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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
103:魔力をギュッとしてドカーンだ!
しおりを挟むA:前衛:セイヤ【刀】・ネネ【短剣・斥候】・ドルチェ【盾・槍】
後衛:ミーティア【弓・火魔法】・ウェルシア【風・水魔法】
■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族 女
■70歳 セイヤの奴隷
「二階への階段までは最短ルートだ。魔物部屋も寄らないぞ」
『はい』『えぇぇぇ』
「CP稼ぎは後回しだ。帰りに余裕があれば寄るけど、今はさっさと先に向かうぞ」
『はぁーい』
一部、魔物部屋に行きたがっていた人たちが残念そうにしています。
特にツェンさんとティナさんでしょうか。
返事は「はい」でないとエメリーさんに怒られますわよ? あ、早速怒られていますね。
一階層はさすがに皆さん何度もマラソンしているので、道順もどこに罠があるのかも把握しています。
試しながら最短ルートを行くのも問題ないでしょう。
わたくしやアネモネさん、ドルチェさん、ポルさんはまだ完全に覚えているわけではありませんが。付いて行くのみです。
一階層は洞穴型と言いますか、アリの巣のように何層も入り組んだ坑道のようになっています。
いくつもの分岐があり、所々に部屋状の広間があり、階層の中心には大空洞と呼ばれる広く拓かれた縦穴も存在します。
その大空洞から上下左右に分かれた道が伸びるイメージでしょうか。
一階層と言いながらも、何層もの坑道が重なった地形になっています。
最初の方はゴブリン系が多く、その先には蟻や蝙蝠、蛇系の魔物が出て来ます。
大空洞付近はコボルト。分岐の先には鍾乳洞のエリアや鉄、銀などが採掘できる坑道エリアがあり、そこにはリザードマンなども出て来ます。
今は散発的に出て来るゴブリンをAパーティーが先頭で倒しながら進んでいます。
早めの殲滅はもちろんですが、オークションの戦利品の装備やスキルなどを試しながら、ですわね。
ご主人様は<空跳>。
洞穴内なので天井が低いのですが、空中を足場にして上から<抜刀術>の<飛刃>で遠距離攻撃を試しています。
さすがの速さ、さすがの威力ですわね。
「空中は姿勢制御が難しいな。もっと細かく使えないとかえって隙だらけになっちまう」
見ている分には分かりませんが、納得いっていないご様子。
それだけ難しいスキルなのでしょう。
「<毒撃>……んー、分からない……」
ネネさんは毒を付与して敵を倒そうとしていますが、相手がゴブリンなので、最初の一撃で終わってしまいます。
毒になっているかも分からないので、不満そうですわね。
ネネさんが一撃で倒せない相手でなければ試すのは無理じゃないでしょうか。
一階層では検証を諦めたほうが良いでしょう。
「<不動の心得>! おお! やった!?」
やってないです。
ドルチェさんは相手の攻撃を盾で受けても下がりにくくなるスキルなのですが……。
本人はスキルが成功したと思っているようですが、それ多分、普通に盾受けしているだけですよ?
もともとゴブリンの攻撃で下がることなんかないじゃないですか。
ドルチェさんも二階層以降の強敵相手に期待ですわね。
「炎の槍!」
ミーティア様はさすがですわね。順調です。
【神樹の長弓】の威力と連射能力もさることながら、左手に弓を持ったまま、右手の中指につけた【炎のアミュレットリング】で火魔法を使っていらっしゃいます。
魔力の矢を放ち、追撃とばかりに炎の槍を放つ。
「ミーティア、連続して撃つなら炎の槍じゃないほうが良いんじゃないか?」
「そうでしょうか」
「だってどっちも魔力の単体攻撃だろ? だったら【神樹の長弓】を連射したほうが速いじゃないか。ほぼ同時に撃てるんなら別だけど」
「……なるほど」
「炎の壁を張って敵の視界を奪ったところで、弓矢で攻撃とか、魔法と弓矢の組み合わせを考えたほうがいいと思うぞ」
「そうですね、少し考えてみます」
わたくしとしては素晴らしい攻撃に見えたのですが、さすがはご主人様。
着眼点がわたくしとは違います。
その柔軟な思考はわたくしもあやかりたい所ではありますが……。
「水の壁! ……ダメですわね」
わたくしが下賜された<魔力凝縮>のスキル。
頂いたその日の夜から、暇さえあれば練習していますが、未だ納得のいく形にはなりません。
<魔力凝縮>の効果は通常以上の魔力を籠めることで、威力を増し、また広範囲魔法を単体魔法へと集中的に放つことが出来るというものだそうです。
それをご主人様は『圧縮・変化させるもの』だと仰いました。
今一ピンとこなかったわたくしに対し、ご主人様は丁寧に教えて下さいました。
♦
「俺は生活魔法しか使えないから間違っているかもしれないが」
そう前置きをしてから、ご主人様はキッチンへとわたくしを連れて行き、シンクの蛇口を捻りました。
ジャーと勢いよく水が出始めます。
本当にこのお屋敷の調理設備ときたら……いえ、今はそれどころではありませんね。
ご主人様は流れ出る水に手のひらを当てます。
そしてわたくしにも同じように強いました。
「今、水はこの量・この勢いで出ている。手のひらに当たる感覚はすなわち『威力』だ。バシバシ手のひらに感じる強さを覚えておけ」
「はい」
「で、蛇口をさらに捻る。すると当然勢いは増す。つまり魔力を余計に籠めて『威力』が増した状態だ」
「なるほど」
「これが<魔力凝縮>の効果の一つ。籠める魔力によって威力が変わるというイメージ」
素直に感心してしまいました。見て、実感しているので非常に分かりやすいと。
魔法は常に『決められた魔力量』で『決められた効果』しか出ないものです。
実際には個人差があるのですが、少なくとも、わたくしはそう教わりました。
しかしご主人様はご自身が生活魔法しか使えず、元いらした世界に魔法がないにも関わらず、これだけ魔法に対する考えをお持ちなのです。
いえ、もしかしたら転生者だからこそなのかもしれません。
いずれにせよ、このイメージは非常に大きなものだと感じました。
「で、さらにだ。蛇口の穴を半分くらい指で塞ぐ。そうすると勢いはさらに増しただろ?」
「うわっ! は、はい! 全然違いますね!」
手のひらに当たる水が勢いを付けすぎて、ビシャビシャとはねます。
少し痛いくらいに感じます。
「これが『広範囲魔法を単体魔法に変える』ってことだと思う。籠める魔力は変えていないのに、放出範囲は狭くなり、結果威力が上がった。水を凝縮する事で魔法を変化させたってイメージだ」
「す、すごいですわね……」
確かに蛇口から出る水柱が細くなると、出す水の量は変わらないのに勢いが段違いになる。
魔法を使っているわけではないのに、まるで魔法のような神秘的な現象。
わたくしは感動を覚えていました。
「俺のいた世界には魔法はないけど『ウォーターカッター』って技術があった。それは水を細く、勢いよく噴出して、鉄とかを切るというものだ」
「水で鉄を……ですか?」
「ああ、つまりはただの水も使い方次第で威力が変わる。<魔力凝縮>ってそういう変化をさせるスキルだと思うんだよな」
それを聞いたわたくしは、まるで天啓を受けたような気分でした。
もしそれが実現出来れば、わたくしの魔法技術は飛躍的に増すでしょう。
話に聞く【天庸】という化け物たちをわたくしが相手取るとすれば、これしかないのではないか。
<魔力凝縮>がわたくしの復讐への足掛かりになるのではないか。
そう思ってしまいます。
それと同時に魔法の新たな可能性、真髄が見えたような気がして興奮したのは、おそらくわたくしが導珠族であるが故。
そして研究員だったお父様の血が流れているという証拠なのでしょう。
♦
まさかその『魔法の真髄』をキッチンで教わることになるとは思いませんでしたが……。
ともかくそれから特訓ばかりしています。
小さな魔法に魔力を籠め、どう変化するのか。
形状を変化させるにはどうすればいいのか。
変化させたら、その威力はどうか。
色々と試しています。
そして今は広範囲魔法である水の壁を単体魔法レベルまで狭めることで、威力を上げようと頑張っています。
まさにご主人様が蛇口でやられていた事ですわね。
しかし難しい……半分くらいまでは狭められるのですが、単体攻撃レベルとまではいきません。
「なかなかいいんじゃないか? 方向性はやっぱ間違ってないと思う」
「そうでしょうか……」
「現に威力も上がってるっぽいしな。あとは慣れなのか、それともイメージ不足なのか。ステータスに関しては【魔力】と【器用】に振っていくつもりだから、ある程度は補えると思うけどな」
「はい、ありがとうございます。もう少し頑張りますわ」
ご主人様の<カスタム>だけに頼るわけにはいきません。
せっかく頂いたスキルなのですから、わたくしが自身の力で使いこなせるようにしませんと。
イメージ、イメージ……。
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