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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
142:誤認と真実の狭間で
しおりを挟む■ネネ 闇朧族 女
■15歳 セイヤの奴隷
「今日は奴隷を買いませんでしたね」
「買ってたまるか。十六人だぞ、十六人」
「まだ増えると思いますが」
「ないな。あるわけがない。今までが異常なんだよ」
ティサリーン商館を出てから、ご主人様とエメリーはずっとこんな感じ。ご主人様はなんとなくご機嫌斜め。
私も付いてきたはいいけど、てっきり奴隷商館に行くついでに増やすと思っていたから、フロロじゃなくていいのかと聞いてしまった。
どうやら意地でも増やさない為にフロロを連れて行くのを止めたらしい。
別にフロロが居るから増えるってわけじゃないと思うんだけど……。
願掛けみたいなものかな?
「げえっ! 【黒の主】!?」
「まぁたティサリーン商館から出て来やがった!」
「まぁた増やしやが……天使族ぅ!?」
「天使族の奴隷……だと……?」
「爆発」
さっそく注目を浴びる。しょうがないよね。
私も滅多に見ない闇朧族だってよく見られるけど、天使族は有名かつ神聖国以外じゃ見られないからね。
しかも二人で、しかも奴隷だからね。うん、無視しよう。
シャムとマルの二人はさっきから左手に夢中だし。
で、せっかく商館まで来たから、ついでに組合で登録も済ませる。
当然騒がれるけど、これもまた無視。いつものことです。
「セイヤさん昨日はどうも……って、ええええっ!? ア、ア、天使族!?」
「ああ、昨日みんなが帰ってからやって来てなぁ、なんやかんやあってうちに入る事になった。登録を頼む」
「なんやかんやって……Sランクになってやっと落ち着いたところで、今度は天使族を組合員にですかぁ!? なんやかんやありすぎでしょう!」
文句を言いながらもメリーはちゃんと登録を済ませてくれた。
昨日ちゃんと帰れたか不安だったから少し話したけど、どうやらなんとか帰れたらしい。
帰った上でお土産のプリンも食べたらしい。すごい。
ん? なんとなくほっぺたが膨らんで……メリー、昨日一日で太った? ……言わないでおこう。
それから屋敷へと戻る。
本当は侍女服の発注とかにも行きたいけど、その前に色々と説明するとの事。
「順番があべこべになったけど、一応聞くぞ。軽くは説明したがシャムシャエルもマルティエルも、俺の奴隷になるって事は、侍女となり共に戦う仲間となるって事だ。その辺は大丈夫か?」
「はい、問題ないでございます。家事も助祭のうちは下働きなので必須でございますし、戦闘に関しても神聖国内の魔物を倒すことが役目の一つでございましたので」
「わ、私も大丈夫でござる! 家事は普段からやってるでござる! でも戦闘は、訓練くらいしか出来てないでござるが……」
なんか二人の居た神聖国の大聖堂ってとこは、位によって上下関係がきっちりしているらしい。
他の種族もほとんど居ないから、国を動かすのも魔物と戦うのも天使族の仕事なんだって。
で、マルはシャムのお世話をする『助祭』だから普段から家事をしていると。
シャムは『司教』になる前は『司祭』『助祭』だったから一通りの経験はあると。
家事関係は即戦力かもしれない。
これは、侍女教育と合わせて、エメリーが後で確認するという事らしい。
ひょっとすると侍女教育もすんなり行くかも? シャムとかすでに雰囲気がミーティアっぽい。
「俺の<カスタム>については一通り説明したが、大丈夫か?」
「ウェヌサリーゼ様の神技でございますね?」
「違います。女神が適当に選んで猛烈な痛みと共に俺に与えたスキルです」
「正直ステータスやレベルというものがよく分かっていないのでございます。申し訳ありません」
「私はちんぷんかんぷんでござる……」
「まぁそこはしょうがない。誰も最初から分かるヤツなんて居ない。そこはエメリーとイブキから詳しく教わるとして、一先ずはどんな戦い方をするかによって、二人を<カスタム>しなきゃならん」
理解できないのは仕方ない。
でもこれで、ミツオという一万年前の勇者が<カスタム>使いじゃないというのが分かった。
少なくともステータスを見る事が出来る系のスキルではないらしい。
と言うか、よくよく聞けば、勇者のスキルや元の世界の事なんかは禁則になっているらしい。
記録にはあえて残さず、あるのは備忘録というミツオという人の言葉を記したものだけだと。
うちのご主人様がスキルや女神や元の世界の事を秘密にして、奴隷契約を結んでいるのと同じような感じかもしれない。
「もしかしたらスキル自体もらってないのかもな。いや、女神ならそんな事はしないか。邪神を倒せるくらいの力を持ってたんならスキルなしの基人族じゃたかが知れてるしな」
