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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
100:予想を下回る盤面
しおりを挟む■ウェヌサリーゼ 創世の女神
停滞する世界【アイロス】に放り込んだ駒―――セイヤ・シンマはどうやらまだ生きているらしい。
そう簡単に死なれるとつまらないので僥倖とは言える。
まぁまだ送り込んだばかり。
先の事など分からない。見ようとも思わないが。
″聖″と″邪″が並立する、異形な魂を持ったごく普通の男。
なんとも矛盾した存在。
【アイロス】に送り込んだことで、それがどちらかに傾くか、それとも並立したままなのか。
観察する分には面白い駒だ。
私が授けた<剣術>スキルと″刀″はそれなりに使っているらしい。
本来の力を出しているかと言われると一割程度か。
不満はあるが、それでも人間と見れば、まずまずの力を見せていると言えるかもしれない。
<インベントリ>は隠れて使っているらしい。
あの世界にもあるマジックバッグと同じようなものだろうに、なぜ隠すのか。
たかが時間経過が無くなり、容量が無限になったにすぎない。
だと言うのに、どうも他人に知られてはまずいような使い方をしている。
不思議なものだ。
<カスタム>は適当に選んだとは言え、そこそこ扱えている。
どうやらこのスキルを生命線と考えている節さえ見える。
しかしCPを稼ぐならば″人″を大虐殺でもすればいいものを、どうやら選んで殺している。
そんなにチマチマと強化して何が面白いのか、理解できない事が多い。
まぁセイヤ・シンマ自体が理解できないからこそ演者としては優秀なのだが。
思い通りに行かない事ほど面白いものはない。
あれだけ願っていたメイドハーレムも未だ十四人。
百人でも千人でも従えればいいものを。
やはりあの星のあの国の人間は謙虚だという話は本当らしい。
全く理解できない。故に面白い。
「ウェヌサリーゼ様、お呼びにつき参上しました」
私の空間に現れたのは『ヒトの女』の姿を模した光。
私が【アイロス】の為に創り出した数々の従属神のうち一柱。
―――樹神ユグド。
「ユグド、お前はなぜ呼ばれたか分かっていますか?」
「……樹界国の一件でセイヤ・シンマの手を煩わせたことでしょうか」
「違います」
全く、私の従属神たちは使えない者が多すぎる。
こんな者ばかりだから【アイロス】が停滞するのだ。
どうも私を絶対視するあまり、私が手ずから送り込んだセイヤ・シンマを手助けしようとする動きがある。
直接セイヤ・シンマを助けることが出来ないからと、自らの眷属種族や巫女、神官などを使って。
セイヤ・シンマは放っておいて自由気ままに動かせるのが面白いというのに、私の使徒だから何とか助けなければと意気込む阿呆な従属神がいるのだ。
樹神ユグドはその最たる者。
樹界国に混乱をもたらせたのは面白いが、自身の巫女を利用し、セイヤ・シンマと接触させた。
ユグドが巫女をセイヤ・シンマに引き合わせようとしなければ、樹界国の政変はこんなに早く起きなかった。
自身の眷属種族、依代を宿す国を乱しても、巫女をセイヤ・シンマに隷属させた。
「私はそのような事を望んではいません。セイヤ・シンマが自由に生きる様を見たいのです。神の干渉を良しとはしません」
「も、申し訳ありませんっ!」
「巫女に神託を下し、セイヤ・シンマに隷属させた事は大目に見ましょう。樹界国の混乱も良い見世物でしたから」
「あ、ありがとうございますっ!」
「しかし巫女に神器を贈るのはやりすぎです。これは明らかに逸脱した行為」
「……っ! はっ!」
樹神は樹神らしく木でも生やしていれば良い。
戦神でもないのに武器を贈るなど言語道断。
贈っても何の変哲もない杖が良いところ。それが何を勘違いしたのか弓などと。
セイヤ・シンマを手助けする為、巫女を戦力強化し、必要不可欠な存在にする為だろう。
ユグドがそんな事をしなくてもセイヤ・シンマは必要であれば巫女を傍に置く。
必要でなくなれば勝手に距離を置くだろう。
ユグドが神器を贈ったのはやりすぎなのだ。
必要以上の干渉。
そこに意味などない、ただの自己満足にすぎない。
「で、では今すぐ神器を取り上げ……」
「やめなさい。そんな事をすればまた因果が変わります。進んだ駒は元には戻せないのですよ」
「も、申し訳ありませんっ!」
「罰として神樹の復活は五千年延長します。その間の神託も禁止。いいですね?」
「……ハッ!」
やれやれ、思い通りにいかない事は面白いのだが、仮にも神の力を与えたというのに無能とは何事か。
見ているだけのつもりが、結果こちらの仕事を増やすなど迷惑極まりない。
とは言え、樹神ユグドと同じように「何とかしてセイヤ・シンマとコンタクトをとろう」「何とかして手助けしよう」と考える輩が他にもいる。
それは私に対する敬意ではないと言っているにも関わらず、だ。
個性を持つように作ったつもりが、どこか抜けて阿呆な神が出来上がっていたらしい。
例えば、魔法神マギアロード。
ヤツめ、奴隷の契約魔法に私とセイヤ・シンマの繋がりを示す紋章を付与したようだ。
間違いなく、造形の神ハンナムも絡んでいる。
どちらが言い出したかは知らないが余計な事を。
まぁそれ以上の関与が見られず大人しくしているようだから見逃すが。
それと運命神リンデアルトもその一柱だ。
ヤツは自身の眷属種族に「占い」という形で助言している。
それは他神の神託よりも多い頻度、そして長いスパンに渡ってだ。
これは難しいところだ。
世界への過度な干渉は禁じられているものの、ヤツの助言は神としての権能そのもの。
樹神ユグドが神器を贈ったような、逸脱した行為とは違う。
あくまで運命神が普段から行っている権能の一つとして助言しているに過ぎない。
ならば今少し静観したほうが良いか。
他の神々も少なからずセイヤ・シンマの手助けをしているが目立ったところはない。
これが目に余るようであれば、一度きつく言う必要がある。
もしくは事前にこちらで動くのはどうか。
世界にほぼ干渉しない私が、直々に動いたらどうだ。
私が神託なり眷属種族を使って、セイヤと関係を持たないよう働きかける。
従属神どもはそれでもセイヤを手助けしようと動くか?
それとも逆に「私が動いているのだから手は出さないでおこう」と考えるか?
……試す価値はある。
思えばここ数千年、私が神託を下すことなどなかった。
たまに神託を下すのも悪くないかもしれない。
だからこそ眷属種族どもも私の意思を酌もうと考え、動くはずだ。
問題は神託を受け取った者が、一万年前の勇者と同じような扱いをしないかどうか。
以前は神託で勇者をフォローするよう積極的に仕向けた。
しかし今回は関わらせるわけにはいかない。
セイヤ・シンマは自由にやらせるのが面白いのだ。
さて、どういった神託にすれば上手く伝わるか。
こうして考えるのもたまには悪くない。
一興。まさに一興だな。
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