カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ

160:母娘の剣は想いを重ねて

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◎南西区(獣帝国領):第十席 鳥人族ハルピュイスィーリオvsヒイノ、ティナ、アネモネ

■ティナ 兎人族ラビ 女
■8歳 セイヤの奴隷 ヒイノの娘


 商業組合の周りにはたくさんのお店があります。
 お母さんと一緒に行ったお肉屋さんでは、おじさんがおまけしてくれた事もありました。
 果物屋さんではおばさんがリンゴをくれて、頭を撫でてくれた事もありました。

 でも今はそのお店も、他のお店も、どこも壊されて商業組合の周りはボロボロです。

 こんな事をする悪い人は絶対に許しません!
 お母さんやご主人様は、私にまだ人を斬っちゃダメだって言いますけど、私だってやります!

 だって私は最初にご主人様に<カスタム>してもらう時に言ったんです!
 私はお母さんやみんなを守れるように、剣で戦いたいって!

 まわりのお店は守れなかったけど、もうこれ以上壊させません! 私が守ります!


 ワイバーンをアネモネお姉ちゃんと一緒に倒して、すぐにお母さんを助けに行きました。
 相手はスィーリオという鳥人族ハルピュイの人です。
 両手の翼で自由に空を飛び回り、足が剣になっている変な人です。


 お母さんが両足の剣を使った攻撃に苦しめられているのはすぐに分かりました。
 見るからに防戦一方ですし、威力があるのか吹き飛ばされたりしています。


「お母さん!」

「ティナっ!」

「ほう、娘か? 母の窮地に助けに来るとは健気なものだ。安心しろ、母娘共々殺してやる」


 変な人の攻撃が私に向かってきました。
 私はそれを後ろに下がって躱し、同時に風の槍ウィンドランス、そこからまた踏み込んでレイピアを突きます。

 【風撃の魔法レイピア】を貰ってからずっとやっている動き。『ひっとあんどあうぇい』と言うそうです!


「魔法剣か。おまけに速いな。なるほどやはり【黒の主】のメイドの強化は興味深い」


 私の攻撃は足の剣で防がれ、ふわふわと躱されます。
 飛んでる動きが本当にやりづらい。三階層に居たレイスとかだってこんな動きしません。

 下がったかと思えばすぐに前に出て、昇ったかと思えば急降下してくる。
 まるで木の葉っぱを相手にしているみたいです。


「ぐっ!」


 おまけに両足の連撃がすごく重くて、すごく速い。
 動きは私より遅いと思うけど、剣戟は向こうの方が速いです。これが本当に足なのかと思うくらい。
 時々レイピアで受けますけど、吹き飛ばされちゃいます。


「ちょこまかとウザったい娘から処理するか」

「させませんっ!」

「お母さん!」


 私と変な人の間にお母さんが入って盾で防いでくれました。
 それでもお母さんが攻撃出来る余裕もなく、私が攻めるしかありません。
 いつものようにお母さんが前、その後ろから私が飛び出して攻撃します。


「なるほど、母娘ならではのコンビネーションといった所か。しかし母親は防御のみ、娘は速いが軽すぎる。二人揃っても不十分と言わざるを得ないな」

「っ……!」

「どうせなら仲良く二人まとめて始末するか? <暴風の嵐ウィンドストーム><炎の嵐フレイムストーム>」

「「きゃあああ!!!」」


 両足の短剣はやっぱり魔法剣……! しかもどっちも範囲魔法を撃てるもの……!?

 私とお母さんは傍にいたのが災いして、二種類の属性魔法を同時にくらってしまいました。
 いくら<カスタム>で【抵抗】が上がっていても、いくら侍女服が強化されていても、痛いものは痛いです。

 そしてダメージを受ける私とお母さんへ、追い打ちが掛かります。


「終わりだ。まずは娘からだな」

「ティナあああっ!」


 身体からブスブスと煙が上がり、眩暈もします。
 目の前に迫る変な人の足に、ふらつきながらも咄嗟にレイピアを構えました。






 ……が、私に攻撃が来ることはありませんでした。




「<闇の重力ダークグラビティ>」

「があっ!? な、なんだと!?」


 変な人が地面に押し付けられたのです。


「アネモネお姉ちゃん!」「アネモネちゃん!」

「ごめんなさい、その人、全然、デバフ入らなかった……本当は″暗闇″とか″遅延″とかしたかったんだけど……たぶん【抵抗】か魔法耐性も改造されてる……」


 離れた場所で【暗黒魔導の杖】を向けているのはアネモネお姉ちゃんでした。
 後方から支援すると聞いてましたけど……頼りになります!


「こ、の、女ああああ!!!」

「!? ヒイノさん、ティナちゃん、早く攻撃を……! どんどん抵抗されて抑えきれない……!」

「「了解!」」


 私とお母さんが剣を向けて同時に斬りかかります。


「なめるなよおっ! <暴風の嵐ウィンドストーム>! <炎の嵐フレイムストーム>!」


 変な人は倒れた状態のまま、魔法剣を使いました。
 その狙いはアネモネお姉ちゃんです。
 離れたアネモネお姉ちゃんが風と炎に包まれるのが見えました。


「ああああっっ!!!」

「アネモネお姉ちゃん!」「アネモネちゃん!」


 魔法の嵐が収まり、その中から現れたアネモネお姉ちゃん。
 重力魔法を使っていると他の魔法で防ぐことも出来ないと聞きました。
 まともに受けたアネモネお姉ちゃんは倒れてもおかしくない、そう思って心配になったのです。


 でも――身体から煙を上げ、片膝を付きながらも、まだ杖を変な人に向けていたのです。


「だ、大丈夫……早く……攻撃を……」

「「!! 了解っ!!」」

「くそがあああああ!!!」


 私は速攻でレイピアを突き刺し、お母さんのドラゴンソードが変な人の身体を斬り裂きました。

 多分、防御とかも改造されてるんだと思いますが、お母さんの剣はあの亀さんの素材です。
 当たれば斬れないはずがありません。


 お母さんは変な人が死んだのを確認すると、アネモネお姉ちゃんにそれを伝えます。
 ようやく重力魔法を解除したアネモネお姉ちゃんは、その場に座り込みました。
 私も同じようにペタンと座ります。


「勝ったあ……」


 上を見て、思わずそう呟きました。
 まるで亀さんを倒した時のような達成感。
 強さは全然違いますけど、変な人は強かったですし、それを三人で倒せた事にホッとしたんです。

 街を壊した悪い人をやっつけた。

 私にも守りたいものが守れるようになったんだ、少しそう思いました。


「ヒイノ! 大丈夫か!」


 遠巻きに警戒していた衛兵の人たちが駆けつけます。
 パン屋に来ていたお客さんでしょうか、お母さんを知っているみたいです。


「ええ、なんとか。皆さんもご無事で良かったです。怪我人の方は?」

「おかげさんで避難させられたよ。生き残ったやつらはとりあえず全員無事だ。本当に助かった」
「ああ、さすがは【黒屋敷】だ。すげえ戦いだった!」
「まさかパン屋のヒイノと幼い娘に助けられるとは……」
多眼族アフザスの嬢ちゃんもすごかったぜ! あんな魔法見た事ねえ!」


 お母さんは元気そうに衛兵の人たちと話し込んでいます。
 私とアネモネお姉ちゃんはお疲れモード。
 やっぱお母さんはすごいなぁ。あれだけ変な人と戦ってたのに。


 お母さんと衛兵の人たちの話しで、色々と決めることがあったみたいです。
 怪我した人に私たちが持っているポーションを配り、壊れた商業組合やお店はどうするかとか、ワイバーンと変な人をどうしようかとか……。

 変な人の死体はおそらく魔導王国に引き渡す感じになるので、私たちで屋敷に持ち帰るそうです。
 私たちのマジックバッグは高級品らしく、なんとか死体が入ったので衛兵の人たちがビックリしていました。
 ご主人様の<インベントリ>だったら楽々入るんだけどなぁ。

 ワイバーンはどうするのかよく分からないので、南西区で置いてもらう感じになりました。
 さすがにマジックバッグに入りません。


「回復は大丈夫? ティナ、アネモネちゃん」

「うん」「大丈夫、です」

「じゃあお屋敷に戻りましょう。まだご主人様たちが戦っているかもしれないわ。急がないと」

「うんっ!」「はいっ」


 とりあえず南西区は終了。
 あとは中央区に戻ってご主人様たちがどうなってるか……ご主人様なら大丈夫だと思うけど。一応急ぎます!


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