「ラグエル様ならご存じかもしれないでございますが……」
「ラグエルって例の女教皇?」
「はい。天使族で唯一、一万年前の大戦を経験しております。ただ幼かったそうで勇者様と共には戦っていないそうでございますが」
「一万歳オーバー……すげえな」
天使族ってみんな年齢が高すぎる。
シャムは五千歳越えらしいし、八歳のティナと変わらないように見えるマルも千八百歳越え。ツェンの六倍以上。私の百倍以上。
「まぁとにかく<カスタム>スキルで二人を強くするとだけ理解してくれ。それで戦闘スタイルはどんな感じなんだ? シャムシャエルは?」
「私は前衛の盾でございます。中盾と直剣。魔法は神聖魔法と光魔法でございます」
「おお、聖騎士……! 分かりやすいな。マルティエルは?」
「わ、私は後衛で弓でござる! あと神聖魔法が少し……」
「おお、キューピッド……! 分かりやすいな。……忍者天使とかじゃなくて良かった(小声)」
前衛と後衛が一人ずつ。しかも二人とも回復役。
これはサリュの負担が減るね。
しかもシャムは三人目の盾役だから助かる。
<カスタム>のステ振りは、シャムは「魔力を上げたヒイノ」って感じ。マルは「敏捷と防御を削ったミーティア」って感じになった。
CPが不足気味なのが辛い。
レベルアップしてやっとCPが振れてきたって所で新規に二名だからね。
これはますますCP稼ぎをせねばなるまい。むふー。
二人が持ってきた自分の装備も見せてもらう。
全部、国の支給品らしい。魔法触媒は同じ腕輪がついている。
シャムの盾と剣は共に白銀っぽい。マルの弓は普通のショートボウに見える。
「アネモネ、ジイナ、どう見る?」
「ふふふ……良いものだけど、どれも古い、です。劣化が激しい」
「うん、ミスリルより少し上ってトコでしょうか。弓は比べようがないですけど」
「腕輪は神聖特化でかなり、良いもの。おそらく店売りで代用は、無理、です」
「だね。これは遺跡とかで出て来そうな風格がありますよ。ごくり」
ほー、やっぱり国を代表して来ているだけあって、かなりのものを支給されたらしい。
ただ残念。うちのクランはすでにその場所を通り過ぎている。
まあ、弓はうちの場合比べる対象が神器しかないので何とも言えないんだけど。
「そうか。ジイナ、シャムシャエル用に中盾と直剣作れるか?」
「盾は問題ありませんが、剣は【炎岩竜の鱗】が直剣分ギリギリです。それでも作るか、ミスリルとの合金にするかどうしますか?」
「うーん、シャムシャエル、盾と剣が真っ黒でも大丈夫か? 今の真っ白と真逆なんだが」
「だ、大丈夫でございますが、その、今、【炎岩竜】と……まさかご主人様は竜を倒されたのでございますか?」
「そうだぞ? エントランスにもその竜の魔石とかあったと思うんだが」
「よ、よく見てないでございます……そうですか、やはりご主人様は勇者様……」
あー、シャムたちの組合員証の裏面には竜殺しの記載もないのか。
フロロたちの組合員証にも『イーリス迷宮制覇』がないもんね。
でも同じクランだからSランクになってるだけ、と。
ともかく、シャムの盾と剣は【炎岩竜の中盾】と【ドラゴンソード】に決まった。
ジイナは早速作り始める。
マルの弓は明日、南東区に買いに行くそうだ。侍女服も一緒に発注するとちょうどいいね。
「とりあえずの予定はそんなところかな。まずはエメリーとイブキに教育をお願いするとして、なるべく早く迷宮に行ってもらうつもりだから承知しておいてくれ。みんなもな」
『はい』
「特にマルティエルのレベル上げはある程度必要だな。シャムシャエルはそこそこ高いが。CPも余計に稼がないといけないから、何パーティーかに分けて場所を変えつつマラソンする事になると思う。まぁそこら辺は改めて作戦を練るけどよろしく頼む」
『はい』
おお、魔物部屋マラソンがバージョンアップする予感。
これだけ人数がいれば一つのパーティーに拘る事もないもんね。
今さら一階の魔物部屋なんて一人二人でも回れるし。
一区切りつけたご主人様が、真剣な面持ちでシャムとマルを見る。
「あと、二人に確認しておきたいんだが、昨日の話……一万年前の勇者だが、戦った相手は【邪神ゾリュトゥア】なのか? 俺は知らなかったんだが」
「はい、そうでございます。【邪神ゾリュトゥア】が世界に顕現し、眷属である魔族を率いて世界を滅ぼそうとしたのが一万年前。それに対抗すべく【創世の女神ウェヌサリーゼ】様が降臨させたのが【勇者ミツオ】様でございます。全ての種族をまとめ上げ、邪神を打ち倒した事で世界に平和が戻ったと、これは創世教の聖典にも書かれている事でございます」
「……そうか。誰か今の話を知ってるヤツはいるか?」
見渡すみんなが首を横に振る。
一万年前に基人族の勇者が現れたのは知っている。
それが何か悪しき者と戦い、世界に平和が訪れたと……。
……あれ? なんで勇者の敵が分からないんだ?
でも御伽話で……ん? そんな本あるの? 少なくともあれだけある娯楽室の本棚にはないはず。
じゃあなんで一万年前の勇者を知ってるの? ん? 分からなくなってきた。
「やっぱみんなよく知らないのか。俺は女神にもらった知識が元々不十分だから知らないのも分かるんだが、これだけ多種族が居て誰も知らないってのはおかしいよな。でも天使族は当たり前のように知ってるんだろ?」
「は、はい。むしろなぜ皆様がご存じないのか不思議なくらいでございます……」
「なんで知らないんでござる?」
天使族は知ってて当然。だから昨日普通に話して、私たちも普通に聞き流してしまった。
だけど言われてみれば「なんでそこで邪神が出て来るの?」となる。
なんだろう、この変な感じ。
「天使族にとって一万年は遠くない過去であっても、他種族からすれば太古の昔だ。だから記録が廃れたとも考えられるが……少なくとも『神樹の巫女』のミーティアは垂教で習っていてもおかしくはない。世界を、樹人族を巻き込んだ大戦ならば尚更だ。……それが記録どころか記憶や口伝にも残らないとなると、長い時間をかけて意図的に歪められたって考える方が無難だろうな」
「人為的に大戦の情報が消された……でございますか? 一体誰が……!」
「そんなの決まってるだろう―――魔族だよ」
勇者の存在は人々の記憶から消えていないが、大戦やその相手の事は誰も知らない。
誰かが消したとなれば、それは勇者の敵であった【邪神ゾリュトゥア】。その眷属である魔族だろう。
ご主人様はそう断言する。
今も尚、世界の各地で暗躍を続ける魔族が、長い年月をかけて人の記憶を改竄した?
いや、消去か。記録にも記憶にも残らないよう何かを仕掛けた?
そう考えるだけで背中に悪寒が走る。何とも言えない恐ろしさを感じる。
「ちなみに聞きたいんだが【ゾリュトゥア教団】って知っているか?」
「【ゾリュトゥア教団】!? な、なんでございますか、その忌まわしき教団は! 邪教でございますか!?」
「そんな教団があるのでござるか!?」
「やっぱり知らないか。鉱王国から、今はカオテッドまで進出して来ている邪教だ。これによる被害が最近、カオテッドでも増えているそうだ。ここにいるドルチェもその被害者の一人だ」
ドルチェが顔を俯く。未だにドルチェは買い出しで外に出たりも出来ないでいる。
本人が嫌がっているわけではないけど、最近は中央区でも説法をしている邪教徒を見かけるから念の為だ。
「【ゾリュトゥア教団】の事は不思議に思ってたんだ。この世界は多神教だからカルト教団の一つや二つあってもおかしくはない。しかし俺のいた世界と違って″神″が身近にあるこの世界で、どうしてこうも勢力を伸ばせるのか。普通に暮らしていたはずの人がなぜ改宗するに至るのか、俺には全く理解できない」
ドルチェの両親も普通の服飾屋さんだったと聞く。
それがいつの間にか邪教徒になっていた。
生活に苦しんだわけでもないのに、気付けば突然……。
「シャムシャエルの話だと一万年前に世界を滅ぼそうとしたのが【邪神ゾリュトゥア】。人々からその記憶を消した存在がいる。そして教団はその邪神を復活させようとしている。……だったらもう答えは一つだろ」
「まさか……」
「ああ、逆に言えば、復活させたいから記憶も記録も消した。復活させたいから排他的な天使族から離れた鉱王国で勢力を伸ばし始めた。つまり―――
―――【ゾリュトゥア教団】は魔族の勢力だ」
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