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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
144:訓練と計画の狭間で
しおりを挟む■ツェン・スィ 竜人族 女
■305歳 セイヤの奴隷
「くぅっ! ズーゴさんすまねぇっ!」
「早くしろバルボッサ! もう持たんぞッ!」
「はーっはっは! そんなんであたしの攻撃は防げねえよ!」
「「ぐはあっ!」」
地下訓練場で、あたしはズーゴとバルボッサをぶっ飛ばす。
少し前から始めた模擬戦だが、なかなか熱くなってきたな。
やっぱ普段と違う相手との模擬戦は面白い。
「かぁーっ! つええっ! 竜人族ってこんな強いのかよ!」
「はははっ! あたしは特別強いぞ! そこらの竜人族と一緒にすんな!」
「しかしこれは良い訓練だ。感謝しますぞ、ツェン殿」
「ああ、お前らもさすがはクラマスと団長だな! 思ってたより強いわ! 上手いって言うか巧みって言うか」
「組合員としての年期だけはありますからな」
「それが二対一でボロ負けしてたんじゃ立つ瀬がねえぜ」
こりゃあたしだけじゃなくみんなも、こいつらと戦うべきだな。素直にそう思う。
あたしも普段の訓練じゃ、イブキとの力勝負かネネやティナとの速度勝負に偏りがちだからな。
こいつらみたいな『戦闘の巧さ』『勝負の駆け引き』みたいなもんは誰も持ってねぇし。
そうして反省会めいた雑談をしていると、あたしの<気配察知>に反応がある。
正門に客だな。
「悪い、客みたいだ。ちょっと抜けるぞ」
「おー、行ってら」
そしてダッシュで天井が開けた大穴部分まで行き、階段を五段飛ばしくらいで駆けあがる。
これもまた良い訓練だったりする。
正門までのタイムトライアル。ネネとティナには完全に負けるけど。
「おや、確かツェンと言いましたか。貴女がお出迎えとは意外でした」
「おっ、サロルートじゃねえか。いらっしゃい。今日はあたしが警備担当なんだよ」
やって来たのはサロルートと、【風声】のメンバーだろう二人。祝賀会に来てたのとは違うな。
そう思って見ていると「今日は娯楽室で共に楽しめるメンバーを連れて来たんですよ」との事。
なるほど。こないだ来たのはクラン上位のヤツらで、今回はサロルートと似た趣味のヤツらって事か。
入り浸る気満々じゃねーか。
「それでセイヤはいますか? 娯楽室を使わせてもらいたいのですが」
「ご主人様は出掛けてるんだ。でも自由に使わせていいとは言われてるぜ。入ってくれ」
「ははっ、気前が良いですね。ではお邪魔しますよ」
三人を連れて屋敷に案内する。
サロルートは祝賀会で来ているから案内なんか不要だと思うが、侍女っぽくしないと怒られるからな。
誰に、とは言わんが。
「「おおっ! これが噂のっ!」」
「ええ、すごいでしょう。綺麗な展示ですよね。ほらこれリッチのドロップですよ。それでこれが例の竜だそうです」
「これはすごい……」
「でも僕のおすすめはこっちのタイラントクイーンです。見て御覧なさい、この精巧な造り。芸術でしょう?」
「ほぉ~、いや確かにこれは見事」
「よくぞここまで再現しましたな……」
あたしが案内しなくてもサロルートが勝手にやってくれる。
とは言え「じゃああとはご勝手に」とも言えず、歩き出すのを待つしか出来ねえ。
侍女ってのも大変だな。
そうして暇してると、また正門に<気配察知>の反応が……これはネネとサリュだな。
しばらく待つと、屋敷の入口から入って来た。
「ただいま戻りましたー」「ただいま」
「おお、お疲れー。大丈夫だったか?」
「ん。そんなに近づいてないし」
「気疲れしましたけどね。あと眠いです」
「ははっ、だろうな。風呂入って寝ておきな」
「はーい」「ん。おやすみ」
あいつら夜から出てたからなー。まぁ何事もなくて良かった。
何かあってもあの二人なら大丈夫そうだけどな。
お、やっとサロルートたちが動き出すらしい。ようやく見飽きたか。
サリュとネネも、タイラントクイーンに釘付けの三人をチラ見して嬉しそうだったな。
自分らの作品を喜んでもらうと嬉しいもんなんだろう。
あたしも自分で造った酒を旨いって言ってもらうと嬉しいしな。
「ほぉ~、これまたすごい部屋ですな!」
「本屋に勝るとも劣らない蔵書! それとこれが話に聞いた……」
「ビリヤードですね。さて、これで遊ぶか本を読むか……実に悩ましい問題ですよ」
部屋の中央にあるビリヤード台。その周りにはソファーが並んで、本を読むにはちょうど良い。
二人で遊んでる間にもう一人が本読めばいいじゃねえか。
もう少ししたらビリヤードがもう一台増えるらしいけど。今はアネモネとウェルシアが発注してるらしいが。
落ち着いたようなので、あたしは「んじゃ、ごゆっくり」と頭を下げて娯楽室を出る。
キッチンに寄り、その場に居たヒイノにサロルートたちの事を告げておく。
あとはヒイノがお茶出したりしてくれるだろう。昼飯とかどうするのか知らんが。
それから地下訓練場に戻り、ズーゴやバルボッサたちと訓練を再開した。
こいつらも昼飯食っていくのかと思ったらどうやら帰るらしい。
昼から仕事があるんだと。ご苦労なこった。
それを一応お見送りした所で、ご主人様たちが帰ってきた。
まぁ帰ってきたと言っても、向かった先が三軒隣りのメルクリオんちだからな。
それをお出掛けと言っていいのかも分からん。
「ただいま、ツェン」
「おかえりなさいませご主人様」
ご主人様のお出迎えはちゃんと侍女の礼で対応する。
これは普段からきっちりとやらないと、ご主人様の後ろに居る侍女長様が怖い。
「サロルートとクランメンバーの二人が娯楽室に居るよ。あと、さっきまでズーゴとバルボッサが訓練場に居た。もう帰ったけどな」
「祝賀会が終わってから、来るのが早いと見るか、遅いと見るか微妙なところだな。とりあえず分かった。娯楽室には顔を出すよ」
「あと、少し前にネネとサリュが帰ってきた。風呂入って寝るように言っておいたが」
「おお、良かった良かった。報告は何か受けたか?」
「いや何も。サリュが眠そうだったからな」
「だろうな。分かった。じゃあ夜にでもみんなで報告会しよう。俺の方からもあるし」
メルクリオとの話し合いの報告だな。
確かにみんなで揃って聞いたほうがいいだろうな。
それから昼飯を食って、警備に戻る。
暇だからご主人様と一緒に帰ってきたフロロとウェルシアの訓練に参加する。
まぁほとんど横から口出すだけだが。
杖同士の模擬戦と立ち回りとかだからな。あたしが打ちこむわけにもいかないし。
ミーティアも来たがあいつの弓を受けるわけにもいかねえ。あたしだって殺される。
そうこうしていると迷宮組が帰ってきた。
イブキ、ティナ、ポル、アネモネ、シャム、マルだな。
ティナ・ポル・マルが手を繋いでるな。ちびっ子三人、仲良くなったようだ。
しかし、中央のマルの顔が死んでるな……。
シャムもぐったりしている……。
「おかえりー。初迷宮はどうだった? 大変だったみたいだな」
「予想以上に過酷でございます……」
「怖かったでござる……」
「はははっ! まぁ最初はしょうがねえだろ! そのうち嫌でも慣れるって!」
「そうでございましょうか……」
「魔物部屋は嫌でござる……」
神聖国には迷宮ってないのか?
天使族は魔物退治も仕事のうちだと言っていたが、地上の魔物だけなのか?
だったら迷宮とは違うからな。
あたしは迷宮のほうが魔物がうじゃうじゃ居て楽しいんだが。
「はぁっ!? ア、天使族!?」
おっ、どうやらサロルートたちもお帰りらしいな。
帰ってきた迷宮組と出くわしちまった。
シャムたちが加入したのも知らなかったみたいだ。
「え、ちょ、ア、天使族が入ったのですか!? 【黒屋敷】に!? 二人も!?」
「な、なぜ神聖国を抜けてカオテッドまで……」
「こ、これが【黒屋敷】か……」
「ちょっとセイヤー! 説明して下さい! セイヤー!」
おお、サロルートが取り乱してるな。
ミーティアと会った時と同じくらい驚いてるじゃねーか。
そんなに驚くことか? 天使族なんて竜人族や基人族より数が多いんだぞ?
別にここにいたっていいじゃねーか。
その後、屋敷の中からやって来たご主人様が、めんどくさそうに説明していた。
かなり適当に。なんか来たから仲間にした、みたいな。
サロルートは全然納得してなかったが、それ以上言いようがないからな。
まさか【勇者】がどうとか、女神の神託がどうとか言えねえし。
それから夕食の後の席で報告会が行われた。
迷宮組はシャムとマルの初探索という事で、装備のお試しと迷宮がこんなもんだってのを勉強がてらに行ったらしい。
ただマルのレベル上げとCP稼ぎもあるから、ある程度慣れたところで魔物部屋マラソンしたそうだ。
もちろん二人は付いてくるだけ。ふわふわ浮いているだけ。
どうやらそれでもかなりの衝撃だったらしい。今はフロロとジイナが慰めている。
ネネとサリュの任務は継続。今日もこれからまた出かけるらしい。
大変だがあたしが代わってやれないから応援しか出来ん。
一先ずの収穫はあるが、今後どこまで進めるかはみんなで議論の対象となった。
これは難しいなー。ネネとサリュに危ない橋を渡らせたくもないし。
それとご主人様からはメルクリオとの話し合いの報告がなされた。
やはりこちらも話し合う内容が多い。相手が【天庸】だからな。
どう動くかある程度予測して、その対策を練らないといけない。
……めんどくせえ! こっちからぶっ飛ばしに行きてえ!
まぁそれが出来ないから困ってるんだが。
ともかく色々と動き出して、今は準備で忙しい。
あっちもこっちもって感じだが、あたしとしちゃ楽しい限りだ。
戦いの気配しかしねえからな!
……ただ、留守番は暇だからあんまりやりたくないんだが。
……ネネとサリュが居ないからしょうがないけど。
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