カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第七章 黒の主、【天庸】に向かい立つ

168:想いを籠めて天を穿て

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■ウェルシア・ベルトチーネ 導珠族アスラ 女
■70歳 セイヤの奴隷


「<氷柱連弾アイシクルコメット>!」

「<炎の破城矢フレイムバリスタ>!」

「カカカカッ! さすがに高位の魔法を使うではないか! しかしそれでも尚、儂の防御は抜けんぞ! ほれほれ!」

「くっ……<氷の壁アイスウォール>!」


 メルクリオ殿下に助けて頂いてから、何とか持ち直したものの苦戦は続いています。
 わたくしも殿下も魔法が主体。
 だと言うのに、いくら強い魔法を撃ちこんでも、その全てが防御の魔道具に防がれる。

 お返しとばかりに打たれる魔法もまた体内の魔道具。
 それも両手をかざしただけで、同時に・・・属性の違う魔法・・・・・・・が撃たれる。

 いくら魔道具とは言え、連射どころか同時に行使するなど……。


「どうなってんだ、化け物が……!」

「カカカカッ! 魔導王国きっての天才と言われていてもその程度とはな。拍子抜けも甚だしい!」

「くそっ!」


 悪態をつく殿下の気持ちも分かります。
 数々の魔道具の同時制御と同時行使。こんなのヒトに出来る事ではありません。

 仮に無限の魔力を持っていたとしても、無理矢理に行使すれば魔力は暴走し、身体が破壊されるでしょう。
 だと言うのに、それを平然と、何度も使っているのです。


 大錬金術師というだけでは済まない何かがある。
 わたくしたちの理外の何かが。

 何とか頭を冷静にと働かせ、しばらく分析に費やしましたがその正体は見えず。
 しかし一つ分かった事もあります。

 あの虹色の防御壁。あれは「完全魔法無効」というわけではない。

 低位の魔法より高位の魔法、範囲型よりランス系などの一点集中型に対して、あの防壁には綻びが出る。
 厳密に言えば、ヒビが入ってすぐ修復されるのですが、決して壊せない壁ではないと。


 問題はその方法ですが……。


「……殿下、少々お一人でお任せしてよろしいですか? <氷の壁アイスウォール>!」

「……何かいい手でもあるのかい? <炎の壁フレイムウォール>!」

「賭けになりますが」

「構わない。時間稼ぎは引き受けよう」

「ありがとうございます」


 わたくしは殿下の斜め後方に下がり、魔力を練り始めます。


「カカカッ! 作戦会議は終わったか! どんな高位魔法であっても無駄な事よ! 儂の壁は全属性に耐性を持つのだ!」

「そりゃすごいね! どうなるものか見物だよ! <炎の槍フレイムランス>!」

「カカカッ! 無駄と言っておろうに! 手を打つ前に死ななければ良いがなあ! ほれほれえ!」

「させるか! <炎の壁フレイムウォール>!」


 ジリ貧なのは変わらない。しかし<カスタム>されたわたくしはともかく、殿下の魔力はもう底を尽きてもおかしくありません。
 ここでどうにかしなければ、完全に戦線が破綻する。

 わたくしは精一杯の集中力と魔力を″凝縮″させ、右手の杖に籠めました。


「行きます、殿下!」

「ああ!」










「<水の壁ウォーターウォール>!」


 それは本来、地面から浮き出る水の壁。防御魔法であり、敵の足元へと放てば広範囲攻撃魔法にもなります。

 しかしわたくしはそれを杖の先から放出しました。

 放出されたそれ・・は壁ではなく、一筋の



 糸のように″凝縮″された水の壁ウォーターウォール



「なっ!?」





『で、さらにだ。蛇口の穴を半分くらい指で塞ぐ。そうすると勢いはさらに増しただろ?』

『うわっ! は、はい! 全然違いますね!』

『これが『広範囲魔法を単体魔法に変える』ってことだと思う。籠める魔力は変えていないのに、放出範囲は狭くなり、結果威力が上がった。水を凝縮・・する事で魔法を変化させたってイメージだ』





 ご主人様、貴方は正しかった。


 高密度となった水は、虹色の防御壁を貫通し、ヴェリオの頭を撃ち抜いたのです。




■メルクリオ・エクスマギア 導珠族アスラ 男
■72歳 クラン【魔導の宝珠】クラマス 魔導王国第三王子


「<水の壁ウォーターウォール>!」


 待ちに待った奥の手が、ウェルシア嬢から発せられた声がそれ・・だった時、僕は唖然とした。
 なぜこの場面で水の壁ウォーターウォールなのだと。
 てっきり最大級の高位魔法を放つものだと思っていたのに、なぜ低位の防御魔法なのだと。

 しかしウェルシア嬢の放った<水の壁ウォーターウォール>は僕の知っている<水の壁ウォーターウォール>とはまるで違った。

 それが水かどうかも分からないほど細く、圧倒的な速度で撃ち抜いたのだ。
 虹色の防御壁も、ヴェリオの脳天も。


 目の前の光景が信じられず、僕はゆっくりとウェルシア嬢へと振り返る。


「い、今のは……?」

「極限まで<魔力凝縮>された水は、鉄をも穿つそうですわ」

「魔力……凝縮……」

「ご主人様に習いましたの―――キッチンで」


 全く意味が分からない。
 が、何はともあれヴェリオを倒したのは事実だ。
 急激に襲ってくる倦怠感と達成感の狭間で、僕は腰に手を当て、深く息を吐いた。


 母さん、ようやくこれで仇が討て―――















「カカカカカカッ!!!」












 !?


「なんと面白い魔法を使うものよ! 研究意欲が湧くではないか! のう! ベルトチーネの娘よ!」

「ま、まさか……!」

「そ、そんな……馬鹿なっ!」


 ウェルシア嬢の魔法は確かにヴェリオの脳天を貫いた!
 それを持って倒れたのも、血を流したのもこの目で見た!
 だと言うのに……なぜ生きている!? ヴェリオ!!!


「カカカッ! どうした? せっかく儂の防御壁を打ち破ったのだ! 喜ばずして絶望の表情とは何とも情けない! カカカカッ!」

「ヴェリオッ! 貴様……どうしてッ!」

「不思議か? 儂がなぜ生きているのか。頭を撃ち抜かれ死なないヒトなどおらぬと、そう思っておるのか?」


 ヴェリオはニヤケ面を絶やさず、大仰に手を広げて続ける。


「ベルトチーネの娘ならば聞いているのではないか? 同僚のメイドから! リリーシュが樹界国で手に入れたの事を!」

「! ……【神樹の枝】!?」

「そうとも! 手に入れた【神樹の枝】はどこにある!? 神の依代たる最高の素材は、今どこにある!?」


 そうだ、僕もセイヤとミーティア様から話には聞いていた。
 【十剣】の樹人族エルブスの女が【神樹の枝】を持ち去った事を。

 確かに錬金術師としては最高の素材だろう。
 仮に杖としたならば、それこそ【聖杖】を超える最高の杖にもなるはず。


 しかしヴェリオは無手だ。杖どころか指輪や腕輪などの魔法触媒を付けていない。

 ならば【神樹の枝】はどこへ……まさか……!


「カカカッ! 答えは儂の中だ! 骨を【神樹の枝】に置き換えた! 背骨も手足の骨も! 儂の骨は【神樹の枝】で出来ておる!」


 な……っ!

 そんな……そんな馬鹿げた改造を……自らに……!?


「その結果どうなったと思う!? 溢れる魔力は無尽蔵の力をもたらす! 身体を壊すほどの魔道具を入れても、それを同時に使っても、完璧に制御する! 致命傷を受けてもその神聖力は瞬時に身体を回復する!」


 だからあれほどの魔道具を……!

 だから脳天を撃ち抜かれても……!


「なんと素晴らしい素材! 最高の素材! まさに神の力の宿った素材だ! それを以って儂は神の力を得たのだ! カカカカッ!」


 僕もウェルシア嬢も言葉が出ない。
 呆然自失。
 それでも倒れ込みそうになる身体を何とか立たせる。

 絶望下にあって、それでも睨む事が出来ているのは、やはり僕の中に「復讐の炎」がまだ燃えている証拠だろう。


「さあ、どうする! 神に抗うか!? ヒトの身で! ヒトの分際で神に盾突くか!? カカカカッ!」


 歯を食いしばる。
 苦悶の表情はそのままに。

 僕とウェルシア嬢は同時に杖を向けた。


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