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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
105:もういろいろと諦めろ!
しおりを挟むC:前衛:エメリー【ハルバ・投擲】・ツェン【爪】・ジイナ【槌】
後衛:サリュ【光・神聖魔法】・ポル【鍬・水・土魔法】
■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
私たちは一階層の奥の方にある鍾乳洞エリアに来ています。
ここは水晶が採掘できたり、キラキラして綺麗なんですが、地面が所々トゲトゲしていたり、水溜まりになっていたりと、他のエリアに比べて戦いにくい構造です。
出てくる敵もリザードマンが多く、時々【領域主】としてリザードキングも出てきたりします。
ここを抜けると地下二階への階段があるので、もうすぐ一階は終わりですね。
出来れば練習がてらリザードキングも倒したい所ですが、うーん、今回は出現していないようです。残念。
【領域主】は『エリアの敵が一定数を下回ると、一定確率で現れる』というものなんだそうです。
運が悪いとなかなかお目にかかれません。
しょうがないのでリザードマン相手に武器の特訓をしたいのですが……
「穿岩の波! うおおおっ! すごいっ!」
まずジイナさんがはしゃいでます。
ご主人様にもらった【鉱砕の魔法槌】は魔力を込めて地面を叩くと、土魔法・穿岩の波を撃てるそうです。
前方、直線的に地面から鋭い岩が次々と生えてくる魔法です。
ダメージを与えながらも、どちらかと言えば敵の足止めをしたり、態勢を崩したりといった用途の魔法でしょうか。
ジイナさんは魔法が使えてどうこうよりも、武器そのものに感動している様子。
一発撃つごとにハンマーを眺めてニヤニヤしています。
大丈夫でしょうか、色々と。
「おい! ジイナてめえ! 邪魔だっつってんだろ! 岩どけろぉ!」
「は、はいっ! すいませんっ!」
怒られました。
ツェンさんは同じ前衛で戦ってるから、ジイナさんの隣になる事が多いんですよね。
しかもツェンさんの武器はミスリルクローですし、超接近して戦うタイプです。
ジイナさんが出した岩が邪魔なんですね。
ただでさえ、ツェンさんスキルが試せなくて機嫌悪いんですよ。
「<一点突破>ぁ! ああっくそっ! 分からねえっ!」
ご主人様からもらった<一点突破>スキル。
これは『突き』などの局所攻撃の威力上昇と、同じ個所に対して連続して当てることで攻撃の威力を増幅させるスキルだそうです。
でもツェンさんは元々の攻撃力が高いので、リザードマン相手だとどんな攻撃でも一撃で終わってしまいます。
威力が上がったのかも分かりませんし、同じ相手の同じ個所に連続攻撃を当てるなんて出来ません。
スキルの使い勝手とか検証とか出来ないんですよね。
強い相手じゃないと分からないんじゃないでしょうか。
「ジイナー、とりあえず魔法使わずに、まずは扱い慣れることと立ち回りに気を回せー」
「はいっ! すみませんっ!」
「ツェンは無意味でもスキル使って攻撃する事になれろよー、一撃で終わっても構わんぞー」
「おうよっ!」
「ツェン?」
「ひぃっ! は、はいっ!」
後ろからご主人様が注意しています。
エメリーさんも複雑な戦いをしながらよく注意できますね。
そんなエメリーさんはポルちゃんと入れ替わり立ち代わり忙しそうです。
「<投擲>」
「そぉい! <逃げ足>です!」
「いいですよ、ポル。<逃げ足>は私の方に向かって逃げるように使いなさい。私は避けて前に行きますので」
「はいです!」
エメリーさんがポルちゃんの後ろから<投擲>でナイフを投げ、前に出たポルちゃんが鍬を振るう。
ポルちゃんは一撃離脱で、エメリーさんの方向へ<逃げ足>で素早く後退します。
鍬を連続で使わないのはスキルの練習の為だそうです。
入れ替わりでエメリーさんが前衛へ。ハルバードを振るいます。
エメリーさんが本当にすごいです。
ポルちゃんが前に出るタイミングを見極めて指示を出していますし、<逃げ足>で後退してくる速度は普通に走るより速いのですが、それに合わせて交差するように前に出る。
よくぶつからないなぁ。
武器の持ち替えもスムーズです。
後衛時の<投擲>では投げナイフの他にも鎖のついた錘だとか、鎌、ハンドアクスなども投げています。
左右に二つつけているマジックバッグにはどれだけの武器が入っているのでしょうか。
一体いつの間にそんな武器を用意したのでしょうか。
全く分かりませんが、それらを色々と試しながら使っているようです。
前衛時にはハルバードですが、今までは二本だったのに四本使っています。
四本腕で一本ずつ。<カスタム>で【攻撃】上げたんでしょうか。よく振れますね。
武器の扱いだけでも混乱しそうなのに、マジックバッグへの出し入れ、ポルちゃんへの指示、立ち回りの変化、どれ一つとっても大変そうです。
「あいつは千手観音か? 阿修羅か? そういや<並列思考>自力で覚えてたな……」
後ろのご主人様が何やら呟いています。
おそらく褒めているのでしょう。羨ましいです。
「ポル、左の敵に魔法を。三体仕留めたら交代しますよ」
「はいです! 水の槍!」
「しばらくは前衛に行ったら一撃離脱です。<逃げ足>に慣れないといけませんからね」
「はいです!」
さすがの舵取りですね。我らが侍女長様です。
ご主人様も、特に口出ししないみたいです。
ポルちゃんのスキルも含め、エメリーさんに一任しているのでしょう。
と、みんなそんな感じで戦っているのですが、私も自分の出来に不満があるんですよね。
私のもらった【聖杖アスクレピオス】も強力な武器すぎて性能をあまり試せていないんです。
【聖杖】は神聖魔法の強化という事で回復魔法が使いやすくなったり効果が高くなったりしているはずです。
でも余程の強敵でないとみんな怪我などしないので、全く試せません。
試しに光魔法の『光の矢』を使ってみましたが、単体攻撃のはずのそれが、何体かの敵を貫通しました。
杖に適していない光魔法のさらに最低レベルの攻撃魔法でこれです。
神聖魔法の強力な攻撃魔法『聖なる閃光』でも撃とうものならどうなる事か……。
ちょっと試したい気持ちはありますが、今のところご主人様に止められています。
とりあえず杖の出力に慣れる感じで、弱めの魔法を使いつつ、みんなの動きが変わったので後方でそれを見ながら要所要所で撃っていく感じです。
エメリーさんとポルちゃんの前後の動きに加えて、ツェンさんとジイナさんは両方接近戦ですしね。
そこを縫って魔法を当てないといけません。
ネネちゃんやティナちゃんほどじゃないにしても、ツェンさんも動きが速いですから。間違って当てたら大変です。
あっ、当てたら回復の練習になる?
……いやいやいや、ダメですね。ちゃんとやりましょう。
私までご主人様に怒られちゃいます。
そうして鍾乳洞エリアを進むことしばらく、二階への階段が見えてきました。
もう一階層も終わりです。
私たちCパーティーが先頭で戦うのも、時間的に終わりでしょうか。
もうちょっと練習したかったなぁ。
でも二階は広いから十五人みんなで戦えるかも?
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