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第八章 黒の主、復興の街に立つ
185:屋敷に施設をあれこれと
しおりを挟む■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
夕食の席でご主人様からこんな話がありました。
「そろそろユアの錬金道具が届くと思うんだが、錬金工房どうしよっか」
ユアさんの錬金工房をどこに置くかという事ですね。
場所かぁ……どこがいいですかね。
「考えてるのは鍛冶場の隣に建てるか、一階の客間を潰してそこにするか、ってところだ。何か意見あるか?」
「庭に建てるとすればまた庭の造形を考えねば……しかし必要な施設だからのう……」
「えっ、た、建てるんですか!? 私の錬金の為にわざわざ!?」
フロロさんはせっかく整えた庭をまた変更する事になるので悩んでいるっぽいです。
ユアさんは<アイテムカスタム>で建てられるのを知らないから当然の反応ですね。
「庭に建てたほうが鍛冶場との並びは良いと思いますが、CPが余計に掛かるのでは?」
「どんな内装かにもよるな。特にいじらなければCP使わずに客間そのままって感じでもいいし。ユア、錬金工房ってどんな感じの部屋が必要なんだ?」
「え、ええっと、日光が当たらない部屋です、かね。あとは素材とかがごちゃごちゃと棚に……」
ご主人様も私たちも錬金工房を見た事がないので、ユアさんに聞くしかありません。
ユアさんも自分の工房になるんですから、細かく注文しておいたほうが良いですよ。
「うーん、それだけ聞くと遮光カーテン付ければどこでもいいような気がするな。水は使ったりするか? キッチンにあるような水道なら付けられるが」
「あ、えっと、あったほうが便利ですけど、井戸で汲んできても……あ、ここは井戸がないんでしたね。キッチンで汲んで来ても大丈夫です」
「まぁ使うなら設置するよ。あと、火は使うか? 大きな窯でぐーるぐるしたりするのか?」
「ぐ、ぐーるぐる? は、ちょっと分からないですけど、火はお湯を沸かす時があるくらいです。あとは布に描いた魔法陣の上での作業なので机とかあれば……」
「あー、錬金ってそういう錬金なのか……ぐーるぐるしないのか……」
よく分かりませんが、なぜかご主人様が残念そうですね。
でも聞く限り、キッチンみたいなものがあれば大丈夫という事でしょうか。
客間を使うのならキッチンはすぐ傍ですし、庭に建てるなら、中にキッチンを作る感じでしょうか。
それからご主人様は虚空を指でなぞり始めました。
あれカスタム画面を操作してるんですね。どんな部屋にするか悩んでいる様子です。
「うーん非常に悩ましい! 庭に建てる事も可能だがCPはほぼ空になるな。客間を改造するなら約半分でいける。全くCPを使わず客間をそのまま利用するって手もある。さて、どうしたものか……」
未だかつてない悩み方ですね。
私だったらどっちが良いだろう……全く分からない。
「ユア、錬金術の失敗って言うのは爆発とか、周りに被害が出るものなのか? あと錬金する時に換気が必要だとか周囲に匂いが飛ぶとかは?」
「ば、爆発とかはしないです。単純に思い通りのものが作れなかったり、素材が崩れたり、とかです……。換気は、閉め切った部屋でやっているので特に気にしていないですけど、匂いは出るものもあります。素材によっては……」
「じゃあ換気扇は付けよう。となれば、やっぱり庭の方が無難か? うーん、強化に使うCPを後回しにして庭に作ってしまうか。他に何か『これにCP使いたい』って意見はあるか? 言うなら今のうちだぞ」
みんなを見回して呼びかけます。
私は予備服を着ている人たちの侍女服を<カスタム>してもらいたいくらいでしょうか。
やっぱり耐久がないと回復役としては不安ですし。いくら【鉄蜘蛛の糸】製とは言え。
でも侍女服に関してはご主人様も承知しているようです。
他には……となった時、シャムさんが手を上げました。
「ご主人様、私は是非とも創世教の教会、もしくは聖殿が欲しいでございます!」
「却下」
速いですね。さすがはご主人様です。
「そんなっ! じゃあせめて祭壇、いえ御神像だけでも!」
「えぇぇ」
「ど、どうしてでございますか! ここにいらっしゃる皆さん、左手に女神様の御加護をお持ちでございます! なのに女神様にお祈りできる場所がないというのはどうかと思うのでございます! 皆さんだってお祈りしたいでございましょう!? ご主人様、何卒!」
「えぇぇ……なんか女神に屋敷の敷居跨がせるみたいで嫌なんだが」
ブレないですねーご主人様。
でも侍女のみんなはシャムさんに賛成のようです。
確かにみんな御加護……というか奴隷紋を貰ってるのにお祈りは個々でやってますからね。
創世教のシャムさんとマルちゃんが居るのに、祭壇もないというのは確かに変です。
「ご主人様、女神様の神像を置くのであれば【運命神リンデアルト】様と【大地の神ディール】様の像も頼む」
「私も【樹神ユグド】様の像を……今までずっと気にはしていたのですが……」
「それならばわたくしも【魔法神マギアロード】様の御神像が欲しいですわ」
あー、みんなそれぞれ女神様とは別に信仰している神様がいらっしゃるんですね。
私の場合は【獣神ダルダッツォ】様になるんですが、正直女神様にばかりお祈りしていますね。
村では獣神様を祀っていましたが……私あまり村の行事とか参加してないですし……。
「わーかった! わかったから! じゃああれだ! あーっと、パーティーホールを潰す! 普段使ってないからちょうどいいだろ。そこを総合神殿とする! それぞれ信仰する神の祭壇でも神像でも置けばいい。これでどうだ?」
『おおー!』
「ありがとうございます、ご主人様!」
「ただし! CPは使わない。これは俺のせめてもの抵抗だ。神像を発注するなら金は出すから、依頼やら飾り付けやら神殿のレイアウトは自分たちでやるように。みんなもそれでいいか?」
『はいっ!』
「総合神殿の責任者はシャムシャエルとミーティア、監督役はエメリーとする。相談にはのるから宜しく頼む」
「はいっ!」「ありがとうございます」「かしこまりました」
結局はご主人様が折れました。そんな気はしていましたが。
パーティーホールなら広いですし、いっぱい神像が置けそうですね。
それからみんな嬉しそうに騒ぎ始めました。
どんな神殿にしようか、神像の発注はどうしようか、自分たちで作れないか、色々と意見が飛び交っています。
それを眺めるご主人様はどこかふて腐れた様子。
「あー、お前らちょっと黙れ。今はユアの錬金工房をどうするかって話だぞ」
あ、そうでした……。すっかり忘れていました。
ユアさんは雰囲気に押されて苦笑いですね。
「よーし! こうなったらもう庭に作る! 明日からCPガンガン溜めないとダメだからな! 迷宮組は覚悟しておけよ!」
ヤケですね。
魔物部屋マラソンが激しさを増しそうで、逆にツェンさんやティナちゃんは喜んでいますが。
♦
翌日、朝からみんなで庭に出ました。
鍛冶場を作った時以来ですね、こうして見るのは。
「えーと、フロロ、この辺りまで使うけど大丈夫か?」
「思ってたより狭いのう。そんなもんで足りるのか? ならばここの花だけどかすからちょっと待っていてくれ。ポル、手伝ってくれ」
「了解です!」
鍛冶場より多少狭い感じでしょうか。いや、細長い?
ともかくあまりお庭の手直しをしないで済みそうです。
「じゃあやるぞー。外観は鍛冶場と合わせる感じで、窓なし、換気扇付き。内装は『理科準備室』だな……随分近代的になっちまうな……もうちょいグレードを落とすか……いや、ここで妥協はダメだな、これでいこう」
ご主人様が空中をポチポチとやると、光の中から家が出てきます。
相変わらず不思議すぎる光景。みんなが「おおー!」と拍手しています。
「な……なんなのよ、これは……これがご主人様の″力″……!?」
「ひぃぃぃぃ! ななな何です!? 何が起きてるんです!?」
ラピスさんとユアさんは『ご主人様耐性』のない反応ですね。
初めて見るはずのドルチェちゃんやポルちゃんは普通に拍手しています。
シャムさんとマルちゃんは祈ってます。
ウェルシアさんは呆れていますし、アネモネさんは「ふふふ……」って笑っています。その反応はよく分かりません。
「おーい、ユアー、ここがお前の工房だぞー、お前が一番に入って確認しろー」
「ははははいっ! 分かりましたぁっ!」
ユアさん先頭で小屋の扉を開けます。
……真っ暗ですね。窓がないから当然ですか。
どうやら私室と同じく『でんとう』の『すいっち』があるらしいです。
ご主人様がポチッとすると室内が明るくなりました。
『おおー!』
部屋の両側にはズラーッと棚が並び、いくらでも素材が置けそうな感じです。
中央には細長いテーブル。奥にはキッチンのような蛇口とシンク。一口ですがコンロもあります。
床もツルツルしていて綺麗ですねー。これ何かの石でしょうか。
「す、すごいっ! こんな部屋……! こ、ここが私の錬金工房なんですか!?」
「そうだぞ。と言っても今までの工房とは全然違うと思うから使い勝手が悪いかもしれない。何か要望があれば言いづらくても必ず言う事。これは約束な」
「は、はいっ! ありがとうございますっ!」
ユアさん泣いちゃってます。
信じられないものを見た衝撃と、それが自分に与えられた喜びで混乱状態でしょう。
何にせよ良かったです。これで道具が揃って、レベルが上がって<カスタム>すれば錬金できそうですね。
さて、その為にもCPを稼ぎましょう!
私も今日は迷宮組ですよー! がんばります! ふんす!
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