164 / 421
第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
158:刃の雨は無常にも降り注ぐ
しおりを挟む◎屋敷:第四席 獅人族ガーブvsセイヤ
■ガーブ 獅人族 男
■???歳 【天庸十剣】 第四席
屋敷の前の通り、その広さを使いつつ【黒の主】との戦いは激しさを増しておる。
広いと言っても大通りに比べればだいぶ狭いが、それでも屋敷の庭とかで戦うよりマシじゃろう。
こやつは速度重視の戦い方らしく、かなり激しく動きながら戦うからのう。
しかし、改めて思うが……このセイヤという男は強い。
間違いなく儂がこれまで戦ってきた誰よりも強いと思える。
戦い方は素人に毛が生えたようなものじゃが、力・速度・体力などはあらゆる面で儂を上回っておる。
技術が伴っていないから躱せるし防げるが、一撃でも貰えば儂もボルボラと同じように真っ二つじゃろう。
かつてない敵、かつてない緊張感、そしてかつてない楽しさ。
こんなに楽しい殺し合いは初めてかもしれんぞい。
「むっ?」
そう思っていたら、強引に距離をとりよった。力任せに剣を弾かれた儂が少し後方に飛ぶ。
仕掛けてくるのう。
目が完全に今までと違うわい。
攻めあぐねていたのは向こうも同じ。しかし我慢出来なくなったんじゃろう。
それを打破しようと何か企んでおる。
すぐに突っかかって策を潰すのは容易い。
だがそれ以上に興味がある。見たい気持ち、もっと楽しみたい気持ちが強い。
「かははっ! さあどう出る、セイヤ!」
結果、儂は笑うだけに留めた。
この強者の全力を見てみたい。そしてそれを討ち果たしたい。好奇心が勝った。
「<空跳>!」
距離が開くや否や、セイヤは<空跳>のスキルで上へ上へと駆けあがる。
珍しいスキルを持っておるのう。しかも連続で使いこなしておる。
あっという間にワイバーンで飛んで来たほどの高さまで上りおった。
空から攻撃するつもりか。儂が剣士である以上、対空手段に乏しいと?
ただそれだけでは浅はかだと言わざるを得んぞ。
がっかりさせるなよ、セイヤ?
「<飛刃>!!!」
上空に留まったまま繰り出してきたのは<飛刃>の斬撃。それもとんでもない数の刃じゃ。
一撃で儂を戦闘不能に追いやる風の刃が、雨のように降ってくる。
なるほど! これはっ……!
「うおおおおっ!!!」
―――キンキンキンキンキンキン!!!
儂は二本の剣を駆使して儂の真上の刃のみを弾き続ける。
通りに敷かれた周りの石畳が瞬く間に欠片に変わっていく。
当然じゃ。儂だけじゃなく周り全てを斬る勢いで<飛刃>を放っておるのだからな。
……まさか足元を悪くするのが狙いか? 自分は<空跳>で自由に動けるから、儂の動きを制限させようと?
そう思ったのも束の間、セイヤは次の行動に出た。
「<空跳>!!!」
ヤツは真下に向かって空を蹴った。何度も。
黒い細剣を鞘に戻し、自ら放った斬撃の雨の中に頭から突入したのじゃ。
落下速度と<空跳>の跳躍を合わせてとんでもない速さで降りて来る。
儂の真上から。一直線に、儂を目がけて。
「なるほど、面白いっっ!!!」
空に上がったのも、<飛刃>の雨も、その布石か!
儂の足を止め、自らが最高速度で突っ込む為!
地面にぶち当たる事も厭わぬ、自爆覚悟の最高の一撃を放つ為!
最高に面白い! 儂は刃の雨を防ぐのを最小限に抑えつつ、真上から迫るセイヤを迎え討つ。
最高の強敵の最高の攻撃には、最高の技でもって迎えるのが礼儀。
儂は両手の剣を下げて、目いっぱいの力を籠める。
「うおおおおっっ!!!」
「行くぞセイヤぁ!!! 奥義【逆鱗断ち】!!!」
振り上げる二本の剣。それは竜の逆鱗だろうと砕く、儂の最高威力を誇る剣技。
人相手に放てば殺すだけでは済まない。肉体はスライムの如くはじけ飛ぶ。
いくらその速度で向かって来ても、タイミングを合わせるのは問題な―――
「―――<抜刀術>【居合斬り】っっ!!!」
―――儂にはそれが見えんかった。
最高速度で落ちて来るセイヤ。鞘に納められた剣がいつ抜かれたのか。
しかしセイヤの剣は確かに儂の剣と交差した。
剣戟音は聞こえないが、儂の剣が二本とも真っ二つになったのが見えたから間違いない。
―――ドオオオオン!!!
儂が地面に叩きつけられたのは、セイヤの剣戟のせいか、それともセイヤ自身が突っ込んで来たせいか。
口から吐き出されたのが血なのか何なのか。
右半身の感覚がないのはダメージによるものか、それとも右半身がないのか……。
そして、儂はこの状況でなぜ笑っているのか。
……そりゃそうじゃろう。最高に楽しんだのじゃからな。
■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「ご主人様! シャム! 回復を!」
「は、はいっ! 超位回復!」
あー、いたたた……。自爆特攻なんかするもんじゃないな。
正門前の通りがメチャクチャだ。クレーターが出来てやがる。
一張羅の喪服も……はぁ、とりあえず<洗浄>しておこう。
ガーブに勝つには何とかして一撃を与えるしかないと思っていた。
しかし普通に攻撃しても躱されるわ弾かれるわ、全く当たる気がしない。
何か一つ、絶対的に勝てる条件で勝負するしかないと。
俺が確実にガーブに勝っていると言えるのは、残念ながら女神に貰った黒刀だ。
ステータスで勝っていても技量で負ける。しかし剣と剣ならば確実に勝つ。癪だけど。
だからこの黒刀で最高の一撃を放てれば良い。
それは即ち<抜刀術>での【居合斬り】だ。
これが世界唯一の刀である以上、ガーブの剣では真似できない刀としての特性。
それを最大限に活かすなら<抜刀術>だろうと思う。刀ならではの最速の一閃。
あとはそれを使える場面を作るしかない。
上空からの急降下。ひもなしバンジー。おまけに大量の<飛刃>付き。
こっちが最高の一撃を用意してやれば、ガーブは迎撃してくるだろう。性格的にそれを避けたりはしない。
それは賭けだったわけだが、案の定、乗ってくれた。
黒刀はガーブの双剣に打ち勝ち、ついでに俺のバンジーのクッションになってもらった。全く柔らかくなかったけど。
シャムシャエルの回復を受け、エメリーの小言を聞き流し、俺はクレーターの中心で未だ息のあるガーブの元へと歩く。
右半身がほとんどないのに、これでよく生きているもんだ。回復なんかしないけどな。
「ごぼっ……はぁ……素晴らしい一撃じゃったぞ、セイヤ……」
「そりゃどうも。……なぁガーブ。あんたヴェリオから改造受けていたんじゃないのか? なぜ奥の手を使わない」
それが疑問だった。
ボルボラは岩人族としての種族特性を大きく無視して、まるで<カスタム>のようにステータス全体が底上げされているように感じた。おまけに使えないはずの土魔法まで使ったのだ。
しかしガーブは?
確かにステータスは高いのだろう。だがそれは【剣聖】として元から高かったものではないのか。
戦ってみて、明らかに「これは改造されてるな」と思える所が見えなかったのだ。
ボルボラには改造してガーブには改造しない? そんなわけはないだろう。
つまりまだ見ぬ奥の手があるのでは、と思ったのだ。
「ふ……改造はされておるよ……盟主様の手に掛かっていなければ、儂はとうに老衰で死んでおる……」
「!?」
「かはは……奥の手と言うのであれば、ここで戦った事、それ自体が″奥の手″じゃよ……」
延命措置……それがガーブの受けた″改造″か。
死に際の身体をこうも動くように残していたのであれば、確かにそれは″禁忌の大錬金術″なのかもしれない。
「感謝しておる……盟主様にも、セイヤにもな……最後にこんな楽しい殺し合いが出来るとは……長生きはするもんじゃなあ……」
「けっ、とっくに死んでる男が言う台詞じゃないだろ」
「かはは……違いないわい……負けるなよ、セイヤ……儂に勝ったのだからな……」
「ああ、言われなくても負けねえよ。安心して地獄に行ってろ」
「ああ……そうじゃな……」
物言わぬ骸となったガーブ。
俺は<インベントリ>に仕舞う前に両手を合わせた。
この世界【アイロス】に来て初めてだ。殺した相手に合掌するのは。
♦
「カカカッ! なんと、ガーブが殺られたか!」
その声に急いで空を見上げた。
目に入ったのは一際大きなワイバーン。その首に跨る淫魔族の女。
そしてワイバーンからゆっくりと降りて来る妖魔族にしては大柄な男。
さらにその妖魔族が抱えている、ローブ姿の導珠族の老人……。
今の台詞はあの導珠族か……つまりは―――
「貴方がヴェリオっ!!!」
俺の後ろでウェルシアがそう叫んだ。
11
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる