166 / 421
第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ
160:母娘の剣は想いを重ねて
しおりを挟む◎南西区(獣帝国領):第十席 鳥人族スィーリオvsヒイノ、ティナ、アネモネ
■ティナ 兎人族 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘
商業組合の周りにはたくさんのお店があります。
お母さんと一緒に行ったお肉屋さんでは、おじさんがおまけしてくれた事もありました。
果物屋さんではおばさんがリンゴをくれて、頭を撫でてくれた事もありました。
でも今はそのお店も、他のお店も、どこも壊されて商業組合の周りはボロボロです。
こんな事をする悪い人は絶対に許しません!
お母さんやご主人様は、私にまだ人を斬っちゃダメだって言いますけど、私だってやります!
だって私は最初にご主人様に<カスタム>してもらう時に言ったんです!
私はお母さんやみんなを守れるように、剣で戦いたいって!
まわりのお店は守れなかったけど、もうこれ以上壊させません! 私が守ります!
ワイバーンをアネモネお姉ちゃんと一緒に倒して、すぐにお母さんを助けに行きました。
相手はスィーリオという鳥人族の人です。
両手の翼で自由に空を飛び回り、足が剣になっている変な人です。
お母さんが両足の剣を使った攻撃に苦しめられているのはすぐに分かりました。
見るからに防戦一方ですし、威力があるのか吹き飛ばされたりしています。
「お母さん!」
「ティナっ!」
「ほう、娘か? 母の窮地に助けに来るとは健気なものだ。安心しろ、母娘共々殺してやる」
変な人の攻撃が私に向かってきました。
私はそれを後ろに下がって躱し、同時に風の槍、そこからまた踏み込んでレイピアを突きます。
【風撃の魔法レイピア】を貰ってからずっとやっている動き。『ひっとあんどあうぇい』と言うそうです!
「魔法剣か。おまけに速いな。なるほどやはり【黒の主】のメイドの強化は興味深い」
私の攻撃は足の剣で防がれ、ふわふわと躱されます。
飛んでる動きが本当にやりづらい。三階層に居たレイスとかだってこんな動きしません。
下がったかと思えばすぐに前に出て、昇ったかと思えば急降下してくる。
まるで木の葉っぱを相手にしているみたいです。
「ぐっ!」
おまけに両足の連撃がすごく重くて、すごく速い。
動きは私より遅いと思うけど、剣戟は向こうの方が速いです。これが本当に足なのかと思うくらい。
時々レイピアで受けますけど、吹き飛ばされちゃいます。
「ちょこまかとウザったい娘から処理するか」
「させませんっ!」
「お母さん!」
私と変な人の間にお母さんが入って盾で防いでくれました。
それでもお母さんが攻撃出来る余裕もなく、私が攻めるしかありません。
いつものようにお母さんが前、その後ろから私が飛び出して攻撃します。
「なるほど、母娘ならではのコンビネーションといった所か。しかし母親は防御のみ、娘は速いが軽すぎる。二人揃っても不十分と言わざるを得ないな」
「っ……!」
「どうせなら仲良く二人まとめて始末するか? <暴風の嵐><炎の嵐>」
「「きゃあああ!!!」」
両足の短剣はやっぱり魔法剣……! しかもどっちも範囲魔法を撃てるもの……!?
私とお母さんは傍にいたのが災いして、二種類の属性魔法を同時にくらってしまいました。
いくら<カスタム>で【抵抗】が上がっていても、いくら侍女服が強化されていても、痛いものは痛いです。
そしてダメージを受ける私とお母さんへ、追い打ちが掛かります。
「終わりだ。まずは娘からだな」
「ティナあああっ!」
身体からブスブスと煙が上がり、眩暈もします。
目の前に迫る変な人の足に、ふらつきながらも咄嗟にレイピアを構えました。
……が、私に攻撃が来ることはありませんでした。
「<闇の重力>」
「があっ!? な、なんだと!?」
変な人が地面に押し付けられたのです。
「アネモネお姉ちゃん!」「アネモネちゃん!」
「ごめんなさい、その人、全然、デバフ入らなかった……本当は″暗闇″とか″遅延″とかしたかったんだけど……たぶん【抵抗】か魔法耐性も改造されてる……」
離れた場所で【暗黒魔導の杖】を向けているのはアネモネお姉ちゃんでした。
後方から支援すると聞いてましたけど……頼りになります!
