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第五章 黒の主、未知の領域に立つ
113:不敗の強敵を何とかしろ!
しおりを挟むC:前衛:エメリー【ハルバ・投擲】・ツェン【爪】・ジイナ【槌】
後衛:サリュ【光・神聖魔法】・ポル【鍬・水・土魔法】
■ジイナ 鉱人族 女
■19歳 セイヤの奴隷
大迷宮への探索を開始して二日目、私たちは三階層最奥の『不死城』に辿り着いた。
ご主人様に【体力】を<カスタム>してもらい、普段の探索でも魔物部屋マラソンをしていた私たちであっても、この三階層を走り回るのはかなり辛かったと言わざるを得ない。
もちろん休憩は挟みつつなのだが、一撃で倒せない敵や物理攻撃の効かない敵、さらに気持ち悪いとか臭いとか……。
精神的に疲れる階層だったと思う。
まぁ本番は明日なのかもしれないが。
そうしたわけで『不死城』に入っても戦うのは最小限にしつつ、予定していた宝魔法陣部屋に陣取る。
ネネちゃんが罠でない事を確かめつつ、魔法陣に魔力を込めると、現れたのはスキルオーブだ。
当たり。さすがに三階層の奥まで来ると出やすいのかもしれない。
「どれどれ……<速読>?」
……ハズレでした。ご主人様が<インベントリ>で確認した。
本を読むのが速くなるスキル。戦闘には使えないし、そもそも屋敷に本がない。
「そういや本買ってないな」
「高いですし、必要でもありませんでしたからね」
「今度本屋行ってみてもいいかもな。とりあえずスキルオーブは保留にするか」
私も鍛治関係の本があれば欲しいなぁ。あと武器百科とか。
この後、マジックテントで夜営の準備をして、夕飯を食べつつ、夜警の順番決めをした。
私はみんなの武器をメンテナンス。
みんな自分の武器は自分で磨いたり、研いだりはするが調整は私の仕事だ。
特に今回は相手がリビングアーマーだったりしたので、ミスリル武器や盾なんかは重点的に見ないといけない。
「おいジイナ、いつまで私の魔剣を見ているつもりだ。さっさと返せ」
「も、もうちょっと……」
「魔剣がそうそう刃こぼれとかするわけないだろうに」
至福の時だから。
そんなイブキさんは夜警でご主人様と一緒になった。
必然的にご主人様の隣で寝ることになるので緊張しっぱなしだったらしい。
イブキさんは意外と純情可憐だ。
「起きたら四人にしがみつかれてたんだが……」
左右のティナちゃん、イブキさんに加え、今日もネネちゃんとサリュちゃんが乗っかっていたらしい。
寝苦しそう。ご主人様、お疲れさまです。
朝食を食べ終わったあとは、今日の探索に向けてミーティングを行う。
ここまで順調だったとは言え、この『不死城』は未だ誰にも攻略を許していないエリア。
慎重を期すに越したことはない、というご主人様の考えだ。
「正直、悩んでいる。城をしっかり探索してから最上階の『玉座の間』に行くか、全部スルーして『玉座の間』に行くか。みんなはどう思う?」
結構意見が割れた。
現状最高到達点である『不死城』はここ以外にも宝魔法陣や隠し部屋なんかもあるらしい。
それを回収しつつ、強めの敵も密集しているから、経験値稼ぎ・CP稼ぎにも適しているだろうと。
どうせなら全部倒して行ったほうがいいんじゃないか、という意見。
しかし何度も言うように、ここは未踏破のエリアであり誰も倒せていない【領域主】が確実にいる。
誰も倒せないまま居残っているのでリポップどうこうではなく、ずっと居るのだ。確実な強者との戦闘がある。
それを倒す事を第一にして、城の探索は二の次にしたほうが良いのでは、という意見。
どっちもどっちな気がする。
いつもの私たちであれば間違いなく前者。魔物部屋感覚で倒しつくす。
でも【領域主】が恐ろしいのも分かる。なるべく安全策で行きたい。というわけで私は後者にした。
「うん、よし。じゃあ本格的な探索は帰りに余裕があればにしよう。今日は【領域主】を倒して四階層に行くのを第一目標とする」
『はいっ』
という事になった。
ご主人様は魔物部屋に乗り込んだり色々と無茶するイメージはあっても、基本的には安全第一なのだ。
幾人かは前者を選んだが、後者の方が人数も多かったし妥当だと思う。
それから『玉座の間』に入ってからの皆の動きについて確認をした。
誰も倒した事のない【領域主】であっても、誰も戦った事がないわけではない。
【領域主】は【迷宮主】と違い、領域から逃げれば戦わずとも良いのだ。
だから戦った上で逃げた、もしくは『玉座の間』に入った段階で「あ、無理だわこれ」と逃げた組合員が全てだと言うこと。
すでに『玉座の間』に居る敵の素性は分かっている。
分かっていないのは、その先に四階層への階段があるかどうかだけ。
そうしてミーティングを終えた私たちは気合いを入れ直し、いざ部屋を出た。
目指すは最上階、『玉座の間』。
城内の地図はほとんど埋まったものを持っている。
それに従って最小限の戦闘だけして進むのみ。
敵として出てきたのはリビングアーマーが一番多い。リビングソードという空飛ぶ曲剣も居て、時折リビングアーマーが装備していたりもする。
他にはやはり剣士のような装備をしたリビングデッドや、レイス、ジャイアントバットも居る。
一階のホールにはゴーレムも出るらしいが、道中では見なかった。
階段を上り、通路を抜け、また上るを繰り返す。
通路に敷かれた絨毯はボロボロに破れ、飾ってある像は壊され、絵画も傾き破られている。
そんないかにもな『廃城』を進み、最上階は五階だ。
全く壊れていない、荘厳で禍々しい死神の彫刻が象られた扉が待ち構えていた。
扉の前には左右に二体のデュラハンが馬に乗っていない状態で立っている。
大盾と槍を持つ、その姿はまさしく門番。
先頭は私たちCパーティー。
私もツェンさんも打撃武器という事で鎧相手には相性が良い。
魔法の援護もあり、速攻で倒した。
「よし、開けるぞ。どう動くかは頭に入ってるな? 行くぞ」
『はいっ!』
ご主人様が大きな扉をギギギと開ける。
ゆっくりと見えて来る『玉座の間』は、どちらかと言えば『謁見の間』と言えるもの。
天井はアーチ状に高く、縦に長い部屋。
左右にいくつもの柱が並び、何かの旗がずらっと掲げられているものの、そのどれもがボロボロだ。
薄暗い中、地面には血のように赤黒い絨毯が奥まで敷かれ、その脇にはデュラハンが等間隔で並んでいる。
先ほど門番で居た、馬なしの槍持ちだ。首もなしに絨毯を挟んで向かい合っている。
その最奥には玉座に座る【不死の王】リッチ。
言わずと知れた最上級アンデッド。それがここの【領域主】。
いかにも豪華な黒いローブに身を包み、髑髏の空虚な瞳は紅く妖しく輝いている。
さらにその両脇には近衛のつもりか、ガーゴイルが二体。
その巨躯は石ではなく金属の鎧に見える。翼も尾も。
手にはトライデントのような鋭い返しのついた槍。
―――それが私の相手だ。
扉が開くと同時に走り出す。
先頭は変わらず私たちCパーティー。
ABパーティーは左右のデュラハンそれぞれ十体を相手取る。
私たちはデュラハンを無視して前へ。
「行きます! 聖なる閃光!」
先制はサリュちゃんの神聖魔法。当然狙いはリッチ。
遠距離からの直撃を確認。
光の束が玉座をまるごと飲み込んだ。
それでリッチが倒れれば問題ない。ガーゴイル二体を相手に五人で挑むだけ。
倒れていない場合は、最優先でリッチを倒さなくてはいけない為、サリュちゃんの追撃とサポートとしてエメリーさん、ポルちゃんが加わる。
その間、私とツェンさんは一人でガーゴイルを押さえなくてはいけない。
冷や汗を流し、唇を噛みしめながら前へ走る。
サリュちゃんの【聖杖アスクレピオス】からの聖なる閃光はアンデッドのリッチにとって強力すぎる攻撃のはず。
どうか倒れてくれと祈りながら、私はガーゴイル目がけて走った。
聖なる閃光の光が収まる。
はたしてリッチは生き残っていた。
ローブをボロボロにされ、身体から煙を吐き出しながらも、未だ玉座に座っていた。
くそっ! 思わず悪態をつきたくなる。
なんて魔物だ。あの攻撃を受けて耐えられるものなのか。
これがリッチ。これが最上級アンデッドか。
今まで誰も倒せない理由がよく分かる。
この魔物は規格外だ、と。
驚愕と悔しさと恐ろしさ、同時に抱えながら、私はどちらにしてもガーゴイルを叩くしかない。
無意識に「うわあああっ!」と自分に気合いを入れつつ、魔法槌を振りかぶる。
そのすぐ背後で声がした。
「もういっちょ! 聖なる閃光!」
私の脇を光の束が通り過ぎていった。
あ、サリュちゃん、それ連発できるんだね。
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