98 / 421
第四章 黒の主、オークション会場に立つ
95:オークションのその裏で
しおりを挟む■ネネ 闇朧族 女
■15歳 セイヤの奴隷
今日は朝からみんなお出掛けしている。
ご主人様はエメリー、イブキ、フロロ、アネモネとオークションに行った。
ミーティア、ヒイノ、ティナ、ジイナ、ポル、ドルチェの六人は迷宮に。
私はお留守番。
ツェンと警備担当。
サリュはウェルシアと昼間から夕食の準備をしている。
ご主人様がオークションで狙った獲物を競り落として来るのを期待して、祝勝パーティーの予定。
夕食が豪華になるのは嬉しい。
でも本当に競り落としてこれるのか不安はある。
昨日一日かけて、みんなで話し合って、どれをどのくらいの予算で競りに行くか決めた。
さすがに狙ったの全部は買えないだろうけど、せめてイブキの魔剣は買ってきて欲しい。
一番予算とったし、魔剣とかカッコイイから私も見てみたい。
そんな事を考えていると、私の<気配察知>に通りを歩いてくる一人の反応があった。
まっすぐに屋敷へと歩いてくる、その人。
気配だけで尋常じゃないものを感じる。
<危険察知>までビリビリと反応している。
―――ダッ
迷わず正門へとダッシュした。
こちらへと来る人を、正面から迎える。
「へぇ、わざわざお出迎えとは優秀だなぁ」
ツェンより一回り大きな身体。褐色肌で筋肉質。
紺色の髪はボサボサで、額からは天に伸びる一本角。
この鬼人族……まさか……。
「何の用?」
「ここはあれだろ? 【黒の主】とかいう基人族の家。お前はそいつのメイドか?」
「ん。ご主人様は出掛けてる」
「知ってるよ。だから来たんだ。お前らも面白え強化されてるらしいじゃねえか。まぁ密偵じゃあるまいし噂だけじゃどうにも埒があかなくてなぁ、それを確かめに来たのよ」
ニヤニヤと他人を見下し自信満々。
ご主人様狙いじゃなくて、周りの私たちから狙いに来た?
それともただの調査?
いずれにしても昼間に正面から堂々とかいかれてる。
そっちがその気ならこっちも確かめないと。
「【天庸】のラセツ」
「おお? よく知ってんじゃねえか。随分と有名人になったもんだ」
「イブキに聞いた」
「イブキ……!? ……そうか、【黒の主】のメイドには角折れの鬼人族が居るって聞いたな。ハハハッ! なるほどイブキがここに居るのか! どんだけ弱くなったのか楽しみだなぁ!」
こいつ……!
イブキの角を折って弱くしたのはこの男。
それが<カスタム>で強さを取り戻しているのをこいつは知らない。
私たちが何かしらの強化をしているというのはミーティアと戦った女からの情報だろう。
でもそれがどういった強化なのかが分からないから確かめに来た?
<カスタム>の情報はもちろん漏らさない。
こいつも出来れば生きて帰したくはない。
イブキには悪いけど―――私が先に殺るよ。
―――ダッ!
相手との距離はほとんどない。
瞬時にミスリルダガーを握り、瞬時に距離をつめる。
侍女奴隷仲間のうちで最速の私ならそれが可能。
いや、瞬きする間もないほどの一瞬で刺せる。
始まって早々に終わ―――
―――ガシッ
!?
「速えなぁ。闇朧族は殺った事ねえが、こんなに速くはねえだろ」
ダガーを向けた右手の手首を握られ、私の突貫は止められた。
なんでこの速度で反応できる!?
いくら強くでも鬼人族の反応速度じゃ―――
「どんな強化されてやがんだよ。お前らはよ―――っとお!」
―――ドガン!
