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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
134:掴みはオーケー(掴みっぱなし)
しおりを挟む■メリー 羊人族 女
■22歳 迷宮組合カオテッド本部 受付嬢
「ふぁ~~~っ」
扉を開けると、そこは御伽話に出て来るお城の世界でした。
両手を広げ歓迎するセイヤさんの後ろには、綺麗に並んで全く同じお辞儀をするメイドさんたち!
すごい! 小さなティナちゃんから大きなツェンさんまでビシーッと揃ってるんです!
もうこれだけで来たかいがありますよっ!
しばし言葉を失いましたが、逸早く復帰したメルクリオさんがセイヤさんの元へ行きます。
後ろに控えたクランメンバーの方がマジックバッグから見事な花束を取り出し、メルクリオさんから渡しました。
「招待ありがとう、セイヤ。もう色々と言いたいことはあるんだが、とりあえずお祝いだ」
「ありがとう。言っておくが驚くのはまだ早いぞ。気合い入れたからな」
「ははは……勘弁してくれ、本当に」
次いで、サロルートさんもお花を。ドゴールさん、バルボッサさん、ズーゴさんはお酒ですかね。
私たちも三人で買ったお花を渡します。メルクリオさんやサロルートさんに比べると見劣りしますけど……。
「セ、セイヤさん、おまっ、お招きいたっ、いたしてっ」
「おちつけおちつけ、大丈夫だ。ここはただの組合員の家でただの祝いの席だ」
「ふええ~、落ち着くとか無理ですよぅ! と、とりあえずおめでとうございますっ!」
「ああ、ありがとう。楽しんでいってくれ」
無理矢理カーテシー決めようとして失敗しました。
憧れなんですけどねー、カーテシー。私がやるもんじゃありませんでしたね……。
「サリュ、お酒をキッチンへ。ポル、花はホールに飾ってくれ」
「「はいっ」」
「さて、メルクリオどうしようか。先に説明するか、会場に案内するか……」
「いや、この状況でもう無理だろ、すでに騒いでるよ」
「おい、セイヤ! なんじゃこれ! この魔物なんじゃ!」
「あーはいはい、説明からするか」
落ち着いて見回してみるとなんか周りに色々と飾ってありますね。
これ……ドロップ品じゃないですか?
「こないだ探索した時の【領域主】のドロップを飾ったんだよ。自分たちの成果を確認するみたいでいいだろ?」
「売れよ! もしくは装備にしろよ!」
「いや、本部長に全部買ったら破産するって言われてな。売り切れなかったんだよ」
『うわぁ……』
ま、まあ私はどれだけ買い取ったか知ってますからね。
あれ以上にあるそうですし、確かに一度じゃ買い取りきれないですよ、あれは。
「―――で、これがリッチな。衣と杖」
「おおおっ! 確かにあいつのだ! すげえ!」
「わしらが苦戦しとったヤツがこうなると、途端に弱く見えるのう」
「気のせいだぞドゴール」
「で、こっちが四階層の【領域主】のトロールキングと仮称ヘカトンケイル」
「えっ、トロールキング出るの!? 聞いてないんだけど!」
「そのヘカトン何とかと言うのは?」
「六本腕の赤いサイクロプスだな。本部長も知らないヤツらしい」
「なんだその魔物は……」
「未知の魔物を倒したのか……普通のサイクロプスでも危険だというのに……」
どうやら四階層の探索については後でゆっくり説明するという流れになったそうです。
私もメイドさんたちの活躍は聞きたいです! ご一緒しましょう!
「―――で、これが【炎岩竜】、通称『亀』」
「こ、これが噂の? いや竜を倒したのは聞いたが、とんでもない大きさの魔石だな……」
「こんなの見た事ねえぜ……こっちの黒いのが素材か? 甲羅?」
「説明すると長いから後でな」
ほぇ~、これが例の魔石ですか……ほんとに頭くらい大きいですね……。
確かに国宝って言われても納得しちゃいます。
強引に話を断ち切って、パーティー会場の方へと誘導するようです。
確かにここでずっと喋っているわけにもいきませんからね。
「うわっ! ソルジャースパイダーだ!」
「おい、なんでこんなトコに居るんだよ!」
「あー、あー、ごめん、これ俺たちで作った小さいタイラントクイーンの人形なんだよ」
「はぁっ!? に、人形!?」
「ああ、本当ですね。これはすごい……よく作りましたね。芸術ですよ」
「だろ? サロルートはさすがだな。何人かで作ったんだけどな、かなり出来が良いと俺も自画自賛だ」
タイラントクイーン!? 私も受付で素材は見ていますが本物は見た事ありません。
はぁ~こんな蜘蛛だったんですね~。どのくらい大きいんですかね。
「うわぁ、いや、確かにすげえけどよ、なんでこんな不気味なやつわざわざ人形にするんだよ。まだグレートウルフの方が可愛げがあるじゃねえか」
「素材が大量に余ってるしなぁ。それで何か作りたいなーと」
「えっ、この人形、タイラントクイーンの素材で作ってるのか!? 言われて見れば確かに……」
「ああ、なんか言っておったのう。【黒屋敷】がタイラントクイーンとミスリルを大量に持ってきたとか」
「うちのメンバーの侍女服が【鉄蜘蛛の糸】製だからさ、【糸袋】集めで大量に狩るんだよ」
『はあっ!?』
え、メイド服の素材ってタイラントクイーンなんですか!?
だからあんなに狩ってたんですか!? あ、そういえば【鉄蜘蛛の糸袋】は買い取りに出してませんね……それでですか。
どうやら仲良しのメルクリオさんも知らなかったようですね。頭を抱えています。
「なるほど、だからメイド服のまま探索に行けるのか。いくら魔装といってもおかしいとは思ってたんだ」
「【黒屋敷】の謎の一つが解明されたな」
「確かに下手な鎧よりも強度がありそうですね。しかし集めるのに苦労しそうですが」
「わしは絶対嫌じゃな。連続で狩るとか考えられんわい」
「だよなー。頑張って倒しても【顎】と【甲殻】と【魔石】ってパターンが多いだろ、あれ」
なんか改めて、メイドさんたちの凄さを知った気がします。
でも探索から帰ってきた時、そのメイド服が焦げたり破けたりしてたんですよね……。
一体何がどうなればあんなになるのでしょう……。
「おーい、パーティーホールこっちだから。行くぞー」
手招きするセイヤさんに付いていきますが、皆さんもうぐったりしていますね。
大丈夫でしょうか。
『おおおっ!』
「うわ~~っ!」
大丈夫そうです。パーティーホールに着くなりテンションが上がりました。
広いお部屋の壁際にはズラーッとお料理が並んでいます。
一見すると立食パーティーのようですが、丸いテーブル席も六つ用意されていますね!
「まずは適当に座ってくれ。乾杯してから好きにとって食べていいからな」
戸惑いながらも席につくと、それぞれのテーブルに飲み物を持って来てくれます。
専属給仕さんというやつですね! 私たちのテーブルはエメリーさんのようです。
トレーにワイングラスを乗せてやって来ました。
「乾杯用のワインです。ジュースが宜しければお持ちしますがいかがですか?」
「大丈夫です!」
私たちは三人とも少しは飲めるので問題ないです。
それぞれワイングラスを持ちました。
「行き渡ったかな? えー、じゃあ改めて今日は来てくれてありがとう。お蔭さまで俺たち【黒屋敷】がSランクに昇格する事ができた。これは俺たちだけの力だけではなく、探索を繰り返し、知識を蓄えてくれた先達と、支えてくれた人たちのお蔭だと思っている。今日は感謝の意も込めて、精一杯のもてなしをするつもりだ。どうぞ楽しんでいってくれ。―――では乾杯!」
『乾杯!』
セイヤさんにグラスを掲げ、みんなとグラスを合わせ、口に含みます。
っ!? 美味しいっ! こんなワイン飲んだ事ありません!
他のテーブルも騒いでますね。特に【震源崩壊】の皆さんでしょうか。
小慣れた様子でワインをテイスティングし直したメルクリオさんが聞きます。
「おいセイヤ、これどこのワインだい? 僕も飲んだ事ないものだと思うんだが」
「美味いだろ? これ自家製なんだよ。ジイナとポルの合作」
『自家製!?』
ジイナちゃんとポルちゃん!? いや、ジイナちゃんは鉱人族だから分かりますけど、ポルちゃん?
キノコでも入ってるんでしょうか?
「これが自家製とは驚きだね。王宮の晩餐でも出ないレベルだよ。定期的に買いたいくらいだ」
「お土産に一人一本ずつ用意してるから、とりあえずそれで勘弁してくれ」
「おおっ! これお土産で貰えるのかよ! やったぜ!」
「これは来たかいがありますよ」
「絶対にすぐ飲み切ってしまうのう……置いてきたクランのメンバーに何て言おうかのう……」
そう言いながら飲んでいると、またエメリーさんが近づいてきました。
「他にもお酒の種類を用意しております。こちらがリストになりますので宜しければお申しつけ下さい」
「なんかエメリーさんに給仕してもらうのって申し訳ないんですが……」
「私は本日、組合員ではなく侍女ですのでお気遣い無用です。それと料理もお好きなものを選んで取り分ける形なのですが……宜しければ適当にお持ちしましょうか? その靴では歩くのが大変でしょうし」
あー、なんか本当に申し訳ないです。失敗したと反省してます。
すいません、では適当にお願いします。
「かしこまりました。もしドレスがきつくて苦しいようでしたら手直しも出来ますので、ご遠慮なくお申し付け下さい」
あ、ホント、なんて言うか、すみません。
本当はコルセットギチギチですでにつらいんです、すみません。
あ、もうお料理持って来てくれたんですか、すみません。
うわぁ、なんでしょうこれ、見た事ないのが並んでますけど。
……美味しっ! 何これ美味しっ!
うわっ! このパンも美味しっ! お肉のソースも美味しっ!
何ですかこれ! 食べた事ないのばっかなんですけど!
……。
……すみません、エメリーさん、手直しして頂けますか?
……あ、もしくは平服に着替えてもいいですか?
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