「こ、の、女ああああ!!!」
「!? ヒイノさん、ティナちゃん、早く攻撃を……! どんどん抵抗されて抑えきれない……!」
「「了解!」」
私とお母さんが剣を向けて同時に斬りかかります。
「なめるなよおっ! <暴風の嵐>! <炎の嵐>!」
変な人は倒れた状態のまま、魔法剣を使いました。
その狙いはアネモネお姉ちゃんです。
離れたアネモネお姉ちゃんが風と炎に包まれるのが見えました。
「ああああっっ!!!」
「アネモネお姉ちゃん!」「アネモネちゃん!」
魔法の嵐が収まり、その中から現れたアネモネお姉ちゃん。
重力魔法を使っていると他の魔法で防ぐことも出来ないと聞きました。
まともに受けたアネモネお姉ちゃんは倒れてもおかしくない、そう思って心配になったのです。
でも――身体から煙を上げ、片膝を付きながらも、まだ杖を変な人に向けていたのです。
「だ、大丈夫……早く……攻撃を……」
「「!! 了解っ!!」」
「くそがあああああ!!!」
私は速攻でレイピアを突き刺し、お母さんのドラゴンソードが変な人の身体を斬り裂きました。
多分、防御とかも改造されてるんだと思いますが、お母さんの剣はあの亀さんの素材です。
当たれば斬れないはずがありません。
お母さんは変な人が死んだのを確認すると、アネモネお姉ちゃんにそれを伝えます。
ようやく重力魔法を解除したアネモネお姉ちゃんは、その場に座り込みました。
私も同じようにペタンと座ります。
「勝ったあ……」
上を見て、思わずそう呟きました。
まるで亀さんを倒した時のような達成感。
強さは全然違いますけど、変な人は強かったですし、それを三人で倒せた事にホッとしたんです。
街を壊した悪い人をやっつけた。
私にも守りたいものが守れるようになったんだ、少しそう思いました。
「ヒイノ! 大丈夫か!」
遠巻きに警戒していた衛兵の人たちが駆けつけます。
パン屋に来ていたお客さんでしょうか、お母さんを知っているみたいです。
「ええ、なんとか。皆さんもご無事で良かったです。怪我人の方は?」
「おかげさんで避難させられたよ。生き残ったやつらはとりあえず全員無事だ。本当に助かった」
「ああ、さすがは【黒屋敷】だ。すげえ戦いだった!」
「まさかパン屋のヒイノと幼い娘に助けられるとは……」
「多眼族の嬢ちゃんもすごかったぜ! あんな魔法見た事ねえ!」
お母さんは元気そうに衛兵の人たちと話し込んでいます。
私とアネモネお姉ちゃんはお疲れモード。
やっぱお母さんはすごいなぁ。あれだけ変な人と戦ってたのに。
お母さんと衛兵の人たちの話しで、色々と決めることがあったみたいです。
怪我した人に私たちが持っているポーションを配り、壊れた商業組合やお店はどうするかとか、ワイバーンと変な人をどうしようかとか……。
変な人の死体はおそらく魔導王国に引き渡す感じになるので、私たちで屋敷に持ち帰るそうです。
私たちのマジックバッグは高級品らしく、なんとか死体が入ったので衛兵の人たちがビックリしていました。
ご主人様の<インベントリ>だったら楽々入るんだけどなぁ。
ワイバーンはどうするのかよく分からないので、南西区で置いてもらう感じになりました。
さすがにマジックバッグに入りません。
「回復は大丈夫? ティナ、アネモネちゃん」
「うん」「大丈夫、です」
「じゃあお屋敷に戻りましょう。まだご主人様たちが戦っているかもしれないわ。急がないと」
「うんっ!」「はいっ」
とりあえず南西区は終了。
あとは中央区に戻ってご主人様たちがどうなってるか……ご主人様なら大丈夫だと思うけど。一応急ぎます!
1
あなたにおすすめの小説
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜
mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります>
「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。
死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。
レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。
絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、
「え?、何だ⋯⋯これ?」
これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。
【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。
シトラス=ライス
ファンタジー
万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。
十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。
そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。
おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。
夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。
彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、
「獲物、来ましたね……?」
下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】
アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。
*前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。
また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ?
――――それ、オレなんだわ……。
昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。
そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。
妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。
異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。
Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。
現世で惨めなサラリーマンをしていた……
そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。
その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。
それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。
目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて……
現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に……
特殊な能力が当然のように存在するその世界で……
自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。
俺は俺の出来ること……
彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。
だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。
※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※
※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる