したのは【天庸】だったと?」

「ああ、【天庸十剣】の第六席のボルボラ、それと第九席の樹人族エルブスの女だな」

樹人族エルブスの女は分からないが、まさかセイヤがボルボラを倒していたとは……樹界国の一件に【天庸】が絡んでそれをセイヤたちが解決したとは聞いたのだが……」

「【天庸】は魔導王国の闇組織だって聞いたが何か知っているか?」

「その説明の為に来たようなものだ」


 メルクリオは姿勢を正し、顔には真剣味が増す。
 どうやらここからが本題らしい。


「僕が今日来たのはセイヤとミーティア様が樹界国の騒ぎを鎮めたと聞いたからだ。フューグリス殿による王位簒奪、サントール大司教の更迭、ユーフィス王女の『神樹の巫女』就任。国政が変わったことによる急激な国力低下。これは魔導王国にも流れていた情報だ」

「ああ」

「ところが最近入った情報ではそれが一夜にして元に戻ったと言う。そしてそれを為したのが追放されたはずのミーティア様と数名のメイド、そして基人族ヒュームの男だと」

「俺の名前は出てないのか」

「名前が出なくても基人族ヒュームって時点で一人しかいないよ」


 メルクリオは「何を言ってるんだ」といった目で見て来る。
 失礼なやつだ。
 もしかしたら他の基人族ヒュームの可能性も……まぁないだろうけど。


「そしてその一件に【天庸】が絡んでいると聞いて飛んで来たのさ」

「魔導王国が指名手配しているからか?」

「それもあるが個人的な事情でね。先ほどミーティア様は『自国の恥』と言ったが、僕もこれから『自国の恥』を話す。すでにセイヤたちは関係者だから言うが、くれぐれも内密に頼む」


 おいおい、魔導王国の秘密とかあんまり聞きたくないんだが。
 俺はそんなに口が堅いタイプじゃないんだよ。
 ……喋る友達とかがいないだけで。悲しくなるな。


「僕は王位継承争いから逃げるために王都を離れ、組合員として活動している……と周知させているが、これは嘘だ。本当の目的はカオテッドで【天庸】の手掛かりを探すために組合員となっている」


 ……その嘘情報さえ知らなかったんだが?
 要は第三王子自ら、暗部や衛兵めいた事をしてるって事か?


「なぜかと言うと、【天庸】のトップ、ヴェリオという錬金術師が……母の仇だからだ」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...