「……んっ!!!」
手首を握られたまま、持ち上げられ、背中から地面に叩きつけられた。
逃げたくてもどうにもできない程の握力、そして軽々持ち上げて投げるパワー。
柔らかい庭の土が私の形で凹み、その衝撃に息が止まる。
ミシッと手首が悲鳴を上げる。
そして握られた手首はいまだ離されていない。
手首もそうだが背中のダメージで目がチカチカする。
「速えだけで攻撃も防御も軽いんだなぁ。もうお前はいいや」
いいや―――つまり調査するまでもないって事。
終わらせちゃっていいや、って事。
ラセツの左手は、私の右手首を握ったまま。
そして右手が振りかぶられる。
逃げられない、抗えない私に、その強化された拳が襲い掛かる。
久しぶりに感じる″死″の気配。
声を上げたくても呼吸すら出来ない。
なんとかしなきゃ、そう思うけど身体が言うことを聞かない。
悔しい、悔しい、悔しい。
せっかく強くしてもらったのに、こんな所で―――
―――パシンッ
振り下ろされたラセツの拳は、私に届くことはなかった。
手のひらで受け止められたのだ。
私の隣に現れた、蒼い尻尾の侍女仲間に。
「うちの侍女仲間に手を出すとは、とんだお客様だなぁ」
「竜人族か……!」
私の手首を握っていた左手を放す。
右手の拳はツェンに握られたまま、どちらも押し合うような恰好。
しかしどちらも深い笑みを浮かべている。
「なめた真似すんじゃねえぞ、こらぁ!」
「おっとお!」
今度はツェンの右ストレートをラセツは左手で受け止めた。
互いの拳を握る形。
手四つのまま動くに動けない力比べ。
「なるほど、てめえもただの竜人族じゃねえなぁ! ここまでの力はないはずだ」
「てめえこそ鬼人族の域を超えてんだろ! どんな魔道具入れてんだ!? それとも魔法で改造されてんのか!?」
「物知りだなぁ! ああ、ボルボラの死体でも弄ったか! てめえらこそどんな強化してやがる! まだ手を出すなとは言われちゃいるが、やっぱ殺して持ち帰った方が早えよなあ!」
「ああん!? てめえごときに殺られるわけねえだろうが、殺るのはこっち―――」
「そこまでにしておけ」
!?
そこで私含めた三人が、そばに居た気配に気付いた。
お互いに集中しすぎて全然気づけなかった。
ラセツの後ろに現れた鳥人族の男。
多分、ツェンの報告にあったラセツと一緒に居たっていうヤツ。
この場に【天庸】が二人……!
私も起き上がらないと……!
「スィーリオ、今いいところなんだが!?」
「黙れラセツ。貴様は「手を出すな」と言われたのが理解出来ていないのか? 「殺すな」ではない。「接触するな」だ。それがどうしてこんな事態になっている?」
「情報集めるならこっちの方が早いだろうが!」
「早い遅いの問題ではない。盟主様の御意向の話をしているのだ」
「チッ!」
ラセツは舌打ち一つ、ツェンの手を放した。
ツェンもまた攻めずに手を放し、距離をとる。
私が寝ている現状、【天庸】二人相手は厳しいと見たのだろう。
「おい、んで結局何の用事で来やがった? あたしらの調査? 調べてどうする?」
「さあな。盟主様にとっては貴様らの主人が面白い素材に見えたのだろうよ」
「素材だと?」
「まあ興味が湧けば再び会いまみえる事もあるかもしれん。色々と立て込んでいるからすぐにとは言わんがな。話すのはその時にでもすればいいだろう。では邪魔したな」
「待ちやがれ!」
「帰るぞ、ラセツ」
「ああ、イブキによろしく言っておけや!」
「くそっ! ……じゃねえ! ネネ、大丈夫か! 遅れてすまん!」
ううん、謝るのはこっち。
私が先走ったあげくに足手まといになった。
情けない、悔しい、申し訳ない。
その後すぐに異変に気付いてキッチンから駆け付けたサリュの手で、私は回復した。
それで身体は治っても、心にはまた傷が出来てしまった。
ご主人様に出会う前のような心の傷。
出来損ないの自分に俯くだけしか出来ない頃。
せっかくご主人様が強くしてくれたのに……。
……いや、もうあんなにはならない。
私は驕っていたんだ。強くなったと錯覚していた。
どんな敵でも私の方が速いし、一撃で仕留められると思い込んでいた。
ミーティアから聞いていたにも関わらず。
私はまだ弱い。
そしてまだ強くなれる。
ご主人様が強くしてくれる。
ちゃんと報告しよう。
そうして私はトボトボと屋敷に戻ったのだ。
7
あなたにおすすめの小説
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
異世界転移から始まるハーレム生活〜チートスキルを貰った俺は、妹と共に無双する〜
昼寝部
ファンタジー
2XXX年、X月。
俺、水瀬アキトは戦争の絶えない地球で『戦場の悪魔』と呼ばれ、数多の戦で活躍していた。
そんな日々を過ごしていた俺は、ひょんなことから妹と一緒に異世界へ転移することになった。
その世界にはダンジョンが存在しており、ライトノベルなどで登場する世界観と類似していた。
俺たちはその世界で過ごすため女神様からチートスキルを貰い、冒険者となって異世界での生活を満喫することにした。
これは主人公の水瀬アキトと妹のカナデが異世界へ転移し、美少女たちに囲まれながら異世界で無双するお話し。
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる