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第八章 黒の主、復興の街に立つ
177:復興作業の始まり(作業せず)
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
おはようございます。今は【天庸】の襲撃を受けた翌日の朝。
俺は普段と違うシングルベットで寝ています。
そして隣を見れば、真っすぐな姿勢ですーすーと大人しそうに眠るアネモネの顔……。
どうしてこうなったのか、少し思い起こしてみよう。
昨日は襲撃の後、夜になるまで忙しく働いた。
俺は三階の瓦礫だけはとりあえず取り除き、吹き飛んだ屋根も回収した。使えそうな家具や備品もあったので、天使組と掃除をしつつ回収した。
もちろん<アイテムカスタム>で直したりなどしていない。開放的な空間のままだ。
庭と通り周辺の「竜の血」に関しては勿体ないという声もありつつ、全て洗い流した。
迷宮でもドロップしないし希少も希少らしいのだが、邪魔なものは邪魔である。
ウェルシアたちが綺麗にし、砕けた石畳や石壁なども回収した。当然補修など出来ていない。
俺は俺で、一度組合に顔を出しにも行った。本部長に説明しないといけないからな。
ある程度はフロロがしてくれていたらしいが、合わせて合成魔物を寄付する事も伝える。
「そりゃありがたいが、そうなると討伐したお主の大損ではないか」
「いや、うちはワイバーン一匹と、特大ワイバーンと、風竜を貰いますのでそれで十分ですよ」
「……えっ、何それ、風竜?」
フロロ、そこまでは話してなかったのかよ……。
お前が一番社交的で外交向きだと思っていたのに。口調はアレだが。
とりあえず改めて説明し直し、中央区からの謝礼は少し待ってくれと懇願された。もちろん了承。
もっと言えば四階層の調査も終わっていないのでその報酬金や素材の買い取りもまだだし、【ゾリュトゥア教団】の謝礼もまだだ。
くれると言うのなら貰うが、この状況でくれとは言いにくい。
もうどうせなら金じゃなくて現物とかでもいいですよと言いたい。
他の迷宮から出たスキルオーブを何個かくれと。むしろそっちのが嬉しい。
今度本当に言ってみようかな。
そんなこんながあって、各地へと復興作業に赴いた侍女たちも夜には一度帰ってきた。
一通り、衛兵への事情説明をし、各地のワイバーンを寄付する事も伝えたらしい。
その上で衛兵に混じっての撤去作業や怪我人への回復をしたもんだから、有名人を通り越して英雄視されそうな勢いだったとか。
……今後、各地区に買い物行きづらいんだが。
……まぁ人の噂も七十五日かな。遠いなー。七十五日。
「私が第二王女だとばれてしまいました……」
「ごめんなさいです……私がミーティア様って呼んでしまったです……」
南東区組はぐったりしていた。
そりゃ樹人族ばかりの衛兵に混じって作業していればそうなるか。
ミーティア? ……ミーティア姫様!? 神樹の巫女様!? となったらしい。
一斉に跪く衛兵たちに、極秘だから、内密に、とお願いしたらしい。
今さら極秘と言われてもどうしようもないと思うが、今後の衛兵の動きに期待しよう。
しかし区長まで話が行くのは確実。何かしらのアプローチがあってもおかしくはない。
むしろ今まで区長が知らなかったのが国として問題のような気もする。区長も貴族だろうに。
とりあえずは明日も復興作業の続きに行くらしいが、その時にどうなるか。
期待せずに期待しましょう。厄介な事を言い出したら陛下にすがりましょう。
ちなみにその後メルクリオも家に来たが、その話はまた今度。
そんなわけで、その日の夜。
三階組はどこで寝ようかという話になった。
二階の私室はいくつか空いているし、一階に客室も一つはある。
一人部屋に二人で寝てもいいし、わざわざマジックテントで寝なくてもいいのでは、という結論。
じゃあ俺はどこで寝ようかなと考えていると、エメリー主催の大くじ引き大会が始まっていた。
俺を無視して進めるの止めてくれませんか?
いや、俺だってみんなだって疲れてるでしょ。ろくに寝ずにあんな戦いしたんだから。今日くらいゆっくり……あ、すいません、黙ります。
そんなわけで今、俺はアネモネと寝ているわけだ。
当たりくじを引いた時のアネモネは「ふふふふふふふふふふ」と怖かったが、今こうして寝姿を見ているととても大人しく綺麗な顔立ちをしているなーとマジマジ見てしまう。
ちなみにサードアイも閉じている。普段どういう視界になってるのか気になる所だ。
早くに起きて寝姿を見るというのはマナーとしてどうかと思うが、侍女によって個性があってかなり面白い。
大人しく直立不動で寝ているアネモネのような娘も居れば、抱きついてきて寝苦しい娘も居る。筆頭はイブキ。角が痛い。
かと言えば俺の存在を忘れているかのように自由に寝る娘も居る。筆頭はツェン。寝相が悪い。痛い。
そんな事を考えていると「うわー、マジハーレムだわー」と嬉しくもあり、未だに戸惑いもあったりする。
兎にも角にも俺は主人として接しないといけないと気持ちを引き締めるばかりだ。
自分で奴隷契約させた娘たちなのだから責任を持ってちゃんとした主人でいなければいけない。そう思う。
ちなみに成人していないティナとドルチェ、そしてマルティエルについては例えくじで当たろうが抱く気はない。
正直ジイナやポルもどうかと思って渋っていたくらいだ。
まぁ「サリュとネネは夜伽をしましたのに」とエメリーに小言を言われてしまったが。
成人しているのは分かっているんだが、どうしても見た目が幼く見えてしまうと気が引ける。
主人としてヘタレはダメだよなーと思いつつもだ。
むしろ見た目ならばドルチェの方が全然……とはまぁ言えないけどね。あの娘はエメリーよりも大人だから、身体は。
……よし、そんな失礼千万な事は考えずに、今日の仕事を考えよう。
確定しているのは各地の復興作業の続きだが、うちの屋敷をどうしようかと本格的に考える必要がある。
CPを使って直すのは地下訓練場だけと決めている。
正確に言えば屋敷の内装とかも<カスタム>するんだが、それは外観が直ってからの話だ。
屋敷・庭・塀は手直しだ。庭はフロロたちに任せるとして、屋敷と塀は業者に頼むしかない。
建材運んだり持ったりはステータスのおかげで問題ないが、さすがに建築技術など持っていない。
やはり専門の業者に頼むべきだろう。
しかしどこも業者は忙しいだろうなーと。
中央区だけでなくカオテッド各地で忙しいはずだ。
ついでに言えば木材・石材などの資材・建材も不足しているのではと思われる。
これ、補修をお願いした所でいつ直るんだと。
あまり時間が掛かるようなら数日間目隠ししておいて、本当にCPで直そうかとも思う。
まぁ住居組合に確認しないと始まらないから、今日は組合に行って―――
と、そんな事を朝食の席でみんなと話している時、朝早くだと言うのに来客があった。
誰かと思えば、鉱人族と樹人族が十人ずつくらい居る。
ほんとに誰だよ。
「北西区の住居組合から言われて来たぞい! 区長様を通して【黒屋敷】のホームを優先して直せとお達しじゃと! かぁ~立派な家がとんでもない事になっておるのう!」
「うちも南東区の区長様から直々の依頼です。同じように【黒屋敷】のホームから直すようにと。木材の融通はお任せ下さい」
おおっ? 区長から? うちを直せと?
俺まだ依頼してないんだが。
それに中央区の住居組合とか通さないでいいのか?
「昨日、衛兵に事情を説明したんじゃろ? カオテッドを救った英雄を後回しになんか出来るか! 金も区長様が払うと言付かっておる!」
「中央区の住居組合にも話は通してありますよ。やはり中央区の被害が一番大きいらしいですし、手を回してくれるならばありがたいと感謝されました」
おー、なんか分からんが、やってくれるんならありがたい。助かります。
早速お願いします。
「ガハハ! まさか南東区の樹人族も同じだとは思わんかったがのう! こりゃ思いの外早く終わるんじゃないかのう!」
「ええ、せっかくの機会ですから鉱人族の建築技術を勉強させてもらいますよ。適材適所でいきましょう」
「おう、木材の扱いはそっちの方が上手いからのう、よろしく頼むぞい!」
そんな感じでやってもらう感じになった。正直ありがたい。
これあれだな。業者までは話が行ってないっぽいけど、北西区は【ゾリュトゥア教団】の礼と、南東区はミーティアが絡んでるな。
そりゃ自国の第二王女様の家が崩れたままってわけにはいかないか。
……これ、お礼に行ったほうがいいのか?
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