108 / 421
第五章 黒の主、未知の領域に立つ
104:考えるな、感じろ!
しおりを挟むB:前衛:イブキ【大剣】・ヒイノ【盾・直剣】・ティナ【レイピア】
後衛:フロロ【土魔法】・アネモネ【斥候・闇魔法】
■ティナ 兎人族 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
「風の槍!」
レイピアの先っぽから出た風の槍が少し離れたコボルトに当たりました。
一応倒せたけど……うーん、なんか不満。
これだったら自分で突っ込んで行ったほうが速い気がします。
ご主人様がくれた【風撃の魔法レイピア】は、レイピアの突きの動作で『風の槍』が撃てるというものです。
魔法を使えない私でも魔法を使えるんだ、と喜びましたが、まだ全然使いこなせている感じがしません。
使い方が悪いんだと思います。
せっかくスゴイ武器をもらったのに。
「ティナ、大事なのは威力じゃないぞ。遠距離攻撃の手段を得たという事と、物理攻撃以外の手段を得たという事だ。所謂『幅を広げる』ってやつだな」
そう、ご主人様は言います。
でも突っ込んで斬りつけた方が速いし、敵も倒せる気がするんです。
物理攻撃以外の手段を、というのは分かるんですが。
なんかこうグッときません。
ちらりと一緒に戦っているみんなを見ます。
「ははははっ! 見よ! これぞ【魔剣イフリート】の力だ!」
『おおー』
イブキお姉ちゃん絶好調。魔剣カッコイイ。
剣自体もゴツゴツして赤黒く光っててカッコイイんですが、刀身が燃えています。カッコイイ。
後ろで見ているAパーティー、Cパーティーのみんなが拍手しています。
「イブキー、調子にのるなー、取り上げるぞー」
「ハッ! す、すみませんっ! 真面目にやります!」
ご主人様に怒られました。
実際の話、扱いが難しいそうなので、ご主人様も「早く使いこなせ」と発破をかけているのです。
炎を纏った状態で剣を薙ぐと、その軌道上に炎が残って炎の壁のようになります。
それは広範囲魔法攻撃と変わらない上に剣自体の威力もあって、さすがは魔剣って感じなんですが、同時に接近している前衛のみんな――私も含めて、当たりそうで怖いんです。
近づくだけで熱いんです。この侍女服、耐熱効果もあるはずなんですが。
イブキお姉ちゃん単騎で攻めるならまだしも、パーティー戦闘となると使うのが難しい。
だったら炎は使わない状態で素直に剣戟したほうがいいんじゃないかと。
……でもイブキお姉ちゃんは炎を使いたいみたいなんですが。
……私も気持ちはよーく分かりますけど。
「とりあえず炎使うなら振り下ろしか切り上げ、突きだけ纏わせるようにしろ。細かい制御も練習だ」
「ハッ! 精進します!」
だそうです。
細かい制御……魔力を普段使わない私も苦手です。
でも魔法のレイピアを使う以上、私も精進しなければ!
ふんすと意気込む私ですが、いまだBパーティーはコボルト数体と戦闘中。
「よっ、ほっ。……なるほど弱い相手であれば盾を使うまでもないのね……」
私のとなりではお母さんがコボルトの攻撃を受けています。
バックラーじゃなく素手で。
お母さんは【守護の腕輪】というものをもらいました。
防御力が上がるというものだそうですが、ご主人様曰く「単純故に強力」だそうです。
確かに私やイブキお姉ちゃんみたいに、戦闘スタイルを変えずに効果が出るっていうのは羨ましい気がします。
でも、コボルトの剣を素手で掴むのはどうかと思うけど……お母さん、すごいなぁ……。
私はいくら【防御】にカスタムされたとしても、素手で受けるのは怖いです。
とても真似できません。さすがはお母さんです。
「ヒイノー、試すのはいいけどこれ以上は禁止なー。見てて怖いぞー」
「は、はい! 申し訳ありません、つい!」
「魔物で試すくらいならイブキやツェンに攻撃してもらえよー、サリュ付きでなー」
「は、はいっ!」
怒られました。
お母さん、防御性能にこだわる所があるからなぁ。
私が魔物部屋に入るとはしゃいじゃうのと同じだね。
「岩の槍!」
「闇の弾……」
後衛から放たれた魔法がコボルトを次々に倒していきます。
「ふむ、アネモネも調子良さそうだのう」
「はい……この杖は素晴らしいです……本当に私なんぞにはもったいない……」
「たわけ。それを使いこなせるくらいに強くなれというご主人様からのメッセージみたいなものだ。種族的に我より魔法が得意なのだから、少なくとも我くらいは越えてもらわねばな」
「ふふふ……それはつまり私に死ねと……?」
「言うとらんわ」
フロロお姉ちゃんとアネモネお姉ちゃんは好調みたいです。
フロロお姉ちゃんは【震脈の杖】という黄色い魔石がついた、ゴツゴツした見た目の杖になりました。
アネモネお姉ちゃんは【暗黒魔導の杖】。いかにも『呪われた杖』って感じでカッコイイです。実際は呪われてないそうですけど。残念。
どっちも土魔法と闇魔法を強くしてくれるらしいです。
威力や精度、速度、消費魔力とかそこら辺が違うんだとか。
私にはよく分かりませんが。
フロロお姉ちゃん曰く、使ってみると全然違うと言ってました。
「ティナに分かりやすく言うとな、グッとやるとスーッと魔力が広がってゾゾッとなってバーンッとなるのだ」
「なるほどー」
「わ、分かったのか、そうか……すごいのうティナは……」
私も魔法レイピアで風魔法を使わないといけなくなったので、やっぱ魔法使いの人たちは参考になります。
今まではグッとやって、そのままバーンッでしたが、スーッのゾゾッが抜けていました。
だからいまいちだったんでしょうか。
「風の槍!」
あ、ちょっと良くなった気がします。
出が鋭くなったような、速くなったような。
「あれ? どうしてあのアドバイスで改善するのだ? 我にはもうよく分からんぞ……」
「ふふふ……ティナちゃんは天才……私なんぞとはモノが違う……」
なんか後ろでフロロお姉ちゃんとアネモネお姉ちゃんが何か言ってますが、よく聞こえません。
魔法使い同士の打ち合わせでしょうか。
「ティナー、なるべく魔法だけで倒してみろ。魔力の限界までな」
「はいっ!」
「遠くの敵を意識して、どこに命中させるのか考えろ。それと足を止めないように」
「はいっ!」
足を止めずに魔法だけで、遠くの敵を倒し続ける。
ほっ! よっ! これは、難しいっ!
でもみんな頑張ってるんだし私も強くならないとね!
♦
「ご主人様よ、結構鬼畜だのう」
「そうか?」
「動きながら魔法を撃つのは難しいのだぞ?」
「ふふふ……遠くで動く相手に、こっちも動きながら狙いをつけるなんて……私には無理……」
「ティナの一番の強みは”敏捷”だからな。動かずに固定砲台になるなんてダメだ。そうなるくらいなら普通のレイピアにする」
「うむぅ、鬼畜ぅ……」
「ティナちゃんの速度で風魔法とか……ふふふ……速すぎる……」
「こういうのは最初が肝心だからな。慣れる前に戦闘スタイルは決めないと。じゃないと<カスタム>のステ振りも迷うしな」
「なるほど」
♦
「よっと! 風の槍!」
あー外れたー。どうやれば当たるんだろ。
あ、ミーティアお姉ちゃんが走りながら弓撃ってるから、それっぽく……。
どうやってるのか聞いてみようかなぁ。
よーし、私も頑張って強くなるぞー!
お母さん、私がお母さんを守るからね!
1
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる