107 / 421
第五章 黒の主、未知の領域に立つ
103:魔力をギュッとしてドカーンだ!
しおりを挟むA:前衛:セイヤ【刀】・ネネ【短剣・斥候】・ドルチェ【盾・槍】
後衛:ミーティア【弓・火魔法】・ウェルシア【風・水魔法】
■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族 女
■70歳 セイヤの奴隷
「二階への階段までは最短ルートだ。魔物部屋も寄らないぞ」
『はい』『えぇぇぇ』
「CP稼ぎは後回しだ。帰りに余裕があれば寄るけど、今はさっさと先に向かうぞ」
『はぁーい』
一部、魔物部屋に行きたがっていた人たちが残念そうにしています。
特にツェンさんとティナさんでしょうか。
返事は「はい」でないとエメリーさんに怒られますわよ? あ、早速怒られていますね。
一階層はさすがに皆さん何度もマラソンしているので、道順もどこに罠があるのかも把握しています。
試しながら最短ルートを行くのも問題ないでしょう。
わたくしやアネモネさん、ドルチェさん、ポルさんはまだ完全に覚えているわけではありませんが。付いて行くのみです。
一階層は洞穴型と言いますか、アリの巣のように何層も入り組んだ坑道のようになっています。
いくつもの分岐があり、所々に部屋状の広間があり、階層の中心には大空洞と呼ばれる広く拓かれた縦穴も存在します。
その大空洞から上下左右に分かれた道が伸びるイメージでしょうか。
一階層と言いながらも、何層もの坑道が重なった地形になっています。
最初の方はゴブリン系が多く、その先には蟻や蝙蝠、蛇系の魔物が出て来ます。
大空洞付近はコボルト。分岐の先には鍾乳洞のエリアや鉄、銀などが採掘できる坑道エリアがあり、そこにはリザードマンなども出て来ます。
今は散発的に出て来るゴブリンをAパーティーが先頭で倒しながら進んでいます。
早めの殲滅はもちろんですが、オークションの戦利品の装備やスキルなどを試しながら、ですわね。
ご主人様は<空跳>。
洞穴内なので天井が低いのですが、空中を足場にして上から<抜刀術>の<飛刃>で遠距離攻撃を試しています。
さすがの速さ、さすがの威力ですわね。
「空中は姿勢制御が難しいな。もっと細かく使えないとかえって隙だらけになっちまう」
見ている分には分かりませんが、納得いっていないご様子。
それだけ難しいスキルなのでしょう。
「<毒撃>……んー、分からない……」
ネネさんは毒を付与して敵を倒そうとしていますが、相手がゴブリンなので、最初の一撃で終わってしまいます。
毒になっているかも分からないので、不満そうですわね。
ネネさんが一撃で倒せない相手でなければ試すのは無理じゃないでしょうか。
一階層では検証を諦めたほうが良いでしょう。
「<不動の心得>! おお! やった!?」
やってないです。
ドルチェさんは相手の攻撃を盾で受けても下がりにくくなるスキルなのですが……。
本人はスキルが成功したと思っているようですが、それ多分、普通に盾受けしているだけですよ?
もともとゴブリンの攻撃で下がることなんかないじゃないですか。
ドルチェさんも二階層以降の強敵相手に期待ですわね。
「炎の槍!」
ミーティア様はさすがですわね。順調です。
【神樹の長弓】の威力と連射能力もさることながら、左手に弓を持ったまま、右手の中指につけた【炎のアミュレットリング】で火魔法を使っていらっしゃいます。
魔力の矢を放ち、追撃とばかりに炎の槍を放つ。
「ミーティア、連続して撃つなら炎の槍じゃないほうが良いんじゃないか?」
「そうでしょうか」
「だってどっちも魔力の単体攻撃だろ? だったら【神樹の長弓】を連射したほうが速いじゃないか。ほぼ同時に撃てるんなら別だけど」
「……なるほど」
「炎の壁を張って敵の視界を奪ったところで、弓矢で攻撃とか、魔法と弓矢の組み合わせを考えたほうがいいと思うぞ」
「そうですね、少し考えてみます」
わたくしとしては素晴らしい攻撃に見えたのですが、さすがはご主人様。
着眼点がわたくしとは違います。
その柔軟な思考はわたくしもあやかりたい所ではありますが……。
「水の壁! ……ダメですわね」
わたくしが下賜された<魔力凝縮>のスキル。
頂いたその日の夜から、暇さえあれば練習していますが、未だ納得のいく形にはなりません。
<魔力凝縮>の効果は通常以上の魔力を籠めることで、威力を増し、また広範囲魔法を単体魔法へと集中的に放つことが出来るというものだそうです。
それをご主人様は『圧縮・変化させるもの』だと仰いました。
今一ピンとこなかったわたくしに対し、ご主人様は丁寧に教えて下さいました。
♦
「俺は生活魔法しか使えないから間違っているかもしれないが」
そう前置きをしてから、ご主人様はキッチンへとわたくしを連れて行き、シンクの蛇口を捻りました。
ジャーと勢いよく水が出始めます。
本当にこのお屋敷の調理設備ときたら……いえ、今はそれどころではありませんね。
ご主人様は流れ出る水に手のひらを当てます。
そしてわたくしにも同じように強いました。
「今、水はこの量・この勢いで出ている。手のひらに当たる感覚はすなわち『威力』だ。バシバシ手のひらに感じる強さを覚えておけ」
「はい」
「で、蛇口をさらに捻る。すると当然勢いは増す。つまり魔力を余計に籠めて『威力』が増した状態だ」
「なるほど」
「これが<魔力凝縮>の効果の一つ。籠める魔力によって威力が変わるというイメージ」
素直に感心してしまいました。見て、実感しているので非常に分かりやすいと。
魔法は常に『決められた魔力量』で『決められた効果』しか出ないものです。
実際には個人差があるのですが、少なくとも、わたくしはそう教わりました。
しかしご主人様はご自身が生活魔法しか使えず、元いらした世界に魔法がないにも関わらず、これだけ魔法に対する考えをお持ちなのです。
いえ、もしかしたら転生者だからこそなのかもしれません。
いずれにせよ、このイメージは非常に大きなものだと感じました。
「で、さらにだ。蛇口の穴を半分くらい指で塞ぐ。そうすると勢いはさらに増しただろ?」
「うわっ! は、はい! 全然違いますね!」
手のひらに当たる水が勢いを付けすぎて、ビシャビシャとはねます。
少し痛いくらいに感じます。
「これが『広範囲魔法を単体魔法に変える』ってことだと思う。籠める魔力は変えていないのに、放出範囲は狭くなり、結果威力が上がった。水を凝縮する事で魔法を変化させたってイメージだ」
「す、すごいですわね……」
確かに蛇口から出る水柱が細くなると、出す水の量は変わらないのに勢いが段違いになる。
魔法を使っているわけではないのに、まるで魔法のような神秘的な現象。
わたくしは感動を覚えていました。
「俺のいた世界には魔法はないけど『ウォーターカッター』って技術があった。それは水を細く、勢いよく噴出して、鉄とかを切るというものだ」
「水で鉄を……ですか?」
「ああ、つまりはただの水も使い方次第で威力が変わる。<魔力凝縮>ってそういう変化をさせるスキルだと思うんだよな」
それを聞いたわたくしは、まるで天啓を受けたような気分でした。
もしそれが実現出来れば、わたくしの魔法技術は飛躍的に増すでしょう。
話に聞く【天庸】という化け物たちをわたくしが相手取るとすれば、これしかないのではないか。
<魔力凝縮>がわたくしの復讐への足掛かりになるのではないか。
そう思ってしまいます。
それと同時に魔法の新たな可能性、真髄が見えたような気がして興奮したのは、おそらくわたくしが導珠族であるが故。
そして研究員だったお父様の血が流れているという証拠なのでしょう。
♦
まさかその『魔法の真髄』をキッチンで教わることになるとは思いませんでしたが……。
ともかくそれから特訓ばかりしています。
小さな魔法に魔力を籠め、どう変化するのか。
形状を変化させるにはどうすればいいのか。
変化させたら、その威力はどうか。
色々と試しています。
そして今は広範囲魔法である水の壁を単体魔法レベルまで狭めることで、威力を上げようと頑張っています。
まさにご主人様が蛇口でやられていた事ですわね。
しかし難しい……半分くらいまでは狭められるのですが、単体攻撃レベルとまではいきません。
「なかなかいいんじゃないか? 方向性はやっぱ間違ってないと思う」
「そうでしょうか……」
「現に威力も上がってるっぽいしな。あとは慣れなのか、それともイメージ不足なのか。ステータスに関しては【魔力】と【器用】に振っていくつもりだから、ある程度は補えると思うけどな」
「はい、ありがとうございます。もう少し頑張りますわ」
ご主人様の<カスタム>だけに頼るわけにはいきません。
せっかく頂いたスキルなのですから、わたくしが自身の力で使いこなせるようにしませんと。
イメージ、イメージ……。
1
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる