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第六章 黒の主、パーティー会場に立つ
145:闇夜の防衛戦(104話ぶり2回目)
しおりを挟む■ロウイ 狼人族 男
■38歳 元【鴉爪団】副頭領 隻眼
準備は整った。
元から中央区に居た信者に加え、北西区からも大量の信者を送り込んだ。
怪しまれず第一防壁を突破する為に、少しずつ時間や日にちをずらして中央区へと集めた。
その数、百五十を超える。
これが全て『狂心薬』をいつでも服用できる状態だ。
もはや軍隊。帝都にでも攻め入れそうな気さえする。
迷宮組合本部の少し東にある、北地区へと続く道。
高級住宅地が立ち並ぶそこへ、時間に合わせてぞろぞろと集まった。
夜中だと言うのに、まるでそこだけ祭りが始まったかのような異空間。
飲み歩いている組合員やわずかな衛兵が騒ぎ出すが、すでに遅い。
″異教徒を囲う【黒屋敷】は、その全てを浄化すべし″
司教様から直々のお言葉を頂いた信者たちは、その使命感を胸に北へと歩み始める。
誰からともなく「浄化せよ」と発し始め、それが大合唱となるまで時間は掛からなかった。
一糸乱れぬ信心は、一糸乱れぬ行軍となって通りを進む。
俺は監督役を仰せつかっている。
とは言え表に出るわけにはいかない。物陰に隠れ、最後尾で見守るだけだ。
浄化の時をこの片目に焼き付け、それを持って司教様へと報告するのみ。
やがて通りの突き当り、【黒屋敷】のホームが見えてきた。
領主館かと見間違うような立派な屋敷。
かつては違和感の塊だと思ったものだが、今となってはSランククランに相応しいとさえ思える。
ザッザッと息を合わせて歩く音と、「浄化せよ」の合唱が混ざり合い、歩くままの速度で屋敷の正門へと近づいた。
しかし、どうやら向こうも異変を察知したらしい。
正門を開け、数名のメイドが出て来る。
『浄化せよ! 異教徒を浄化せよ!』
『浄化せよ! 【黒屋敷】を浄化せよ!』
「うるせえ、黙ってろ!」
突っ込む信者に対して先頭に立って迎撃するのは竜人族のメイド。
かつて俺と同じ【鴉爪団】に所属していたツェンだ。
これが居るから俺が表には出られない。
どうやらいつもの対処と変わらない。【黒の主】のポリシーなのか何なのか分からないが殺しはしない。
あくまで迎撃。あくまで気絶させるに留めている。
あのツェンであれば一般人を殴り殺すことなど造作もないだろうに。
対応しているのはツェンだけではない。
隙間を縫うように闇朧族と兎人族……ヒイノの娘が動きまわり、ヒイノと針毛族が盾を構え、襲い掛かる信者の波を食い止めている。
後方にはずらりと杖を構えた後衛部隊が並び、最後尾、庭の中心あたりに、多肢族と鬼人族に挟まれて立つ【黒の主】の姿も見えた。
天使族は姿が見えず屋敷の中のようだが、どうやら総動員での防衛に徹しているようだ。
そしてそれは正しく、『一般人』である信者たちは次々に投げ飛ばされている。
このままでは確かに全員が気絶させられて終わりだろう。
仕方あるまい。
俺は懐から細い笛を取り出し、思いっきり吹いた。
―――ピィィィィィィッッ!!!
それを合図に襲撃していた信者たちが懐から『狂心薬』を取り出し、一気に飲み込む。
百人以上が同時に飲み、同時に奇声をあげ、同時に悶え始めた。
「おいおいおい、なんだってんだ、これは!?」
「気を抜くな、ツェン! 防衛に専念しろ!」
狼狽える【黒屋敷】の気持ちも分かる。俺も同じだったからな。
この『狂心薬』はまず心を支配する。猛々しい戦闘本能のみを前面に出させ、退く事を許さず、進軍と蹂躙のみを考える獣のような存在と化す。
さらには身体までをも変容させる。荒ぶる心を反映するかのように、筋肉は急激に膨張し、血の流れを高速化させ、体内の魔力を無理矢理に凝縮させる。
それはまるで最弱の基人族だった者が鬼人族の攻撃力と岩人族の防御力、狼人族の速度と導珠族の魔力を備えたような理不尽な存在。
禁呪を籠めた高濃度の魔石をそのまま飲み込むような荒行。
当然、何の代償もないわけがない。僅かな時間で命は燃え尽きるだろう。
仮に霊薬などで回復させても数名が命を長らえるだけ。
死は信者にとっても″浄化″である。
自らを″浄化″し、【黒屋敷】の全てを″浄化″する。
なんと敬虔で崇高な姿だろうか。
俺は残った片目に、その雄姿を焼き付けた。
『GRUAAAA!!!』
「うおっ! なんかすげえ強えぞ!?」
「ティナ! 一度下がれ!」
いける。完全に押し始めた。
そう思った矢先だ。
「サリュ! 全員入ったか!」
「はい! 多分行けます!」
「よし、やれ!」
「はい! <聖域結界>!」
白い狼人族の掲げた杖から眩いばかりの光が放たれた。
それは術者を中心に球状に広がり、百人以上が暴れている信者たち全員を飲み込む。
何が起こった……? 疑問を口にする事もないまま、事態の変化に気付いた。
信者たちの膨張しきった身体が瞬く間に元に戻り、バタバタと倒れていくのだ。
やがて正門の前に集結していた百五十人もの信者で、立っている者は誰一人として居なくなった。
な……!? ま、まさか……範囲型の状態異常回復魔法……!?
バカな! 女教皇で使えるかどうかと言われる大魔法を使ったと言うのか!?
あの狼人族が!? あの白い忌み子が!?
俺の手からカランと笛が落ちる。
そんな事はどうでもいい。目の前の現実を受け止めきれずに立ち尽くしていた。
―――しかし、そんな俺への追い打ちは上から聞こえた。
「ああ、こんな所に隠れていたのでございますね」
ハッと我に返り、声のした方――上を見上げる。
そこには闇夜の中、真っ白の翼を広げた天使族が居た。
どうする? 逃げる? 戦う? 逡巡しただけで動けないまま次の言葉を聞いた。
「<解呪>」
そこで俺の意識は途切れた。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「超位回復! 超位回復! 超位回復!」
「うへぇ……サリュちゃん、なんでそんな連発できるのでござる……ラグエル様だって多分無理でござる……私、一発が限界でござる……」
「一発撃てるだけでも素晴らしいでございますよ、マルティエル。ご主人様には感謝でございます。超位回復」
「うぅぅ、それはそうでござるが【MP】も【魔力】も<カスタム>しきっていないでござるよぉ」
「MPポーションはたくさんあるでございます。飲みつつ早く治すでございますよ。超位回復」
「うぅぅ、お腹タポタポでござるぅ」
マルティエルは嘆いているが、<神聖魔法>をカンストさせて超位回復を撃てるようになっただけマシだ。
正直、サリュだけでこの人数を全部治すのは厳しいからな。
シャムシャエルとマルティエルが来てくれた事に感謝だな。今は。
さて、これで一応、命は大丈夫だと思うが気絶から覚めた時に聖域結界の効果が出ているかどうかだな。
こればっかりはぶっつけ本番だし、うまい事行っていればいいが。
念の為、イブキたちに警戒させておこう。
あとはシャムシャエルが捕らえた片目の狼人族。
この風貌ってもしかして……
「【鴉爪団】で取り逃したロウイという者かもしれません」
「だよな、エメリー。片目の狼人族なんて早々居ないもんなぁ。ツェン、こいつロウイってやつか?」
「ん? あー、うん、そうだなー、うん、多分」
覚えてねーのかよ。確実に知ってるはずだろうが。
しかしさっきの笛がこいつの仕業だとすると、指揮官みたいなポジションなのか?
【鴉爪団】から【ゾリュトゥア教団】に鞍替えしていた? 分からん。
こいつも解呪の結果待ちか。
縛って置いておこう。
俺は皆に指示を出し、ねぎらいながら、一人の侍女の元へと向かった。
気絶している邪教徒の傍らで座り込み、泣いている侍女の元へ。
「大丈夫か、ドルチェ」
「ううっ、ご主人様……ありがとうございましたぁ……」
足に抱きつき、また泣き出したドルチェの頭をグシグシと撫でる。
……が、髪の毛が針なので痛い。撫でたの初めてだったかもしれん。こんな痛いのかよお前の髪の毛。
……いや、そんな事はおくびにも出さず『主人』っぽく頭を撫でて話しかける。
「泣くな。まだ終わりじゃない。……だろ?」
「っ……はいっ!」
「逃げるのはもう終わりだ。攻めるぞ。お前の好きな『突貫』だ」
「はいっ!」
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